画面の先の別世界の君   作:久遠の語部

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キョウヘイ編21:心の空洞での死闘 後

 

 

 

 分かってはいた。そもそも数が1対3の上、全員が違うバトル方式を使ってくる。当然、指示も間に合わなければ、俺自身にも技が飛ぶ。

 

 「ふぅ、ふぅ……」

 

 さっきは本当に肝を冷やした。ローテーションを展開しているダークの手持ちが、何時の間にか俺の近くにいたんだ。サンダースが気付いて対処してくれたけど、その代わりに三匹の総攻撃をダイケンキが受ける羽目になった。隙をついたゾロアークが火炎放射でキリキザンを戦闘不能にしてくれたのはいいけれど、ダイケンキの瀕死が近い。激流こそ発動しているけど、厳しい戦いだ。

 

 「くっ……」

 

 流石に指示しきれないから、ルカリオにはシングルバトルを任せて、トリプル、ローテの指示に徹している。だけど、ルカリオの様子が全く見えない上、今までは冷え切った眼をしていたアイツらが憎々し気に俺を見ている。元々なにをしでかすか分からない怖さがあるのに、更に不気味だ。幸い、コンビネーションが無いからまだ戦えてはいるし、9匹のポケモンの内、3匹戦闘不能になったのを見ている。それでも、以前よりも鍛えられていて使っているポケモン達の一撃一撃が強力になっている。

 

 ──だけど、こいつらから逃げちゃいけない。何かの間違いでゲーチスが気を取り戻したならば、別の方法でイッシュ征服を企むだろう。その脚になるこいつらから負けては、逃げてちゃならない。ん、なんだ。何かが飛んで……

 

 「ルカリオ!?」

 

 攻撃を受けて吹き飛ばされたルカリオを何とか抱き留めたはいいんだけど……

 

 「やっべ……」

 

 キリキザンが2匹、俺達を狙っていた。しまった。ローテとトリプルのダークの手持ちか!

 

 ルカリオが俺を庇って受けようとしているけど、その傷で受けるのはマズい。只でさえ、片方のキリキザンはローキックを、もう一匹はハ、ハサミ、ギロ……

 

 「逃げろ、ルカリオ!!」

 

 瀕死に近い状態でその2つの技を受けたりしたら……瀕死どころじゃない、ポケモンセンターですら回復できないぞ!!

 ローキックはまだいい。ハサミギロチンだけは避けないと……

 

 「くそっ!」

 

 気付けば俺は、ルカリオを横に突き飛ばしていた。そして、ルカリオから距離を取って、キリキザン2匹と相対する。少しの時間だけでいい。時間を稼げキョウヘイ。いつもポケモンに指示をしている立場なんだ。最悪、ハサミギロチンさえ喰わらなければそれでいい。

 

 ダークがどうしているかは知らないけど、技の変更はない、ローキックとハサミギロチン。ローキックで俺の動きを止めて、ハサミギロチンで俺を……だろう。まだ、皆が戦っている以上、こっちへ指示を移すことは出来ない。何より、俺にそんな余裕がない。心臓の鼓動がハイパーボイスのように煩い。だけど、ここでやれなきゃ俺は……

 

 飛んでくるローキックをバックで受ける。

 

 「ぐ、ぐ……」

 

 バックこそ吹き飛ばされたが、何とかローキックを凌いだ。次はハサミギロ……

 

 「あ……」

 

 何かが俺を横切って目が移る。攻撃こそしなかったけどあれは……

 

 「アブソル……!」

 

 しまった、不意打ちだ。攻撃じゃなくて、俺の目を奪う為に……!

 

 「ま、ず……!」

 

 冷や汗が全身を伝う。ここで避けなければ俺は……!

 

 正面にはハサミギロチンを撃とうとするキリキザンが、俺の背中の洞窟の岩面すら砕く勢いで突進してくる。ギロチンの刃は腹部でやるつもりだ。なら、問題は……あの両腕をどうやって躱……今、青白い何かが……そうか!

 

 「くっ!」

 

 咄嗟にしゃがみ、壁面を蹴って逃げる。その直後……

 

 「……!!」

 

 キリキザンの背中に、波動弾が直撃した。

 

 弱っているのと十分な溜めが無かったので瀕死になってはいないけど、ハサミギロチンを躱すには十分過ぎる一撃だった。何とか逃げ出してほっと息もつかぬ間に、さっきまでいたはずの黒と白の姿が一瞬で消える。

 

 「しま……」

 

 アブソルのつばめがえし!

 

 ……これは避けきれない。思わず目を瞑って痛みに堪えようとして…………………

 

 ……痛みが、ない?

 

 「え?」

 

 アブソルがいつの間にか俺から離れている。気付かなかったけど、俺の周囲の足元から何かがせり上がった跡がある。

 

 「あ、まず……」

 

 危機を脱したからか、まだバトルが終わっていないのに脚に力が入らない。そこに、ハサミギロチンを撃ち損ねたキリキザンがよろよろと立ち上がって俺を見据えている……けど、そのキリキザンは嘶きのような鳴き声と共に吹き飛んでいった。

 

 「は……?」

 

 何で、バッフロンがここに……?

 

 気を取り直して周囲を見渡せば、ローキックを使ってきたもう一体のキリキザンはゾロアークの火炎放射で既に戦闘不能になっている。そして、緑色の歌声のような羽音を出すポケモンがアブソルから俺を庇うように飛んでいる。

 

 「貴様……!」

 

 ようやく、ようやく理解した。バッフロンとフライゴンを手持ちにしていて、このダークトリニティと渡り合えるトレーナーは俺の知る限り、一人だけ。あぁ、力の抜けた脚も力が入る。

 

 

 「……ヒュウ!」

 「水臭いな、キョウヘイ。今まで散々お前の力を借りたんだ。今度は俺に、その借りを返させろ」

 「……あぁ!」

 

 一体、どこで知って来たんだろう。とにかく、助かった。でも、まだ戦いは終わっていないから気を抜くには早すぎる。

 

 「後は俺に任せとけ。俺もこいつらに用があったからな」

 「……任せて、いいか?」

 「当たり前だ」

 「貴様……!」

 「いいか。お前らへの、プラズマ団への恨みはもう無い。だけど、キョウヘイを狙ったな。なら……俺は今から、怒るぜ!」

 

 全く気付けていなかったけど、さっきまでの攻防で、相手の手持ちは残り4匹までに減らせていたらしい。ヒュウが俺に代わって全部のバトルを展開しているけど、指示する側の頭数が多い。平地の道路なら兎も角、距離感覚の狂うこの洞窟では何かが起きるかもしれない。手助けが出来るのなら少しでもした方が……ただ、俺の手持ちは皆……いや、ウォーグルが比較的元気そうだ。

 

 「ウォーグル、アブソルを頼めるか」

 

 一度大きく翼を広げたウォーグルが、意気揚々と突っ込んでいく。あれは……ばかぢからか。白いハーブの消費は痛いけど、そんなこと言ってられない。

 

 ヒュウが助太刀してくれたお陰で時間をかけずに2匹、3匹とダークの手持ちを減らし、ようやく全部の手持ちを戦闘不能にすることが出来た。

 

 「満たされぬ……」

 

 ようやく、終わったか。……あれ、ヒュウ?

 

 「まさかまた、貴様に負けるとはな。しかも、そのバッフロンは……」

 「あぁ、そうだ。元はゲーチスのバッフロンだった。だけど、あるトレーナーに負けて以来、捨てたそうだな」

 「……そうだ。誰にも手が付けられなかったそいつを、まさか手懐けるとはな」

 「手懐けたつもりはない。ただ、何処にも居場所がなかった。だから、俺が居場所になると決めただけだ。それは、お前が奪ったレパルダスだって同じだ」

 

 暗に言っているんだろう。気紛れで返したレパルダスが戻ることはない、と。

 

 「……だからどうした」

 「お前達がレパルダスと妹の時間を奪ったように、大勢の人達とポケモンの時間をプラズマ団は、ゲーチスは奪ってきた。今更、奪われたことで逆恨みしてんじゃねぇよ」

 「…………!」

 

 図星だったんだろう。一度視線を下げたあいつらは、言葉を返すことなく影のように消えていった。

 

 ようやく、ようやく肩の荷が下りた。

 

 「助かったよ。でも、どうして……」

 「アベニューのイチミさんに頼まれたんだ。何かあった時の為にフォローして欲しいって」

 

 イチミさん……

 

 「そうだったのか……とにかく、助かった。ありがとうヒュウ」

 「さっきも言ったけど、俺が今まで散々助けられたんだ、気にするな。こうして無事だったから良かったけどよ、何でまたこんな場所で戦ったんだよ」

 「あぁ、それは……」

 

 ……あいつらは、全てを捨ててポケモントレーナーとして戦いを求めてきたのが分かった。俺がピンチになったのだって、元はと言えばルカリオの攻撃を庇ったからだ。だからといって、最後のあれを見たらそうは思わないだろう。思い出すだけで、俺もぞっとするし。

 

 「それじゃ、俺は行くぜ。戻る所があるんだろ。そうそう、さっきハチクさんと……ピンクの髪をした目立つ人が探しに来ていたぜ」

 「え……!!」

 

 それって、もしかしてルッコさんじゃ……何で、俺のことを?

 

 

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