画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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キョウヘイ編18:カノコタウンでの夜

 

#キョウヘイ編:カノコタウン

 

 「うおおおおおおおおおっっ!!」

 

 イッシュ地方には幾つかの橋がある、その中でも最も有名なスカイアローブリッジだ。夕焼け空の下を走っていると聞けば、さぞロマンチックに感じるだろう。だけど、実際はそんなもんじゃない。

 

 「幾ら、何でも、撮影が終わった後に、やるもんじゃなかったーー!」

 

 あるポケドルが歌っている曲にふたりのスカイアローブリッジがあるけど、歌詞のようなロマンチストな気持ちになんざなれっこない。何せ、目標がある。今日の内にカノコタウンへ着いておきたいんだ。ジョインアベニューで保育所を設営する為に、ポケモンの育て屋さんがあるサンヨウシティまでは行ったことある。

 

 ただ、タイミングよく連絡船に乗れたことと、ウォーグルを手持ちから外していたから急遽自転車で行くことにした。ただ、一度渡ってからはウォーグルで向かっていたから橋の存在をすっかり忘れていたんだ。ほら、イッシュ地方って橋の名所が多いから。

 

 「でも、時間あんまり無いし、俺の都合で撮影を遅らせる訳にはいかないし!!」

 

 ヒュウから連絡を受けて、ウォーグルに乗ってヒウンシティまで空を飛び、そこから自転車に乗って、しんそくの勢いで走る様はさぞ奇怪に見えるだろう。うん、俺も当事者じゃなければそう思う。

 それにしてもこのスカイアローブリッジは本当に長いし、大きい。せめて、せめて、この長い上り坂を手を繋いで登るこの時間が止まればいいとか歌詞にあった気がするけど、今だけは早く下り坂になって欲しい!

 

 「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……やっと、だ」

 

 何とか、頂上まで登り切った。これなら後は下るだけだ。電光石火で駆け下りるぞ!

 

 あまりの俺の迫力に、ポケモントレーナーすらビックリしたみたいで巻き込まれないように離れてくれた。ごめん、今度はちゃんと時間に余裕をもってくるから……!

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 サンヨウシティ、カラクサタウン、一番道路……そして、ようやく到着した。博士のいるカノコタウンに。

 

 「つ、つい、た……」

 

 気がつけば、辺りはすっかり暗くなっていた。我ながら驚きだ。スカイアローブリッジを通って2つの街を超えて、よく日が暮れる前後で到着したよ。

 

 「あ、博士に連絡を……」

 「あら、キョウヘイじゃない、って」

 「あ、博士……こん、ばんわ」

 「……何があったのよ」

 

 まずは、息を、整えてから……

 

 「いえ、ヒウンシティから自転車で飛ばしてきて……」

 

 ただ、そんな訳の分からない疲れ方をしている俺の理解してくれたらしい。

 

 「あー、そっか。行ったことがない場所へ空を飛ぶでいくのはね」

 「はい……お陰で、疲れ、ました」

 「折角だし休んでいったら。丁度、知り合いの家に行く所だったの」

 

 その、提案は有難い、です。だけど、知らない人の家へ勝手に入るのも……

 

 「ベルさんやチェレンさんの家、とかですか?」

 「似たようなものね。キョウヘイなら大丈夫だと思うから、先に行ってくれるかな。忘れ物しちゃって」

 

 何で俺なら大丈夫なんだろう。だけど、今は少しでも早く体を休めたい気持ちもある。

 

 「えっと、場所は?」

 「真後ろよ」

 「あ、はい。分かりました」

 

 ……何だろう、その家は何故か寂しそうに見えた。そう、ある時から時間が止まっているかのような……

 

 「あら、おかえり」

 

 ……え?

 

 「探していたお友達には会えたの。確かNって名前の……」

 

 N、さん……?

 

 「あれ……?」

 「いやね。お客さんを自分の子供と間違うなんて」

 

 ……気のせいか、声が震えていたような。

 

 「それにしても君は……どこかに面影があるわね」

 

 ……誰に?

 

 「あ、分かった。あなた、キョウヘイくん?」

 「……はい」

 

 何となく、嘘はいけないと思っていた。

 

 「だと思った。だって、そっくりだものあなたのママに。実はね、あなたのママとはちょっとした知り合いなの。私がトレーナーであなたのママがポケモンセンターの受付の時に出会ったのよ」

 

 ……あぁ、だからアララギ博士は大丈夫って言ったのか。

 

 「そうだ、ポケモンは元気?これからこの町へ来た時は、ここで休めばいいわ」

 「はーい、お邪魔するわよ」

 

 あ、博士が来た。

 

 「アララギ、幾ら作るの面倒だからって、家に来るのは止めたらどう?」

 「いやー、フィールドワークに調べ事もしていると自分で作る気力が湧かなくて。だったら、料理出来る人にご馳走してもらった方がいいじゃない。それに、毎回食事代は出しているんだし」

 「まぁ、いいけど。もう少し時間かかるから、座って待っていて」

 「はーい」

 

 ……こうならないように、気を付けよう。

 

 母さんの知り合いの人のお言葉に甘えてリビングで休んでいると、アララギ博士が小さな声で話しかけてきた。

 

 「それでキョウヘイ君、ただ自転車を飛ばしたいからカノコタウンまで来たわけでは無いでしょう」

 「……はい。あまり大きな声では言えないですが」

 「もしかして、プラズマ団のこと?」

 

 なんでそれを。チェレンさんからこっちの方に飛んで行ったことだけ聞いて飛んできたって言うのに……

 

 「ここは騒がしくないから、研究には持ってこいの場所よ。ただ、私もあまり詳しくは知らなくて、知っていることは船が来たことだけよ」

 「少し、確認したいことがあるんです。どの辺りにいますか?」

 「カノコタウンの横に水道があるでしょう。その先にいるはずだわ。ただ、あの道も一筋縄じゃ行かないの。強い海流が流れていて波に乗っても流されるし、野生のポケモン達もその殆どが進化しているわ」

 

 群れの中で1匹が進化したポケモンなのはよくあるけれど、それが殆どというのはチャンピオンロードのような険しい場所なのだろう。明後日には撮影がある。明日で行って戻れるだろうか?

 

 「随分急いでいるみたいだけど、何か理由があるの?」

 「実は……」

 

 まだ、夕飯には時間が掛かるみたいだし、アララギ博士には今の内に話しておいた方がいいか。

 

 「……そういうこと、ね」

 「自転車飛ばしてここまで来たんですけど、あの時のようなことはもう出来ない……で、いいんでしょうか?」

 「そうね。チェレンから聞いた話だとあの飛行船の動力はキュレムで、そのキュレムは君によって逃がされた。なら、そういうことじゃない?」

 「かも、しれませんね」

 「……それでも気になる?」

 

 博士が何かを感じて視線を外す。と同時に、キッチンから声が掛かった。

 

 「アララギ博士、キョウヘイ。夕食が出来たから一緒に食べましょう」

 「まずは夕食よ。しっかり食べておきなさい」

 

 初めて会った人の夕食を頂く。ここ最近はポケウッドやトレインで食べることが多くて、こうしてゆっくり食べることはあんまり無かったし、ヒオウギにも戻っていなかった。偶には戻った方がいいだろうか。

 

 「ご馳走様です。美味しかったです」

 「はい、お粗末様」

 

 思えば、ここまでゆっくりと食事をしたのは久し振りかもしれない。最近はアッツォの店か、適当に買って食べるか。バトルサブウェイのホームやポケウッドで食べる日もあったなぁ。せっかくご馳走になったんだし、片付けの手伝いでも……

 

 「いいのよ。ほら、アララギのように寛いでいていいのよ」

 「は、はい。そうさせて貰います」

 

 アララギ博士と共に、ソファへ座る。あの人が洗い物に取り掛かっているタイミングを見計らって、話の続きをしてくれた。

 

 「ただ、あの1件以降、全く動きはない。この付近でもプラズマ団を見掛けたこともない。多分、以前のようなことはできない筈よ」

 「……ありがとうございます」

 

 話はそれきりで終わる。

 そうしたら、アララギ博士が俺とあの人を交互に見ていたんだけど、何を考えているのやら。あ、あの人も食器を洗い終えたみたいだ。

 

 「んー……それじゃ、私は研究所に戻るけど、キョウヘイはどうするの?」

 「これからタチワキかヒオウギに帰らないといけないので頑張って……」

 「どうせなら泊っていきなさいよ。ヒオウギでは見られない景色があるし、ここならポケモン達ものびのび過ごせるわよ。何より……ね?」

 

 あぁ、さっきから交互に見ていたのはそういうことだったのか。母さんも知らない相手じゃないし、お言葉に甘えた方がいいのかな。旅をする時用に使っていた着替えもリュックに入れてある訳だし、撮影も明後日から。邪魔にならないのなら、大丈夫かな?

 

 「そうですね、折角ですからそうさせてもらいます。当然と言えば当然ですけど、自転車で飛ばしまくったんでくったくたで……」

 「そうよ。偶には無理してもいいけど、それを何時ものことにしちゃいけないわ」

 「そう言えばキョウヘイには言っていなかったけど、ここのお母さんはキョウヘイのお母さんと知り合いなのよ」

 

 いつか、チェレンさんが言っていた気がする。自分達は3人で旅立ったんだと。そして、もう1人の幼馴染がいた、と。

 

 「……少し、風に当たってきます」

 「分かったわ。キョウヘイが泊ることは、私から伝えておくわ」

 「ありがとうございます」

 

 ここは星がとても綺麗に映っている。ライモンシティのように煌びやかな街でも、タチワキシティのような工業が盛んな街でも無いからだろう。映画のロケ先でも中々お目に掛けない満天の星空が、ここにはあった。

 

 「さ、自由にしていいよ」

 

 ここは人が少ない。最近は人と関わることが殆どだったから、それがとても新鮮だ。海風と、カラクサタウンから流れる風が心地よい。心なしか、外に出てきた今のメンバーも羽を伸ばして過ごせているように見える。

 

 「ルカリオ、どうした?」

 

 あぁ、そうか。心配させたみたいだね。確かに、ここ最近は考えることが多かった。ポケウッドでのこと、プラズマ団……恐らく、ダークトリニティのこと、様々な場所から連絡を受けて対応に苦慮しているイチミさんやミライさん含めたジョインアベニューのこと。だけど、ここではそれらがない。だから、気持ちが楽なんだろう。

 

 「なぁ、ルカリオ。さっきの、見ていただろ?」

 

 やっぱり、ルカリオも気付いていたか。一度頷いてくれた。

 

 「さっき、お代は要らないって言ってくれたけど、それじゃ良くないと思うんだ。俺、何か出来るかな?」

 

 え、タチワキシティの方を指して、ポーズ取ったりしているけど……あぁ、そういうことか!

 

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