画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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ルリ編15:君のポケモン、私のポケモン

 「はい、ありがとうございました!」

 

 復帰してからも私の仕事は忙しい。最近はそれが他の人にも伝わってしまっているのか、番組の司会の方やADさんから番組中でも心配されることが増えた。まぁ、あんなことがあったから、当然と言えば当然だよね。

 

 「ふぅ……」

 「ほら、まずは楽屋に戻りなさい。そこでなら、ゆっくりできるわよ」

 「そうします……」

 

 本番が終わり、スタジオを離れて楽屋に入る。

 

「皆、さっきはお疲れ様」

 

 プリン、ニャース、パッチールをボールから出す。皆も分かっているのか、体を伸ばしたり、暴れない程度に自由に動いている。本当だったらラプラスも出してあげたいけど、下手に出すと却ってラプラスが窮屈してしまうので出せない時の方が多い。以前、キョウヘイ君のポケモン図鑑を見せて貰った時に200Kgを超えるのが平均だって教えてもらったから、体を伸ばす為に出すのもちょっと気を遣う。それでも仕事でサザナミタウンへ来た時にラプラスが楽しそうに泳ぐ姿や、背中に乗って波乗りした時に浴びた海風は気持ち良かったなぁ……

 

「パッチール、おいで」

 

 まだ時間はあるし、最近はすっかりルーティンになった毛繕いをしよう。

 

 さっきの番組でもそうだったけど、最近はキョウヘイ君の名前を聞く機会がとても増えた。キョウヘイ君が凄い人なのは以前から知っていたけど、ポケドルや番組の人からも話が出ることにはもやっとする。ポケモンバトルが上手だから参考にしている……なら、まだ分かる。だけど、先輩ポケドルの女性グループはキョウヘイ君の戦いぶりやそのインタビューへの初々しさからファンになったと言うし、若いのにイッシュ地方のポケモンリーグを制覇したことから何とかして関わりを持ちたいとも言っている。同様に、番組の人もどうにか関わりを持ちたいらしくキョウヘイ君の実家があるヒオウギシティまで行って……居合わせたポケモントレーナーによって、コテンパンにされたとか。

 

 「うーん……」

 

 ニャースの毛繕いを終えて、プリンの毛繕いをしながらふと思う。

 

 ──自分とキョウヘイ君が同じ番組の仕事をする。

 

 そんな悪魔のような提案をされたなら、2つ返事で承諾するだろう。仕事とは言え堂々と2人で同じ時間を過ごせるなんて夢のようだ。一方で、共演したくない気持ちもある。最近は家へ戻っていないと聞いたけど、それでも仕事の関係でお母さんに迷惑が掛かっていると思うから、私のしている仕事にも嫌な感情を持っているのかもしれない。それに、ルッコの私を間近で見たらキョウヘイ君だって流石に気付くと思う。そうしたら、今までのあの安らげる関係が壊れてしまう……そんな恐怖があった。

 

 「はぁ~……」

 

 次のリハーサルまで約1時間、最近の忙しさをマネージャーが考慮してくれたのか、仕事が重なった場合の休み時間が気持ち長くなったと思う。準備もそうだし、休める時間が増えたのは嬉しい。一方、合間の時間で出演した男性がお茶をしないかと言ってくる機会が増えたのはどうにかならないだろうか。結果として、ポケモンバトルに少し詳しくなったり、ポケモンの毛繕いをする時間が増えたから、全てが悪いとは言い難いんだけど。

 

 プリンの毛繕いを終えて、パッチールの毛繕いを始める。こうして触ると、皆肌触りが違うから面白い。

 

 以前、こんなことがあった。

 私と付き合っているという噂を流す為に私のいる楽屋に無理矢理入って接触しようとした男性芸能人がいた。揉め事は嫌だったけど、それ以上に関わるのも嫌だったからポケモンバトルする羽目に。相手はそれなりに自信があったようで、プリンとニャースは戦闘不能になってしまい、パッチールも息を荒くするほどに弱っていた。その時は番組に出た後だったから疲れが溜まっていたこともあったんだろう。

 

 「…………」

 

 キョウヘイ君から、ラプラスは珍しいポケモンで他の地方では密猟者すらいると聞いたことがあった。だから、あまり出したくはなかったけど、ラプラスを出してあっさり勝ってしまったのは記憶に新しい。

 

 「嘘、だろ……」

 「どうしました!?」

 「あ、スタッフさん。実は……」

 「違う、違うから!」

 

 当然そんな相手は共演NGにしたし、その後に他のポケドルにも同様の方法で接触を図っていたことが分かったので、その人は叩かれに叩かれて活動休止になった。そして、そのことが切っ掛けでテンマ君と一緒にポケモンバトルの番組に出ることも増えた。番組の流れでテンマ君と話をした時……

 

 「凄い、ルッコちゃんのラプラス、歴戦のトレーナーみたいな技構成みたいだ!」

 

 って、驚かれたなぁ。番組の「わざと暮らす」で出ているワザマ先生によれば、ポケモンが技を覚えるパターンは2種類あるんだっけ。確か、前に聞いた時は……

 

 「どうしてポケモンは技マシンでも技を覚えるんですか?」

 「そのポケモンの可能性だから、だよ。例えばルッコちゃんやテンマ君がポケドルを通して歌やダンスが一層上手になった。その技術は自力で習得したかもしれないし、或いは人からレッスンを受けた成果かもしれない。技マシンはその後者なんだ」

 

 分かるような、分からないような……

 

 「つまり、ポケモンの可能性を技マシンで広げている……ということですか」

 「その通り。そう言えば、テンマ君は技マシンを集めているんだとか」

 「はい、違う地方に行くと全然違う技マシンが売っていて……見ているだけでも面白いんです」

 

 他にも覚える手段があるみたいだけど、その子が取得するにはまだ研究中だって聞いたなぁ。

 

 さて、毛繕いが終わったし、やることは特にない。なら……

 

 「キョウヘイ君、今は何をしているかなぁ……」

 

 仕事の関係で頂いたバトルレコーダー。最近はポケモンバトルの勉強も兼ねて、キョウヘイ君のバトルトレインの映像を見るのに使っている。最近はバトルトレインの副収入になっているらしく、休日でも電車に乗らないのに人だかりが出来ているらしい。だけど、それは理解できる。とても刺激的だし、キョウヘイ君の真剣な姿や対戦を終えた後に緊張が解しつつポケモン達を労わる姿が、疲れた私の保養になっている。

 

 でも、最近はキョウヘイ君も忙しいからか連絡がない。それとも、気になる人がいるのかな。

 

 ……でもあの日、私のことを気にかけてくれていた。

 

 私が疲労で倒れてしまった日も、何も聞かなかった。それにしては普通に振る舞っているように見えた。

 ……私のこと、どう思っているんだろう。

 

 「はぁ~……」

 

 キョウヘイ君の事を考えるだけであっという間に時間が過ぎていく。通話もせずにライブキャスターを眺める時間も増えた。

 

 …………えっ!

 

 私に許された外出時間は約30分、外の空気を吸いに行くと言って急いで着替えた私はライモンシティの観覧車前で立っている。

 

 「ルリさん!」

 

 そう、彼と約束をしたのだ。

 

 「あっ、キョウヘイ君。あはは……待ち遠しくって急いで来ちゃった。会えて嬉しい……かな」

 「そ、そっか……」

 「ねぇ、よかったらまた観覧車に乗らない? 私、この観覧車のこと、気に入っちゃったみたい」

 

 この観覧車は老朽化で取り壊しも検討されているらしい。でも、今の私とキョウヘイ君を繋ぐのはこの観覧車だけだから営業停止になるその前まで、出来るだけ多くの時間を過ごしたい。

 

 「……うん、俺もここの景色とか気に入っているんだ。一緒に乗ろう」

 

 キョウヘイ君の手が私を手を握る。手からキョウヘイ君の熱が伝わって、私の顔が真っ赤になりそうだ。

 

 「えっ、いいの……よかった。なんでだろう、ドキドキしてきちゃった。早速乗ろうよ !」

 

 2人で観覧車に乗り、景色を眺め、キョウヘイ君の温かさを狭い室内で感じる。さっきまで眠くて仕方なかったけど、手を取ってくれた時から、ドキドキが止まらない。

 

 「何度乗っても、素敵な眺めだよね ……」

 

 夜のイッシュシティ、眩い限りの明るさがイッシュ一の華のある街だと実感させられる。このような華やかさに、格好いい人に私はなれているのかな。また、華やかな街だけじゃない。昇って行けば静かな場所もきちんとある。そのような場所が見えるようになってもその風景が素敵だと思えるのは……

 

 「貴方と一緒だからかな?」

 

 そう。1人で乗っても、家族と乗ってもそう思えるとは思わない。隣に座ってくれているキョウヘイ君と一緒に同じ場所を見て、そこで見聞きしたことを教えてくれる。その時間は何にも代え難い。

 

 「あっ、もう終わっちゃうね……」

 

 きっと、何度乗っても同じことを貴方に言うのだろう。そう思う程キョウヘイ君との時間は……そうだ、待ち合わせをする時に伝えたけれど、してくれるかな?

 

 「ねぇ、キョウヘイ君 この前 仕事で別の地方に行った時に……」

 

 今の仕事で多くの人と繋がりを持ったけど、その仕事切りでの関係になることも多い。だから、特に親しくなった人にはポケモン交換することがある。それでも、別地方で仕事に行っている間まで気になったのは、キョウヘイ君が初めてだけど。

 

 「そうだね。じゃあ、俺はこの子を。ちょっと珍しい特性を持っているんだ」

 

 どんな子を交換してくれるんだろう。

 

 「今日は誘ってくれて嬉しかったよ。 またキョウヘイ君 から沢山元気を貰っちゃったね。あはは……これで仕事も頑張れるよ」

 

 だって、こんなに心地よい気持ちになれたんだ。今なら嫌な人が共演する仕事だって乗り切れる自信がある。

 

 「良かったらまた、誘って欲しい……かな」

 

 しかも、どんなポケモンでもいいって言ったのに、交換してくれたポケモンが私も知っているポケモンで、とっても可愛い。

 

 「じゃあ、そろそろ帰るね。またね 、キョウヘイ君」

 

 そして何より、あのキョウヘイ君とポケモン交換をした。私が普段関わる人で、応じてくれる人はいるだろうか。いや、いないだろう。素直そうな子だと言う人は多いけど、皆が思うより様々な経験をしている気がする。だから、番組の流れでポケモン交換に応じるように仕組んでも上手く行かないと思う。例えば、イッシュのジムを巡ったメンバーだから出来ない、とか理由を付けて断ると思う。だけど、私にはそんな素振りすらなく交換に応じてくれた。

 

 「これからよろしくね」

 

 私が交換したニャースも一緒に過ごす中で懐いていたから、名残惜しさはある。それでもキョウヘイ君なら大事にしてくれると信じられる人だから。

 

 「よし、急がないとね」

 

 今から戻れば、ルッコのセットアップも何とかなるだろう。

 

 次の仕事の本番で、皆が最近捕まえた、或いは縁のあったポケモンを紹介する流れになった。カントー、ジョウト地方での仕事でポケモンは捕まえたけど、それも結構前だからなぁ。休憩の後で皆がポケモンを出すことになったけど……そうだ!

 

 「おや、今日はイーブイが一緒なんだねぇ」

 「はい! このイーブイは大切なお友達と交換してもらったんです。もう、人懐っこくてすっごく可愛いんですよ」

 

 ふわふわで可愛い、それは正義だ。多くの人がそう思っていることだろうけど、このイーブイはキョウヘイ君と一緒に過ごしたというのも相まって、一層可愛く思える。

 

 「……確かにイーブイって人気だからねぇ。ルッコちゃんは進化させるつもりあるのかな?」

 「うーん、イーブイのままでも可愛いし、色々な進化系の姿も可愛いからなぁ……」

 

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