画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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ルリ編19:遠くへ向かう背中を追って

 簡易的な立食形式のパーティはポケウッドのシアターフロントを貸し切りで行っている。煌びやかな照明に照らされ、幾つもの料理や飲み物が並ぶテーブルを囲んで、出演者や関係者たちが思い思いに談笑している。テンマ君もメイさんに話しかけているようだけど、私はさっきから料理に手を付けることすら出来ていない。

 

 「……どこへ行ったんだろう」

 

 少しだけ見えたキョウヘイ君は焦っているように見えた。一体、何に?

 

 周囲を見る。やっぱり変わらず、出演者や関係者たちが思い思いに談笑している。なら、今私が出て行っても直ぐには気付かれないんじゃないだろうか。

 

 ──少しだけ、追いかけてみよう。

 

 私は決してキョウヘイ君やメイさんのようには強くない。それでもシアター周辺だったら、何とかなると思う。

 

 音を立てないようにシアターの外へ出る。普段より人気のないポケウッドは撮影時の騒がしさも、映画を見に来たり、感想を言い合うお客さんがいないからか不気味なくらい静かだ。だから、キョウヘイ君も簡単に見つかると思っていたけど、ちらりと見えた姿のようにポケウッドへいるような感じがしない。

 

 「どうしよう……」

 

 私が目立つ風貌なのは分かっている。でも、キョウヘイ君が戻る気配は一向にない。どうしよう……

 

 「……どうした」

 

 何時の間にか、シアター内にいたはずのハチクさんが私の近くに来て声をかけていた。

 

 「きゃっ!?」

 「済まない。驚かせるつもりはなかったが、誰かを探しているように見えてな」

 

 元ジムリーダーのハチクさん。今はジムリーダーをされていないけど、イッシュ地方の中では上澄みの実力者だ。今、他に私達を見ている人はいない。

 相談、した方がいいのかもしれない。

 

 「実は……」

 

 一瞬迷ったけど、私が見てきたことを話す。その話を聞き終えたハチクさんが、迷わずポケウッドの出口へ向かおうとしている。

 

 「君一人では危険かもしれない。私もついていこう」

 「あ……ありがとうございます!」

 

 私に戻れと言わずついてくるように言ってくれたことに感謝しながら、後をついていく。

 

 ポケウッドへ繋がるゲート、タチワキシティ、タチワキシティのゲートを通って20番道路に出る。

 

 「少し待って欲しい。周囲の聞き込みをしてこよう」

 「ありがとうございます」

 

 私だと下手に動くと騒ぎになる。だからこうして、ハチクさん自らトレーナー達へ聞き込みしてくれることになった。

 本来なら私がすべきことなのに……そう思うと、歯がゆい。それでも、動いてしまっては騒ぎになる。だから、私は人が意識し辛い場所の道路の端で立って待つことしか出来ない。自分には大した事が出来ないと知っている。それでも、あのキョウヘイ君を見ておかしいと思った。感情的にこうして外へ出てしまったけど、あんな余裕のないキョウヘイ君を見るのが怖かった。まるで、何処か遠くへ行ってしまいそうだったから。

 

 「それにしてもこの音、何時まで続くんだろう」

 

 タチワキシティを移動している時から歌声が空から聞こえていると思うけど、一体なんなんだろう。ジムリーダーのホミカさんは確かに音楽関係者だけど……毒タイプの使い手だから、空からのLiveが出来るようなポケモンはいないはずだよね。

 

 5分もしない内にハチクさんは戻ってきてくれた。だけどその顔は芳しくない。聞けば、彼の特徴であるサンバイザーを付けたトレーナーは見掛けていないそうだ。だとしたら、キョウヘイ君は一体、どこに行ってしまったんだろう。

 

 「ルッコさん、キョウヘイは何処へ行ったと思う?」

 

 暗くなり始めた20番道路は視界が悪い。その中で闇雲に探すのは良くないから、こうしてハチクさんは聞いてきたことを踏まえて意見を求めている。

 聞いている限り、道路の方にはいないのかもしれない。もしかしたら、全然違う所へ向かっているのかもしれない。だけど、何故かこの辺りにいるような気がしていた。さっきから続いている歌声のような音は未だに続いていて、その音こそ、異常はこの辺りで起きていると知らせていると思えたから。でも、そうすると何処へ向かったのか。考えられる場所は……

 

 「水辺、でしょうか?」

 

 そう言えばこの道路、割と広い水辺がある。ポケモンの波乗りが必要なくらい大きな水辺がこんな所にあっただなんて。

 

 「恐らくな。私はトドゼルガが波乗りを使えるが……ルッコさんはどうかね?」

 

 波乗り、それなら……

 

 「だったら、ラプラスが使えます」

 「ほう、噂に聞いていたが、本当に持っていたのか。中々見つからないポケモンとして有名なんだが」

 「確かに、キョウヘイ君からもそんなこ、と……!??」

 

 し、ま……!

 

 「なるほど、キョウヘイの異変にいち早く気付けたのはそういうことだったのか。だが、肝心のキョウヘイの方が君のことに気付いていないようだったが……」

 「色々ありまして……今のこと、内緒にしてくれませんか……?」

 「そう言えば君は、今のジムリーダー達へインタビューをしていたんだったな」

 「……はい」

 「では1つ、お願いしたいことがある」

 

 唐突に、何の話を……?

 

 「実は元ジムリーダーである私とキョウヘイが出演する映画を今度作る構想を昨夜ウッドウさんから聞いてな。君さえいいのなら、その映画が完成した際に、インタビュー役を頼みたい」

 

 まさか、このタイミングで茶目っ気のあることを言われると思わなかった。

 

 「は、はい。是非、やらせて下さい!」

 

 2つ返事で頷いた私は、ラプラスに乗ってハチクさんの後に続く。こんな時にと思うけど、ラプラスは水上を走れて機嫌がいいみたい。上空から聞こえる歌に合わせて、歌を歌っている。新曲とかはボールの中で聴かせてあげられるけど、やっぱり水辺に住むポケモンだから、こうして機会があったら泳ぎたいよね。最近もバタバタしていたし、この仕事が終わったら水辺のある場所へお出かけした方がいいかもしれない。

 そう言えば、さっきからずっと聞こえている歌声に加えて、別の音が聞こえる。これは水の落ちる……

 

 「えっと……これは」

 「しまったな。今は秘伝マシンを持ってきていない」

 「ここも……秘伝技が必要なんですか?」

 

 キョウヘイ君に教えてもらった。ポケモンへ教えられる技の中でも普段使い出来る技が幾つもある。その中で私達と行動を共にする技の一部を、秘伝マシンと呼んでいるそうだ。

 

 「あぁ、必要なのは滝登り。その様子だと、滝登りを覚えたポケモンはいなさそうだな。私も同じなんだが」

 「そんな……」

 

 折角ここまで来たのに、引き返さなきゃいけないだなんて。その時、今まで空から響いていた歌声が小さくなっていった。まるで、どこかへ飛んでいくかのように……

 

 「今のはポケモンの羽音か。場所的にこの上からのようだが……どうした、ルッコさん」

 「あれってポケモンの羽音だったんですか、歌声のように聞こえたんですけど」

 「……詳しく話してくれないか?」

 

 私が知り得る限りを話す。タチワキシティを移動していた時から聞こえていたこと、上空でずっと鳴り響いていたからこそ、ここで異常が起きていると感じていたこと。

 

 「ですけど、さっきその音が消えちゃって……」

 「……よし、一旦ポケウッドまで戻ろう」

 「な……何でですか!?」

 

 どうしてなの。野生のポケモンがただ飛んでいるだけの可能性だってあるはず。そんな音が聞こえているという理由だけで、キョウヘイ君を置いていくことなんて……!

 

 「こちらからキョウヘイがいそうな場所へ行くことは出来ない。だが、これ以上探すには時間が経ち過ぎている。既に私達がポケウッドを出て30分は経っている」

 「で……でも!」

 

 キョウヘイ君は多分、一人で何かを解決しに行っている。きっと、私達を巻き込まないように一人だけで。力になれるか分からない。それでも、キョウヘイ君の姿だけでも確認したかった。

 

 「歌声のような音が聞こえたと言っただろう……それは恐らく、フライゴンの羽音だ」

 「フライゴン……?」

 

 確か、シャガさんの手持ちにそんな呼ばれ方をしているポケモンがいたような……

 

 「フライゴンをこの辺りで見掛けた報告はない。そもそも、生息域が砂漠やリバースマウンテンのような場所らしいからな。つまり、そのフライゴンは意図してここにいる。トレーナーのポケモンとして」

 「でも……」

 

 そのフライゴンのトレーナーがジムリーダー達だったら、キョウヘイ君の味方だと分かる。でも、この辺りにいるのはチェレンさんとホミカさん、ノーマルタイプと毒タイプの使い手だ。

 

 「ジムリーダーではないが、フライゴンを手持ちにしているトレーナーを一人知っている。聞き取りしていた時に聞いた、そのトレーナーの外見を思い出したのでな」

 

 聞けば、そのトレーナーはキョウヘイ君同様に特徴的な髪型をしているらしい。そしてそのトレーナーは……

 

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