画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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ルリ編12:オーバーワーク

 男性ポケドルのテンマ同様、盛んにテレビへ出演したことでイッシュ地方の顔とも言えるようになった女性ポケドルがいた。そのポケドルの名はルッコ、1つの街を凍結させるというイッシュ地方全土を震撼させた事件の中、地方のリポートを通してほぼ毎日テレビの画面に映るよう尽力していた。その姿がイッシュ地方の人々の心を支えたのかは定かではないが、以降も彼女たちは多くの仕事を貰っていた。

 

 「ルッコちゃん、今日も素晴らしいステージでした」

 「はーい、皆さん。ありがとうございます!!」

 

 ステージを終えていつも通りの感想を求める僅かな休憩時間、用意されていた椅子に一度座った彼女は突然力が抜けていき……

 

 「あ、あれ?」

 

 他の地方でも人気を少しずつ上げ始めたポケドルのルッコだったが、休みのないままにリポートをしている中でのポケドルの活動。

 若いとは言え、休みの無い日々、いつ終わるのかと不安に駆られながら明るい姿を見せ続けることは立派ではあったが、どくどくのように体へ、心へ確実に負担を与えていたのだろう。

 

 「ル、ルッコちゃん!?」

 

 次に目を覚ました場所は、その日の番組で荷物を置いていた楽屋だった。状況を理解できないまま、マネージャーから告げられた言葉でようやく我に返る。

 

 「いい、今日から1週間は休みでいいわ。とにかく、今日は真っ直ぐ帰りなさい」

 「…………」

 

 仕事でミスをしたことはある。それで怒られてしまったこともある。だけど、怒りたいけれども怒れないマネージャーの顔を見るのは初めてだった。

 

 ライモンシティ行きの電車に乗る。地下を走っているから空は見えないけど、時間を見れば既に日が沈んでいる頃だ。疲れがやっぱり溜まっていたからか、考えが纏まらないし、視界も何処となく灰色だ。ただ、そんな中でも1つだけ良かったことを思い出す。マネージャーによれば、私が倒れた様子を映されていないことだ。

 

 「…………」

 

 きっと、同じ番組に出ていたテンマ君は私が抜けた穴を埋めるように奮闘しているだろう。今度、仕事で会ったらお礼を言わないと。

 

 「……」

 

 なんだか、体が鉛のようだ。今までは疲れていても、次の仕事を考えられる気力があった。弟や妹へのお土産話なんかも考えていた。

 

 「まもなくライモンシティ、ライモンシティ……」

 

 プシュー、という音と同時に扉が開く。

 次はここを乗り換えて、異様に人の多いライモンシティ構内へ到着する。ここ最近、娯楽として提供されているサブウェイ名物のバトルが、多くの人がそれに釘付けだ。今だけは、気付かれないことが少しだけ虚しかった。

 

 翌日、起き上がろうとした私はライブキャスターの電源が切れたように体が動かない。心配して出てきたパッチールやプリン、ニャースが私のことを見てくれているけど、体が億劫だ。ラプラスは大きいから出ないようにしているみたいだけど、やっぱり心配そうに私を見ている。ふと気がつけば、弟や妹も私の部屋まで様子を見に来たんだったね。確か、今日は土曜日だっけ。

 

 「ありがとう、ごめんね……」

 

 つくづく、自分が情けない。その昔テレビで見た格好いい大人になりたいと思って、ポケドルの世界に飛び出した。色んな人がいて、好ましくない人もいた。下積みの時に嫌なことも沢山あった。ようやく、ようやく今までの努力が報われて、あの時テレビで見た格好いい人になれると思って頑張ってきて……この結果だ。お父さんとお母さんにも、マネージャーにもファンの人にも心配をかけてしまった。そんな自分に嫌気がさす。

 

 ふと、仕事の時以外では身に付けているライブキャスターのリストを眺める。

 同僚として良いライバル関係のテンマ君、マネージャー、お父さんやお母さん。最低限しか入れていない連絡先の中には……仕事とは何の関係もない、キョウヘイ君の文字がある。

 

 「ふふ……」

 

 不思議と、彼のことを考えているだけで心が温かくなって、涙が出てきそうだ。ライブキャスターを落とした私のミス、それがこうしてここまで続くなんて、落とした時は考えもしなかった。もし、ファンの人に身バレしてしまっていたら、五月雨式のように連絡が入っていただろう。それこそ、私の家を特定しようとしてきたかもしれない。それが、今もこうやってポケドルを続けられているのだから、拾ってくれたのが彼で本当に良かった、と常々思ってる。

 

 最近はキョウヘイ君も忙しいみたいで中々声が聞けていない。キョウヘイ君は以前、ある商店街の手伝いなどをしていると言っていたけれど、何処の商店街なんだろうか。お互いに忙しい身なのは承知の上だ。話したら楽になれる。そう思って連絡先を押そうとしたけれど、押せないまま。

 

 「……うん、まずは体を休めなくちゃ」

 

 こんな時、決まって私はライブキャスターで連絡を貰えた時に何を話すか、話したいかを考えている。そうしていると、自然と力が抜けて、温かくなれるから。そう、今だけ私は、ルッコじゃなくてルリとして……

 

 それが、3週間前。イッシュリーダーズトーナメントを間近に控えた日の出来事だった。

 

 

 一方、ルリのマネージャーは苛立ちを露にしていた。

 

 「代理として他のポケドルを起用するのは理解しますが、2日後への打ち合わせまでに快復させるなど無茶が過ぎます。只でさえルッコはハードワークを超えている状態なのに、明日までに体調を戻せと!?」

 

 怒りを露にしながら意見するも、いい返事は返って来ない。それどころか、自分の要求だけを伝え、一方的に連絡を切られてしまう。

 

 「ああ、もう!!」

 

 苛立ちながらライブキャスターの電源を切る。確かに仕事中に倒れてしまったのは良くない。本人の自己管理不足、マネージャーの管理不足を指摘されることは仕方ない。けれど、そう言いながら自分達の番組には出てくれと言い寄る連中に辟易しているのも事実だ。だとしても……

 

 「体のいい道具扱いするのも、いい加減にしなさいよ!」

 

 確かに、最近は暗いニュースやテレビ自体に関心を持つ若者が減り、ポケドルをレギュラーに据えて視聴率の維持を図る局が多い。その中でも、ルッコは男性から、テンマは女性から特に人気がある。局から言わせれば、どの番組にも出演させたいのが本音なのだろう。現に、ルリが休養中にも関わらず番組への出演依頼が来ているのがその証左だ。

 

 「全く、つくづくムカつくわね……」

 

 知らず知らずの内に気が立ってしまう。そこに……

 

 「なに、一体……あ」

 

 そうだった。以前ならばポケモンを持っていなかった私だが、今は違う。ジョウト地方へ向かった時にルリから渡されたモンスターボールがそこにある。そう、自分が下手糞で捕まえられない私の代わりにルリが捕まえたその子が。そんな子が自分の様子を見て畏縮している。

 

 「全く、私もさ……」

 

 ルリを見習って、この部屋で少しだけ自由にさせよう。そう言えば、ルリも度々ポケモンの様子を気にしていたけど……そうよね。自分たちがどんな感情を抱いているかなんて、言葉がなくても伝わっちゃうわよね。

 

 「……」

 

 まぁ、そうよね。怒っていたのに急にボールから出したら驚くわよね。えーと、何か緊張を解せるような……あ、ついつい買っていたポケじゃらし。これを使って遊んでくれるかな。

 

 「ほら、こっちにおいで」

 「……──」

 

 お、ちょっと興味ありげ。右、左と振って……ちょっと近付けて……下げる!

 

 タシッ……

 

 反応あるのね、これ。それじゃあ次は……

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