画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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キョウヘイ編19:その役は誰が為に

 朝早くにポケウッドへ来た俺は、台本を読み込みながらウッドウさんを待っていた。大した演技も出来ていないのに、こんなお願いなんて厚かましいと思う。それでも、そうしたいと思ってしまった。言わないまま撮影を終えてしまうと、後で後悔してしまいそうだった。

 

 「おお、キョウヘイ。朝早くからいるとは熱心じゃの」

 「おはようございます。はい、実はウッドウさんにお願いしたいことがありまして……」

 「どうしたんだい、一体」

 

 きっかけは大したことじゃない。プラズマ団が完全に解散した後も、未だに思い悩んでいる人はいる。自分は幸いそんな影響を受けなかったけど、その悪影響を多く受けた人達を知っている。そしてこの前カノコタウンで俺は……

 そうだ、だから俺はそうしたいと思ったんだ。

 

 「……いいじゃない、いいじゃない。そういう気持ち、とても素敵よ。うん、そういう気持ちを込めて演技をすれば、観ている人にもきっと伝わってファンになってくれる人も出てくるよ。その件、今日中に渡しちゃうから公開日前に渡しちゃってよ!」

 「あ、ありがとうございます!」

 

 自分の演技が芳しくない中、快く受けてくれるなんて思わなかった。こうして俳優をしている自分だけど、周囲から言われるほど凄い人だとは思えない。何なら憎しみを抱えていたけど、今はその憎しみを振り払ってポケモンの返却を手伝うヒュウの方が凄いとすら思ったこともある。今回の撮影の中でも、自分の中でピンとこない事の方が多かった。

 何の為に俳優を、演技をしているのか。これまでは、他地方は技マシンが使い捨てだと言われた時のような違和感を拭えずにいた。ただ、今はそう思わない。演じることに疑問を持つ自分はいない。なら、後は自信を持って演じよう。今なら、どんな難しい場面でもうまく演じられる気さえしていた。

 

 「カット。色々あったが、お主に任せて間違いなかった!」

 「ありがとうございます!」

 「ここ最近、色々と悩んでいたのは知っていた。だが、撮影期間の中でその悩みも解決したみたいだし、本格的に役者やってみないか?」

 

 ふぅ、上手く行って良かった。監督からの評価も良かったし、何とか挽回出来たかな。メイには色々サポートしてもらったし、ハチクさんのようにはまだまだ出来ないけれど、今なら心からこう言える。

 

 「役者一本は難しいですけど、それで良ければ考えさせてください」

 「そうかそうか。キョウヘイはポケモンバトルでも世間を賑わせているし、役者一本が難しいことはこちらもよく分かっている。ただ、前向きに考えていることはウッドウさんにも伝えておこう」

 「ありがとうございます」

 

 今まで才能があると言われては来たけど、具体的にどんな所がというのはピンと来なかったし、なんなら今でも分かっていない。でもようやく、自分の中では俳優と言う仕事を前向きに考えられるようになった気がする。

 

 「キョウヘイ、どうやらスランプは脱出出来たみたいだな。それから、これを渡しておこう」

 

 ハチクさん。って、これは朝にウッドウさんと話したものをもう作ってくれたのか。

 

 「……ここ最近、撮影後に行かなければならない場所があったんですけど、そこでいいきっかけを得まして」

 「何をするであれ、どんなことにも自分の意志がないと長くは続かない。そのきっかけが見つかったのは良いことだ。監督からもキョウヘイの調子が上がっている。次も期待しているぞ」

 「はい!」

 

 さて、明日は休みだからそこで渡しに行くとして、今日はそうしたら……

 

 「ただいま」

 「あれ、キョウヘイじゃない。珍しいわね、最近は何をしているのよ。元気なのはいいことだけど、偶には連絡してもいいのよ」

 「ちょっと色々なことをしていてね。それの1つに目途が立ったから戻って来たんだ」

 

 最近戻ることが無かったヒオウギシティ。やっぱり、生まれ育った街はどんな時でも落ち着くな。ただ、何か以前よりも賑やかになっているのはイッシュリーダーズトーナメントを優勝したからだろうか。何か久し振りに帰ったら、変なムードが出来ているし。なにこの……なに?

 こう、有名人が出てくるとこんな面倒なことになるの。こういうのってもう少し後から出るものなんじゃ……

 

 「ということは、また出るの?」

 「いや、今日はここで休むよ」

 「そう。それじゃあ、今日はご馳走にしないとね」

 「いや、いいよ別に普通で。それよりさ、カノコタウンへ行ったのは知っているんだよね」

 「えぇ、アララギからいきなり連絡が来たからちょっと驚いたわ」

 

 ということはやっぱり、母さんはあの人のことを知っているんだよね。

 

 「ねぇ、元気だった?」

 「気になるんだったら、直接話せばいいと思うけど。この前も通話したんでしょ」

 「そうだけど、その時は世間話くらいしかしなかったから……」

 

 ウッドウさんに頼んだのが早速役に立ちそうだ。朝早くにポケウッドへ行って、ウッドウさんと話せて本当に良かった。

 

 「じゃあ、これ」

 「え、ナニコレ……って、キョウヘイあんた……」

 「そう、今度公開される映画の予約券を用意してもらったんだ。だから、2人で行ってきたら?」

 

 終わったシーンから編集作業をやっているらしくて、今日のシーンももう編集作業に入っているという。だから、あと2週間で公開出来るんだとか。イチミさんやミライさんみたいな凄い人がどんな場所にもいるんだな、とつくづく実感する。

 

 「向こうに渡すにしても……」

 「実は明日、カノコタウン周辺に用事があるから、そこで渡すつもりだよ」

 

 正確にはカノコタウンへ行って、その脚で今のプラズマ団の調査をするんだけど。

 

 「……へぇ、キョウヘイの癖に気が利くじゃない」

 「なにそれ」

 「かわいい子には旅をさせよと言うけれど、一皮剥けたわねぇ、キョウヘイ」

 「ちょ、何だよ、いきなり……」

 

 いきなり頭をがしがししなくても……!

 

 「そうだ、それからあの子にも会っておきなさい。あの子のレパルダスの様子、ヒュウ君から聞いていると思うけど実際に見たことは無かったでしょう?」

 「そうだね。ちょっと行ってくる」

 「夕食までには帰ってくるのよ」

 「はーい」

 

 家を出て、ヒュウの家まで歩いていく。ヒオウギシティ自体が街として切り開かれて多くの人が住んでいる街だけど、俺が旅に出る前よりも賑わっている気がする。やっぱり、イッシュリーダーズトーナメントが影響しているんだろうか。確かに、特番で放送されたポケモンバトルではヒュウやチェレンさんも出ていた。放送された部分は本戦だけと聞いている。そんな中で3人もいるってなったら、そりゃ注目もされるか。何人かは俺に気付いたけど、不必要に話しかけることはない。それがとても助かっている。

 あー、ヒュウ達には来ること連絡してないけど、入って大丈夫かな?

 

 「あっ、キョウヘイさんだ!」

 「こんにちは。ヒュウは?」

 「今日はホドモエにいるって」

 

 最初はホドモエとヒオウギを毎日往復していたはず。それでも最近はホドモエにいることが多くなったんだから、良くなっていると思っている。

 

 「そっか。それで……最近のレパルダスの様子はどう?」

 「うん。少しずつ良くなってる。本当はずっと外に出してあげたいけど、ヒュウ兄は一日中ボールの外へ出せる状態じゃないかもって。でも、もう少しの我慢だって思ってる」

 「……そう、だね」

 

 ……うん、ルカリオ?

 

 「ヒュウが時折戻っているって、聞いているけど」

 「うん、ボールの外から出せるかの確認をして貰っているの。食事とかトイレの時には出せるようになったけど……一緒に寝ることは出来てないんだ」

 

 それでもこの短期間で出せるようになったよな、本当に。ヒュウから聞いた話だと、元プラズマ団の所にいるポケモンは今もプラズマ団を怖がってボールから出ないポケモンもいる、って聞いている。ずっと献身的にレパルダスの様子を見続けきた結果なんだろう。

 

 「キョウヘイ君、良かったらおやつでもどう?」

 「お母さんが呼んでる。キョウヘイさんはどうしますか?」

 

 俺を出してくれってことね。そう言えば、ルカリオのポケモン図鑑の説明って……

 

 「うん、折角だし頂こうかな」

 「分かった……え、大会でも見たルカリオだ!」

 「そうだよ。実は旅立って割と早いタイミングで捕まえたんだ。実はルカリオってさ、ちょっとした特技があって……少し、レパルダスを出してもらっていいかな?」

 「え……えっと、キョウヘイさんが言うなら」

 

 ヒュウの妹さんがレパルダスをおそるおそるボールから出した。ボールから出てきたレパルダスは俺やレパルダスを警戒していて、ヒュウの妹さんからは少しだけ距離を取っている。でも、全員を警戒していたら、ヒュウの妹さんからも距離を取っているはずだ。

 

 「え、えっと……」

 「ルカリオはさ、波動で相手の気持ちを読み取ることが出来るんだ。ルカリオがそうしたいって出てきたから、少しだけ任せてみない?」

 「えっと……大丈夫、なんですか?」

 「大丈夫。俺のルカリオはダイケンキと同じくらい一緒にイッシュを旅してきた大事なメンバーだ。後でポケモン図鑑を見せるけど、ルカリオって波動で色々なことが出来るんだ。だからここは一旦、ルカリオに任せておやつを食べに行かない?」

 「は、はい」

 

 ルカリオは早速、レパルダスの波動を受け取ろうとしている。俺達がいるとレパルダスも緊張するだろうし、一度外しておこう。それにしてもどういう原理かは全く分からないけど、図鑑説明ではあらゆるものが出す波動を読みとることで相手の気持ちも理解できると書いてあった。波動ってなんだ。つくづく、ポケモンって不思議な生き物だなぁ……

 

 「頼むよルカリオ、それとおやつは持って上がってくるから」

 

 任せろと言わんばかりの返事をしてくれた。うん、きっと大丈夫だろう。

 

 

 飲み物とおやつを頂いたのはいいけれど、ヒュウの妹はやっぱり頻りに上を気にしていた。まぁ、そうだよね。幾ら図鑑でルカリオの説明やレパルダスの説明をした所で、ヒュウが取り返した、おじいさんが捕まえてくれたレパルダスは一匹しかいないんだから。

 

 「……ん?」

 

 ……そう、終わったんだね。

 

 「じゃあ、折角だし貰った菓子を上の子にも上げてきますね」

 「え、それは……」

 「それでも、気になっているんでしょ?」

 「……はい!」

 

 頂いたお菓子はどうやらポケモンも食べられるクッキーということもあって、一層気にしていた。きっと、レパルダスに食べさせたいんだろう。それを聞いた直後からそわそわしていたんだから、聞かなくても分かるさ。

 

 上に上がって、ルカリオとレパルダスを見る。何か波動でやっているけど……なんだろ、あれ。

 

 「ルカリオ。これ、ヒュウのお母さんが作ってくれたんだ」

 

 手渡して、ルカリオが口にする。どうやら口に合ったらしく、一口、二口と食べ進めている。

 

 「さ、次は……ね?」

 「あ……」

 

 レパルダスはとっくに敵対心なんて持っていない。ただ、どうしたらよいのか。どう接したらよいのかが分からないだけ。レパルダスにとって、今の環境を直ぐに受け入れるにはあまりにも変わってしまっていた。戦わされて勝たなければ捨てられる環境じゃない、自分のことを見て笑っている人がいる。不愛想だけど心配してくれる人や、適切に距離を取って接する人もいる。でも、どうしたらいいか分からないそうだ。

 本当は接したいと思いつつも、何時かの時を思い出してしまって臆病になっている。だったらもう、お互いに我慢する必要はない。必要なのは、背中を押してあげるような些細なきっかけだけ。

 

 「ね、ねぇ、レパルダス。一緒に食べない?」

 

 ルカリオはその意図をレパルダスへ伝えてくれている。そして、レパルダスは恐る恐る近付いて……

 

 ──見届けて、ヒュウの家を後にした。

 

 

 久しぶりの故郷を歩き回った後にチェレンさんと話をしていたらあっという間に夕方になっていた。家へ戻る前に、ヒオウギシティの高台から見える水辺をのんびりと眺めていた。そう言えば、あの日ここでベルさんからミジュマルを貰ったんだよな。ヒュウと一緒に旅に出て、バッヂを集めて、ルリさんとライブキャスターで話すようになって、プラズマ団を倒して……

 

 誰かが階段を走って登っている。そうして、俺のことを探していた。そうか、戻っていたんだ。

 

 「……ヒュウ」

 「サンキュ、ずっと世話になってばっかだな、俺」

 

 ヒオウギに戻って、レパルダスの様子を聞いたから直ぐに出てきたんだろう。俺がここにいるのを知って、急いで探しに来たんだろうな。

 

 「別に、俺もそうしたかっただけだけだよ。それに、ルカリオがやったことなんて最後の確認だ。もう、既に打ち解けていたんだよ。ただ、きっかけが無かっただけ」

 「……キョウヘイはそう言ってくれるんだな。サンキュ、俺に協力してくれたのが、プラズマ団を倒してくれたのが、お前で本当に良かった」

 「何か恥ずかしいから止めろって」

 「そうじゃない。俺は妹のチョロネコだけ取り返すのに必死で、ロッドのおっさんから誰が持っているか突き止められた。どういう思惑で返してもらえたのか、未だに分からないけどな」

 

 もしかしたら、チョロネコを取り返そうと躍起になっていたのを見て自分達と重ねたのかもしれない。もしかしたら、の話だけど。

 

 「だけど、お前はそうじゃない。あのゲーチスとかいうプラズマ団の親分を倒せたから、プラズマ団は完全に潰れた。だから、元プラズマ団の奴らもポケモンを元のトレーナーへ返す活動が出来ている」

 「まだまだ返し切れていないポケモン達は多いけど、それでも前に進んでいる。その中で本当に捨てられてしまったポケモンもいるし、そのポケモン達を引き取ると決めた元プラズマ団も見てきた」

 「……だから、ありがとう。お前がいてくれて、本当によかった」

 

 もう、本当に大丈夫だな。明日はカノコタウンまで飛んでプラズマ団の調査をする予定だけど、こう言ってくれるのならやる気も出る。知っている人やポケモンのあんな姿はもう二度と見たくないからね。それをもし、俺がどうにか出来るのなら、行ってみる価値だってあるはずだ。

 

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