画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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ルリ編13:画面先での観戦

 休みの3日間、ぼうっとしていた私は昼に起きてお母さんのご飯を食べる。久しく食べていなかった母の味。楽屋の弁当とは違い、温かくて一口食べる毎にその味を噛み締めていた。

 

 休みなら本来、弟や妹の世話をしているけど、二人共外へ出かけているみたい。やっぱり気を遣わせちゃったよね。お父さんも仕事を休みにしているみたいだし、迷惑かけちゃったよね。

 

 「ただいまー。まだ始まってないよね!?」

 「もうじき始まるぞ。手を洗って、うがいをしてからリビングに来なさい」

 「はーい!」

 

 二人共一緒に帰ってくるなんて珍しい。今日、何かあったっけ?

 

 「ルリも体調が良かったら見ていけばいいんじゃないか?」

 「あなた、ルリは今……」

 「そうなんだけど、今日のトーナメントにさ……」

 

 確か、テンマ君が出る事になっているあのトーナメントだっけ。ヤーコンさんが主催で行う、イッシュ再興を目的とした……何だろう、何故か気になる。

 

 結局、私は何も決められないまま、妹と弟の面倒を見る名目で一緒に見る。ヤーコンさんが堂々と開会の言葉を述べた後、解説の人が選手たちを紹介する。

 

 「すごーい、ジムリーダーも参加してるんだー」

 「パパみたいな人もいるー」

 

 そして、その中には……

 

 「……えっ?」

 

 目が離せない。画面に映っているのは何処か緊張した面持ちの、それでいて楽しそうな顔をしているキョウヘイ君の姿。しかも、解説者の説明によれば、新規新鋭のトレーナーの中でも多くのジムリーダーが注目しているらしく、優勝候補の1人なのだという。

 

 「……凄い」

 

 他の選手の紹介はもう、頭に入ってこない。画面の先にいるキョウヘイ君がとても遠い存在に感じられた。

 

 トーナメントが始まる前に、ある事を思い出す。そう言えば以前、キョウヘイ君とお出掛けした時に頂いた資料があったはずだ。

 

 「おねーちゃーん」

 「それ、なーに?」

 「これはねー……このトーナメントで役に立つ知れないもの、かな?」

 

 「えー、見せて見せてー」

 「…………」

 

 そう。以前、バトルトライアルで頂いたタイプの相性一覧表だ。私のラプラスや弟のハハコモリのような複合タイプもいるから完全な参考にはならないけど、それでも分かり易くなるはずだ。

 

 それからは、皆でポケモンバトルを見て時間を過ごす。分かっていたことだけど、レベルが高い戦いばかりが繰り広げられている。ポケモンとの相性に加え、使う技のタイプ。それから、持ち物にも気を遣っている様子が随所で見られた。ところで、木の実で効果抜群のダメージを抑えるってどうやっているんだろう。ポケモンって知らないことばかりだなぁ……

 

 「す、すご……」

 

 ポケモンバトルが強いのは以前のお出掛けで知っていた。ただ、そのキレが以前の時よりも上がっている……もしかしたらきっと、画面の先のキョウヘイ君こそが本来の姿なのかもしれない。キョウヘイ君のウインディが相手のジャローダを戦闘不能にしたと聞けば、タイプ相性からしてそうだね、で理解出来る。ただ、その過程はそんな単純なものではない。

 

 「う……」

 

ウインディと戦うことになって不利を悟った女性選手がボールを取り出すことを読んでいたみたいで、先制攻撃のような素早い動きで距離を詰めてジャローダへぶつかろうとしていた、口から少しだけ火を吐きながら。

 

 「まさかあれって……避けて!」

 

 不意を突かれたからか、ボールを持ちつつもジャローダを戻すだけの隙を女性選手は取れていない。そして、そんな隙をキョウヘイ君は見逃さない。

 

 「火炎放射!」

 「っ避けて!」

 

 草タイプなので当然、炎タイプの攻撃は効果抜群だ。だけど、ジャローダの体が強いらしく、何とか耐えてみたい。そこに……

 

「っ蛇睨み!」

 

 畏縮するような睨みを受け、一瞬だけ動きが止まったウインディはそのままジャローダを撃ち抜くように攻撃を与えてジャローダを戦闘不能にした。

 

 その後、麻痺状態になったウインディは別のポケモンとの戦闘で戦えなくなったけど、最初に優勢を奪ったキョウヘイ君が順当に勝利した。私もそうだけど、お父さんや弟もそのバトルに感嘆の声を挙げていた。

 

 それから2日間、私は家族と一緒にトーナメントの準決勝、決勝の試合を続けてテレビで見続けていた。

 2回戦はヒュウさんという同郷の友人が対戦相手らしく、キョウヘイ君にとっても勝手知った仲みたい。キョウヘイ君と同時期に旅へ出て同じようにバッジを8つ集めた実力者で、キョウヘイ君が選択した3匹の内2匹を戦闘不能にするほど追い込んだ実力者だった。そう言えば、ヒュウさんと似たような髪のモフモフしたポケモンが随分と丈夫で、キョウヘイ君も驚いていた。キョウヘイ君の鳥ポケモンとサンダースを1匹で戦闘不能にしたんだから、そうだよね。それでも2匹戦闘不能にした段階で相当疲れていたみたいで、キョウヘイ君のパートナーのダイケンキが先制攻撃技で戦闘不能にして勝利した。

 

 そうして最後の決勝戦。キョウヘイ君の相手はキョウヘイ君の地元に赴任した新たなジムリーダー、チェレンさん。私が好きなノーマルタイプの使い手ということもあって、キョウヘイ君の試合の次に注目して見た試合だった。ノーマルタイプのポケモンはタイプ一致の攻撃が相手の弱点を突けない代わりに、豊富な技を駆使して戦うことが出来る。そして、その他の試合で出てきたチラチーノやミミロップがとても可愛い。キョウヘイ君なら生息地を知っているだろうか。

 

 そして、やっぱりキョウヘイ君はチェレンさんとも知り合いらしい。しかも、チェレンさんが初めて相手をしたトレーナーこそキョウヘイ君なんだとか。そうして始まった決勝戦はやはりハイレベルな戦いだった。キョウヘイ君が格闘タイプのルカリオを連れているから有利だと思ったけど、それだけでポケモンバトルは決着が着かないことをチェレンさんは教えてくれた。最初だけだったけど、キョウヘイ君のルカリオが放った波動弾をパンチで正確に撃ち落とした時は家族みんなで驚いた。

 

 でも、キョウヘイ君も呆気に取られたままじゃない。速度に長けたサンダースが電気攻撃で倒し、続けて出てきた可愛いチラチーノに電磁波という技を当てて麻痺させる。その後は互いにけん制しあっていたけど、チラチーノの動きが不自然に止まった瞬間を見逃さず、キョウヘイ君は攻撃しながらボールへ戻っていく技を使った。そのサンダースの代わりに出てきたウインディが火炎放射でチラチーノを倒せば、最後に出てきたムーランドに対して、お互いが鈍い音を鳴らすプロレスのような試合となった。そんな試合展開にお父さんや弟は興奮し、私達は顎を落としたんだけど最後は互いの全力を賭けた一撃を当てて……2匹とも戦闘不能になって試合終了となった。

 

 「やぁ、初めて戦った時よりも本当に、随分と強くなった。この日の為に色々トレーニングをしたんだけどね」

 「驚きましたよ。最初のミミロップは勿論、ムーランドも相当鍛えていましたね」

 「流石に君にはお見通しか。それより、優勝おめでとう!」

 「はい!」

 

 ポケモンバトルってポケモン同士を戦わせることに忌避感があったけど、そうじゃないんだね。こう、トレーナーとポケモンのコミュニケーションなのかもしれない。だから、戦い終わった後でもキョウヘイ君と戦った人達は悔しそうにしながらも、明るい顔が出来るんだろう。

 

 キョウヘイ君が堂々と戦う姿が眩しくて自分と比較してしまったんだけど、戦った後にテンマ君から受けたインタビューでの回答はものすごく慌ててしどろもどろになっていたのが可愛かった。あぁ、本来だったら、私もあそこにいられたのかもしれないのになぁ……

 

 妹と弟が寝静まった夜、私のことを心配していた両親に声を掛ける。

 

 「……まだ休んでいても」

 「負けられないって、思えるようになったの。全然、違う場所にいたのにね」

 「それは……彼が」

 

 そっか。お父さんは遠目でだけど見ているから、知っているよね。

 

 「うん、凄い人なのは知っていたよ。だけど、あそこまで凄いとは思っていなかった」

 「…………」

 「だから次会う時に、胸を張れるようにしたいの。それに、頑張っているのは自分やテンマ君だけじゃないんだって思えたから」

 「……そうか」

 「ありがとう、お父さん、お母さん」

 

 多分、直ぐには元通りになれないだろう。それでも、やろうと決めたんだ。

 

 休み明け、いつもより15分ほど早く到着した私が準備をしていると、マネージャーが入ってきた。

 

 「……大丈夫なの、ルリ」

 「はい」

 

 笑顔を見せたつもりだったけど、マネージャーの眉間には皺が寄っていた。

 

 「……無理だと直ぐに言いなさい。そういうのは繰り返すと言うし」

 「いえいえ、折角3日間も休みを貰ったんですから、元気いっぱいですよ」

 「……」

 

 本当のところを言えば万全じゃない。マネージャーは分かっているからこそ、そう言ってくれたんだろう。

 だけど、私はキョウヘイ君に胸を張って内面も格好よくなったのだと言える人になれているだろうか。それから私と同じく場所で、同じ立場で番組に出ているテンマ君と競い合える人にはなれているだろうか。それに、私は独りじゃない。お父さんやお母さん、私のことを気にかけてくれるマネージャー、応援してくれているファンだっている。そして……キョウヘイ君。あの日から始まった、ポケウッドで上映している恋愛ものの映画のような、そんな不思議な関係。声を聞くたびに元気になれる。

 

 「そう……だよね」

 

 それに、人だけじゃない。近くには私と一緒に踊るポケモンもいる。

 

 「……うん、大丈夫だよ。皆」

 

 元々あったものだけど、君が私に気付かせてくれたんだよ。キョウヘイ君。

 

 

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