画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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キョウヘイ編16:バトルトレイン

 映画の撮影を終えて、ライモンまで戻って来た。半ば、逃げるように。

 

 「分かっては、いるんだけど……」

 

 演じてはいるけど監督たちの思うレベルに達していないのが肌で分かる。監督だけじゃなくて、視察に来たウッドウさんからも演技に力を注げていないと指摘を受けた。全く以てその通りだ。メイが主役だから大きなミスには繋がっていないけれど、自分の演技と他の人達の熱量に差を感じるようになっている。

 

 「いや、これ、良くないなぁ……」

 

 旅を共にしたメンバーも何とも言い難い視線を送ってくる。その原因は分かっている。役者という道に力を注げていない。いや、注ぐ気力が湧いていない。元々、ホミカさんを通じて再度コールされたこととアベニューやトーナメントが一息ついたから参加してみた……という切っ掛け自体が、皆と悪い意味でギャップを生んでいた。皆、本気で演じているのに俺はただ、何の為に役者をするかの目標がないままに演じている……のではないか。幸い、メインじゃないから悪目立ちしていないけど、役回りを演じているだけになっている所を、ウッドウさんや監督には見透かされたんだろう。

 

 「今日の所はもう大丈夫だ。次のシーンに向けて準備を頼むよ」

 「……はい」

 

 きっと、現場では厳しい評価をされているだろう。しかも、次のシーンはよりによってクライマックスの前。2日も時間を貰えたのは有難いけど、それってつまりしっかり休んで調整をしろ、ということだ。うーん、メイやハチクさんはどう思っただろうか。まだ、2人とも撮影続いているし、相談とかは出来そうにない。参加させて貰ったのはいいけれど、これじゃあイチミさんには顔向けできないし、ホミカさんにも迷惑をかけてしまったことになる。メイはアドリブで俺のフォローをしてくれたけど、きっと変わっていないなぁ、とか思っているよね。

 

 「……」

 

 ルカリオ?

 

 「……」

 

 あぁ、そっか。悪い方ばかり考えてしまっているのか。これは良くないね。そうだ、折角早めに上がったんだから、最近はしっかり見れていないアベニューの進捗でもと思ったけど……

 

 「……止めとこ」

 

 うん、今の気分のままアベニューの進捗を見ても、正しい判断が出来ないと思う。

 

 「ウォーグル、とりあえずアベニューまでよろしく」

 

 勇ましく声を張り上げたウォーグルの背に乗って風を浴びる。うん、この風は何時だって心地いい。

 

 「……」

 

 そう言えば、アベニューはどうしてうまく行ったんだろう。勿論、イチミさんやミライさん、それからアベニューにいる店長たちが頑張っているからが大きいけれど、役者との違いはなんだろう。

 

 「……」

 

 強いて違いを挙げるなら、方針の有無だろうか。アベニューの方は自分も使うし、こうしたいというコンセプトが決まったからやれている、のかもしれない。じゃあ、ポケウッドではどうすればいいんだろう。ハチクさんに以前相談したけど、答えはまだ出ていない。自分が役者をする理由は、なんだろうか。

 

 「うーん……」

 

 気がつけば、ギアステーションに足を運んでいた。ここ最近、ギアステーションは手軽にハイレベルなポケモンバトルが見られる場所として人気が高まっている。だから、アベニューで1日を過ごす時も気晴らしにここへ足を運んでいる。アベニューからここまでそこそこ距離があるのに向かってしまうのは、ポケモントレーナーの性なんだろう。何せ、自分でするのも、対戦を見るのも勉強になるし、楽しいと思っているんだから。あぁ、そう思うと、役者よりはポケモントレーナーなんだな。

 

 「あ……」

 

 ポケモンバトルと言えば、以前のトーナメントから話が広がって他の地方からも参加を募って今度別の地方のジムリーダーを集めて同じようなトーナメントを開催するんだっけ。ヤーコンさんから招待状が届いたってイチミさんから連絡を貰ったはよね。だったら、出来る内に準備しないと。PWTにしろ、ここで交換できる技マシンにしろ、景品として貰えるBPで道具や技マシンの選択肢を増やした方がいい筈だ。

 

 「それなら、連勝数重ねてポイント溜めないとな……」

 

 ポケウッドのことは気になるけど、今は置いておこう。

 

 観戦席を立ち、目当てのトレインを探す。シングル、ダブル、マルチは……うん、止めておこう。メイはまだポケウッドにいるから、良いパートナーがパッと見つかるとは思えないし。そう言えば最近は、放映されたポケモンバトルの映像をレンタルすることも始めているらしい。その原因はイッシュリーダーズトーナメントで出場した選手が出てくるから、らしい。

 

「まぁ、メイのことだと思うけど」

 

 最初はメイから誘われて始めたこのバトルトレイン、最近は専ら一人で乗車している。忙しい中でも挑戦する理由が幾つかある。勿論、ポケモンバトルが好きだというのもあるけど……次回のトーナメント戦までに勝負勘を鈍らせたくないこと。それから、今回の目的であるバトルポイントを出来るだけ多く獲得することだ。ここの道具や景品、侮れないんだよね。前回のトーナメントは在り物の道具で対応出来たけど、次からはそうもいかないはずだ。きっと、俺のこともリサーチして来るだろうし、準備は十全に行いたい。

 

 「……よし」

 

 さぁ、気合を入れろ、キョウヘイ。ここは油断すると直ぐ始発駅に戻されてしまうほど過酷な場所だ。誰が言ったか、ポケモンバトルの終着駅ギアステーション。うん、中にいる人を含めて言ったのなら、凄く当てはまっていると思う。

 

 「バトルサブウェイにようこそ!」

 

 駅員の案内に従い、ポケモンを選んで乗車する。使わないポケモンのボールにはロックを掛けられるが、これは公正を保つためらしい。この施設に好んで向かうメイがそう言っていた。

 

 「よろしくお願いします」

 「ワラワハ強キ者トシカポケモンハシタクナイゾヨ」

 

 ……さぁ、今日の目標は28連勝。今のメンバーと技構成なら、戦い切れるはずだ。

 

 「ホーッホッホッ! ヨイデハナイカ! ワラワハ ナカナカ 満足ジャ!」

 「…………」

 

 それにしてもここは恐ろしい。下手したら、専用のチームを考案しなきゃいけないほど、勝ち続けることは難しい。技構成は勿論だけど、そのポケモン達の長所や短所すら調整する必要がある。ただ、その鍵を握る性格を変えるなんて出来ないし、今のメンバーで出来るだけ戦っていきたい。何時か変更することがあったとしても、共に戦い続けたメンバーには思い入れがある。出来るのなら、長所と短所を調整できる道具があれば、と何度思ったか。そう言えば、トーナメント前には夢にも出て来たっけ。

 

 「まぁ、無いモノ強請りはしても無駄。今出来ることをやらないと」

 

 さて、勝ち進めて分かって来たけど幾つか課題がある。1つがメンバーの技構成だ。今はシングルバトルに向いた技が多いんだけど、ヤーコンさんから今後のトーナメントはダブルバトルの可能性があることを聞いた。それは勿論、技だけではなく戦術も変わるということだ。集中攻撃からの防御方法、2匹だから活かせるコンビネーション。そうしたダブルバトルの経験を俺自身も更に積んでいく必要があるけれど、本職のトレーナー相手に通用するのかに疑問が残る。シングルではあまり使われない技がダブルでは有効になることも多い。例えばねこだまし、まもる、てだすけ……どうしたものか。

 

 「……さ、次の対戦相手は、と」

 

 だけど、その技を採用することで対応出来る範囲が減ってしまう。強みを生かすか、弱みを消すか……戦いながら、考えていくしかない。

 

 それから何戦かして、何とか全滅しないで途中駅へ降りることが出来た。それにしても……

 

 「やっぱりスーパートレインと普通のトレインって、全然違うな」

 

 何度も乗っているから分かっているけど、レベルが違う。トレーナーとの連戦はプラズマ団で経験済みだけど、トレーナーとポケモンの質が違う。余計なことを考えていたら、あっという間に倒されてしまう。

 

「数戦したけど、皆は大丈夫?」

 

 毎回、傷と気力を回復できる設備があるから戦えるけど、心がそうじゃなければ無理はしないつもりだ。次の車両い入らなければバトルにはならないから、今の内に確認しないとね。

 

 「「……」」

 

 思い思いの反応をくれたけど、まだまだやれると言わんばかりの視線を送ってくれた。

 

 「……ありがとう」

 

 多分、気を遣っているのかもしれない。最近の俺は色々と良くないから。なら、ここでやれることを思いっきりやってから考え直してみよう。

 

 「敗北だって人生のスパイス。あなた、ピリッとしてるじゃない」

 「……ふぅ」

 

 これで7連勝。やっぱり、一筋縄ではいかないね。そろそろ電車も止まるみたいだし、1度降りようかな。

 

 ホームで一時休憩しながら、駅員さんに連勝数を確認すると21連勝だった、何時の間に……

 一旦、ここのホームで休憩して技の構成、皆の様子、道具とかを見直ししよう。

 

 「どうする。もう帰りたい?」

 「「……」」

 

 ここまで戦い続けてきたルカリオは疲れている。次は休ませた方がいいだろう。一方で、ウインディは元気だしウォーグルは暴れ足りないと言わんばかりに此方に向かって頭突きをしようとしている。止めて止めて分かったから。

 

 「よし、メンバーを変えて、と。最後に7戦いっときますか!」

 

 それから、乗車し続けて目的の28連勝となる最後の相手の手持ちを何とか戦闘不能にする。ダブルバトルのコンビネーションは攻撃技だけじゃなく、補助技を使った方法もある。それに併せた技構成やチームメンバーを考えた方がいいだろうか。こうして対戦を続けても、ポケモンバトルに底はない。単純ながら非常に奥深く、恐ろしい。

 

 「……よし!」

 「ああ、血が騒ぐよ、ざわめくよ…… あたしも戦いたいよお……」

 「…………」

 

 まぁ、一番恐ろしいのはここにいるトレーナー達か。実力は高いんだけど、悪タイプよりもよっぽど闇を感じるトレーナーが多いって、どういうこと?

 

 「皆、お疲れ様」

 

 ……今日は疲れたし、ライモンシティホーム直通の電車に乗って、景品を交換してアベニューに帰ろうか。

 

 「今回もお疲れさまでした。こちらをどうぞ」

 「ありがとうございます!」

 

 よし、これで道具と交換して……と。集中し続けて疲れたから、今日はそろそろ。伸びを1つ、屈伸3回っと。よし、体も解れたし、後は帰って明日に向けた調整をして寝るとして……

 

 「……あれ?」

 

 見たことある服装をした人がギアステーションにいるけど、随分とふらふらしている。合っているかは分からないけど、大丈夫だろうか?

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