撮影に入って初めて知ったけど、ポケウッドの撮影はCGを使うことが殆どだ。以前は現実でド派手なアクションをしていたらしいけど、撮影用の場所を簡単に得られなくなったからだとか。だから、技術を進歩させて現実の土地やセットに任せるだけじゃない撮影を実現させたのだとか。それでも稀に、アクション以外のシーンは臨場感を一層出す為にモチーフとなっている場所を使うこともある、とか。確か、あの子が主演のトレーナーとポケモンの恋愛映画もそうなんだっけ。
「よろしくお願いします」
他の役者さんや監督の言う映画の役になりきれ……というのはまだしっくりこないけど、上手くやれているだろうか。
「……俺の演技、どうだった?」
「うーん。悪くはないんだけど良くはない、かな」
「そっか……」
それなりに演じ切ったつもりだっただけに、ガックリと肩も落ちる。どうやら同僚の女の子、イッシュリーダーズトーナメントにも参加していたメイから見て、俺の演技はまだまだ甘いようだ。
「でも、演技が下手だったわけじゃない、むしろ上手いくらいだよ?」
「……どういうこと?」
「役をしている時、何を考えてる?」
と、言われても……
「うーん。その人をやり通すこと、かな。例えばさっきのシーンとかだと、今まで信じていた人から裏切られる場面だ。信頼していた人だったばかりに、一度は膝をついてしまう。だけど、ポケモン達が自分を信じてくれたことで立ち上がれるシーンだ」
「だからああいう……さっき言わなかったけど、キョウヘイって場面場面は恐ろしいくらい迫力があるんだよ?」
「……どういうこと?」
駄目だ、ますます分からない。
「時々キョウヘイは凄く迫った演技……いえ、そんな人を間近で見てきたような素振りをするの。でもね。だからこそ、演技がイマイチなの」
「……どういうこと?」
「えーと、キョウヘイはさ。演技をしている時、何処にいるの?」
「え……と?」
メイの意図が分からない。
「役を演じている時、キョウヘイはその人になり過ぎてない?」
「え……と、ごめん。どういうこと?」
何となくメイの言っていることが分かるような、分からないような……うーん。
「あー、もう!」
「え、えっと……ぉ?」
困ったな。どうしよう。え、なに、ルカリオ。どうにかしろって言われても……俺もどうしたらいいか分からないんだけど!?
「そうだ。今日はもう、撮影ないんでしょ。このあと、時間ある?」
「いや、明日の分がある。まずはそれを確認しないと」
「まだ演技が今一つだって自分でも分かっているのに?」
それは、そうだけど。だからと言って、今から何を……
「キョウヘイがここの俳優以外に色々していることは知っているけど、幾らなんでも詰め込み過ぎだよ。ちょっと気分転換しない?」
「いや、気分転換って一体何を……」
しかも俺の腕まで引っ張って何を……って。あそこはポケウッドの空きスペースだよね。
「よし、やるわよ!」
モンスターボールを持って……あぁ、そういうことね。イッシュを共に旅した俺のメンバーも、前向きだった。
「……確かに丁度いいね。よし、ルールは?」
「やった、それじゃあ……」
別の仕事をしていても、自分達はポケモントレーナーなのだから。
彼女もそれなりに強いトレーナーなのは先日のトーナメントで知っていた。ただ、まさか……
「うー、負けたー。キョウヘイって本当にポケモン勝負が強いよね。折角違うルールも覚えたのに、全然通じないんだけど……何でぇ?」
「あー、それは……イッシュ地方を旅している間にそういう対戦をする機会があったから、かな」
メイを見誤っていた。まさか、ここまでバトルマニアだったなんて。まぁ、しっかりポケモン達のケアしているし、信頼関係があるのは伝わって来るけどさ。でも……
「えー、トリプルとかローテーションってマイナーでしょ!?」
シングル、ダブル、トリプル、ローテーションと連戦するなんて全く考えていなかった。元気の欠片と回復アイテムあったからいいけど、想像していた3倍はバトルマニアだった。
「まぁ、色々とね。でも、メイは十分強いよ。今からでもジム巡りをしたら、バッジを8つ集められるんじゃない?」
「キョウヘイが言うならそうなのかな……」
折角だ。近くで見ている有識者に聞いてみよう。
「ハチクさんの眼には、どう映りました?」
途中から、うっすらと視線を感じていた。多分、邪魔しない内に立ち去るつもりだったんだろうけど、折角だからね。
「え、ハチクさんいたんですか!?」
「……うむ。メイならばその資質はあろう」
「ほんとですか!?」
あ、そんなつもりはなかったのに、メイがハチクさんに色々聞き始めている。困ってないかな、大丈夫かな。
「それから……キョウヘイはあのトーナメントで見た時のように、ポケモン勝負には迷いがない。役を、今まで見てきた人へ意識が向いてしまうのなら、ポケモンバトルをする意識で取り組んでみてはどうだ」
「え?」
って、ハチクさんはしっかり俺の方も見ていた。もしかして、初めから見ていたのかな。
「……スカウトされた経緯を覚えているか」
「えっと、確か……」
「タチワキのホミカ殿と戦っている姿を見たアシスタントが居たからだ」
「……すみません。忘れていました」
ポケウッドもホミカさんに催促されてようやく思い出したって感じだったからなぁ……
「仕方ない。君の旅路は随分と困難だったと聞いている。さて、その時はどう戦っていた。何を思っていた。今の硬さはそこにあるかもしれないぞ」
「……はい」
「それはそうと、良い勝負を見てこちらも気が昂った。良ければ1つ、このハチクと手合わせをしてみないか?」
「……是非!」
ハチクさんと手合わせした後、少しだけ時間が欲しいと言われた。本来だったらアベニューの状況を確認している所だけど、何となくハチクさんの話を聞いておいた方がいいと思っていた。
「それで、話とはなんでしょうか」
「先程、どうして私の存在に気付けた。私と違って、武道の修行はしていないと聞いたが……」
「あー、えーと、それは……」
この人に下手な嘘なんて通じないし、それで変な誤解を生みたくないな。どう言ったものか……
「……人伝に聞いた話だが」
そうしてハチクさんが話したことは、俺がプラズマ団相手にやってきたことだった。あぁ、確かめたかったのか。そりゃあ、ハチクさんは元ジムリーダーなんだから、誰かから聞いていても不思議じゃない、か。
「……感謝する」
「違います。偶々そこにいたのが俺達だった。大体ヒュウが居なかったら、俺はプラズマ団と積極的に関わることも無かったですよ」
「ヒュウ。確か、あのトーナメントに出ていたと記憶しているが……」
この人なら他言無用にしてくれるだろうし、言ってもいいか。
「……そうか。それで、そのポケモンは?」
「今はまだ、ボールから出せないみたいです。それでも初日と比べてご飯を食べるようになった。水も飲むようになった。時折睨むことはあるけれど、頻度が減っていると聞いています。最近の状況はまだ聞けてないけど、いい方向へ進んでいると思っています。あいつは凄いですよ、毎日ヒオウギとホドモエを往復して……そこまで出来る、熱を注げるトレーナーはそうそう、いないですよ」
「……だな。機会があれば、是非会ってみたいものだ」
最近、やたらと賞賛される機会が増えた。だけど、本当のところはどうだろうか。ヒュウのようのい、自分で立てた目的を完遂し、その後にかつての敵だった人へ力を貸す真似は早々出来ない。メイはメイで注目株の若手俳優で、実績も多い。対して俺はどうだろう。アベニューにしろ、俳優にしろ、ただ流されてやっているだけではないか。トーナメントという大舞台で優勝したことはあるけれど、イッシュポケモンリーグを勝ち抜いたのだから、優勝したのも順当だったのではないか。
「……他にも悩みがあるようだな」
「すみません。折角、相談に乗って貰っているのに……」
「構わない。寧ろ、少年らしい部分が見られてホッとしている」
それは、どういうことだろう。
「弱みを見せられる相手というのは、何事にも代えられない存在だ。弱みを見せられる相手には存分に頼るとよい。その者もきっと、それを望んでいる。それでも尚、君の悩みが晴れないと言うのなら、このハチクが何時でも相談に乗ろう」
……確かに、そうかもしれない。イッシュ地方のポケモンリーグ制覇者として名を連ねて、トーナメントでも優勝した。だからなのか。最近は色んな人が挙って俺と関わりを持とうとしている。でも、それが決していいものばかりじゃないことは、ルカリオの様子から何となく知ってしまった。
「ありがとうございます」
それでも、旅の中で多くの人に関わった。当然、いい人もいればそうじゃない人もいる。例えば、ここのポケウッドの人達やアベニューの秘書や店長たち。それから……