──ポケモントレーナーなんて、ポケモンにただ指示を出して戦わせているだけでしょ。
──ポケモンリーグより最近はポケドルでしょ。ポケドルは勿論、一緒に踊っているポケモン達も可愛いし、何より無理矢理戦わせるなんて可哀相じゃない。
──どうせ、自分が他の人より強いことを自慢したい人達がやっていることでしょ。
──ジムリーダーや四天王なんて、なれる人なんて決まっているつまらない仕事だよ。
今でこそその影は少なくなったけど、かつてポケモントレーナーや各ジムリーダーが悪く言われた時期があった。その間、ポケドルの仕事で関わっていた人たちの中では、ポケモン自体を手放す人もいれば、そのポケモンを使っているポケモントレーナーやジムリーダーの存在を煙たがっている人も沢山いた。
その影も薄れてきた中で、ジムリーダー達へインタビューする仕事を頂いたのは数ヶ月前のこと。私がポケモンバトルを好きかと問われれば、そうではないと答える。けれど、バトルにしろ、ポケドルとしてステージでダンスを披露するにしろ、ポケモンと一緒に何かをするというのは共通していた。そうした共通点があるから、新たな発見もあるだろう……そう思っていた。
ジムリーダーには色んな人がいる。ある人はポケモンと人との付き合い方を伝えるため、あるいは強く、研鑽を積んだ人と手合わせをしたいため、旅の経験を活かして新しいトレーナーを導くため。
色んな人がいたけれど、共通していたのはポケモンと人は一緒に過ごすことが当たり前で、家族のように扱っているところだ。じゃあ、そのジムリーダー達と手合わせしてきたキョウヘイ君は……?
「いくぞ、ダイケンキ」
「いきますよ、ハハコモリ!」
「うーん……」
相手は弟と同じハハコモリ。キョウヘイ君は見たことがない青いポケモンを出しているけど相性が悪いのかな。少し困った表情をしている気がする。先ほどからハハコモリがリーフブレードで攻撃をしかけては、キョウヘイ君のダイケンキは緑の何かを地面へ作りながらその攻撃を何とか躱している。けれど、場所もそんなに広くないから、いつかはハハコモリのリーフブレードを受けてしまうと思う。どうするんだろう。
「もう一度、リーフブレード!」
相手が指示を出し、ハハコモリがそれに応える。
「そこ、下から来る。受け流せ!」
「えぇ!?」
驚いた。ダイケンキというポケモンの脚に付いている固そうな部分でリーフブレードを受け止めて……そのまま地面へ叩き付けた。ただでさえ、水タイプは草タイプの攻撃を苦手としているのにあんな風に受け流せることに驚いた。それだけでも十分な驚くところだけど、それだけじゃない。キョウヘイ君は既に次の手を打っていた。それは、その地面には設置していた緑の何か。
「今、草結び!」
それがどうやら草結び……という技らしい。これが一つ、二つとハハコモリの腕を捕まえ、転倒させる。思わぬ行動に驚いたのか、ハハコモリも相手も態勢を立て直すのに少しだけ時間がかかっている。そして、その間に……
「よし、戻れ、ダイケンキ。行くぞ、ウインディ!」
見るからに炎タイプのウインディが登場した。ああ、これで形勢逆転だ。相手は相手でポケモンを変えたそうにしているけど、キョウヘイ君のウインディは直ぐに距離を詰めてその隙を作らせない。
「相手をよく見て躱すのよ!」
その声が届いたのか、ウインディが距離を詰めるタイミングに合わせてハハコモリがジャンプする。突然の出来事にウインディが困惑していた時……
「右、振り返りながら火炎放射!」
一瞬動きが止まったウインディだけど、キョウヘイ君の指示を聞いて、直ぐにその通りに動く。後ろ足でステップを踏み、時計回りに体を回転させながら放たれた火炎放射は……
「うそっ!」
──ハハコモリ、戦闘不能
着地をしようとしていたハハコモリに当たり、戦闘不能状態に。確か相性表だと……ああ、草、虫タイプだから、ただでさえ苦手な炎タイプの技が2重に弱かったんだ。それは確かに厳しいね……
「すごい……」
ここまでポケモントレーナーの戦いを食い入るように見たのは初めてな気がする。お父さんや弟がコミュニケーションの一環でポケモンバトルをすることはあったけど……キョウヘイ君の戦い方はそれとはまったく違う。
「戻れ、ウインディ。いくぞ、ルカリオ!」
──ポケモンバトルはタイプ相性を理解し、威力の高い攻撃を相手にぶつけるものだと思っていた。けれど、目の前で起きているのは……
「波動弾!」
「アバゴーラ、アクアテールよ!」
「そこ、インファイト!」
「な!」
まるで、一つの映像作品のようだった。キョウヘイ君は相手のポケモンを、トレーナーの考えを見切っているようだった。相手の攻撃に併せて攻撃技を当てては、距離を取ったタイミングで変化技を、あるいは相手のポケモンに有利な技を覚えているポケモンへ変更する。
──これが、ポケモントレーナーのキョウヘイ君……
「キョウヘイ様、五戦目の準備が整いました。準備の方は宜しいですか?」
「はい!」
気がつけば、もう最終戦。集中してポケモンバトルに挑むキョウヘイ君はとても格好良くて……
「キョウヘイ君凄い、マスターランクだよ!」
でも、その時間はあっという前に終わってしまった。印象的だったのはダイケンキと呼んだキョウヘイ君のポケモンだ。水タイプらしいけど、他にも氷タイプの技と草タイプの技を使って相手を翻弄し、何とか一撃でも与えようとする相手を先制攻撃で倒していく。その動きは正に一心同体。的確に、相手を見て攻撃を撃つその動きはキョウヘイ君がポケモンとなって戦っているようだった。
「キョウヘイ様、おめでとうございます。技の指示は勿論ですが、交換が驚くほど的確でした。何処かで次々とやってくる相手と戦ったご経験などあるのですか?」
確かに、ポケモンを入れ替えるタイミングは難しいと聞いたことがある。特にこうした対面で交換するにしても、相手の意表を上手くつかないと思い通りにいかないはずだ。それでも、キョウヘイ君はなんなくこなしている。
「え、いや、そんなことない、と思いますよ」
な、何があったんだろう。ポケモントレーナーと連戦し続ける時ってどんな……
その後、ちょっとだけ裏話を聞いた。確かに、自分たちの腕を確かめる為の施設で自分のポケモンが使えないと言いだす人やそのポケモンが強いから交換してくれとせがむ人を断りたい気持ちはよく分かる。
私も普段、ポケモンと一緒にレッスンをするけれど、ポケモン達だって生きている。レッスンでは上手に動けていても、本番では固くなってしまうことは自分だってあるし、それはポケモン達だって起きる話だ。今でこそ名前が売れているけど、それ以前は私もパッチールも沢山ミスをした。でも、そんなことはお仕事でも、それ以外でも沢山ある。それをポケモンのせいにしてしまうのは……
「そんなことがあったんですね。それはなんとも……」
「お陰様で、外はあんなに人がいるのに、こっちはハト―ボーが鳴いていますよ、ほんと」
乾いた笑いを見せる受付の人。でも、こうしてポケモンバトルを間近で見たのはとてもいい刺激だった。
「あの……」
「なんでしょうか」
「今度、私も挑戦していいでしょうか?」
そう、ジムバッジを獲得まではいかなくてもここならば自分でも挑戦できるのではないか、そんな気持ちが湧いてきた。
「いいですよ。挑戦は自分のポケモンでされるつもりですか?」
「はい、最近は新しくポケモンを捕まえたりしたので、その子たちの力や自分の力を確かめたくて……」
「畏まりました。お名前をお聞きしても?」
「おや、貴女はもしや……」
……!!
「……翌日以降、改めて電話でも宜しいでしょうか。今、番号は教えますので」
直ぐに顔を下に向けて番号を伝える。これをマネージャーに話したらどうなるか、一回相談してみよう。
「はい、確認しました。……申し訳ございません。つい先日、どこかで見掛けた気がしましたので……つい。それはそうと、それではお電話の方、お待ちしております」
「はい、改めて連絡しますね」
ちょっと怖かったけどあの様子なら多分、私がルッコだと気付いてもあの人は黙ってくれそうだ。これもキョウヘイ君のお陰かな。それにしても……
「凄く生き生きしていたね、キョウヘイ君」
「これでもポケモントレーナーだからね。もしかして、退屈させちゃった?」
「ううん。普段お話する時以外の顔が見れてとても楽しかった。それに私……キョウヘイ君のポケモンバトル、かっこいいと思ったよ!」
あ、照れてる。でも、本当だよ。真っ直ぐに勝利を目指して、迷いなく指示を出すキョウヘイ君、相手の一歩、二歩先を読んで的確に、正確に指示を出し、それに迷うことなく技を撃つポケモン達。これはよほどの信頼関係がないと出来ないはず。
「……そう言えばさっき、トライアルハウスに挑戦しようとしていたけど、どうして突然?」
「え、あ、その……その……」
今まで、各ポケモンジムでのインタビューはしたことがあったものの、トレーナー同士の対戦をライブキャスターでの連絡だけじゃない、キョウヘイ君の本当の姿を垣間見ることが出来た。それに、キョウヘイ君をもっと知りたい……そう思ったんだ。
「────キョウヘイ君のバトルする姿を見てちょっと挑戦してみたいな、と思って」
「そっか。俺でできることがあったら相談に乗るから、気軽に言ってね」
「うん、ありがとう」
ここでキョウヘイ君のお腹が鳴る。
「ふふ……」
「笑わないでよ、ルリさん!!」
だって、仕方ないよ。あんなに格好良かったキョウヘイ君が、お腹を空かせた弟たちのようにお腹を鳴らしたんだから。あぁ、今日はライブキャスターでは分からなかった色んな面を見られている。時間が取れて、本当に良かったなぁ……
二人で話しながら最近話題のアベニューへ入る。少し前までプラズマ団の件で騒がれていたけれど、今はその影が少しだけ薄まった。そうした中で最近のトレンドになっているのはここ、LAWDアベニューだ。私は家族と一度いったきりで詳しく知らないんだけど……数日前にイッシュ地方のジムリーダーが挙って足を運んでお店のレビューをしたことから、大きな話題を呼んでいる。私達の事務所でもコンタクトが取れないかとマネージャーたちが頑張っているものの、そのオーナーには一度も繋がったことがないらしい。
一方、憶測ながらもオーナーが誰かということが巷で話題になっている。その正体不明のオーナーはイッシュ地方四天王のカトレアさんやギャンブラーで有名なギーマさんではないか、という噂だ。一方、シャガさんが正体不明のオーナーのことを高く評価していることから、シャガさんの孫娘であるアイリスさんが関わっているのではないか……そんな噂もある。
少し前にはあんなことがあったのに、ジムリーダー達が挙って訪問してすぐさまイッシュ地方の活気を作り出すなんて……オーナーは一体どんな人なんだろう。
──そんな事情から、アベニューには沢山の人がいた。
「凄い人の数だね、びっくりしちゃう」
「うん。俺も驚いたよ」
さり気なく繋がれた手にドキドキしつつ、アベニューを歩く。美容室に花屋、スーパーマーケットと様々なお店がある。目を引く商品もあれば、まだ新しいお店もあるみたいで……これからさらに発展していく可能性を感じさせてくれる。2年前からイッシュ地方では色々なことがあってどこか暗い空気が続いていたけれど、ここにはそれを感じさせない活気のある空気が広がっている。うん、こういう空気はいいなぁ。
お昼ご飯の場所はキョウヘイ君のおススメということで案内してもらう。確か……このお店はシャガさんが来ていた場所だったよね。写真は座席だけだったけど、落ち着いた雰囲気だった気がする。てっきり数十分は待つことも想定していたけど、キョウヘイ君は既に予約を取っていたので直ぐに席へ座ることができた。
案内された席へ座る。どうやら予約をしてくれたから仕切を特別に用意して貰っていたらしい。もしかして、キョウヘイ君がお願いしてくれたのかな。正直、周囲の目を気にしながら食べることも考えていたから、とても有難かった。帽子を外し、待っている間に取り留めのない話をする。私が他の地方での出来事を言えば、キョウヘイ君はそこにいるポケモンについて聞いてくる。私も全部見た訳じゃないけれど、答えられる範囲で答えていく。
「別の姿のポケモンかぁ……」
「うん、詳しいことは分からないけど、ニャースって地方によって違う姿をしているんだ」
「でも、全部じゃないんだよね」
「そうそう。ある地方だと……そのポケモンを意図的に持ち込んだとか。そして、そのポケモンが数を増やしながら現地に適応したっていう話だよ」
「へー……イッシュ地方だけにいる他地方のポケモンっているのかなぁ。これは色々と探索してみないとなぁ」
キョウヘイ君って本当にポケモンが好きなんだなぁ……サファリゾーンで捕まえた子達も見せてあげようっと。そう思った時、仕切の外から店主の声が。料理が出来たのかな?
「お待たせしました。こちら、ランチになります」
「わぁ……」
ジャンバラヤとミネストローネ、それにハンバーガーかな。スプーンが多いのはさっき説明があったようにポケモン用に併せてなのかな?
ポケモンと一緒に食べる上で食べやすいような配慮がされた良いメニューだと思う。それから、私にだけは店主のご厚意でデザートまで頂いてしまった。これはベリーのシャーベットかな?
「あ、美味しい」
「そっか。良かった。チェレンさんも来てくれたんだけど、チェレンさんはポケモンの基礎ステータスを伸ばせる所を評価していたんだよね」
「基礎ステータス?」
よく分からない言葉だ。
「うん、ポケモンにはレベルがあるけど、それ以外にもステータスを強化出来るんだ。タウリンとかインドメタシンが分かり易いかな」
何か薬屋さんで売っているのを見たことあるけど……
「あれってそんな効果があるんだ」
「そう、そのステータスを重視したい場合、そうした薬を使うのが手っ取り早いんだけど……」
「え、それを料理で?」
キョウヘイ君は満足げに頷く。食べ物で聞いたことがあるのはなつき易くなるくらいだけど、そんなことも出来るんだ。
「そういうのが出来れば、自分だけのポケモンになると思うんだ。苦手な部分を補うのもいいし、得意な部分を強化するのもいい。そういう自由があるのっていいよね」
「うん、すごく素敵だと思う」
心から、そう思う。
「……ありがとう。今振り返れば俺、滅茶苦茶恥ずかしいこと言っていたな」
「そんなことないよ。とっても素敵だよ」
「そ、そうかな……」
照れ隠しをするようにサンバイザーを下げているのが可愛い……そんな風に思った。
「そうだ。私、最近新しくポケモンを捕まえたの!」
サファリゾーンで捕まえたラプラスを見せたらとっても驚いてくれた。やっぱり珍しい子なんだね。驚いたのはキョウヘイ君がポケモン図鑑を持っていることには驚いたし、色々なポケモンを見つけていることにとっても驚いたけど……納得もした。だってポケモンのこと、とっても詳しいから。それにしても、ラプラスって水、氷タイプのポケモンで色んな技を覚えるんだ……凄い。
「うん、それでちょうど、その電気技の技マシンとラプラスに合う技を持っているんだけど……どうする?」
今まで、私はポケモンが覚える技はポケモンが覚えたいと思った技を使えばいいと思っていた。だけど、昼前に見たポケモントレーナーのキョウヘイ君は、相手の弱点を付けるように幅広い技を覚えさせていた。もしかしたら、今度トライアルハウスに挑戦する時に有利に働くかもしれない。
「お、お願いできる、かな?」
それに、凄く楽しそうに技マシンを取り出すキョウヘイ君がなんだか可愛くて……もう少し眺めていたかった。
「よし、これでオッケー。これで色々な相手に対応出来ると思う」
覚えさせてくれた技は波乗り、冷凍ビーム、10万ボルト……いずれも強そうな技だ。それにしても、あんなに沢山の技マシン……そうそう集められるものじゃないはず。それにしても、キョウヘイ君は何者なんだろう。先程のトライアルハウスのような的確な指示もそうだけど、ジムリーダー達が使うような技マシンを持っているなんて……今の実力になるまで、どれだけの修行をしたんだろうか。
「なんか、私ばかり貰っちゃって……ごめんね」
「技マシンは俺の好きでやっただけだよ。それに、ルリさんと話す時間は俺も楽しいし」
「う、うん……良かった。でもね、お仕事抜きで男の子とこんなに話せるのは君だけなんだよ」
キョウヘイ君は私に色々なことを教えてくれる。ポケモンは勿論、ただ一緒にいるだけで楽しくて、とっても温かい。熱心なファンとは違う、心地よい距離感。それは……他の人では感じないんだよ、キョウヘイ君はどう思ってくれているのかな?