殿堂入りから3ケ月後、ここ最近までバタバタしていた俺はようやく諸々のイベントが終えて、久しぶりに落ち着いてアベニューの席に座っている。直近で参加したイベントが非常に受けたらしく、ポケモンの育成ブームが来ている。そのおかげでアベニューの売上も右肩上がりだ。それにしても、直近で殿堂入りしたトレーナーだとはいえ。
「まさか、トーナメントで優勝できるなんてなぁ……」
アベニューの売上情報や各店舗のコメントを見ながら独り、その日を思い返す。
その直近のイベントはイッシュ再興を兼ねたヤーコンさんの企画第一弾、イッシュにいるジムリーダー達が混じえてのトーナメント形式で戦うイッシュリーダーズトーナメントだ。これが非常に好評だった。そりゃそうだ。何しろ、普段は見られないジムリーダーの本当の実力が見られる上、イッシュ中の実力者が集まるということから観戦チケットは発売開始の翌日には予約終了、テレビも大手を振って中継するなど派手に取り行われた。
ただ、そのトーナメントに興味を示していたシャガさんはソウリュウシティ復興作業に携わっていて断るしかなかったし、他のジムリーダーも本業がある中でのスケジュール調整に難航した。そうしたことからジムリーダー中心のトーナメントを企画していたものの、本戦の参加者を集める都合上として急遽予選を執り行うことになったそうだ。
まあ、その予選もジムリーダーとガチンコで戦える機会ということでイッシュ中の猛者が集まったらしく、かなりの盛況だったらしいけど。そんな予定外なことがありながら、予選の試合を取り仕切りつつもトーナメントへ参加して本戦の準決勝まで勝ち残ったヤーコンさんは本当にタフな人だと実感させられる。社長というか、人の上に立つ人ってあんな人だから付いて行こうと思えるんだろうか。因みに俺はヤーコンさんから案内状と共に、参加するよう言い含められていた。
他にも驚いたことは幾つかある。その大会で予選から勝ち上がったヒュウと久し振りにポケモンバトルをしたこともそうだし、別の仕事で見掛ける女の子もそのトーナメントに出場していて、本戦の1回戦で当たったこともそうだ。
後で聞いた話だと、休みの日はバトルサブウェイに入り浸っているらしく、バトルトレイン全制覇を目標にしているらしい。シングル、ダブルはスーパートレインをある程度勝ち抜いているということでバトル好きなことが発覚した。ただ、マルチトレインは肝心のパートナーがいないので今まで挑戦できず仕舞いだったらしく、現場で会ったらいきなり誘われたので焦ったのは記憶に新しい。どうやら以前、俺とタッグを組んで戦ったことがあるらしいけど、あの旅では色々あり過ぎたから全く記憶に残っていなかった。
「……と、これで確認することは全て、かな?」
とまぁ、そんなイベントがあったからか、ポケモンの育成に興味を持つ人が右肩上がりで増えていると言う訳だ。以前にプラズマ団のこともあったから、自衛する為の手段が欲しい……そんな理由もあるようだけど。兎も角、当面は育成に関する店の需要はあるだろう。それ以前に、俺も利用しているから無くなるとかなり困る。
他にもアンケートに上がっていた保育所を設営した所、これも意外な受けがあった。ポケモンの卵の孵化もそうだけど、小さな子供が命の誕生を目の当たりにするという面で教育によい等、考えもしていなかった効果があった。他にも変更した部分はあったけれど、総じてアベニューの売上は堅調に推移している。ただ、最近はアベニューの経営以外でちょっと困ったことが。
「キョウヘイ様」
秘書の一人、イチミさんが部屋に入ってくる。うんざりした顔をしているから、要件が分かってしまった。
「もしかして、また?」
「はい、今まで通り断るでいいでしょうか」
「うん。というか、俺に管理を任せたあの人じゃ駄目なの?」
首を横に振っている。だって、会社の仕組みはあまり詳しくないけどトップとかここの管理者って本当はあの人だよね。相当な実業家らしいけど、名前しか知らないよ俺。
「あの人、拠点らしい拠点を持たず、様々な地方を飛び回っているので……」
「俺から連絡しても殆ど通じたことないからなぁ。イチミさんやミライさんは通じるんでしたっけ」
「ライブキャスターですと、イッシュ地方以外では規格された電波に合わせないと使えないので……」
「そうなると、あの人が連絡を取ろうとしないと殆ど取れないってことか……」
思わず、がっくりと肩を落としてしまう。最近、テレビ局や雑誌からの取材依頼が殺到しているらしく、その対応に苦戦している。つい数日前なんか、自分が不在の間に突撃取材へやってきた記者がいたらしい。普通に迷惑だったから追い払ったみたいだけど。
「キョウヘイ様はキョウヘイ様で、以前放映された映画の続編が入っていますから……」
「正直、時間を取ることも難しいし気を回すつもりもないかな。アララギ博士からポケモンの生息調査も変化が起きているって、聞いているから調査をしておきたい。おまけに、ヤーコンさんから別のトーナメント企画にイッシュ代表として呼ばれている。メンバーの調整やパーティ構成の見直ししたいから、避けたいのが本音です」
「分かりました。全て断る方向で対応します」
「ありがとう。って、あぁ。そろそろ、ポケウッドの方に戻らないと」
「……お時間には少し早いとは思いますが、承知しました。最後に1つ、言伝を」
聞けば、ヒュウが俺に用事だとか。ライブキャスターでは言い辛いと言っていたそうだから、直接話した方がいいと考えているんだろう。普段から連絡が取れるはずなのに、何でだ。というか、突撃取材にやってきた記者を追い払ったのもヒュウだったのか。改めて、お礼を言っておかないと。
「──分かった。ヒュウには戻る日程を伝えておくよ」
「承知しました」
イチミさんも気になるだろうに、聞かないでくれるのは有難い。とは言え、アベニューにいる秘書達にだって言えないことはそこそこある。例えばプラズマ団の残党を倒したのは俺やヒュウ達だってこと。これがもし表沙汰になれば、別の地方へ避難することだって考えなきゃいけない。他にも、ルリさんとのことだってそうだ。付き合っている、という訳でもないけれどこっちはバレたら色々と面倒な気がする。主にイチミさんから揶揄われる的な意味で。他にも……いや、これは確証がないから何とも言えないね。ただ、一番気になることと言えば……
「最近は、どうも見られている気がする」
イッシュリーダーズトーナメントで優勝したからその追っかけで……という訳でもない。そもそも、それだったらルカリオが気付く。何だろう、この気配のない気配。いくら探しても見つけられる気がしない。
「……ウォーグル、頼む」
不安はある。だけど、自分だけではどうにも出来そうにない。だったらまずは、目下の映画撮影の方を終えないとね。