画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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ルリ視点8:私の心の拠り所

 キョウヘイ君とライブキャスターで連絡を取った一週間後、その間にソウリュウシティを襲撃した船がイッシュ地方の中心地を離れたという話を、耳がオクタンになるほど聞いた。同日、ソウリュウシティ元の姿を取り戻したこともあり、その影響は排除された……と言っていいのだろうか。

 

 私の周りを見ても、少しずつ元に戻りつつあると言っていい。以前中断となったイッシュ地方のジムリーダーインタビューは日程調整をしている。元に戻ったタイミングで時間を頂けることになっている。けど、シャガさんはあんな事態の中、昼も夜も街の人々へ声をかけて励まし続けた上、一方で他の街からの支援物資等の分配、指揮も取っていたそうだ。年齢に似合わず、とんでもなくパワフルな方だ。そんな中でも時間を頂けるのは有難いけど、休みを取らないと倒れてしまうのでは。

 

 一方、私はイッシュ地方に戻ってから休み暇もなく仕事が入っている。最近は家へ戻らずホテルで宿泊せざるを得ない日も多い。仕事があることは有難いが、ここまで来ると流石にしんどい。

 

 「ううう……疲れた」

 

 だから、休憩時間、移動時間共に体を休めることに注力して何とか回している……というのが現状だ。シャガさんは私よりも数倍の年齢を重ねているのに、どうしてそんなに元気なんだろう。インタビューの時に秘訣を聞いた方がいいかもしれない。

 とはいえ、諸々の原因である事件が完全に解決したとは思えなかった。それは……ソウリュウシティを襲撃した船がイッシュの中心地から離れただけで、その後に音沙汰がないから。もしかしたら、撤退した上で何処かで力を蓄えてまた……やってくるのかもしれない。

 

 サンヨウシティやシッポウシティ付近でその船が目撃されたものの、カラクサタウン、カノコタウンの方へ向かったらしい。ただ、その付近でも船が見つかっていないという。

 それ以降音沙汰は無いけど、もしかしたらソウリュウシティを凍らせるようなことを考えているかもしれない。そうした不安はイッシュ地方を色々回っている私は嫌でも感じていて……だからこそ、まだまだ気を張り続ける日々が続くことに、疲弊していた。

 

 そのせいだろう。昨日はマネージャーから隈が出来ていると指摘を受けてしまった。今はメイクで隠しているけど、何時までこの状況が続くんだろう……と、いつも何処かで考えてしまっている自分がいる。

 

 「いけない、いけないね……」

 

 そんなネガティブな考えが頭を過った時、私は決まってパッチールの毛繕いをするか、キョウヘイ君との会話を思い出す。

 

 それがここ最近の、一番のリラックス方法だった。

 

 一ポケドルとして良くないのは分かっている。けど、ここ最近は色々なことがあった、ありすぎた。唐突なイッシュ地方の危機に何もできない自分、何か出来ることはないかと仕事を無理矢理いれた結果、どんどん自分をすり減らしていった。

 そんな中でも、キョウヘイ君と話す時間だけはルッコじゃなくて、肩の力を抜いたルリでいい。ルッコで出来なかったことを言っても、ちょっと弱音を吐いても、キョウヘイ君は受け止めてくれる。それに、キョウヘイ君はポケモンについて色々知っていて……聞いていてとても楽しかった。だから、その時間は何よりの癒しだし、私のモチベーションにすらなっていた。ただ、気になることが一つだけ。キョウヘイ君と最後に連絡が取れた時、変なことを言っていたのが未だに気になっている。

 ──えっと……もう、大丈夫なんじゃないですか。ソウリュウシティの事件以降、被害が出ていないと聞きますし、何より……そんな危ない集団が、長く活動出来る訳ないじゃないですか

 

 何度もライブキャスターで話してきたから、キョウヘイ君の人柄はある程度分かっているつもりだ。言っている内容は最もなんだけど、キョウヘイ君が何かを誤魔化したかったのは直ぐに分かった。でもどうしてあの時、あんなことを言ったんだろう。疲れている様子だったけど、言葉や表情から嘘とは思えなかった。そして実際、彼の言った通りイッシュ地方を離れてからは音沙汰が無いのも事実だった。

 

それらを繋ぎ合わせて思いついたのは……プラズマ団の壊滅にキョウヘイ君が関わっているのでは、ということ。

だけど、調べる手段もないし、それをするだけの体力もない。それ以前に、ただの願望だ。

 

……あーあ、キョウヘイ君がプラズマ団を倒してくれていたらいいのに。

 

そんな妄想をするくらい、最近の私は疲れ切っていた。時間を見れば、もう少し休むことが出来そうだ。あと15分もあるし、仮眠ぐらいなら……

 

♪♪♪~♪♪♪~

 「えっ?」

 見れば、ライブキャスターにはキョウヘイ君の文字が。慌ててライブキャスターを腕につけて通話のボタンを押す。

 

 「もしもし、ルリさん?」

 「あっ、キョウヘイくん!」

 

 ああ、この声だ。この顔だ。疲れていても、自然と笑顔になれる。私の心が安らぐ一番の時間だ。

 

 「今は話をしても、大丈夫?」

 

 「うん、今は大丈夫だよ」

 

 仮眠もしたいけど、それ以上にキョウヘイ君と話がしたかった。そうして、ここ最近の取り留めのない会話が続く。キョウヘイ君は現在、ある場所で書類仕事をしているらしい。その場所の名前は教えてくれなかったけど、ある施設の運営関係者なんだとか。まぁ、私もポケドルのことを隠しているし、秘密の一つや二つは……ね。

 

 そこでの作業は慣れない作業ばかりで疲れることも多いらしく、そんな時はポップスを聞いているんだとか。流石に恥ずかしくて聞けなかったけど、私の曲とかも聞いていてくれているんだろうか。

 

 一方で、最近のテレビの流行にはそんなに敏感じゃない……というのが不思議だ。勿論、旅を始めたからあまりテレビを見る機会が無かっただけかもしれないけど……安心した反面、残念な気持ちだ。きっと、キョウヘイ君は私の仕事姿、見たことないんだろうなぁ……

 でも、そんなキョウヘイ君だから、私は気軽に色んな話が出来るんだろう。だからつい今日も……

 

 「あのね……わたし、かっこいい人になるのが目標なの。見掛けとかじゃなくて、内面がかっこいい人だよ」

 

 こうして、自分の抱えている想いを吐き出せる。

 

 「まだまだかっこ悪いけど……今の仕事を頑張っていれば、いつかなれると思っているんだ。だから、応援してくれると嬉しい……かな」

 

 最近は疲れてしまっていて、何を目標にすべきかも見失いかけているんだけど。

 

 「うん、大丈夫。ルリさんならなれるよ、きっと」

 

 その言葉がどんなに救いになっているか、きっと君には分かっていないんだろう。でも、それでいい、それでいいの。だから、こうして今日もまた。

 

 「ありがとう。その、早速なんだけど、相談があるんだけど……聞いてもらえるかな?」

 

 「うん、俺で良ければ」

 

 身近な男性で思い浮かぶのは二人、一人は勿論キョウヘイ君、そしてもう一人は……

 

 「仕事場にすごい人がいて、その人には負けたくないなって……」

 

 同じ仕事をしているテンマ君。彼も私同様忙しくしているのに、弱音を見せたことは一度もない。そんな人だからこそ、対等でいられるように頑張っているつもりだ。

 

 「いるよね、絶対に負けたくない人。俺にもそういう人がいたよ。きっと、ルリさんとは違うケースなんだけど負けたくない、負けてはいけない時ってあるよね」

 

 「そんな時がキョウヘイ君にもあったんだ」

 

 その割には何とも言い難い顔をしているよ、キョウヘイ君。

 

 「うん、その人と会う事はもうないと思うけど。ただ、あの時の感情に呑まれてしまったら、どうなっていたのやら。結局、誰かじゃない。自分がどうしたいか、どうなりたいのか……目的はなんだったのか。それが大事だったんだって、今なら思うかな」

 

 何か、私の知らない所で凄い経験をしているんだね。私は色々な地方に行って色々な人に会ってきたつもりだけど。

 

 「ほへー……凄い大人だね、キョウヘイ君」

 

 何時か君の旅で何があったのかを詳しく聞きたいな。

 

 「そ、そうかな。ただ、あの時はずっと必死で……後で思い返したら、そうだったんだろうなぁって、だけだよ」

 

 でも、どんな相手だったんだろう。やっぱり、キョウヘイ君はトレーナーだし……

 

 「トレーナーにとって、ジムリーダー達と戦うのはいい経験なんだね」

 

 一瞬、ぽかんとした顔を見せた……あれ、思っていた反応と違う。もしかして、ジムリーダー以外で強いトレーナーと?

 

 「うん、凄い人達だよ。何しろ、苦手なタイプを駆使して全力でぶつかっても尚、平然と押し返してくる人達だ」

 

 キョウヘイ君が戦った相手も気になるけど、ジムリーダーの話も気になる。実際にバトルしている所はほとんど見たことがないから。

 

 「そうなの?」

 

 「うん。自分の前に苦手なタイプのポケモンを揃えて挑戦した人がいたんだけど……自分が扱うポケモンの苦手なタイプを熟知しているからこそ、あの人達の行動は本当に素早くて、的確だった。結果を見れば、ジムリーダーの勝利で終わったよ」

 

 キョウヘイ君によれば、その相手はその為だけに6匹捕まえてまで対応していたらしい。それでもなお勝ってしまうのは、やはり相性だけでは覆せない何かがあるんだろう。

 

 「そんなことがあったんだ……」

 

 「うん。だからもし、同じ条件で戦う機会があったとしても……そこでも勝てるかどうかは俺にも分からない。そういう、凄い人達だ。でもきっと、そういう時は今までの自分を信じるしか無いんだと思う。今までも、これからも」

 

 今までの自分を信じる……か。格好いいなぁ、キョウヘイ君は。

 

 「……うん。キョウヘイ君に話を聞いてもらったら、気持ちが楽になったよ。負けちゃいけないのはカレにではなくって、自分自身になんだよね。ありがとう、キョウヘイ君」

 

 あ、忘れないうちに聞いておこう。

 

 「最後に、次に空いているキョウヘイ君の時間を教えて欲しいな」

 

 やっぱり、お手伝いで忙しいのかな。予定を確認しているみたい。

 

 「一週間後でもいい?ちょっと、やっておきたいことがあって」

 

 出来れば、今すぐにでも会いに行きたい。でも、その気持ちは私の我儘だ。

 

 「うん、それだったらまだ休みにも余裕が取れるかな?日程が決まったら、また電話して欲しいな。あ、そろそろ仕事に戻らなきゃ……じゃあ、またね」

 

 「うん、またね。仕事、頑張ってね」

 ライブキャスターを切ってスマホロトムを見れば残り5分、早めに車に乗り込んでおこう。

移動している間、頭の中は仕事のことじゃなくて、キョウヘイ君との会話で一杯だった。それがとても温かくて、気が付けば……

 「ほら、ついたわよ、ルリ」

 

 「あ、はい……」

 すっかり眠ってしまったらしい。少し頭がポカポカするのはきっと、久し振りの会話が楽しかったからだろう。

 

 スタジオに移り、本番前に最後の確認をしていたところ……

 

 「ちょっとルリ、大丈夫なの?」

 

 ……マネージャー?

 

 「……私、大丈夫ですけど?」

 

 疲れが抜けていないのは事実だ。だが、それだけのはず。

 

 「じゃあ、何でそんなに顔が赤いの?」

 

 「へ?」

 

 手鏡を持っていたマネージャーが、私に私の顔が見えるように鏡を見せた。

 

 「……あ」

 

 どうやら、連日の仕事が祟ったらしい。顔が赤く、目がトロンとしていた。

 

 「今日の出演は数分だからいいけど、明日からしばらくお休みね。まぁ、最近仕事漬けだったのは悪いと思っていたんだけど」

 

 「す、すみません」

 

 「謝らないの、体調管理をさせられなかった私にも問題があるから。けど、ルリもルリで厳しそうだったらちゃんと言う事。貴女、直ぐに無理するんだから」

 

 「は、はい……」

 

 そっか、体調を崩していたんだ、私……

 

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