ある番組でキョウヘイ君に交換してもらったイーブイを紹介してから、私と親密な人は誰かと番組ごとに言われるようになった。相手は私の周囲の誰かなのでは……と、あっという間に色々な噂が立ち、他の女性ポケドルからも敬遠されるようになった。
そのきっかけとなった番組の直後、マネージャーから厳重注意されたけど、私からライブキャスターで連絡していないことを知っていたので、怒りようにも怒れない……そんな顔をしていた気がする。マネージャーにはお世話になっているし、ちょっと申し訳ない気持ちはあったけど、キョウヘイ君が私とポケモン交換してくれた事実とイーブイが可愛すぎた。
次の仕事の合間に皆の毛繕いを終えた時に想うのは、観覧車に乗った時のキョウヘイ君だ。
「キョウヘイ君の悩み、解決するといいなぁ……」
キョウヘイ君にも悩みがあるとは思わなかった。新たな仕事を頂けること自体凄いんだけど、キョウヘイ君はまだそのことに気付いていない。いや、それよりもその先を見ているからこそ、悩んでいた。自分なりに今の自分がその仕事をしている理由とか大事にしていることを伝えたつもりだけど、役に立てただろうか。
ドアを叩く音がする。意識をルッコへ切り替える。
──さて、私が特定の人と交際を噂されているのは理由がある。その理由が今から入ってくる……
「あ、ルッコちゃん。大丈夫?」
「テンマ君、そっちこそ平気なの」
「うん。こっちも一息ついたからね」
同じポケドルで、私と同じように多くの番組に出演している超人気ポケドル。彼が私と付き合っていると裏で言われているからだ。ただ、実際のところは……
「そうそう。ルッコちゃんは次に控えている仕事はマネージャーさんから聞いた?」
「え、まだだけど……」
「そっか。出来れば相談したかったんだけどなぁ……」
周囲が勝手に思っているような恋人……というよりは、競い合える良い仕事仲間だ。一緒に仕事をすることもあるのでそれなりに親しい立場だとは思っている。ただ、そんな私から見ても今日のテンマ君はちょっと違う気がする。何の相談だろう?
「多分、直ぐに分かってくれると思う……って違う違う。イーブイを持っているって話聞いて飛んできたんだ、少し見せてもらうことはできる?」
「?……うん、いいよ」
気になる言い方だけど、テンマ君なら見せてもいいと思う。ポケモンに変なことする人じゃないから。
「うわぁ……イーブイって人気ポケモンだけど滅多に見つけられないって聞いていたのに……」
「うん。ポケモンに詳しい人と交換して貰ったんだ」
「その人、凄いな。きっと、ポケモン図鑑を貰えるような凄い人なんだろうなぁ……」
テンマ君の何気ない言葉に思わずドキッとした。ポケモン図鑑を持っている人がどれだけいるか分からないけど、うっかり答えてしまったら一気に範囲が絞れてしまう。
「ルッコ、入るわよ……って、テンマ君?」
「はい、お邪魔してます。噂のイーブイを見に来ました。いやぁ、可愛いなぁ」
流石のマネージャーも入ったらテンマ君と2人きりだったから面食らったみたいだけど、イーブイを熱心にブラッシングする様子を見たので納得したみたい。
「ここにいるけど、テンマ君は次の仕事について聞いてきたの?」
「はい。ただ、ルッコちゃんはまだ聞いていない、と。僕からまだ伝えていませんよ」
「分かったわ。それじゃあルッコ、次の仕事の概要を簡単に伝えるわよ。あ、テンマ君は引き続きブラッシングしていていいわよ」
「はい」
そう言いながら、マネージャーはオタチを出せばテンマ君が構いに行く。ついでにブラッシングしてもらうつもりだろう。何だかんだちゃっかりしている。
「で、その仕事なんだけど、場所はポケウッドよ」
「ポケウッドですか。最近は新作映画の公開に力を入れている、とか」
今までは私が各地のジムリーダーを、テンマ君がイッシュ地方の名所紹介していたことが多かったんだけど、数ヶ月前に起きた事件以来、双方がやっていた仕事を合わせてやって見てはどうか、という案が出ていた。その第一段階として、シリーズ作品と併せて新作を発表したポケウッドでの公開前インタビューだ。
「そう、そこでルッコには新作映画のメインキャストであるメイさんにインタビューをして欲しいの」
「……え、私が人気若手俳優のメイさんにインタビューを?」
これはまた、大物だ。イッシュリーダーズトーナメントにも出ている実力者でありながら、ポケドルに並んで注目を集めている若手俳優さんに単独インタビューをするなんて……
「そうよ。インタビューなら同性の方がやり易いでしょう」
「はい、分かりました。それにしてもポケウッドかぁ……」
以前、テンマ君がインタビューに訪れた際は、ウッドウさんからこれでもかとポケウッドの魅力をアピールされて困ったと聞いた。
……大丈夫、かなぁ?
「凄いですね、あの人気若手俳優のメイさんと1対1で話が出来るなんて」
「……テンマ君もメイさんを知っているの?」
「……詳しく知ったのは、最近だけどね」
なんか、テンマ君の様子がおかしい。今まで仕事で何度も話してきたけど、こんな反応は初めて見た。
「それなら、テンマ君の方が大物じゃない」
「……え?」
「だって、インタビューの相手はあのイッシュリーダーズトーナメント優勝者のキョウヘイ君でしょ」
……う、そ。
「はい、まさかポケウッドにも出ているなんて思いませんでしたよ。この前のインタビューでも少しだけ話しているので、そこまで緊張はしないかなって思っています。時間があれば、ポケモンバトルについて色々聞きたいな、と」
……う、そ。え、え、キョウヘイ君。ポケウッドにも出ている、の?
「そうよね。今話題のトレーナーが俳優までやっているっていうんだから、驚きよね」
「はい。リーグの制覇者自体は他の地方でもいるみたいですけど……ルッコちゃん?」
「…………あ、うん。その、この前休んでいる時にキョウヘイ、さんの試合を見ていて、凄く刺激になったから……」
「あぁ、そっか。ルッコちゃんはこの前……」
「…………さて、仕事の概要を理解した所で、映画の粗筋をウッドウさんから頂いたからよく見ておくように」
「ルッコちゃん、ルッコちゃーん?」
マネージャーが部屋から去った後も、私はその衝撃から言葉を取り戻すのに時間がかかってしまった。
何となく、ルリが懸想している相手が件の彼だというのは予想出来ていた。名前だけでは判断できなかったけどポケモンに対する知識や関わり方、そしてポケモンバトルへの知識や経験。以前、ルッコが迷惑行為をされた挙句にポケモンバトルとなった際、恐らく彼のテコ入れによってルッコは勝つことが出来た。そのことがきっかけで新たな仕事を貰っていると考えたのなら、どちらが得か言うまでもない。
「それにしても、とんでもない運の持ち主ね。ルリは」
相手もそうだが、ひと昔前であればポケドルに恋愛はご禁制と言われるほどだった。今もその風潮が根強いものの、一世代二世代前と比べれば世間の目は多少緩やかになった……はずだ。相手が凄い相手なのは確かだが、同時にそれは大きな問題を孕んでいる。
「表沙汰になったら、とんでもないことになるわね」
分かることは、双方のファンから確実に荒れ狂う人が出てくること。キョウヘイ自身、最近人気を出しているポケモントレーナーでファンがいるという。実際、他のポケドルでもファンがいると耳にした。加えて、俳優としての才覚もあるとポケウッドのウッドウさんからのお墨付きがあるという。このまま活躍していけば、更にその名声を広げていくことになるだろう。
そうなれば、手段は2つ。早いところくっつけてしまうか、別れさせるか、だ。当然、個人の立場としてはポケドルを継続してもらう為に距離を置いて欲しい所だが、ルッコではなくルリとして接している上に、連絡も本人からしていないのを知っている。
「…………」
だからこそ、迷う。ルリはマネージャーである私との約束を守って関係を続けてきた。これ以上口を出しては、私とルリの関係性にもひびが入るだろう。
ん、モンスターボールが揺れてる?
「……あぁ、ちょっと遊ぶ?」
オタチを出して、ポケじゃらしを取り出す。最近疲れた時はいつもこうしている。ノーコン、かつポケモンバトルが苦手な私にとって、ポケモンを手にする日が来るとは思っていなかった。番組の関係でポケモンの手入れや面倒を見ることはあったものの、自分のポケモンを持つことに抵抗のあった私が、だ。それはルリのマネージャーをしていたから叶ったこと。確かに以前、出身地のジョウトでのお気に入りのポケモンを話したことはあったけど、まさか覚えていてくれたとは。
「……ふふ」
そう思うと、ルリの好きにしてあげたいとも思う。何より、だ。
「……他人の恋路を邪魔して、ゼブライカに蹴られる真似だけは勘弁ね」
結局は、彼らが決めることなのだから。