深夜、自分が過去に世話をしていたポケモンに促されるように目を覚ます。
「んだよ……で、どうしたんだ?」
起こされた青年は、不機嫌ながらもそのポケモンに話しかける。
「……どした」
そのポケモンは今でこそトレーナーに落ち着いた素振りを見せているが、元の親が親だった為に、前まで食事の時間以外は落ち着いて過ごすことが出来ないままでいた。だからこそ、異変を直ぐに認識した。素早く起き上がって、彼の眼や耳で周囲を警戒する。その家にいる人やポケモンが起きている様子はないものの、微かな違和感があった。それらは、かつて自身の尊敬する友人と対峙した、ゴーストタイプのような存在を感じさせないそれ。
「……こんな時間に悪いけど、準備は出来ているか」
つい先日開催されたイッシュリーダーズトーナメントで優勝し、世間を騒がせるトレーナーはここにいない。しかし、その彼と同様に自力でリーグバッジを8つ集め、チャンピオンロードを踏破した人は他にもいた。
そんな彼は他のポケモンや住人を起こさないよう、静かに広間に出て目的を探す。
音を立てないようにその家から出た後、後ろを見ながら街の外へ向かっていた。それは暗に、彼が寝泊りしていた家では彼らに対抗できるトレーナーがいないことでもあったのだが。
「で、今更こんな場所に来て、何のつもりだ」
「……お前に用は無い」
「じゃあ、何で俺についてきた。あの中だと、俺が一番厄介だからだろ」
月明りが照らす夜、返事はない。代わりに、暗闇から影のような三人が姿を晒す。ダークと自らを呼ぶ彼らは、以前その少年が見た時よりも窶れているような気がした。
「やるならここでやれ。皆、寝静まっているんだ」
それらは、彼からすれば妹から5年もの間ポケモンと笑顔を奪った憎い連中だった。が、取り返したかったポケモンは返され、失くした絆は新しく埋められた。今では四六時中一緒に過ごしており、彼女のポケモンも心を許し始めている。もう、妹達を引き裂くようなことはない。彼らさえ、余計なことをしなければ……
「……」
3人の内の1人が腕試しのように勝負を仕掛けてきたが、その戦いは呆気ないほどに早く終わった。
「何故だ。あいつならまだしも、何故お前に負ける。しかも、そのポケモンは……!」
かつて少年を苦しめた仇敵は、彼を倒せず敗北する。
「今のお前達がどうかは知らねぇ。けどな、俺達は失ったものを受け入れて、背負って生きている。ただ、それだけだ。今ある平穏を、日常をもう一度奪うと言うのなら……」
青年の顔に以前のような怒りはない。ただ、冷ややかに彼らを見下ろしている。苦渋の表情を浮かべた3人は、闇に溶けるように姿を消す。
「……ヤーコンさんもそうだけど、キョウヘイにも伝えた方がいいよな。これ」
熱さも過ぎた秋の深夜、ヒュウは1つため息をついて宿泊している家へ戻った。