プラズマ団が崩壊してから1週間、俺は何をしていたかと言うと……
「あー……やっと終わった」
イチミさんに詰められ……もとい、アベニューの状況確認、整理、施策決定に時間を取られていた。まぁ、プラズマ団との決戦でパーティメンバーには頼りきりだった。チャンピオンロードへ行く体力も連戦続きでちょっと俺自身も疲れていた。気分転換には丁度良かったのかもしれない。その分、アベニューに籠りきりだったんだけど。
今日も今日とて、今まで溜まっていた情報の確認や出店している店の近況をチェックしている内に午後の3時を回っている。そろそろみんなの自由行動時間を作りつつ、俺も体を動かす時間にしたいけど……プラズマ団が起こした騒動の前後で、恐ろしいほど問い合わせが殺到していた。たった数日空けていただけなのに、数十件って多過ぎない?
「中には、例の集団からの犯行予告なんかも届いていたんですよ。それで混乱した人々から問い合わせが殺到していたのもあります」
「……そうだったんですね」
そう言われると、ソウリュウシティの二の舞にならなくて本当に良かった、色々な意味で。というかあいつら、ゲーチスに利用されていたんだから、さっさと船から降りればよかったのに。いや、それすらも考えられない状態だったのかもしれないか。
その辺、ヒュウも不思議がってたし、何か理由があるのかもしれない。
えーと、次確認する資料は売上かー、よく分からないんだよな。
「すいませーん、ミライさん」
ミライさんに資料の見方を教えて貰いながら、直近の状況を確認していく。その中でも売り上げが上がっていたのはマーケット、ついで花屋だった。その理由は、どうやらプラズマ団の襲撃で危機に備える為の備蓄だった。つまり、一時的な売り上げの増加だから継続的な売り上げの増加には繋がらないという。
つまり、今の売上を維持するには現状のままでは難しい……ということだ。
「じゃあ、他の店はどうなんでしょうか」
「では、こちらのデータを」
データを見ると、他の店の売上が右肩下がりになっている。ポケモンバトルでも言えるけど、何事も最初が肝心だ。人が集まるイメージを作っていけないと、これから維持していくことも難しいだろう。とは言えだ、プラズマ団が解散したことを皆が知れば、解消される問題ではないだろうか。
「今はいいけど、1ヶ月、3ヶ月を考えると、今後を見据えると新たな施策が必要になると思う」
「商品やサービスを豊富にするだけでは駄目なんですか?」
「その案は賛成できるけど、限度があります。一番有効なのは有名な方やテレビから取材を受けるというのも1つの手ですよ」
「…………」
出来れば、今は止めて欲しい。間違ってプラズマ団の壊滅に関わったことが知られれば、面倒なことになる。
「プラズマ団がイッシュ地方の中心部から離れた場所へ向かったとは言え、キョウヘイ様のように全てのトレーナーが強い訳ではありません。この先も、プラズマ団の動向に怯えながら生活する人は出てきます」
イチミさんもミライさんは日頃からニュースもチェックしていると聞いていたけど、ゲーチスが姿を消して壊滅したことは知らないのか。そうなるとまだ、新商品を入れたとか新しいお店をオープンしたと言っても反響が薄そうだ。
「うーん……と言っても、何処かと一緒に何かをするにしても、俺の名前なんて役に立つはずがないし……」
確かに、何かをしないと後々に影響が出てくるかもしれない。今後も安定してこのLAWDアベニューを運営するには、安心して利用できるような施策が必要ってことか。
「直ぐに実施、という訳ではありません。ただ、施策の検討が必要かもしれないということです。手っ取り早いのが、キョウヘイ様が名を挙げて有名になり、ここを宣伝してもらうことなんですけどね」
正確に言えばネタはある。プラズマ団の残党を再起不能にしたのは俺とヒュウだからだ。だけど、それはやりたくなかった。
「イチミさん、そんな簡単に言われても……」
「はい、分かっております。チャンピオンが変わってから、イッシュのポケモンリーグを制覇した方は出ていない。そんなことをキョウヘイ様へやって欲しいとは言いません。煮詰まってもいけないので、いったん休憩にしましょう。お疲れ様です。キョウヘイ様」
考えることはまだまだあるけど、まずは休憩か。
ドン……
何か、机に書類の山が置かれたんですけど……
「イチミさんの鬼……」
「これでも加減した方ですよ。ここ最近色々あったというのに、キョウヘイ様は一切の連絡もくれなかったですし、その時何をしていたかについてお聞きしても、何も仰って下さらないんですよ」
ううう……でも、言いたくない。
「まぁまぁ、イチミもキョウヘイ様のことが心配だったんだよ」
「だ、だとしても……」
ちょっと泣きそう。昼食も総菜パンにして資料を見ていたのに……
「ここ最近、あの船の事件もあって皆ぴりぴりしていたし、クレームまがいの問い合わせも多かったんだ」
つまり、ここにあるのは比較的マシな問い合わせ内容だ……と。
「犯行予告もあったし、混乱してしまうのは仕方ないですね。今日確認した資料に目を通すだけでも大変でしたよ。多分、変なクレームや問無視できる内容を省いてあの件数だったってことですね」
数枚は現状を知らせる為にイチミさんが忍ばせたんだろうけど、それはもう終わった話だ。
「まぁ、そうだね。そのせいでこのところ、帰りが遅くなっちゃってね」
「あー……なんか、すみません」
その分、二人には苦労させてしまったらしい。秘書を追加する必要があるだろうか。
「すみません皆さま、少し宜しいでしょうか」
あれ、受付の人だ。どうしたんだろう。
「実はヒオウギジムのチェレン様がキョウヘイ様と話をしたい、と」
「え、チェレンさんが?」
何で、ここに?
「通されますか?」
「お願い」
扉を開けると、片手を上げてチェレンさんが入ってきた。
「やぁ、数日ぶりだね。大事な話があるんだけど、時間を貰う事は出来るかい?」
「大丈夫と言えば、大丈夫ですけど……」
……イチミさんの目が怖い。
「キョウヘイ、ここに戻ってきてからあまり外出していないと聞いたけど、その前後のことは二人へ話しているのかい?」
「…………それは」
「分かった。すみませんが、お二人には席を外して頂きたい」
もしかして用件って、プラズマ団の一連のこと……?
「私共はキョウヘイ様の執事です。キョウヘイ様のことであれば共に同席しても良いのでは?」
「ですがそれは、LAWDアベニューでの話です。個人の話であれば、別でしょう?」
おお、圧をかけたイチミさんに対して、チェレンさんは全く引けを取っていない。
「個人のことであっても、共有されるべき事項はあります。キョウヘイ様の意志を第一としていますが、キョウヘイ様と関わりがあり、かつ、ここで話されるのであれば、同席しても良いのでは?」
イチミさんが反論する一方で、ミライさんは静観しているみたい。
「申し訳ないけど、他の場所を取ってまで話すだけの時間を貰えなくてね。しかも、今日までに回答しなければならないんだ。僕としては、その前までに何とかキョウヘイの意思を聞きたいと思って無理してここまで来た。何、ほんの5分から10分話をするだけさ。それに、昨今の事件でこのアベニューも影響を受けていると聞いたよ。時間を取ってくれたなら少しくらい力添えをしてもいいと思っている。キョウヘイとはそれなりの縁があるからね。これでどうかな?」
チェレンさんがここまで言ってくれたんだ。もう、俺の意思は決まっている。
「チェレンさん、話を聞かせて下さい」
「……キョウヘイ様の意向もありますので、ご案内します」
イチミさんはまだ不機嫌そうだ。対して、ミライさんはため息を一つ。確かに、熱くなったイチミさんを止めているの、いつもミライさんだからなぁ……
チェレンさんを応接室へ案内し、席に座る。程なくしてミライさんがコーヒーを持ってきてくれた。
「ありがとう」
「では、外で作業をしています。何かありましたらお呼びください」
「はい、終わったら声をかけますね」
ミライさんが部屋を出る。イチミさんを宥めるの、頑張ってください。
「どういう経緯でここを任されたのかは知らないけど、二人ともいい執事だね」
「そうですね。色々あったあの時でも、俺のことを優先してくれましたからね。二人にはここ最近迷惑ばかりかけたので、暫くはここにいるつもりです」
「そうするといい。それから遅くなってしまったけど、一連の件を任せてしまって申し訳なかった。そして、ありがとう」
いや、そんな……
「あれはあの場にいた動ける人が動いただけの話です。それがたまたま俺だった、それだけのことなんです。だから、顔を上げて下さい」
「ありがとう。それにしても、キョウヘイはいい出会いに恵まれている。きっとそれは……君が人やポケモンに真っ直ぐ向き合って接しているなんだろう。今更ながら、僕がジムリーダーになって初めての相手が君だったこと、とても誇らしいよ」
「いやいやいやいや、そんなことないですよ。俺達が結果的にプラズマ団を倒したのもヒュウがあんなに恨みを抱えたままなのが見てられなかったし、放って置けなかっただけです」
「確かに、ヒュウの一念は岩をも通す見事なものだった。その結果として、彼は奪われたポケモンを自力で取り返すことが出来たんだ」
「でも、あれは……」
チェレンさんも事の顛末を知っているはずだ。チョロネコはヒュウやヒュウの爺ちゃんのこと、妹のことを完全に忘れてしまっていた。
「だとしても、殆どの人は元プラズマ団から戻ってくるのを待つか、泣き寝入りしているのが現状だ。どうであれ自力で取り返した人は居ないと言っていい。それでも取り返せたのは、彼の強い想いがあったから成し得たことだ。だからこそ、危うさがあった。うん、そうだったからこそ、僕も彼を放って置けなかったんだけど」
そう、言ってくれるんですねチェレンさんは。
「それで……あいつとレパルダスはどうですか?」
ヒオウギの街にいるなら、連絡を取り合っていても良さそうだけど。
「実は僕も経過が気になっていてね。仕事終わりに通っているんだ。でも、僕から聞くよりはヒュウから直接聞くといいんじゃないかな、悪い方にはいっていないからね。さて、本題に移ろうか」
本題は……プラズマ団の残党についてだろう。
「プラズマ団の残党だけど、船を飛ばしてライモンシティを始めとしたイッシュ地方の中心部から離れた。また、ヒュウからの報告で、既にキュレムが解放されたことも把握している」
「つまり、プラズマ団の残党にはソウリュウシティのような事態を引き起こす力は残っていない、ということですか?」
「うん、それからゲーチスが居なくなったことで、プラズマ団は事実上の崩壊だ。ゲーチスは何処かに身を隠しているそうだが、ダークトリニティが匿っている以上、簡単には見つからないだろうね。残党も残党で捕まえたい所だが、厄介な場所にいてね……」
「厄介な場所?」
「イッシュ地方でも珍しく、強い海流が流れている場所だよ。オマケに野生のポケモンも軒並み強いから、ただの警官が向かっても、行く途中で倒されてしまうんだ」
「そうなんですね……そう言えば、どうしてプラズマ団はあんなに人が残っていたんですか?」
ゲーチスに騙されていたなら、抜け出してしまえばよかったのに。
「……少し言い辛い話になるからね、その話はまた今度にしよう。さて、話は変わるけど……ソウリュウシティが元の姿を取り戻したのは知っているね?」
「はい」
イチミさんとミライさんからその話は既に聞いていた。きっと、Nさんがやってくれたんだろう。
「全く僕がどれだけ探しても見つけられなかった、というのにさ……まぁ、その話はいいか。そう言えばこの事務所、テレビはないようだね」
「作業をするには邪魔ですから……それで、何を言いたいんですか?」
……もう、何を話したいのかが分かってしまった。
「最近話題になっていることは、誰がプラズマ団の残党を倒したのかの一色でね。困ったものだよ」
「…………」
嫌な予感はあった、チェレンさんの友人もその話題に巻き込まれたとは聞いていたから。
「驚かないんだね、キョウヘイは」
「以前、チェレンさんが言っていたことですよ、それは」
「……それもそうだね」
きっと、今回もそうなるだろうとは思っていた。だから、用事があってライモンシティへ行く時も、テレビをなるべく視界に入れないように気を使っていた。
「ああ。だから今日、直接話せてよかった。君がどう考えているのかがよく分かったよ。だけど、一つだけ教えて欲しい。キョウヘイがあそこまで頑張れたのは、ヒュウやヒュウの妹が理由だったのかい?」
きっと、根底はそうだろう。
「ヒュウは……妹の奪われたポケモンの為にヒオウギの街を出ました。本当は少しでも早く旅立ちたかったのに、わざわざ俺と日程を合わせてくれたんです。それも、数か月単位で。プラズマ団を倒した後、ヒオウギに戻った時に母さんからそう聞きました」
「ああ。キョウヘイにとって、ヒュウは身近なお兄さんみたいな存在だったんだね」
「はい、元々ヒュウの妹のことも知っていたから放って置けなかったし、何とかしたかった。今回のことで誰がプラズマ団を倒したのか……と言われれば、俺になるんでしょう」
きっと、関係者であるチェレンさんやシャガさんが認めた瞬間、こぞって騒ぎ立てる。けど……それはただの結果なんだ。ただ、そこに俺がいて、たまたま俺がやらなきゃならなかった。それだけなんだ。
「でも、ヒュウがいた。チェレンさんだって手伝ってくれた。シャガさんとシズイさんには背中を押して貰った。何やかんや、アクロマさんは俺を信じてくれた。俺一人で出来たことじゃないんです。そもそも、皆が困っているから戦った訳ではないんです。そんなことで騒がれたい為にやった訳じゃないんです」
ヒュウが居なかったら、俺はきっとプラズマ団と関わろうとしなかっただろう。何より、チョロネコを取り返す為に奮闘したヒュウより自分の方が注目されるのも嫌だったし、ヒュウだってそんなことの為に旅に出た訳じゃないのを知っている。そんなことで騒がれるくらいなら、初めから知られない方がずっといい。
「ありがとう。キョウヘイの想いが良く伝わったよ。こちらとしても、通りすがりのトレーナーが倒したことにするつもりだ。勿論、シャガさんやシズイさんにも話を通すつもりだよ」
ああ、これは多分どこかへ報告する為に必要だったんだろう。その前に何としても確認したかったんだ、この人は。
「さて、僕はそろそろ行くよ。最後に、キョウヘイから何か聞いておきたいことはあるかい?」
あ、そうだ。
「ポケモンリーグの挑戦って、いつ行っているんですか?」
「確か、整理券方式だね。けど、君の事は現チャンピオンも心待ちにしている筈だよ」
「え?」
今の口振りって、まるで……
「おっと。既に君の活躍は、イッシュ地方のジムリーダーとポケモンリーグに共有されている、ということさ」
それ、本当?
そうしたら誰なんだ、今のチャンピオンって。今の口振りから、俺を知っている人ってことだよな。まさか……アクロマさんだったり……いや、それだけはないな。
「わ、分かりました」
「重ねて、今回は力を貸してくれて本当にありがとう」
ミライさんが用意してくれたコーヒーを飲んで、チェレンさんは応接室を後にした。
少し緊張の残った会話を終えて、ようやく一息つけそう……
「それで、ここ数日のキョウヘイ様は何をされていたんですか?」
あれ、この声はイチミさん……?
「キョウヘイの意志を尊重するんだろう。君達に言わないということは、まだ心の整理がついていないだけだよ。とは言え、気になるのも仕方ないか。一つだけ言えることは、僕は彼が何をやっていたかを知っている。その僕が、悪事など働いていないことを保証しよう」
「……私共も、キョウヘイ様のことは信じておりますから」
おー、上手く誤魔化した。
「そうか。さて、協力のことだけど……そうだね。イッシュ地方のジムリーダーの数人はこのアベニューの管理者が誰であるかは知っているんだ」
待って、それは何時、何処で共有されたの!?
「……はい、それで?」
「怪しい者ではないと宣伝するのも、今のイッシュにはそれなりに効果はあるだろう。でも、それだけだ。もし、イッシュの人達が積極的に来ようとするのなら、それだけでは足りない。無論、それは君達も分かっていると思うけどね」
「…………」
「だから、僕の方からジムリーダー達へここを宣伝してもらうよう、連絡しておくよ。数人は直ぐに来るんじゃないかな?」
「……いいのですか?」
「過ぎたことは戻らない。そんな話の、しかも無くなった集団の話を蒸し返すくらいなら、明るい話題を出していかないと。何時までも、終わった過去にしがみ付く必要はない、ということさ。その一環になるのならね」
「ご、ご協力感謝いたします」
チェレンさん……公に話をしないことに同意してくれたのは有難いですけど、イッシュ地方のジムリーダー達にプラズマ団が壊滅したことと一緒に、誰が倒したか伝える気ですよね?
心休まるどころか不安になりそうな話を耳に挟んで休憩を終えた後、暫く作業していたらあっという間に日が暮れかけていた。
「ふぅ……」
「お疲れ様です。キョウヘイ様、溜まっていた書類もこれで以上となります」
「もう、やりたくない……」
ようやく、ようやく片付いた。というか数日の話だったのに、どれだけ問い合わせが来ていたんだよ、これ……確かに、ライモンシティのヒウンシティの間にある巨大な商業施設ってだけで、滅茶苦茶いい場所にあるのは分かるけど……!!
「それもこれも、緊急事態にも関わらず連絡を後回しにしたキョウヘイ様が悪いかと」
おおう、イチミさんの視線と言葉がニードルアーム……
「て、手厳しい……」
「まぁまぁ、最近はようやく落ち着いたんだし、ヒオウギのジムリーダーのお墨付きも貰えたんだ。もう少しお手柔らかにね」
♪♪♪~♪♪♪~
誰からだろう。あ、もうそんな時間か。
「あ、すいません。ちょっと友人から……」
「分かりました。仮眠室であれば、我々も立ち入りませんので」
仮眠室と言いながら机に椅子、冷蔵庫、シャワー室なんかもあるから、最早俺のもう一つの部屋になっているんだけどね。さて、ライブキャスターを接続してっと。
「ヒュウ、今は平気なのか」
「ああ、そっちは忙しそうだな」
「まぁね……それで、レパルダスの様子はどう?」
ヒュウの旅は終わったから、今はヒオウギにいるようだ。母さんに一度報告して以来、戻っていないな。
「ああ、そのことだけど今は大人しくしているよ」
「確かヒオウギへ戻った時はボールから出ようと暴れていたって、言っていたよな?」
「ああ、お陰でロックの部分を固定するしかなかったよ。ご飯や水をあげる時も一苦労だった」
確か、ヒュウの手持ちが周囲にいる状態でご飯とかあげなきゃならなかったとか。
「まぁ、そうだよな。けど、今は違うのか」
「ああ。最初は何されるか分からないからびくびくしていたって感じだったけど、今は何をしたらいいか分からないって感じだ」
「そっか。急に環境が変わったから、戸惑っているのか」
「ああ……もっと早く助けてやりたかったけどな。けどきっと、俺1人だけじゃレパルダスは助けられなかったんだろうな。だから、ありがとな。もしかしたらキョウヘイなら、プラズマ団の残党なんて、1人でも倒せちまった気もするけどさ」
冗談で言っているのは分かるけど、止めてくれ。
「そんなこと言うなって、俺はヒュウがいなかったらプラズマ団に関わろうとはしなかったよ。今でも振り返ったら寒気がする。何で俺がイッシュ地方の命運をかけて戦わないといけないんだってさ。それでヒュウはこの先、どうする気なんだ?」
ヒュウの旅の目的は達成した。この後はどうするつもりなんだろう。
ここ最近、昼間はチェレンさんの手伝いとしてトレーナースクールの臨時バイトをやっているらしい。ぶっきらぼうな態度を除けば面倒見もいいし、好評なんだとか。まぁ、その光景は容易に想像出来る。
「そうだな……レパルダスのことが問題なくなったら、元プラズマ団の人達の手伝いをしようと思う。どうやら、まだまだ返し切れていないポケモンがいるらしくてさ」
「そっか……もう大丈夫なんだな」
ああ、それがヒュウのゴールなんだな。ようやく、先を見れるようになったんだな。
「お前に言われるなんてな。そう言えばキョウヘイ、チャンピオンロードにはいつ行くんだ?」
何故、チャンピオンロード?
「あー……」
多分、直近でジムリーダー達が皆来るんだよね。流石に離れるなんて出来ないし……
「今はちょっとバタバタしているから、あと1週間くらい後かな?」
「分かった。最後にさ、チャンピオンロードでバトルしようぜ。お前が何処まで強くなったのか知りたいんだ」
ああ、そう言えば。ヒュウとは何度も戦って来たけど、純粋にトレーナー同士としてのポケモンバトルをしたことがなかったかも。ヒュウの中ではきっとチョロネコを取り返すことが最優先だったから、純粋に戦いたいのかもしれない。
「いいな。でも、チャンピオンロードのどこで?」
おや、ヒュウがニヤリと笑ったぞ。
「そりゃお前……俺が追い付いたら、だ」
「俺が抜けられなかったら、どうするんだよ」
「いーや、キョウヘイは抜けるさ。抜けられるから、俺も何とか追いついて見せる」
どっから来るんだその自信。けどまぁ、それは面白そうだ。
「いいよ、乗った。精々俺が抜ける前に追い付いてくれよ?」
「ああ、待ってろよ」
そこで会話が終わり、通話を切る。チャンピオンロードを抜けるのは並みのトレーナーでは出来ないと言う。そこを抜けられなければポケモンリーグ挑戦なんて夢のまた夢。頼りになるメンバーはいるけど、高い壁のように感じていた。だけど、一緒に駆け抜けようとするヒュウがいる。そして、ヒュウは俺が抜けることを確信した上でああ言ったんだ。だから……厳しいと予想されるその中でも、小さな楽しみが出来た。
「ふう……」
ヒュウとの会話を終えたけど……もう少し休憩しようかな。けど、何しようか。チェレンさんにヒュウと話したことでも……いや、まだトレーナースクールの仕事かジムリーダーとして仕事をしているかもしれない。やるならもう少し遅い時間の方がいい。他に気軽に連絡できる人といえば……あ!
連絡できる人の一覧を眺めていると、ある人物の名前が表示されていた。試しにかけてみよう。以前の約束の日時も決まっていなかったんだし。
何コールかした後、ライブキャスターの繋がる音がした。
「もしもし、ルリさん?」
「あっ、キョウヘイくん!」
「今は話をしても、大丈夫?」
「うん、今は大丈夫だよ」
ルリさんとの会話はいい休憩になる。こう、リラックスして話せる相手って中々いないよね。それにルリさんは仕事で色々な地方にも行っているらしいから、その話一つ一つが新鮮で面白いんだ。
「あのね……わたし、かっこいい人になるのが目標なの。見掛けとかじゃなくて、内面がかっこいい人だよ」
目標か……今後、俺はどうしたいんだろうか。ポケモンリーグに挑戦して、その後は………
「まだまだかっこ悪いけど……今の仕事を頑張っていれば、いつかなれると思っているんだ。だから、応援してくれると嬉しい……かな」
「うん、大丈夫。ルリさんならなれるよ、きっと」
ルリさんがどんな仕事をしているのかは知らないし、ルリさんが言わない限り聞くつもりはない。だってまだ、俺とルリさんは一度しか会ったことの無い関係なんだ。それを言うだけの心の準備も出来ていないだろう。もし、それを聞くことがあるとすれば……
「ありがとう。その、早速なんだけど、相談があるんだけど……聞いてもらえるかな?」
「うん、俺で良ければ」
「仕事場にすごい人がいて、その人には負けたくないなって……」
「いるよね、絶対に負けたくない人。俺にもそういう人がいたよ。きっと、ルリさんとは違うケースなんだけど、負けてはいけない時ってあるよね」
「そんな時がキョウヘイ君にもあったんだ」
うん。最も、最近そう感じた相手はプラズマ団のゲーチスだったけど。二度と出てくるなよ。
「うん、その人と会う事はもうないと思うけど。ただ、あの時の感情に呑まれてしまったら、どうなっていたのやら。結局、誰かじゃない。自分がどうしたいか、どうなりたいのか……目的はなんだったのか。それが大事だったんだって、今なら思うかな」
「ほへー……凄い大人だね、キョウヘイ君」
え、いや、そんなことは……!
「そ、そうかな。ただ、あの時はずっと必死で……後で思い返したら、そうだったんだろうなぁって、だけだよ」
「トレーナーにとって、ジムリーダー達と戦うのはいい経験なんだね」
……ルリさんに言われて気付いたけど、ジムリーダーと戦っていた時もそんな場面があったかも。
「うん、凄い人達だよ」
どんな状態でも勝とうとする姿勢は基本として、シャガさんやヤーコンさんは本当に強かった印象がある。イッシュの他のジムリーダーも強いんだけど、あの二人は特にトレーナー自身の心が強い気がする。多分そこで……最後までどうなるか分からない戦いは、トレーナーの感情一つで決まってしまうのを知ったのかも。
「何しろ、苦手なタイプを駆使して全力でぶつかっても尚、平然と押し返してくる人達だ」
「そうなの?」
そういえば、ジム挑戦で思い出したことがあった。
「うん。自分の前に苦手なタイプのポケモンを揃えて挑戦した人がいたんだけど……自分が扱うポケモンの苦手なタイプを熟知しているからこそ、あの人達の行動は本当に素早くて、的確だった。結果を見れば、ジムリーダーの勝利で終わったよ」
「そんなことがあったんだ……」
「うん。だからもし、同じ条件で戦う機会があったとしても……そこでも勝てるかどうかは俺にも分からない。そういう、凄い人達だ。でもきっと、そういう時は今までの自分を信じるしか無いんだと思う。今までも、これからも」
「……うん。キョウヘイくんに話を聞いてもらったら、気持ちが楽になったよ。負けちゃいけないのはカレにではなくって、自分自身になんだよね。ありがとう、キョウヘイくん」
カレ、か。負けられないライバルが男の人でいるんだね、ルリさんは。ええっと、どこを見て……あ、時間の確認かな?
「最後に、次に空いているキョウヘイ君の時間を教えて欲しいな」
あー、ジャイアントホールでの、か……せめて、ヒュウとの約束を終わらせてからにしたい。
「1週間後でもいいかな?ちょっと、やっておきたいことがあって」
「うん、それだったらまだ休みにも余裕が取れるかな?日程が決まったら、また電話して欲しいな。あ、そろそろ仕事に戻らなきゃ……じゃあ、またね」
「うん、またね。仕事、頑張ってね」
ルリさんも頑張っているんだ。休憩ばかりじゃなくて、俺ももう少し頑張らないと。
確か、後は今後の見通しに関する新規店舗開設と、イチミさんやミライさんが調べてくれた情報の確認だったか。新規店舗と言えば、以前は保育所とかの案があったけど今はどうなっているんだろう。それから、今の店舗で売れ行きや評判が悪いオーナーがいたら、それの改善指導の施策、或いは仕入れ先の検討や新商品の検討をしていかないと……