ルリさんとのデート当日、朝早くに目が覚めた俺は一通りの身支度を整えたけれど、時間を持て余していた。
「…………」
身支度を整えて、服も着替えた。うん、後は待ち合わせ場所に行けばいいんだけど……いいんだけど……
「幾ら何でも、早すぎない?」
時計が指す時間は朝の6時45分。いくら何でも早すぎた。
「な、何しよう……」
暇だからとアベニューの資料を読み込もうにも今、頭に思い浮かぶのは……
「無理、無理、無理。別のことをしよう」
アベニュー内の店舗の様子を見ようにもこの時間は流石に閉まっているし……かといって二度寝なんて出来そうにない。一応、今日の方針は考えているし問題ないとは思うけど……ああ、直前でチャンピオンロードを踏破して良かった気がする。お陰で、今日は他のことを考えなくていいんだから。
「そうだ」
ふとボールを見ると、メンバーは皆起きていた。なら、やることは一つだろう。朝から自転車に乗ってライモンシティを抜ける。休日とは言え朝の早い時間だから人も少ないのが幸いして直ぐに5番道路へ到着した。
そこでポケモン達の自由時間にすることを決めた。
「よし、しばらく好きにしてていいからな」
そう思い立って、ボールから出したのはいいんだけど……
「どうした?」
どうして揃いも揃って呆れたように俺を見るんだ。ルカリオ、どうした?
「って、揃いも揃って笑うなよ!!」
完全にからかわれている。確かに二人きりで話す機会はヒュウやチェレンさんとはあったけど……あったけどさ。違うの、こういうのは他と違うんだって!!
「はぁー……」
つまり、どう見てもガチガチだってことか。まぁ、そうだよね。普段はあんな時間に起きないから、流石に気付かれるか。まぁ、あいつらなりのエール、なのかな。
「……あ」
いい感じに気が抜けたらしい。そう言えばここって、パン屋があるんだっけ。そう言えば、朝ごはんとか食べていなかったな……
「うん、買っていこうっと」
これなら昨日はヒオウギの家に帰った方が良かっただろうか。けど、母さんに異変を察知されれば面倒臭くなるのは間違いないし……
そのまま暫く5番道路で時間を潰していたのはいいんだけど……時間まで何していようか。8時30分か……今から二度寝しようものなら寝坊しそうだし、どうしよう。何か、何か直くで時間を潰せることって……あ!
「そうだ、技の見直しをしよう!」
となれば、向かうはPWT。あそこには技を忘れさせたり、成長する過程で忘れてしまった技を思い出させることができる人がいるはずだ。後は特定のポイントを使って技を覚えさせることも出来たはずだけど……そのポイントってあんまり持ってないんだよね。時間があったらどんな技があるかだけでも見ておこうかな。
気付いたら10時になっていたけど、PWTに寄って正解だった。ウインディはしんそくを思い出したし、ウォーグルはチャンピオンロード踏破用に覚えさせたかいりきも忘れることが出来た。ルカリオも悪の波動を思い出したし、いい感じになったんじゃないかな。後はサンダースとゾロアークはもうちょっと悩んだ方がいいかもしれないけど……
「って、あと30分しかない。頼む、ウォーグル!」
急いでライモンシティへ行かないと!
ライモンシティのポケモンセンターへ無事に到着したけど、時間は10時28分。えーと、待ち合わせ場所は……あ、あの服と帽子は!!
「ごめん、待たせちゃって!」
「いや、そんなに待っていないよキョウヘイ君。今日は忙しいのに時間を取ってくれてありがとう」
「ルリさんの方こそ、仕事が忙しいのにありがとう!」
それと、俺が遅れそうになったのはPWTで時間を潰していただけだから!!
「今日はよろしくね」
「う、うん。それで……今日は何時くらいまで時間は空いているの?」
もしかしたら、時間が限られているかもしれないし……
「そこについては大丈夫、今日はお休みだから夕方まで空いているよ!」
ふと見せた笑顔に思わず──サンバイザーを下げて目線を外す。
「どうしたの?」
「ごめんごめん、ちょっと日差しが目に入っちゃって」
「き、今日って、そんな日差しが強かったっけ?」
危ない危ない。会って早々にノックアウトを受ける所だった。気を取り直して……と。
「……よし、それじゃあどこに行こっか。この時間だとスタジアムは練習時間だし、近くのアベニューも今は準備中だろうし……ルリさんが行きたい所はある?」
「キョウヘイ君……ライモンシティ周辺に詳しいんだね。この辺りに住んでいるの?」
……そうだった。ヒュウと違って、ルリさんは俺がアベニューの管理人なこと、知らないよね。
「えーと……この辺りって、ポケモンに関する施設が多いから、最終調整する為に最近は滞在しているんだ。それに、ヒオウギからポケモンリーグまで行くのは大変だし」
「なるほど。確かにスタジアムに行くと休憩中のアスリート達がポケモンバトルしてくれることもあるし、対戦相手には事欠かないよね」
「うん。他にもホドモエまで行けば技を思い出させてくれたり、忘れさせたりする人もいるから、結構便利なんだ」
「…………そうだ!」
ちょっとの間、どうするか考えていたみたいだけど……ルリさんは何処へ行きたいかな。この時間でショッピングだと……どこだったっけ?
「私……キョウヘイ君の普段の様子を知りたいな。この前話した時にはバッジを全部集めたって聞いたけど……ポケモンバトルのコツとか知りたいな」
意外な回答が来た。
「俺でいいの?」
「勿論だよ……って、1個2個なら兎も角、一つの地方のジムバッジは簡単に集められるものじゃないよ。私の周囲でもそんなに持っている人なんていないんだよ」
「それもそっか。それじゃあバトルできる施設だと……2か所かな。バトルサブウェイとトライアルハウス……けど、バトルサブウェイだと目まぐるしいかも」
「そ、そうなの?」
「うん、モニターに映っているから、気軽にポケモンバトルを見ることは出来るんだけどね。一旦見てから判断してよっか」
二人並んでライモンシティを歩く。こうして隣を一緒に歩いて初めて気がついたけど、ルリさんのことを見ている人……多いな?
「…………折角ついたんだし、入ろうよ」
視線が刺さる……とまでは言わないけど、男女共に見てくる人が多いような……誰かに似ているのかな。サブウェイには他の人もいるんだし……このまま入っても大丈夫か?
「……今からでも、トライアルハウスに行先変える?」
「…………!」
やっぱりか。というかあんなに見られたら、ポケモンバトルを集中して見ることも出来ないよね。
「…………いい、の?」
「うん、俺は気にしないよ」
「ええっと、そうすると……トライアルハウスだっけ。どこにあるの?」
「こっちだよ」
つい流れで、ルリさんの手を取った。
「……ぁ」
ゆるく、触れる程度に手を繋ごうとして……それをルリさんはどうとったんだろう。ルリさんを連れて急いで移動したのがマズかったのか、ルリさんが慌てて俺の腕に体を寄せて……
え!?
「駄目、かな……?」
「いや、ソンナコトナイヨ?」
……これ、俗に言うこ、ここ…………繋ぎって奴!?
バトルサブウェイからトライアルハウスまでの短い距離だったはずなのに、長い時間ルリさんと手を繋いでいた気がする。まだ、ルリさんの温かさが……って、ここはポケモンバトルをする場所だ。切り替えないと、切り替えないと!
「すいません。こちらはやっていますか?」
「いらっしゃい。おや、君たちは随分と若いね。大方、彼女にいいところを見せたいのかな?」
「か、かかか……」
ル、ルリさん……いや、俺もちょっと今の言葉で意識しかけたけど……次の言葉でその浮ついた気持ちも吹き飛んだ。
「でも、ここは強い人じゃないと受け付けていないんだ。こちらが用意しているトレーナーが軒並み強いからね。少年達にはまだ早いと思うよ。以前にも似たような人が来て挑戦したんだけど、途中で逃げ出しちゃったんだ」
……カチンときた。バトルサブウェイはそのような雰囲気なんて無かったのに、対してこちらは随分な態度だ。
「へぇ……」
ルリさんが顔を赤くして固まっている内に、俺は受付の人に今まで集めたバッジを見せる。
「これでも行こうと思えば、今すぐポケモンリーグにも行ける身ですけど……それでも貴方は俺が弱い、と言いますか?」
ルリさんには聞こえないように、それでいて少しだけ圧をかけるように受付の人を問い詰める。
「…………」
受付の男性の息を飲む音が聞こえるようだ。
「これは……失礼しました。改めて、お名前をお聞きしても?」
「キョウヘイです」
「……!! これは失礼しました。今からご案内いたします」
うーん……プラズマ団の残党をヒュウと一緒に叩き潰した経験からか、良くも悪くも胆力がついてしまった気がする。それからこの人の反応を見るに……俺のことをどっかで聞いている?
「畏まりました。挑戦者はキョウヘイ様のみで宜しいでしょうか。お連れの人はご観戦で?」
「はい、それでお願いします」
「ありがとうございます。まず、こちらがルールブックになります。普段のバトルと違うことがあると思うので、分からないことがありましたら、気兼ねなくご質問ください」
「分かりました」
ルールブックは厚くないし、直ぐに読み終えるだろう。
「それから、お連れの方にはこちらを……」
で、こっちは何だろう。オマケみたいだけど……
「なるほど、タイプの相性表ですね。いつもは意識しないけど、こうして表形式で見られるのはいいですね。対戦が不慣れな人でも楽しめるようになるかも」
「こちらの準備が出来ましたらお声がけします。今しばらくお待ち下さい」
さて、ルリさんにタイプ相性表を渡しつつ、ルールブックを確認しよう。ふむふむ、バトルは5連戦で回復あり。全員を倒せれば、最高評価にはかなり近づけるだろう。けれど、それまでに戦闘不能になったポケモンが多いと、評価も届かなくなりそうだ。如何に自分の手持ちを残しつつ、相手のポケモンを倒すことに注力している。うん、タイプ相性の基礎が分かっていたら、いいところまでいけそうな雰囲気だね。
「ポケモンと道具の重複は禁止。それから、一定レベル以上のポケモンは規定レベルに併せて戦うこと、か」
おっと……このレベルの項目は確認した方がいいだろう。
「すみません。ルールブックの規定レベルについてですが、具体的に何レベルなんですか?」
「50になります。ちなみに、こちらのトレーナーが使うポケモンもそのルールに沿って行われます」
なるほど、これなら検定と言うだけはある。
「分かりました。それではお願いします」
「承知しました。こちら、もう少しで準備が終わります。もう少しだけ、お待ちください」
そうだ。道具の確認を始まるまでにしておこう。そうだな、回復よりも技の威力を上げる道具の方がいいかもしれない、ちょっとだけ確認しておこう。