ルリさんがいる手前、気合を入れて取り組んだ結果かは分からないけど……
「キョウヘイ君凄い、マスターランクだよ!」
うん、なるべく倒されないように、それでいて適時交換がうまくいったのが大きかったかな。本格的に点数を狙うんだったらもっとしっかりした構成にした方がいいかもしれない。例えば、ボルトチェンジとか上手く使って……でも、俺じゃなくても手軽に確かめられるような施設にするんだったら、この位のほうがいいのかも。それに、後半は相手のポケモンも強くなっていたし、普段と違う条件で実践を行えるのはいいことだ。
「キョウヘイ様、おめでとうございます。技の指示は勿論ですが、交換が驚くほど的確でした。何処かで次々とやってくる相手と戦ったご経験などあるのですか?」
「え、いや、そんなことない、と思いますよ」
そうは言ったけど、思い当たる節がある。どう考えても、プラズマ団だ。
「それは兎も角、こちらが景品となります」
「ありがとうございます。あれ、BPって確かバトルサブウェイやホドモエシティの端にある会場で使われているポイントですよね?」
悪の波動とかをゾロアークに覚えさせられたら……とか考えてこっちに来たんだよね。
「その通りです、ポイントを溜めて是非利用してください。ところで、こんな話をご存じですか?」
「何ですか?」
「ホドモエシティの南にあるポケモンワールドトーナメント(PWT)の会場で近々、大会が開かれるとか。その若さでこの強さ……もしかしたら、キョウヘイ様にもお声がけがあるかもしれませんよ」
そう言えば、ミライさんがそんなことを教えてくれたような……それに俺がトレーナーとして出場か。
「それは……面白そうな話ですね」
「ええ、今回の挑戦を通して、トーナメントで戦うキョウヘイ様を見てみたいと思いました」
それは楽しみだ。観戦するにしろ、参加するにしろ……ポケモンリーグ以外に挑戦できることが増えたのはとてもいいことだ。
「そう言えば、どうして受付の時に追い払おうとしたんですか?」
「その件は申し訳ございません。実は……」
聞けば、ソウリュウシティの事件を皮切りに自分たちで自衛する風潮が出てきているらしい。ジムバッジとはいかないけれど、それを手軽に満たすためにトライアルハウスへ来る人が一時的に増えたのだとか。ただ……その過程で色々な問題があったらしい。
自分のポケモンと交換してくれとせがむ人やインチキだと叫ぶ人が相当いたそうだ。うん、あのうなだれ具合から考えると……相当なことがあったんだろう。
今から思えば、相手をするトレーナーも途中までピリピリしていたな。相手が俺を警戒していたのってそういうことだったのか。まぁ、途中からそんな視線を感じなくなったのは……俺が自分のポケモンと一緒に戦っているトレーナーだと見てくれたからだろう。
「あの……」
おや、ルリさん?
「なんでしょうか」
「今度、私も挑戦していいでしょうか?」
「いいですよ。挑戦は自分のポケモンでされるつもりですか?」
「はい、最近は新しくポケモンを捕まえたりしたので、その子たちの力や自分の力を確かめたくて……」
ポケモンを捕まえたんだ。どんなポケモンだろう。
「畏まりました。お名前をお聞きしても?」
「……翌日以降、改めて電話でも宜しいでしょうか。今、番号は教えますので」
ルリさんはルリさんでは。それとも……
「……はい、確認しました。それではお電話の方、お待ちしております」
ルリさんが受付の方と話を終えたので、トライアルハウスを出る。
「凄く生き生きしていたね、キョウヘイ君」
「これでも、ポケモントレーナーだからね。もしかして、退屈させちゃった?」
「ううん。普段お話する時以外の顔が見れてとても楽しかった。それに私……キョウヘイ君のポケモンバトルかっこいいと思ったよ!」
そ、それは照れるな……
「……そう言えばさっき、トライアルハウスに挑戦しようとしていたけど、どうして突然?」
ポケモンバトルが好きとは聞いていなかったような……
「え、あ、その……その……」
??
「────キョウヘイ君のバトルする姿を見てちょっと挑戦してみたいな、と思って」
「そっか。俺でできることがあったら相談に乗るから、気軽に言ってね」
「うん、ありがとう」
真正面からルリさんの紅潮した顔を見た俺は、自分が耐えられなくなると思ってルリさんから目を逸らした……んだけど。
「…………」
「…………」
特性:くいしんぼうなポケモンが鳴らすような、大きなおなかの音が……
「…………」
……さっきとは別の意味で、顔が赤くなった俺だったとさ。
「もう12時過ぎているし、どこでお昼ご飯を食べよっか」
連戦していたし、朝ごはんも早かったとはいえ…………
「……ルリさんは行きたいところある?」
「うーん……ライモンシティのお店は知っているから……キョウヘイ君のお勧めがあったら一緒に行きたい!」
……自分のお腹が鳴るというアクシデントはあったけど、思ったように進められている、かな?
「それじゃあ、この近くのアベニューにレストランがあるんだけど、そこにしない?」
「うん、いいよ!」
──それにしても、ヒュウにバレた時はどうしようかと思ったけど、今となっては助かった。あれはジャイアントホールでルリさんと会話した後だったっけ……
「キョウヘイ。ルリさんって、誰だ?」
「え、いや~……」
あの時は誤魔化したいところだったけど、会話を間近で聞かれていたしプラズマ団を倒した後で疲れ切っていた。相手がヒュウということもあって、思わず口にしていたんだ。
「実は以前、ルリさんが落としたライブキャスターを俺が拾って、少し前に返したんだ」
「あー、もしかして定期的にライブキャスターで連絡していたとかか」
「そんな感じ。それで、この前は返しただけだったけど……その後も何回かライブキャスターで連絡を取っていて……今度、直接会うことになったんだ」
「ふーん……どのくらいの時間で?」
ヒュウは揶揄うわけでもなく、相談に乗ってくれる……そんなスタンスを取ってくれた。あの時は疲れていたから考えもしなかったけど、付き合いの長いヒュウだから誤魔化す必要なんてなかったのかもしれない。
「あー……それはまだ、分からないかな。この前みたいに、渡して直ぐに帰るかもしれないし……」
「それは無いだろ。なら、会う約束する時になんて言っていたんだ、その人」
「普段のお礼を直接言いたいって……」
「じゃあ、どっかに寄れる場所を考えておいた方がいいんじゃないか?」
「どこで会うつもりなんだ?」
「この前みたいにライモンシティになると思う。ライモンシティ周辺だと……」
……アベニューがあるけど、あるけど。
「ビッグスタジアム、リトルコード、ミュージカルホールか……」
「いいじゃん。それにお前、ライモンシティの近くにあるアベニューのオーナーやってるらしいな。なら、店も全部知っているんだろ?」
そうそう、アベニューの運営を何故かやることになったんだよね。まだまだイチミさんやミライさんに力を借りっぱなしだけどね。ああ、そう言えば最近は連絡もしていなかったから、戻ったらイチミさんやミライさんに怒られるよなぁ、絶対……って。
「って、何でアベニューのことをヒュウが知っているんだよ!?」
「チェレンさんから聞いた」
「そ、そう……」
あの人、どこからそんな情報を。待てよ、もしかしてヒオウギのジムリーダーだから、イチミさんやミライさんが先行して教えたのかな。
「その人がどういう人かは知らないし、キョウヘイが話さないなら聞かないけど、どういう人なんだ」
「仕事が忙しい人なのと……あ。そう言えば、初めて会った時も人違いですって焦ったように言っていたから、目立つ場所は避けた方がいいのかも」
「ならさ、アベニューで入る予定の店のオーナーに連絡して、予約しておけばいいじゃん。個室とか仕切りでも用意してもらってさ」
「……なるほど」
「それに、ライモンシティなら色々な施設があるだろ。観覧車もそうだけど、隣にあるシャイニングジェットコースターとか、トライアルハウスとか。シャイニングジェットコースターはよく分からないけど、トライアルハウスなら沢山の人は来られないだろ。まぁ、バトルの施設だから、トレーナーじゃない人には面白くないかもしれないけど」
「確かに……」
「まっ、それをやるかはお前次第だけどな。色々大変だろうけど、頑張れよ!」
さて、そんなことを思い出しつつ……ルリさんと手を繋いでLAWDアベニューを歩く。本当だったら顔が真っ赤になっていてもいいんだけどそうならないのは……このアベニュー内の人混みにあった。
「凄い人の数だね、びっくりしちゃう」
「うん。俺も驚いたよ」
ジムリーダー効果って凄い。
デザートリゾートと隣接している4番道路の通り道を兼ねているから、かなり道幅は広いはずなんだけど……それでも注意して歩かないと誰かにぶつかってしまうほどだとは。
「これだと並んでいる間に時間が掛かっちゃうね。キョウヘイ君のお腹は大丈夫?」
「ああ、そこは大丈夫だよ」
ほんと、あの時にヒュウと話をしていて本当に良かったよ。お陰でシャガさんの時も……
「凄いなぁ……やっぱりフウロさんやカミツレさん、ホミカさんみたいな人が紹介すると、これだけ人が集まるんだね」
「……そうだね」
色々と思うことがあったけど、口を閉じておこう。約1名、思っている印象と違うと思うんだ。
「あ、そろそろ着くよ」
「でも、結構並んでいるね。確か、ソウリュウシティのシャガさんご紹介だったっけ?」
「そ、そうだね」
凄いな、既にシャガさんのアカウントで投稿されているとはいえ、もう知っているなんて。
途中、ルリさんもアベニューの店を見ていたし、残りの時間はこのアベニューで過ごすのも悪くないかも。まぁ、問題があるとすれば、各店へ入った時にオーナー呼ばわりされた場合だけど……なんか、変装が必要かな?
「いらっしゃいませ、キ……お客様」
いつもの癖でキョウヘイ様って、言おうとしたな。まぁ、修正してくれたからいいけど。
「予約していたキョウヘイです」
「はい、キョウヘイ様ですね。では、こちらへどうぞ」
案内されるまま、仕切りのある席へ案内される。
「ルリさん、こっちだよ」
「あ、うん」
ルリさんがきょろきょろしている。あぁ、ここはお店の間取り、変わっているからね。
「うん、この店にはたまに行くんだ」
たまにと言うか、アベニューの手伝いをしている時はほとんど行っているんだけど。
仕切りのある座席に座る。
アッツォは忙しいらしく、直ぐに調理に戻った。場合によってはアルバイトを入れた方がいいんじゃないだろうか。それか、レストランの店舗を増やすべきか……?
「えーと、メニューは……これだね!」
ルリさんと一緒にメニューを眺める。普段だったら、雑にランチかコンボを頼むところだけど、今日はルリさんと一緒だ。どうしようか。
「ここって、ポケモン用のメニューもあるんだ!」
お、ルリさんがそこに気付いてくれた。
「そうそう。だから、自分で食べるだけじゃなくて、ポケモン用のメニュー目当てに来る人もいるんだ」
「もしかして……お店の中央の空間が空いているのは」
「うん、ポケモンと一緒に食べる為だよ」
そう。ここがこのレストランの一番の特徴だ。座席や会計、調理場が外側に、内側はフリースペースになっている、ちょっと変わった店構えだ。
その分座席が少ないんだけど……来店したポケモントレーナー達からの評判がよく、リピーターも多い。
後で知ったんだけど、この辺りに住んでいるポケモンを持っている人達は、今まで外出時にゆっくりと座ってポケモンと食事をする機会があんまり無かったみたい。
そうした点はシャガさんだけではなく、他のジムリーダーも評価してくれた。
店を建てる時に要望の一つとして言ってみただけだったんだけど、これがここまでうまく行くとは。
「なるほど……でも、大きいポケモンの場合はどうなるの?」
「そうだね……あんまり大きいと流石に持ち帰りになることもあるみたい」
例えば、ホエルオーとか。流石に無理。
「そうなんだ……すっかり忘れていたけど、キョウヘイ君は何にする?」
「じゃあ、ランチにしようかな」
「じゃあ、私もそれで」
「よし、店主に伝えてくるよ」
今は忙しいだろうし、直接声を掛けにいこう。
アッツォに声を掛けたところ、受け付けてはくれたけど他の注文も立て込んでいた。
「ちょっと時間がかかるみたい」
「そうだよね、こんなにいるんだから。けど、キョウヘイ君もいるし気にならないよ」
「そ、そっか……」
ルリさん、さらっと言ったね……こういうのって、そういうものなのかな?
「そ、そう言えばキョウヘイ君はここに結構通っているの?」
「うん、このところ、ライモンシティ近くにいることが多いから大体はここで食事か、向こうのマーケットで買っているかな」
「そうなんだ」
それからしばらく雑談や外でポケモンが食事をしている様子などを耳に入れながら、のんびりと料理を待つ。
「お待たせしました。こちら、ランチになります」
「わぁ……」
うん、いつものメニューだね。
「……………………」
彼女のプレートに追加で乗っている物を除けば。
「あの、店主?」
「こちら、私からのサービスになります。いつもキョウヘイ様には、よくして貰っていますので」
「え、いいんですか!?」
……イチミさん辺りに、誰か確認しとけとか言われたのか?
「では、どうぞごゆっくり」
ぐぐぐ、ルリさんの前だし何も言えない……
そんなことが食前にあったが、いつも通りアッツォの料理を食べ終える。見た所、ルリさんも気に入ってくれたようで何よりだ。
「そうだ。私、最近新しくポケモンを捕まえたの!」
そうそう、トライアルハウスで言っていたよね。どんなポケモンなんだろう?
「ちょっと大きいからちゃんと出られるかな……えい!」
大きい……さっき話していたのは、これのことだった……
「……え、ラプラス!?」
驚いた。ある地方だと繁殖していると聞くが、それ以外の地域では減少傾向にあるポケモンだ。イッシュ地方ではまだ見かけたことがないけど……何処にいるんだろう?
そして、そんなポケモンを捕まえているなんて凄い。俺だってまだポケモン図鑑に登録していないのに。
「キョウヘイ君でもそんなに驚くんだ……って、それは何?」
あ、いつもの癖で……
「ああ、つい見ないポケモンを見ると取り出す癖がついちゃっていて……これはポケモン図鑑、アララギ博士から預かっていて、これを埋めることも旅の一つの目標なんだ」
「…………」
おっと、記録が出来たらしい、説明文があるな。
「なるほど、ラプラスって人を乗せて泳ぐのが好きなんだって。あれ、ルリさん?」
「……あ、ごめん。驚いちゃってて」
「あまりいないらしいからね、ポケモン図鑑を渡される人って」
ポケモン図鑑と言えば、トレーナーと対戦した後に見せてあげることも多い。かいじゅうマニアとかはすごく食いつくように色んなページを見るし、他の人も自分のポケモンが知りたいから。その後にポケモン図鑑を埋める為にも旅をしていることを伝えると、かなりの割合で応援してくれる。
そしてラプラスと言えば、その優秀な技範囲だ。水タイプなのに電気タイプの技を覚えるという稀なポケモンだけど……さっきのトライアルハウスのこともある。
「そうだ、今の技はどうなっているの?」
「私、ポケモンの技ってあんまり意識したことが無くて……」
「よし、それなら……」
これは、今までイッシュ地方をジムバッジ獲得のために旅してきた俺の出番だろう。
「な、何しているの、キョウヘイ君」
唐突にバッグを漁りだしたからか、ルリさんが焦った声を出す。
「実はさ、技マシンを色々持っているんだ。特に、イッシュ地方のマシンは使っても無くならないから丁度いいと思って」
「そ、そうなんだ……水に住むポケモンなんだから、水タイプやノーマルタイプの技を中心に覚えるんじゃないの?」
「これを見て」
トレーナーじゃない人は、そのぐらいの印象かもしれない。それは正しいといえば正しいんだけど……まずは、ラプラスの図鑑を見てもらおう。
「え、氷タイプもあるんだ!」
「それから、ラプラスって色々な技を覚えられることで知られているんだ。水タイプなんだけど、電気タイプの技も覚えたりするほど器用でさ」
お、ルリさんの目が丸く……
「え、水タイプなのに?」
「うん。だから、電気タイプの技を覚えていれば……例えば、海で野生の水ポケモンで囲まれたとしても、電気タイプの攻撃で退かせることが出来るかも」
うん、ちょっとしたルリさんのガードマンみたいになっちゃうけど、仕事で忙しい人なんだしこれくらいはね。
「そんなに凄いんだ、この子!」
えーと、ポケモン図鑑によれば、適応可能な技マシンは……と。
「うん、それでちょうど、その電気技の技マシンとラプラスに合う技を持っているんだけど……どうする?」
とは言え、だ。無理矢理忘れさせるわけにもいかない。しっかりと確認しよう。
「そ、そ、それじゃあお願いできる、かな?」
それにしても……ヒュウから貰った10万ボルトがここで役立つとは。それから、ラプラスと言えば波乗りだよね。ついでに、ジャイアントホールで拾った冷凍ビームも……と。
「よし、これでオッケー。これで色々な相手に対応出来ると思う」
「ありがとう……そうだ、この子は進化したりするの?」
図鑑を見る。大体番号を見れば進化の有無が分かるんだけど……やっぱりか。
「いや、ラプラスが進化したっていう話は聞いたことがないかな。それでも、ラプラスはとても強力なポケモンだし、欲しがる人も多いみたい。大事にしてあげてね。それから、水辺であれば問題ないから、時折そこへ行って泳がせてあげるのもいいかも」
「そうなんだ。なんか、私ばかり貰っちゃって……ごめんね」
「技マシンは俺の好きでやっただけだよ。それに、ルリさんと話す時間は俺も楽しいし」
「う、うん……─────」
今、ルリさんはなんて言ったんだろう?
ルリさんが恥ずかしがって帽子で口元も隠したし、周囲の声もあったから、何て言ったのか聞き取れなかった。