ホドモエシティでヤーコンさんに勝利した俺は、ヤーコンさんに連れられたままポケモンワールドトーナメントに参加する。そこで優勝したのでその勢いのまま次のジムを目指そうかと思っていた。が、会場を出た後にヒュウがプラズマ団団員を発見し、それを追いかけて行ってしまう。
──妹のチョロネコがいるかもしれないんだッ!!
そう言い出したら、止まらないのは分かっていた。止める間もなく、あっという間に姿が小さくなっていく。
──わざわざ危険なことに首をつっこむ必要などありません。
アクロマさんの言う事も最もだろうけど、ヒュウは止めたら止めた分だけ突っ走ってしまうのは、バッフロンが突進するのと同じくらい目に見えていた。だから、出来ることはヒュウに続いたチェレンさんのように、後を追うことだ。
それに、自分は見てきたはずだ。ヒュウとヒュウの妹の痛みを。チョロネコが奪われたことでヒュウの妹が塞ぎ込んだことも、ポケモンを欲しがらなくなったことも見てきたつもりだ。だからこそ、ヒュウを止めようとは思わない。
──理解出来ません。勇気ではなく、愚行です!
まぁ、最もだけど。ヒュウの突発的な行動が愚行だとしても、プラズマ団に関わることが危険だと分かっていても。奪われたまま……傷が残っている人の気持ちは、失っていない人には到底分からない。
「ですが、愚行だからやらない理由には……ならないんですよ」
さて、俺も急がないと。
結局、ヒュウは俺が来るまで様子見していたらしい、船から見られ辛い場所で俺とチェレンさんを待っていた。分かってはいたけど、結構冷静だよね、ヒュウ。ラッキーなことに入り口も降りていたから、早速とばかりに三人で古い帆船へ潜入した。直後に現れた大量の下っ端こそ倒したが、怪しい三人組によく分からない方法で無理矢理追い出された。
その船の中でどうにも頭から離れない言葉があった。あれは、ヴィオと名乗る老人ととチェレンさんの会話だったか。
──われわれは、今一度伝説のドラゴンポケモンを従えイッシュを支配する!
ヒュウの行動に引っ張られる形で、とんでもないことを知ってしまったが、これから何が起きてしまうのだろうか。まぁ、そのヒュウはと言うと……
「あーッ!もうッ!プラズマ団どこ消えたッ!」
そう言って、目的を達成できなかったヒュウが憂さ晴らしのように走り出していく。まぁ、あの分だとそのまま次のジムへ行くんじゃないだろうか。何か、安心した。
そして、同行してくれたチェレンさんから2年前の出来事を少しだけ聞くことが出来た。自分たちを船から下ろしたダークトリニティと呼ばれる人物たちや、伝説のポケモンがイッシュ地方に今はいないということだけだったけれど……イッシュ地方を巻き込んだ一大事件だったことは間違いなかった。そして、そのチェレンさんは調べごとがあるらしく、そのまま6番道路へ向かっていく。
「……ふぅ」
少し疲れたと言うのが本音だ。元々はジムリーダーへの挑戦、ポケモンリーグの挑戦やポケモンを集めて図鑑を埋めていくことが当初の旅の目的だったけれど。
「これはもう、引き下がれないよな」
プラズマ団との闘いはまだまだ続くだろう。拠点っぽい所に踏み込んだ以上、顔だって覚えられた可能性が高いんだし。何より放置も出来ない。
「……あ、忘れていた。ジムバッチを手に入れたんだし、ジョインアベニューに戻らないと」
それはジョインアベニューにいる秘書、イチミさんとミライさんとの約束事。旅を最優先して構わないが、偶には戻ってきてこちらの様子を見て欲しいと言う要望だ。引き受けてしまったのだし、顔を出さないと。
ウォーグルに乗ってジョインアベニューまでひとっ飛び。ベルさんからそらをとぶが無かったら、もっと面倒な移動になっていたんだろうなあ。そのまま通りの目の前にある管理室へ入る。
「キョウヘイ様、お戻りになりまし……疲れた顔をしておりますが、先に休みますか?」
「そんな疲れた顔をしている、俺?」
二人が同時に頷く。うーん、急いで来たせいもあるけど、原因は違うんだろうな。
「はい。ジムリーダーへの挑戦だけでそのような疲れ方はされない、と思える顔をしています」
ああ、やっぱりお見通しか。
「まぁ、うん。その通りだね。折角顔を出したけど、先に休んでもいいかな?」
「はい。それよりも思ったより早く戻られたので驚きました。以前戻って来た際にはボルトバッジを持っておりましたが……凄いです。クエイクバッジも手に入れたんですね」
「それよりイチミ、キョウヘイ様の仮眠室に案内するよ」
「ああ、そうでした。それではこちらへ……」
管理室の一角に作って貰った休憩室には簡易なテーブルと机、そしてベッドがある。今更ながら、カミツレさんを倒した後に責任者という名目で作って欲しいと要望を出しておいて正解だった。今からヒオウギシティへ戻るには相当な時間が掛かるし、イッシュ地方の中心とも言えるこの街に、気兼ねなく休める場所を確保出来たのはラッキーだったと言える。
「休み終えましたら、顔を見せて下さい」
イチミさんが静かに扉を閉める。そして俺は、サンバイザーを外して机の上に置き、ベッドへ腰かけた。
「ああーー……やっぱ疲れていたか」
疲れた体が休息を求めていたようだ。ベッドに軽く腰掛けるつもりだけだったが、結局は横になる。
「ヒュウ……」
……ものの、思う事があって容易には眠れない。考える先は自分と一緒に旅立ったヒュウ。本当はもっと早くに旅立ってチョロネコを探したかっただろうに。わざわざ自分に併せてまで旅のタイミングを合わせてくれたヒュウが、プラズマ団を相手にする時だけは相当に荒れているのは何度も見た。
プラズマ団の拠点で共闘した時は、今までのプラズマ団に対する怒りが爆発したような戦い方だった。一応、協力して攻撃する姿勢を取っていたけれど、一人で戦うことになった場合に正義感の強さが悪い方向に出てしまうのでは、と不安に駆られてしまう。最後に出てきたダークトリニティという変な3人組相手とかに下手な暴走をしなければいいけれど……
「あー……良くない方に考え過ぎ、か」
どうも、短期間に色々あったからか気分転換が必要らしい。マイナス方向に物事を考えている気がする。
気が付けば、1時間ほど仮眠をしていたらしい。部屋を出て管理室に戻ると、イチミとミライが何らかの仕事をしていた。もう夕方だ。
「お目覚めですか、キョウヘイ様」
「うん。お陰で良く眠れたよ。ありがとう」
「いえいえ。まずは無事に旅を続けられていて、我々も一安心です」
「よし、気分転換に今のジョインアベニューを見に行ってみるよ」
まずは、現状を確認しよう。
ライモンシティと隣接した新しいショッピング通りのジョインアベニュー。今はジョインアベニューとしているが、仮の名前なので実の所そこまで宣伝活動をしていない。まぁ、2年前の出来事から、過剰な宣伝活動に抵抗があるだけなんだけど。とは言え、イチミとミライからも何れは改名する必要があるらしいと言われているので、名前について考えたい所だがさっぱり案が浮かばない。
「うーん、どうしたものか」
そもそも、いきなり運営を任されるという、巻き込まれ体質を発揮した訳だが、上手くやれているのだろうか。まぁ、これがプラズマ団との関りが増えていった関係で意外と気分転換になっているんだけど。元々はポケモン集め、ポケモンジムの制覇、ポケモンリーグの挑戦が当初の目標だったけれど、色々なことが重なりすぎた結果なのかもしれない。
さて、このジョインアベニューは始まってからそう日が経っていないこと、店の数がそもそも少ないので、通りがかる人がまず少ない。店舗募集の旨を伝えてはいるが、中々やってみようと言う人も少なく、追い風に乗ったバトルのようにはいかないらしい。
「でも、店を配置出来る場所はあるんだよなぁ……」
自分が使うことを考えて、古道具屋やショップやカフェを開きたい人を招いたが……次はどうすればいいだろうか。人があまり来ていないことに、手伝いをしてくれる人達に申し訳ない……そんな思いから、管理室へ戻って秘書のイチミさんとミライさんへ声をかけてみた。
「すいません。いつもここの管理を任せてしまっていて」
「オーナーの指示ですから。それでも、キョウヘイ様は若いながら出来ることはやろうとされている、と思いますよ」
「ええ、少しずつですが、こちらに脚を運んでくれる方も増えてきています。そんなに心配することはありません」
自分が経験不足な分、優秀な秘書を置いてくれたみたいだけど……二人が優秀な人だから運営をしていける状態はよくないだろう。適切な指示が出来ない状態で、強いポケモンの行動だけで勝てると思い込むトレーナーのようなものだと考えると、何とかしたいと思う。
「でも……綺麗な外観の割にはまだまだ人が少ないですよね」
「いえいえ。まだ立ち上がりなのです。これから増やしていけばいいんですよ」
こうフォローをしてくれるが、やはり成り行きとはいえど、この通りの責任者になったのだし、自分が何かしなければこうして奮闘してくれる二人にも申し訳ない。
「だとしても……出店したい人をもっと集めて通りを賑やかにした方がいいですよね」
「それは、その通りです」
「そうなると……勧誘ですよね。上手く出来る自信、ないなぁ……」
全くの見ず知らずの人と対戦することは数あれど、出店の勧誘だなんてやったことがない。そもそも、どうやって勧誘すればいいんだろう。
「それでしたら、こちらを」
イチミさんが何かのリストを見せてくれる。
「え……凄いね。何時の間に」
何時、出店希望者の一覧などを。さっき、掲示板を見たら一人もいなかった気がするんだけど。
「当然、キョウヘイ様がジム巡りをされている間に、です」
心を読まないでもらえますか。ついでに、ジト目で見られている気がして仕方ないのですが。
「それはそうと……」
続いて、ミライさんが何かを言おうとしている。はて、何かあったかな?
「ホドモエトーナメント優勝、おめでとうございます」
「えっ、何で知っているの!?」
今度は驚きの声を隠せなかった。
「何しろ、ヤーコン様がこちらに足を運んでくれましたので」
ヤーコンさん、何時の間に。トーナメントの後、こっちに来ていたんだ。こりゃますます手を抜けないよ。
「それにしても、オーナーの目は確かです。突発的な行動に出ることも多くて困ることも確かですが」
「は、ははは……」
全く以てその通りである。幾ら何でも、こんな子供に一つの大通りの未来を任せないで貰いたい。
「慣れない事に気を遣うことも多いと思いますが、貴方はありのままにやりたいことをしてもいいと思いますよ」
「え、そんなに無理しているように、見えました?」
「いえ。ですが、何とかしよう、何とかしようという様子が私共からも伝わってきましたので……差し出がましかったでしょうか」
「あ……いえ、助かります」
「まずは勧誘の方をされてみますか。一応、希望している店の種類まで確認しております」
「ありがとうございます」
もう、こうなったらやってやる。例え、成り行きで始まったことだとしても。こうして現状を良くしようとしている人がいるんだし、そもそも急ぎの旅ではないんだ。こうした寄り道だって、きっと必要だ。
「ところで、キョウヘイ様はこのジョインアベニューをどんなところにしたいですか?」
「え?」
資料を確認しようとして、イチミさんから考えていなかった質問が飛ぶ。それにしても、本当に助けられてばかりだ。戻る頻度を増やした方がいいかもしれない。
「こうしてやる気概を出して頂き、私共としても心強いです。こうした役割は人によっては、重荷に感じてしまうので何処かへ行ってしまう方もいたりするのです。ですが、キョウヘイ様はこうして取り組んで下さる。そうであれば、まだ名前も知られていないこのアベニューへ如何に人を集めるか……ではなく、キョウヘイ様自身がどんなアベニューにしたいか。そのビジョンがあるのなら、希望者の要望に応えるだけではなく、そのビジョンに併せた店を開いていけばいいと思います」
「なるほど……」
ある意味でポケモン勝負にも通ずる考えかもしれない。どのようなパーティで戦うのか、その不足を技で埋めるのか。そこは割り切って押し切る戦い方をするのか……そういう考え方がこちらにも生きるのかもしれないなら……
「ライモンシティが近くにあるんだし……それを活かしたいな」
「そうですね。ライモンシティはイッシュ地方の娯楽が集まる地。良い案だと思います」
そう言えば、以前ヒュウと観覧車に乗った時、チョロネコを取り返したら妹と来たいとか言っていたような。でも、遊ぶところばかりだから妹が疲れるかもしれない、とか言っていたし、お土産も買ってあげたいとかも言っていたな。うん、それなら……
「ライモンシティが楽しむ場所なら、ここのアベニューは買い物と一休みが出来る場所にしたいです」
自然と口に出ていた。うん、何事もバランスだ。ライモンシティの特徴を生かしつつ、ここのアベニューを活かす。うん、これはパーティを考える時と一緒だね。
「……なるほど、良い案です。今でもカフェやマーケットが入っていますが……こちらの店舗数を増やす。若しくは、目先を変えて違うお店を開くのも宜しいかと」
だとすれば……ライモンシティにはどんな人が来るんだろうか。若い人が多い印象もあるけれど……よく考えたらスタジアムもあるんだよね。意外と色んな人が来ている……?
「ありがとうございます。ところで、今までどんな人が来られたんですか。やっぱり俺と同じような若い人なんですか?」
「そうですね……その辺りはミライが記録を取っているはずです。確認してみましょうか」
「分かりました。少しデータを見せるのでお待ちください」
この後、道行く人に店舗開店の勧誘やライモンシティ、ジョインアベニューへ通る人の調査をしている内に時間が過ぎていき……気が付けば日も暮れていた。
「ヒウンシティから電車に乗って帰る人も多いんですね」
「はい。キョウヘイ様はあまりご存じではないと思いますが、ヒウンシティはイッシュ地方の中心都市であり、イッシュ地方最大のビジネスの街になります」
「と言う事は……大人の人も多く通る、ということですよね」
「さて、それはどうでしょうか。キョウヘイ様が起きられてから時間を経ちましたし、もう一度ジョインアベニューの人通りを見ていきますか?」
そうして通りを眺めること30分、思ったより人は少なかったけれど、大人の人も通ることを知れた。どうやら、電車で移動している人が多いからそんなにいないらしい。
「逆に言えば、ライモンシティで乗り換えするんだから、乗換の間の買い物先として店を広げるのも有りだね」
既に日も沈んでおり、お腹も減る時間になった。
「そろそろ良い時間ですので、解散にしましょうか」
「あ、その前にご飯を食べていきたい。出来れば、ここに出店している方で」
「では、アッツォの店に行きますか」
店に入ると、店主と思われるアッツォが一礼する。
「キョウヘイ様、お疲れ様です」
「お疲れ様です。ごめんなさい、こんな時間に」
「いえいえ、遅くまでお疲れ様です。それと、イチミ様もミライ様もお疲れ様です」
「ええ、今日はもう閉店?」
「店自体は閉めますが、お三方であれば作りますよ」
イチミとミライは何度か来たことがあったのか、空いているテーブルへ迷わず座り、自分も来るように目配せをする。
「ありがとう。夕食を取って無いから助かります」
その後、三日ほどジョインアベニューやライモンシティに滞在することになったけど、その分の成果はあったと言える。
勧誘の結果、何人かが是非店を開きたいと言ってくれたし、他の店の評価も上々だった。アッツォや他のメンバーからも新しい商品を提供する為の準備も進めているらしいので、先行きは良いのではないだろうか。細かい書類仕事はイチミさんとミライさんにお願いしたかったものの、要点を抑えただけは責任者である自分がしなければならず、これがジムリーダーとの対戦以上にきつかった。まぁ、ミライさんが要約して伝えてくれなかったら、あと二日は掛かったかもしれないけど。
身支度を整えて外に出て見れば……
「ありゃ、もう夜だ」
流石に、ウォーグルに乗ってホドモエシティまで行く気にはなれない。
「疲れたし、今日もここで食べていくかー」
そうして向かった場所は……最早恒例となったアッツォの店である。
「あ、キョウヘイ様。ご食事ですか」
「あ、うん。おなかが減っちゃって」
「分かりました。もう閉店間近ですが、喜んで腕を振るいましょう」
「いつものことだけど、そんな畏まらなくていいよ。注文だけど……これ、出来る?」
「ええ、しばらくお待ちください」
そうして翌日。思わぬ足止めではあったが、充実した時間だったと思う。ジョインアベニューを後にする時、イチミさんとミライさんから一つの宿題を提示された。
「それにしても、どうしようか……」
それは自分にとって不慣れなものだ。どうしたものか。