画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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ルリ編18:私の知らない、君を探して

 タチワキシティはイッシュ地方の工業を担う港街だ。煙が毎日のようにあがるここは、ヒウンシティやライモンシティとは別の活気を持っている。コンビナート側からは重機の音や従業員の声が飛び交い、作られた商品はヒウンシティやホドモエシティを経由して、他地方にも出荷されている。ただ、今日私達が目当てとしているのはそちらの工業地帯ではない。この街の外れにある一際派手な施設……そう、ポケウッドだ。

 

 「……はぁ」

 

 数日前、誤ってルッコの姿で出てきてしまったのを私はまだ引きづっていた。あの後キョウヘイ君と会話こそ出来たけど、キョウヘイ君も流石に違和感を持っているはずだ。9割はミスだ。1度としてあの姿で出てしまえば、次に会話する時もキョウヘイ君相手ですら、身バレを警戒しなきゃいけなくなってしまうから。ただ、あの姿で出てしまったのはきっと、疲れていてキョウヘイ君と話をしたかったことと……

 

 「今日はルッコちゃん、あんまり元気がないんだね」

 「え、あ、いや、そ、そうじゃないよ。ポケウッドは初めて来たんだけど、すごくキラキラしているから驚いちゃったんだ」

 「まぁ、そう思うよね。加えて、ウッドウさんもぐいぐい来る人だから僕は二重の意味でインパクトがあったかな」

 「そ、そうなんだ……」

 

 テンマ君もテンマ君でちょっと緊張しているみたい。聞いてはいないけど何となく予想はついている。多分、キョウヘイ君のことが気になっているんだろう。テンマ君はポケモンバトルが好きだし、その点で言えば、キョウヘイ君はイッシュ代表のトレーナーと言ってもいい。そんなテンマ君からすれば、キョウヘイ君やメイさん、ハチクさんと言った人と一度に会うこと自体、緊張してしまうものだ。

 

 ──直接じゃないけど、キョウヘイ君と同じ仕事……か。

 

 以前、そんなことを考えたのを思い出す。それが早速実現したことには大いに驚いたが、いざこうして現実に立ち返ると非常にリスクがある。おまけに、直前で私がとんでもないミスをした。幾ら何でも数日前に一瞬だけ出ていた人が近くにいれば、キョウヘイ君だって何かしら気付いてしまう。ただ、キョウヘイ君のことだから、仕事中はルリさんとは呼ばずにルッコと呼んでくれると思う。それ以上に、キョウヘイ君は俳優としてここにいて普段のポケモントレーナーの服装じゃない。つまり……普段と違うキョウヘイ君を見て、私はいつものルッコでいられるだろうか。

 

 ポケウッドに入れば、現実と映画の世界が交差する。自分達の立つステージもまた別世界だと思うけど、ここもまた別世界のようだった。

 

 「……はぁ。やっぱり、緊張する」

 

 マネージャーや事前に映画のあらましは聞いている。メイさんは演技派の俳優で堂の入った主演波の演技をする時もあれば、メインを引き立たせる為のサブの役割も可能な、非常に柔軟な俳優だ。その演技の幅の広さやポケモンと合わせた演技はハチクさん以来の名俳優の卵と言われている。そんな凄い人が私と同年代でいること、そしてそのメイさん相手に1対1で話をするのだから、緊張しない訳がない。

 

 控室で何度も深呼吸する。横では、落ち着いたように見えるテンマ君がいるけど、その実は手元のメモ用紙を何度も確認しているのが見えて、少しだけ緊張が解れた。……そう言えば以前から気になっていたものの、聞かなかったこともある。、テンマ君はメイさんのこと知っているみたいだったけど……

 

 「そう言えばテンマ君、メイさんを何処かで知っているの?」

 「……え、何でそう思ったの?」

 

 メモを読んでいたからか、ちょっと反応が遅れたみたい。ただ、なにか……

 

 「この前ポケウッドの仕事が決まった時、知っていそうな雰囲気だったから」

 「あぁ……えぇっと、バトルトレインで最近人気のビデオだったからそこから知ったんだよ。人気で言うとキョウヘイさんの次に再生回数が多いんだって」

 「そうなんだ。イッシュリーダーズトーナメントにも出ていたし、やっぱり強いトレーナーなんだね」

 「うん、そんなこと言ったらキョウヘイさんだって、今話題沸騰のポケモントレーナーだよね。以前、イッシュリーダーズトーナメントで話したことがあるけど、まさか俳優までやっていた……なんて」

 「凄いよね。ポケモンバトルだけじゃなくて、俳優もやっているなんて。それに……」

 「……それに?」

 

 ……あ。えぇっと、キョウヘイ君のことで言っても大丈夫そうなことって、確か。

 

 「……イッシュ地方のポケモンリーグだって制覇しているって聞いたことがあるよ。それってただ強いと言われているんじゃなくて、各地を旅してジムリーダー達からも認められているってことなんだから凄いよね」

 「確かに」

 

 瞬時のごまかしを、テンマ君は疑うことなく肯定する。ホッと一息つくのも束の間、マネージャーが私達を呼びに来た。

 

 「二人共、本番前最後のミーティングをするわよ」

 「「はい!」」

 

 よし、切り替えよう。私はポケドルのルッコだ。まずはインタビューをやり切れるよう、頑張らないと。

 

 

 事前打ち合わせが行われた応接室では、マネージャーを交えて最終確認を行う。映画全体の流れは私とテンマ君の二人で交互に行うけど、メイさんとキョウヘイ君のインタビューは別撮りみたいだ。そう言えば私、メイさんと話すのは初めてだけど大丈夫かな?

 

 打ち合わせを終えた後、メイさんへの単独インタビューを幾つもあるスタジオセットで進めることに。

 

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね。ルッコちゃんだよね。他の人から聞いたけど、イッシュリーダーズトーナメントでインタビューする予定だったって聞きました。体調不良でお休みを頂いていたと聞きましたが、今は大丈夫なのですか?」

「その節はすみません……ですけど、今はこうして元気なので安心してください」

 

 柔らかく微笑むメイさんは、事前に見た映画と違って思った以上に普通の人だ。あのチョコドーナツのような横の髪型を除けば。それにしても意外だ。私やテンマ君はオフの姿で外を歩こうとすれば似ていると言われて人だかりが出来てしまうのに、メイさんからは不思議と何処に行っても溶け込めるような不思議な雰囲気を持っている。

 

 「今日は新作映画について、色々とお話を伺えればと思ってます。今回は初めてのジャンルの映画だとお聞きしましたけど、今回の映画に対する自信は如何でしょうか?」

 「はい、今まではアクションは少な目で心情を重視した演技が多かったんですけど、今回はアクションも含めた撮影だったので、疲れが出ないようにするかが大変でした」

 

 進行台本に沿ってインタビューは続く。映画のコンセプトや撮影中のエピソード、共演したポケモンとの関係、そして演技に込めた想いなど。メイさんが分かりやすく答えてくれたお陰でスムーズに進んでいく。ただ、途中で1つ疑問が出てきた。公開された映像の中ではメイさんのアクションシーンはそう多くなかったような……

 

 「そういえば、本作はアクションシーンが魅力だとウッドウさんからお聞きしていましたが、その辺りはやはり相棒のエンブオーが頑張ってくれたんですか?」

 「そうだよ。相棒のエンブオーのニトロチャージからのフレアドライブ、そして最後のばかぢからのシーンは迫力満点だから是非見て欲しいな!」

 「確か、メイさんのエンブオーはバトルトレインでも活躍されているんですよね」

 「うん、そうだよ!」

 「あ、でもアクションシーンと言えば実は……」

 

 1時間前後のインタビューが終わった後、ウッドウさんから立食パーティへ誘われる。マネージャー達も事前に聞いていたようで、私とテンマ君もそれに倣う。その待ち時間の間、私達は控室で待機していた。やることと言えばポケモン達の毛繕いやさきほど終わったインタビューについてだ。

 

 「そう言えば、メイさんとのインタビューはどうだった?」

 「テンマ君の言っていた通りの人だったよ。役者として有望な上にポケモンバトルも強いなんて」

 

 活発な雰囲気を持ちながら、柔軟な対応が出来る人だ。だから、急な役にも適応出来ているのかもしれない。

 

 「テンマ君こそ、キョウヘイさんとのインタビューはどうだったの?」

 

 確認したいことがあった。さっき、メイさんから聞いたことは本当なんだろうか。

 

 「……」

 

 すると、テンマ君が神妙な顔を浮かべた。なにか、あったのかな?

 

 「前回話した時よりちょっと硬かったんだ。立食パーティのことも聞いていなかったみたいだし」

 「……え?」

 「後は……確か終盤のアクションシーン、あれはメイさんがやる予定だったんだけど、急遽キョウヘイさんがやることになったって聞いたよ」

 「それ、メイさんからも聞いたんだけど実は……」

 

 ことのきっかけは事故だった。メイさんとキョウヘイさんがタッグで撮影をしていた中、台本上ではメイさんに集中攻撃を仕掛けられ、それに耐えきっての反撃でラストを迎えるシナリオが、急所にあたって戦闘不能になって崩れたそうだ。撮影のやり直しも考えたそうだけど、キョウヘイ君がそのまま演技を続けて2人を相手にする方向となり、その間にメイさんが体勢を整えるという方向にシフトしたそうだ。

 そうした結果、終盤に急遽バトルシーンが増えた上に、溜めに溜めた最後にメイさんのパートナーであるエンブオーが締める展開に変わったそうだ。

 

 本来だったら役を喰いかねない改変だけど、キョウヘイ君の知名度が役立った。イッシュリーダーズトーナメントを優勝した彼だったからこそ出来た改変であり、ウッドウさん達もその出来に随分と感激していたそうだ。

 

 「それはいいんだ。僕もそのシーンを見て凄いなって思ったし違和感もなかった。だけど、それってさ……」

 

 ある指摘をテンマ君から受ける。それが事実かは分からないけど、それが本当ならキョウヘイ君はどうやってその短期間でそこまで多様なポケモンバトルを経験できたのだろうか。

 

 

 マネージャーに呼ばれた私達は立食パーティーの会場へ向かう。そして、その会場では共演したハチクさんやメイさんがパーティ用の衣服を着ていたから、てっきりキョウヘイ君もスーツを用意しているのかと思っていた。だけど、そんなことはなくて普段見掛ける旅するトレーナーらしい衣服だった。慌ててやってきた感じの焦った様子を見せるキョウヘイ君は可愛いと思ったけど、ハチクさんやメイさん、テンマ君が不思議そうな眼をしていたのが気になった。

 

 そう言えば、テンマ君がインタビューをした時はスーツを着ていたそうだ。だけど、何故か今はそれを着ていない。幾らそうしたパーティーが突然あると言われたとしても、直ぐに着替える必要があるのだろうか。

 

 ……突拍子もないけど、少しだけ嫌な予感がする。

 

 とは言え、私達は招かれた側だ。気になるとは言えど、勝手な行動は難しい。美味しい食事や映画撮影に関わった人と話しながら、それとなくキョウヘイ君が戻ってくるか、戻ってこないかをチェックしていた。だけど、キョウヘイ君は一向に姿を見せない。

 

 パーティ開始から既に15分。キョウヘイ君は未だに戻ってこない。今はメイさんやハチクさんが話題の種となっているけれど、キョウヘイ君だって十分な有名人だ。きっと、そこにいないから二人に焦点を当てているだけだろう。

 

 「少し、風に当たってきます」

 

 パーティー会場のシアターを出て周囲を確認する。当然、会場に人が集まっているから外には誰もいないけれど……

 

 「あれ?」

 

 キョウヘイ君がポケウッドの外へ向かっていったような……

 

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