翌朝、朝早くから俺はウォーグルへ乗ってカノコタウンまで空を飛ぶを使う。ウォーグルには長距離で申し訳ないけど、急ぎたいから仕方ない。
カノコタウンに着いて、早速母さんの友人にチケットを渡す。いきなりだったから驚かれたけど、久しぶりの遠出の機会をくれたことに感謝の言葉をもらった。
以前の目撃情報を元に、夕焼けが見え始めた頃にプラズマ団の船へ到着した。 途中、シンオウ地方のジムリーダーと話をしたり、道中で会ったトレーナー達からプラズマ団の船について話を聞いた所、動く素振りがないと聞いた。だから、これ幸いとポケモンの生息調査をしている内に到着が遅くなってしまった。ところでトレーナーにしろ野生ポケモンにしろ、異様に強かったのは何故?
到着するまでに意外と道具を消耗したから最初は入ろうか悩んでいたけど、外にいたプラズマ団からは敵意を感じないし、ルカリオの状態も悪くない。なら、荒事にはならないと判断し、船内へ入った。
相変わらず、プラズマ団の船は大きい。そして、思ったよりも人が少ない。途中、俺を見掛けたプラズマ団が何人もいたけど誰一人として殺気立っていないし、憑き物が落ちたようにのんびりとしている。ポケモンを取り出す準備までしていたのに、一体なにがあったんだろう。そんな変わりように俺も構えたモンスターボールを投げるタイミングを失ったし、ルカリオもその変容から警戒を解いたほど。
思い切ってプラズマ団に話かけてみた所、プラズマ団は完全に潰れたらしい。じゃあ、どうしてこんな僻地に船を置いているのか聞いたところ、自分達のやらかしは自覚していて、直ぐには人前に出られない。加えて、次に自分達が何をしたいのか、何をしたらいいのか分からずにこうして日々を過ごしているそうだ。ただ、目的を見つけた人は船を去り、ポツリポツリとその人数を減らしていることも教えてくれた。
今まで知らなかったけど、任務を達成しないと満足に食事を出来ない時もあったらしく、そうした劣悪な状態から解放されたこともあって、殺気立っていた雰囲気もなくなったらしい。
加えて、意外な人物の話も聞けた。どうやら、アクロマさんがこの船に残っているらしい。
「……ここまで来るとは。あなたも物好きといいますか」
アクロマさんにも敵意は……って、この人よく考えたら俺に興味こそ持っていたけど、初めから敵対心なんて無かったな。
「プラズマ団は私が解散させました」
「じゃあ、何でここに残っているんですか?」
「それでもここに残っているのは、ここからどうするか決めかねている者達がいるからです。流石に放置してしまえば、ゲーチスと同類に扱われかねないので」
珍しい。アクロマさんには珍しく、特定の誰かを嫌悪している。
「俺もあれは嫌いですけど、アクロマさんも嫌いだったんですか」
「当然です。えぇ、機会があれば進めている計画を裏側から台無しにしてやろうと思うくらいには嫌いでしたよ、私」
プラズマ団って、今更ながらひっどい集団だったんだな。ヒュウの目的に関わる過程で潰したんだけど、潰れていい組織って本当にあるんだなぁ……
「さて、話は戻しますが……私としては、自分の生き方は自分で決めてもらいたい。人は答えを求めたがりますが、そもそも世の中には答えのない問題の方が多いのです!」
ビックリした。科学者らしい科学者で目的の為なら手段を問わないと自分自身で言っていた人だけど、含蓄のある言葉も言えるんだ。
「さてと、先日のイッシュリーダーズトーナメント、私も拝見しました。やはり貴方はポケモントレーナーとして素晴らしい。私の目は正しかったと、改めてそう言えます」
「そりゃあ……どうも」
「さて、もう会うことはないと思っていましたが、こうして出会えたのなら話は別です。……貴方とポケモンの強さ、改めて見せて下さい」
この人が強いことも、ゲーチスのような人物じゃない事も知っている。そして何より、全力で戦って負けるかもしれない相手とのポケモン勝負は、この先少なくなる。だから、断る理由なんてなかった。
「……分かりました。それじゃあ、始めますか?」
「えぇ」
さぁ、気合を入れろ。あの時同様、生半可な相手ではない。互いにメンバーは割れているけど、気が抜けない。元々強い人だと知っているのも大きいけど、以前この人の一番手として出てきたレアコイルの持ち物にはとても苦労させられた。まさか、進化段階を残しているポケモンに持たせるだけでぼうぎょやとくぼうを底上げする道具が存在するなんて……その知識を持ち、活用できるのだからベテラントレーナーやジムリーダー達の域だろう。
何とか、何とか勝った。前回同様、レアコイルとギギギアルは持ち物を持たせていたけど、他のメンバーにも持たせていたなんて……まさか、6匹中4匹が戦闘不能にされて、2匹が弱った状態まで追い込まれるなんて……分かっていたけど、やっぱり強い人だ。
「……絆、見えないものこそ真実か?」
今日は念のため、ルリさんと交換したニャースをパソコンに預けてきて正解だった。多分、殿堂入りした時のメンバーじゃなかったら負けていた。そのくらい、この人は自身のポケモンを鍛え上げている。ポケモンの強さを引き出すことに全力を注いでいる。きっと、イッシュリーダーズトーナメントに出場したら、決勝リーグに登ってこられたと思う。
「……ミスの許されないポケモン勝負では、トレーナーの人としての本性が見える。なるほど、貴方のように極限でもポケモンを信じるトレーナーならパートナーも全力を尽くす。それが私の知りたかった答えと言う訳か」
近頃、ポケモンバトルに関する本や番組が増えたらしい。ポケモンに覚えさせる技やタイプの組み合わせ、理論や技の組み合わせは非常に重要だ。相性の良い技を覚えていなければ、タイプ相性が有利なポケモンだとしても簡単に負けてしまう。
だけど、見落としがちなこともある。トレーナーが指示を出し、ポケモンがその技を使う。それ一つとっても、実は凄いことだと気付いていない人が多い。俺達の言葉の意味を理解するポケモンもいるけれど、理解していないポケモンの方が多いはずなのに。どうしてトレーナーの指示をポケモンが聞いて、その指示通りに技を放てるのか。それを可能にしていることこそ、アクロマさんが言ったことなのかもしれない。
「それにしても、あの時は貴方が勝ってよかった。最も、私はゲーチスが嫌いというのもありますがね」
おや、アクロマさんが机の引き出しから何かを取り出して俺に見せてきた。
……それは持っているだけでも、ポケモントレーナーの最高峰のポケモンボール。市販されている赤、水色、黄色と黒を基調としたモンスターボールとも違うそれは……世にも珍しい紫色のモンスターボール。
「これを持って行きなさい。どのようなポケモンでも必ず捕まえるマスターボールです。ゲーチスが用意していましたが、貴方が使う方がいいでしょう。そう、例えばあの騒動で逃げ出したキュレムが貴方と向き合った時に使う……でも、良いでしょう」
アララギ博士から教えて貰った通り、偽物か本物かを確認する。予想は出来ていたけど、そのマスターボールは本物だった。実はマスターボール、贋作問題が昔から起きていて、騙されて買ってしまう人が後を絶たない。マスターボールは市販されていない。研究者のように自分で作るか、ポケモン博士やモンスターボールを作っている会社から貰うぐらいしかないから、そう簡単に手に入るものじゃないし、それだったら性能が担保されているモフレンドリィショップから買えばいいと思うんだけど。
「あ、ありがとうございます」
「良ければ、またポケモン勝負をして下さい。先ほどはああいいましたが、かくいう私もこれから何をすべきか決めかねているのです」
そっか。本当に、もう大丈夫みたいだ。以前のような殺伐とした雰囲気はここに残っているプラズマ団の下っ端達にはない。ゲーチスや変な老人もいなかったし、本当に全て終わったんだ。
プラズマ団の船を後にして、アベニューへ向かう。
ここまで色々あった。アベニューの管理やポケモン図鑑の一環とした生息域の調査、バトルトレインでの記録更新、これらに加えてイッシュリーダーズトーナメントから始まって、ポケウッドの撮影、プラズマ団の残党を追い、ヒュウの妹のレパルダスも無事にボールから出せるようになった。目まぐるしい日々以上に、自分が旅をしていた時のイッシュからどんどん変わっていく。お陰でここ最近はゆっくりする日が無かったくらいだ。
……とにかく、これで色々なことが一段落した。映画も後は公開直前インタビューを残すだけだけど、心残りもある。ハチクさんやメイからは自然な感じがいいとは言われたけど、役者なんだからその演技に磨きをかけないと。
だけど、役者だけをやっている訳にもいかない。ポケモンの生息域調査も終わっていないし、アベニューの経営もここ最近はイチミさんやミライさんへ任せっきりになってしまった。そっちの確認もしないといけないし、何れ行うという別地方の地方を集めたトーナメント大会に向けた準備だって必要だ。
そう言えば、夜にコダマタウンでルリさんへライブキャスターで連絡したら、普段とは違う人が出てきたけどあれは一体……一瞬過ぎてよく分からなかったけど、忙しさから他の人が出てしまったのかもしれない。あまりに似通っていたのは気になるけど、仕事についてはあまり知られたくないと考えている人だ。無理な追及はよくないし、ルリさん自体がそもそも忙しい人だ。おまけに、俺だって最近までずっと忙しかった。そんな時もあるよね。
翌日はアベニューに移動する。アベニューの運営を暫く任せきりにしてしまったから、その日は夜までやろうと決めていた。
久し振りに顔を見せたけど、こっちもそれなりに変化があった。俺がいない間、イチミさんやミライさんでは回し切れなかったこともあり、パソキチさんにやってもらったり、諸々の付帯業務をチユさんにもやって貰うことで回せたそうだ。ところで、さっきからイチミさんの顔がどことなく暗いのはなんでだろう。
夕方頃、全てではないけれど大まかには片付いたと思う。イチミさんがデータを集め、パソキチさんがデータを収集して、ミライさんがまとめてくれたおかげで想像以上に早く終えることが出来た。ただ、気になることがある。さっきから、イチミさんが俺に話しかけるタイミングを図っている。こう、あまり聞かれたくない話を抱えているような……そんな雰囲気があった。そしてパソキチさんとチユさんが席を外した拍子に、控えめに俺を呼ぶ。
「……キョウヘイ様」
「どうしたの、イチミさん」
「今日、事務所へ来たらこれがありまして……」
黒と白の外装の手紙を渡される。その中心に描かれたマークを見て、思わず声も硬くなる。
「これは……まさか」
終わったと思っていた相手からの予告状だった。PとZが折り重なったようなマーク、それは間違いなくプラズマ団のものだ。だけど、プラズマ団は既に解散していて、残っている人達を見ても戦う意志はないと思う。では、誰が?
【近く、タチワキシティのある施設でイベントがあるらしいな。】
「……!!」
誰がこれを差し出したか理解した。恐らくは……あの三人。いや、間違いなくそうだろう。チェレンさんから聞いた話では、ゲーチスは相変わらず行方不明で、ダークトリニティも一緒にいると考えられる。アクロマさん自身がプラズマ団を解散させた以上、プラズマ団のマークを使う人なんて……その三人以外、思い当たらない。
しかし、それは困る。その日程は既に決まっていて、今更取り下げることは出来ない。その作品の主人公はメイで、俺はその相方役だ。それなりに重要な立ち位置だけど、メイより注目はされていないはずだ。聞いた話だと俺にもインタビューが来るらしいけど、メインはメイのはず。なら、途中で俺がいなくなってもなんとかなるだろう。
「ありがとう。これは俺が対処する」
「しかし、キョウヘイ様には何の関係が……」
「……そうでもないよ」
イチミさんやミライさんは、俺やヒュウ達がプラズマ団の残党を倒したことを知らない。だったら、俺がやらないと。