画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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ルリ編10:約束の一日

 キョウヘイ君とのデート前日、私は体調報告の為にマネージャーと連絡を取っていた。

 

 「それじゃあ明後日からは出られそうなのね」

 

 「はい、体調は戻りましたけど、最近は家に帰れていなかったのと……家族のことで少し」

 

 「妹と弟か。ここ最近は色々と大変だったから、仕方ないわね」

 

 「すみません……」

 

 「とは言え……ルリ」

 

 意味深な溜めだけど、何を言うかなんて想像がついている。

 

 「明日まで休みでいいけれど、貴女はポケドルなんだからね。そのことを忘れないように」

 

 「分かっていますって」

 

 「そうかしら。最近は慌ただしかったし、ジョウトにいた時くらいしかまともに気分転換出来ていなかったじゃない」

 

 「そ、それは……」

 

 「だから、明日で気分転換しておきなさい。それじゃあお休みなさい」

 マネージャーからの通話が切れる。何か……見守るような話し方だったんだけど……マネージャーはもしかして。けど、今はこれでいい。明日はキョウヘイ君との時間に当てられる。

 「ルリ、明日は出かけるんでしょう。早く休むのよ」

 

 「はーい」

 

 弟も妹ももう眠った。なら、もう寝てしまおう。明日の10時30分にライモンシティの観覧車近くの花畑のベンチに集合だ。あそこなら人が来ても男女のカップルが殆どだから、少しは人目を避けられるはず……なんだけど。

 「ね、眠れない……」

 先日まで体調回復の為に体をしっかりと休めていたこと、明日へ気持ちが先走ったことから中々眠りにつけない。

 「うーん……」

 あれ、机に置いているボールが動いて……プリン?

 もしかして、遊び足りないとかかな?

 

♪♪♪~♪♪♪~

 「あ……」

 いや、うん。助かったけ……ど……

 

 翌朝、プリンのお陰でよく眠れたのか朝の7時に目を覚ました。お母さんの朝食を食べて、服も髪も入念に準備をする。うん、これでよし。

 「いってきまーす」

 

 「気を付けるのよー」

 

 「お姉ちゃん、お出かけ?」

 

 「うん。そうだ、あの子に乗った感想、帰ってきたら教えてくれる?」

 

 「うん、いいよ!」

 

 「それじゃ、いってきます」

 散歩がてら早めに家を出たのはいい……けれど、思ったよりも早くライモンシティへ到着してしまった。スマホロトムで時間を見れば9時45分。けれど、別の場所で時間を潰す気にはなれない。今は……少しでも早くキョウヘイ君の顔が見たかった。

 約束の場所近くにあるベンチに座る。

 「そうだ」

 ボールを3つ取り出し、自由にさせてあげる。パッチールと……カントー地方、ジョウト地方で捕まえたニャースとプリン。見慣れない場所だけど……この子たちは気に入ってくれるだろうか。

 「キョウヘイ君が来るまでは自由にしていいからね。あ、プリンは歌わないでね」

 「…………」

 う……そんな目でこっちを見ないで欲しい。ここにいる人達は楽しむ為に来ているんだから、その時間は邪魔しちゃいけないから……ね?

 そんな私の想いが通じたのかは分からないけど、プリンは大きく息を吸い込んだかと思うと、ふわふわと浮き出した。相変わらず凄い肺活量だけど……どんな体の構造になっているんだろう。丸くて可愛いと思うけど。

 えーと……ニャースはどうしたのかな?

 「ちょっと、ちょっとー!?」

 丸くなって飛ぼうとしているプリンを捕まえようとしている。えーと、ニャースは確か……そうだ、テニスボールがあるんだった!

 「ニャース、取ってきて!」

 ボールが上に高く投げる。すると、ビックリするほどの跳躍でボールをキャッチした。

 「おおー。凄いね、ニャース!」

 ビックリした。私の身長の倍くらい高く跳べるんだ!

 「え、もう一回?」

 どうやら今の遊びがニャースは気に入ったらしい。その前にプリンの場所を少しだけ確認する。……うん、私の見える範囲で、迷惑になるようなことはしていないね。ああ、あの大きな観覧車に興味があるんだ、プリンは。

 「ニャース、次いくよー!」

 さて、ニャースと遊ぼうっか。時に低く、時に高くボールを投げるけど、その全てにニャースは的確に反応してボールをキャッチする。やっぱりしなやかなんだなぁ……

 時間を見れば10時20分。もうじき終わりにした方がいいかな……って、風が急に!

 「あ……!」

 帽子を抑える手よりも早く、帽子が飛んでいってしまう。

 嘘、今日は折角時間が取れたのにこれだと……って、え?

 「ニ、ニャース!」

 凄い反射速度だ。まさか、帽子を取ってくれていたなんて。

 「ああ、良かった、ありがとう」

 ああ、本当に良かった。帽子が取れたことで何人かに見られたけど、ニャースが直ぐに取ってきてくれたから短い時間で済んだから、私がルッコだということには気付かれていないみたい。あぁ、良かった……

 

 それからみんなをボールに戻して、ベンチに座る。もうじき約束の時間だからきっと……キョウヘイ君が来る時間、のはずだ。1秒1秒がとても長く感じる。いつもの仕事でも、同僚でありライバルのテツ君と食事をした時もそんな気持ちにはならなかった。やっぱり、キョウヘイ君だからかな。テツ君もテツ君で最近はポケモンバトルに力を入れていると聞いたことがある。

 「……あれ?」

 今、ポケモンセンター方面に向かって何かがやってきたような……うーん、何だろう?

 

 時間を見ればもうじき約束の時間、うーん、ライモンシティ自体が広いから、キョウヘイ君も移動に手間取っているのかな……あれ、誰かがこっちに来て……あ!

 「ごめん、待たせちゃって!」

 「いや、そんなに待っていないよキョウヘイ君。今日は忙しいのに時間を取ってくれてありがとう」

 「ルリさんの方こそ、仕事が忙しいのにありがとう!」

 それはこちらの台詞だ。バッジを集めたキョウヘイ君は何れ、ポケモンリーグに挑戦するはずだ。それなのに、私との時間を優先してくれたんだから。

 「今日はよろしくね」

 「う、うん。それで……今日は何時くらいまで時間は空いているの?」

 「そこについては大丈夫、今日はお休みだから夕方まで空いているよ!」

 

 え、視線を外して……え、この前みたいに変な事言っちゃった?

 「どうしたの?」

 「ごめんごめん、ちょっと日差しが目に入っちゃって」

 「き、今日って、そんな日差しが強かったっけ?」

 今日の天気予報ではそんなこと言っていなかったはず。それとも、この前みたいに変なことを言っちゃったっけ?

 「……よし、それじゃあどこに行こっか。この時間だとスタジアムは練習時間だし、近くのアベニューも今は準備中だろうし……ルリさんが行きたい所はある?」

 うーん……ライモンシティは仕事柄よく行くし、他の施設も大体は知っているんだよね。

 キョウヘイ君と一緒に行くだけで全然違うとは思うけど……それより。

 「キョウヘイ君……ライモンシティ周辺に詳しいんだね。この辺りに住んでいるの?」

 「えーと……この辺りって、ポケモンに関する施設が多いから、最終調整する為に最近は滞在しているんだ。それに、ヒオウギからポケモンリーグまで行くのは大変だし」

 「なるほど。確かにスタジアムに行くと休憩中のアスリート達がポケモンバトルしてくれることもあるし、対戦相手には事欠かないよね」

 「うん。他にもホドモエまで行けば技を思い出させてくれたり、忘れさせたりする人もいるから、結構便利なんだ」

 ホドモエシティにそんな人がいるんだ、始めて知ったよ。キョウヘイ君って本当に色々なことを知っているなぁ。こことかでポケモンバトルもしているみたいだし……

 「…………そうだ!」

 自分ながら、これは名案ではないだろうか。

 「私……キョウヘイ君の普段の様子を知りたいな。この前話した時にはバッチを全部集めたって聞いたけど……ポケモンバトルのコツとか知りたいな」

 「俺でいいの?」

 「勿論だよ……って、1個2個なら兎も角、一つの地方のジムバッチは簡単に集められるものじゃないよ。私の周囲でもそんなに持っている人なんていないんだよ」

 確かテツ君は挑戦したいなぁ……とか、前に言っていたけど、時間がなくて断念しているんだよね。

 「それもそっか。それじゃあバトルできる施設だと……2か所かな。バトルサブウェイとトライアルハウス……けど、バトルサブウェイだと目まぐるしいかも」

 「そ、そうなの?」

 目、目まぐるしいって何だろう……

 「うん、モニターに映っているから、気軽にポケモンバトルを見ることは出来るんだけどね。一旦見てから判断してよっか」

 キョウヘイ君の案内の元、二人並んでサブウェイに向けて動けたのはいいんだけど……休日のライモンシティだからか、普段よりも多くの人が私を見ている気がする。直ぐにサブウェイについたけど……キョウヘイ君はどうしたの?

 「…………折角ついたんだし、入ろうよ」

 出来れば、早く入ってしまいたい。地下に行けば少しは人混みに紛れることが……

 「……今からでも、トライアルハウスに行先変える?」

 「…………!」

 キョウヘイ君にもこの視線は気付かれちゃった、か。

 

 「…………いい、の?」

 「うん、俺は気にしないよ」

 ここはキョウヘイ君の言葉に甘えよう。

 

 「ええっと、そうすると……トライアルハウスだっけ、それはどこにあるの?」

 ライモンシティの中心にあるサブウェイやミュージカルは兎も角、トライアルは名前だけしか聞いたことがないなぁ……

 「こっちだよ」

 「……ぁ」

 何気なく繋がれた手に、私の意識が全て持っていかれる。お父さんよりは小さいけれど、弟よりは大きな手。色々な所へ旅をしている影響か、少しだけゴツゴツとして……大きな手だった。って、キョウヘイ君の歩く速度が思ったより早い。置いて行かれないように……えい!

 途端に、キョウヘイ君の動きが止まった。もしかして……迷惑だった、かな。

 「駄目、かな……?」

 指を絡めた手からはキョウヘイ君の熱が伝わってくる。出来れば、このままで……

 「いや、ソンナコトナイヨ?」

 ……あ、キョウヘイ君の顔が赤……は、恥ずかしい……!!!

 

 トライアルハウスへ入った時にキョウヘイ君の手が離れてしまった。目的地に着いたのだから当然と言えば当然だけど……もっと繋いでいたかったな。

 「すいません。こちらはやっていますか?」

 

 「いらっしゃい。おや、君たちは随分と若いね。大方、彼女にいいところを見せたいのかな?」

 

 わ、私が、キョウヘイ君の………

 

 「か、かかか……」

 ……………………

 正直、この後に受付の人が何を言ったのか、全然覚えていない。

 連戦であろうとも堂々と戦い続けるキョウヘイ君の姿だけだった。

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