1週間後、映画公開日の翌日に俺とルリさんは待ち合わせをしていた。
「もう来ていたの、キョウヘイ君」
「うん、ルリさんこそ早いね」
母さんからは映画は面白かったし、カノコタウンの友人と久しぶりに会って話せて良かったと言っていた。ただ……
「まさかキョウヘイが俳優なんてね。最後は気にならなかったけど、なんかアンタのせいで脚本に変化があったりしたの?」
「……」
……鋭い。きっと、中盤のことを言っているんだろう。その頃って、色々と中途半端だったから。最終的にウッドウさんやその時の監督が上手く調整してくれたけど、草じゃなかったらと思うと、ぞっとする。
「どうしたの?」
「……あぁ、ごめん。ちょっと思い出してて」
「?」
そんな訳で、今日は新作映画をルリさんと2人で鑑賞しにポケウッドまでやってきた。
「そう言えばキョウヘイ君って、ハチクマンにも出ているんだっけ?」
「あぁ、うん。結構前の話だけどね?」
「その……あの時に使っていたリオルが今のルカリオなの?」
あぁ、そういうことね。
「違う違う。あの時はポケウッド側で用意していたリオルを使ったんだ」
「そうなんだ。てっきり、キョウヘイ君のルカリオはその時からずっといたのかなって……」
「それで言うなら、ウインディとルカリオはタチワキシティへ着く前から一緒にいるよ」
「そうなんだ。そんなに早くから一緒にいたんだね」
そんな話をしながら予約していたチケットで館内に入り、上映時間を待つ。
「……結構人、いるんだね」
確かに、座席は既に6割が埋まっている。上映が始まる頃には8割、9割が埋まっているかもしれない。
「……凄いな、キョウヘイ君は」
「何か言った、ルリさん?」
「ううん、映画楽しみだなって」
そんなことを言うのなら、周囲の視線に晒されながらもポケドルという職を通して色々な人に曲やら番組に出演しているルリさんだって凄い人だ。あんなに番組に出ていたら俺だったら参っちゃうし、その中でも自分を保ってやってきているルリさんだって凄いと思う。だからこそ、正体を言われた時だって、誰にも言っていない。
「……あ、暗くなっているね」
「そろそろ始まりそうだね。ただ、緊張するな。別の意味で……」
「別の意味?」
「……多分、観たら分かるよ」
母さんに言われずとも分かっている。今回の映画に関して、俺の演技は正直並みだ。引っ張らない程度になっていると信じたいけど、やっぱりまじまじと見返すのは……なんかこう、恥ずかしい。
「…………」
「…………」
ストーリーラインはこうだ。平和なイッシュ地方のある夜、ガスを使ってイッシュ地方の人々を次々と洗脳していった。イッシュ地方の防衛隊に所属している俺とメイや他のメンバーは難を逃れたが、一夜にしてイッシュ地方の半分をオールマインと名乗る集団によって支配されてしまう。俺とメイはイッシュ地方を守るため、何度もオールマインと戦うが、自分たちのミスで防衛隊の先輩や後輩、地元の友人、そして両親がその集団に捕まって洗脳されてしまう。終いには、生まれ故郷を支配下に置かれたことで俺とメイは打ちひしがれる。しかし、上官であるハチクが洗脳の原因がガスだということを特定し、ガスの発生源を壊せば洗脳から解放されることを教えてくれる。そうして立ち上がった俺達は、3人でイッシュ地方の奪還を目指す。洗脳の影響が少ない街を1つ奪還して洗脳されていた人を助け出す。続けて、助けた人達から全面的な支援を受けて街を取り返していき、最終的に敵の本拠地と首謀者であるを叩いて壊滅させる。そうして、主力で動いた俺とメイが表彰されて映画はエンディングを迎える……というのが、本来のストーリーラインだ。
そのストーリーが変わってしまったのは母さんが指摘した通りの中盤だ。表情、抑揚すらうまく変えられない俺が何とかしようとした結果……
「……もう、俺はここにはいられない」
「……違うよ。あの時は私だって」
「違う。ここでは何も変わらない。奴らが手段を選ばないのなら……」
「ちょっと、キョウヘイ!」
こうして俺はメイと決別し、防衛隊の制服を脱ぎ捨てて占拠された街を後にした。
この展開に変わって良かったのか悪かったのか、まだ分からない。ただ、今の俺に出来そうな演技だった……そういう話なんだと思う。
観客全体までは分からないけど、突然の展開にルリさんも目を見開いて驚いている。
映画は次のシーンへ続き、メイとハチクさんの活躍によって街を取り返した所まで進む。ここから先は俺も知らないシーンだ。
「キョウヘイ、いなかった」
「多分、別の街にいるのだろう。なに、あいつのことは私達が良く知っている。今までの戦いを見てきたあいつが、今更オールマインの手に引っ掛かる奴だと思うか?」
「……いえ。ただ、不安なんです。今回、私達で街を取り返せたけど……本当に私達の力だったんですか?」
……あぁ、この時点であの終わりに決めていたのか。
「……そうだな。彼らの守りの要であったプラズマウォールは破壊されていて、洗脳に使っていたガスの発生も簡単に止めることが出来た。おまけに、私達と戦った連中も比較的弱い相手ばかりで、戯言を何度も耳にしたな」
「夜の闇と青の閃光……」
「奴らの言っていたことが何か分かるな、メイ」
「はい。多分、キョウヘイの……」
「ただ、昨日の今日だ。今は体を休めなさい」
メイは観ている人が感情移入出来る演技を得意としているのがよく分かる。こうして観ている俺ですら、その心情が表情で、動きで伝わってくる。俺は何と言うか、我が道を行くというか……。今回の映画では反省点が多い。母さんからあぁ言われたのも納得だ。メイとハチクさんがいたから何とか形になっているけど、こうして鑑賞すると雑な所が目立つなぁ……
終盤、ブレインウォッシャーの本拠地に向かってガスの発生源と首謀者を捕まえに来たメイとハチクは、彼らを従えていたボスと対峙する。そのボスが前哨戦として出して来たのは……
「……そんな、キョウヘイ!」
「やはり、お前達の知り合いだったか。こいつには随分と苦労させられた。ある時は私達の仲間に化けて守りを壊し、ある時は洗脳装置そのものを単独で破壊させられた。どうやら我々を一人で倒すつもりだったらしいが……ようやく効いたみたいでな」
「だが、そのキョウヘイ相手にお前は組織を半壊され、イッシュの支配すら失敗した。なら、キョウヘイが為せなかったことを、私達が代わってやるだけだ、覚悟しろ!」
この映画での手持ちはルカリオとゾロアーク。戦うように言われていても俺が度重なる無茶通したせいで弱っているのを知っているルカリオとゾロアークは、メイと戦う素振りを見せない。さながら、トレーナーの指示を聞かないポケモンを見ているようで、ボスは苛立ちを隠せない。因みにこの映画で出ているルカリオとゾロアークは、ポケウッド側ではなく俺自身のルカリオとゾロアークだったりする。
「ええい、戦わぬのなら諸共消えるがいい!!」
とうとう痺れを切らしたボスが、俺とメイに兵器を向ける。カイリューの破壊光線を思わせるそれは、受けてしまえば大怪我は避けられない。
「あ、まず……!」
「メイ!!」
ハチクは気付いてリカバリーに入ろうとするが、俺に気を取られていたメイは反応が遅れてしまう。
「……え?」
そのメイを、俺が突き飛ばす。そして……
「キョウヘイーーー!!」
直後、ゾロアークがボスを悪の波動で攻撃し、ルカリオがボスの兵器を波動弾で打ち壊す。
「しっかりしろ、メイ。何の為にここまで来た!!」
「……そうよ。今度こそ、終わらせるわ!」
俺のルカリオとゾロアークを一時的に従えたメイは、エンブオーと一緒に最後の戦いに挑む。
「く、くそが……だが、ただでは終わらんぞ!!」
ボスを倒したはいいが、ボスの最後の悪あがきで強制散布ボタンと建物の自壊ボタンを押したことでガスが再びイッシュ中に広がっていく。再び洗脳されていく人々を余所に、メイの最後の戦いが始まった。
「エンブオー、ニトロチャージ!」
巨体を誇るエンブオーの一撃だけど、装置はびくともしない。焦るメイを余所に、どんどんガスが散布されてしまう。攻撃を続けていたメイ達だが建物が崩壊によって、足元が崩れてしまう。その時にメイとエンブオーを庇ったルカリオとゾロアークが力尽き、残るはメイのエンブオーのみ。
「そんな……ルカリオ、ゾロアーク!!」
2匹はボールに戻らない。いや、戻れない。
「エンブオー……何が何でも壊すよ!」
最後の覚悟が決めたメイは有りっ丈の力をぶつける。
「フレアドライブ!!」
高温を纏ったエンブオーの渾身の一撃。装置は大幅に壊れたが、ガスのせいで周囲にも誘爆しており、もう一度足場が崩れる危険性もあった。
「これ最後だよ、ばかぢから!!」
エンブオーの渾身の一撃が装置を完全に停止させる。そして、画面が白くなっていき……
エンディング、イッシュに住む人たちにガスの影響は多少なりとも残っているものの、快方に向かっている。
そんな中、イッシュを救った防衛団は地方を挙げて感謝され、表彰の舞台に立っていた。そして、その表彰は防衛団代表としてハチクが受け取っている。イッシュが歓喜に沸き立つ中、当事者の一人であるメイはその場におらず、ある病院の、キョウヘイの名札プレートが挿された一室にいた。
「…………」
度重なる無茶を重ねた上に、オールマインが開発した兵器を一身で受け止めた影響で、数ヶ月経った今も眠りについている。
「……終わったよ。終わったんだよ、キョウヘイ」
「一緒に入った時、言ったよね。一緒にイッシュを守っていこうって……」
メイのモンスターボールは2つ増えている。その中にはルカリオとゾロアークが入っている。
「ねえ、起きてよ……ねぇ!!」
それでも、俺が目を覚ますことはない。何度も通ってそれを知っているメイは涙を拭った後、花を置いて立ち上がる。
「だから、私はまだ戦うよ。だって、君がこうして残してくれたんだから」
#終話:#隣で君の手を繋ぐ2
エンディングテーマが流れ、次第に明るくなっていく。俺は人目について騒ぎになっても困るから、ルリさんを連れてポケウッドを後にした。
「映画、面白かったよ。キョウヘイ君」
「う、うん。ありがとう……」
ホームにいる人達から聞こえる感想からも決して悪い印象はない。ただ、ルリさんってこんなに涙脆い人だったっけ?
いや、メイの演技が上手かったからだろう。同じ上映で映画を鑑賞していたらしい人達の中には、メイの演技に釣られて泣いてしまったというのも聞こえる。対して俺は……良くも無ければ悪くもなく。強いて言えば、アクションシーンが映えていた。最初はただの役者の真似事かと思ったけど、一人で戦うシーンはポケモントレーナーだから出来る役者なのか……という声もあった。
……ふぅ。少しだけ、気が楽になった。
タチワキから出ている電車に乗る。しばらく電車の移動が続くけど、話題は尽きそうにない。最近のことを暫く話していたけど、人が減っていくにつれて、電車の広告でさっき見た映画のPRがあったからか、もう一度映画の話題になる。
「それにしても意外だったよ。キョウヘイ君でも不慣れなことってあるんだね」
「え、どういうこと?」
「だって、キョウヘイ君って何でも出来るように見えていたから、上手くいかない時もあるんだなって安心しちゃった」
俺だって、何でもかんでも出来る人じゃないよ。
「うまくいかない時は全然うまくいかないよ。ジムリーダーとギリギリの戦いをしたことだってあるし、迷っていて力を出し切れずに負けかけたことだって何度もある。他にも、急がなきゃいけない時に体調を崩したこととか」
「それは旅で起きたこと?」
「うん。それでも、皆がいたから、ヒュウがいたから戦い抜けたんだと思う。それで、その時はルリさんってどうしていたの。俺、あの頃は全く余裕が無かったから、連絡くれていたことにも気付けていなくて……」
ソウリュウシティが凍り付いた後は本当に止まるタイミングが無かったというか……だから、プラズマ団の船が何処に行ったか分からなくなったタイミングで体調を崩したんだよね。あの時くらいだよな、ポケモンセンターにいたのに回復していなかったのって。
そうして、旅を始めた経緯やポケモン達との出会い、ポケモン図鑑やイッシュの街で俺が経験したことをかいつまんで話していく。
「私も色々な街には仕事で行ったことあるけど、大体何かあったんだね、キョウヘイ君」
「そうだね。今思えば、大抵何かが起きていたと思う。当時はそれが普通だと思っていたけどさ」
「私もその時、とても忙しかったかな。覚えているのは……うん、カントー地方、ジョウト地方へポケドルとして遠征してたことと、ポケモン達を捕まえたことしか覚えてないな」
「ポケモン達って言うと……ニャースとかラプラスを捕まえたってこと?」
確かプリンはコダマタウンへ向かう時に見かけた気がする。ポケモン図鑑へ登録出来てないけれど。あ、ポケモン図鑑で思い出した。ラプラスがビレッジブリッジに出てくるらしいけど、とても本当と思えない。確かにイッシュ地方で水辺は少ないけど、あんな場所に出てくるなら、俺だって見つけられる自信がある。だって、ラプラスの身長は平均で2m以上あるんだよ。
「うん、ところでニャースは元気?」
「ペルシアンに進化したよ。ノーマルタイプのポケモンは色々なタイプの技を覚えてくれるから、最近はどんな技を覚えさせようか考えていたよ」
「……技は決まったの?」
これはまだ誰にも言ってないけど、ルリさんにならいいかな。
「まだなんだけど……今度、ダブルバトルでバトルトーナメントをすることになっているんだ」
「え、ということは、前みたいにPWTでトーナメントをするの?」
「うん。そこに向けて最近ペルシアンが覚える技を調べる為にポケモン図鑑とか技を教えてくれる人にあたってみたんだ」
「……どうだったの?」
ルリさんの眼に、期待と不安が混じっている。ルリさんが捕まえて、同じ時間を過ごしたポケモンだから、その後が気になるよね。それから、電車の速度が徐々に遅くなっている。もしかして、もうすぐ到着かな。
「実は……色々な補助技、相手を妨害する技も覚えることが分かったから、ペルシアンをメンバーに入れてみようかなって」
「え、私が捕まえたニャースを!?」
「うん。技の話をしちゃうと切りがないから……それに、ほら」
電車が止まり、バトルトレインをしているとよく聞く声がアナウンスとして車内に響く。
「終点、ライモンシティ、ライモンシティ」
「あ……もう着いたんだ」
「俺もさっき気付いたんだけどね」
ライモンシティに到着した俺達は電車を乗り換えて出発の時刻を待つ。普段だったらバトルトレインの挑戦者として乗り込んでいる所だけど、今日の予定は違う。このまま一人の乗客としてサザナミタウンへ行く予定だ。
発車時刻になり、電車が動き出す。幸い、トレインにはタチワキシティを出た時よりも乗客が少なく、乗っている間に映画の裏話なんかも話しやすくなった。
「え、映画で使っていたアクションシーンってキョウヘイ君はスタントマンを使ってないの!?」
「まぁ、ポケモンバトルって技がトレーナーに飛ぶことって結構あるから、そういうのを繰り返していると自然と……ね?」
「それじゃあ……メイさんは?」
プラズマ団の残党立と連戦を繰り返してきたからか、アクションシーンを生身で熟すほどの実力がついていたらしい。確か、技が間違って俺に飛んできたのを躱したのがきっかけだったっけ?
「ただ、メイはスタントマンを使っているみたい。後は……そうそう、ハチクさんもスタントマンを使っていないみたいだよ」
「そうなんだ……撮影でもポケウッド側のポケモンが言う事を聞いてくれないことってあるの?」
「俺は問題ないんだけど、他の方が撮影しようとした時にポケモンが言う事を聞かなかったとか、聞いたことあるかも」
本当にあったかすら記憶にないけど、そう言えばジムバッジをどれだけ持っているかで激しいアクションシーンが出来るか否かを判断する基準になっていたような……
「その時はどうしていたの?」
「他のスタッフが止めているかな。ポケウッド側のポケモンって、ポケウッドの裏方さんが交代で面倒を見ているから、皆の言う事を聞くんだよ」
だからか、ハチクさんを始めとした優秀な役者の人は皆、ポケモンの扱いに長けている。加えて、俺が俳優として入ったことも影響して、他の人もジムに挑戦しようと意気込む人が増えたんだとか。ポケウッドから比較的近い場所にジムがあるホミカさんやチェレンさんから、最近は挑戦者が多いという話を少し前に聞いた。
「そうなんだね。そんな裏話は、流石にあのインタビューでは聞けなかったなぁ……」
「まぁ、あの映画で出てくるポケモンって皆自分のポケモンだから、そんなことが起きる状況じゃなかったよ」
「何度も出ている人だと、自分のポケモンを役者として出したりするんだ」
「うん、寧ろそっちが目的の人もいる位だよ。自分と自分のポケモンを1つの作品にして出すんだって意気込む人が多いから」
そんなポケウッドの裏話やポケウッドで販売されているグッズ何かの話をしている内に、サザナミタウンへ到着する。
「ようやく着いたーー!」
時刻は昼を回って13時30分。ライモンシティを出たのが12時過ぎだったから、1時間以上は電車の中にいた。こうして乗客として乗ったから分かったけど、確かに地下を1時間以上走るのなら何かしらの娯楽が欲しい。ただ、だからと言って電車の中でバトルって、どうしてそうなったんだろう。中継にするとか出来なかったんだろうか。挑戦している身で言うのも変な話だけど。
「やっぱり、サザナミタウンはいい景色だなぁ……」
ルリさんの言う通り、今日のサザナミタウンは絶好の天気だ。
「うん、あの時は夕方だから気付けなかったけど、海の色がすごく青いし、風が気持ちいい。あの時もそうだったな」
「あの時?」
「うん、電車の中で話したと思うけど最初にサザナミタウンへ着いた時、意識してない内に溜めこんでいてさ。ポケモン図鑑はまぁ……そこまでじゃなかったけど、アベニューのこと、しょっちゅうプラズマ団を見かけていてどうしてもプラズマ団のことを意識しなきゃいけなかった。他にもあるんだけど、こう……自分で余裕を失くしていたんだよ」
あの時だっけ、ヒュウと戦ってかなり苦戦した時は。あの後もこうして海を見て、のんびりしたんだったな。
「そうだったんだ……」
「だから、何だかんだルリさんと会話出来たのは俺もありがたかったんだ。他の先輩トレーナーとポケモンセンターで話すことはあったけど、個人的な事情を話すのは……さ」
「そっか。私も楽しかったから、キョウヘイ君の負担になっていなくて良かった。それから……そろそろお昼にする?」
「うん。もうお腹が鳴りそうだから食べたい」
皆をボールから出して自由時間にしつつ、ルリさんは持って来てくれた弁当を取り出している間、俺はレジャーシートを広げる。一人だったら砂浜だし気にしないけど、今日はルリさんがいるからね。
「ありがとう、キョウヘイ君」
ルリさんも弁当を取り出してくれたみたい。見たところサンドウィッチだ。食パンに挟むタイプのサンドウィッチで色々な具材を挟んでくれている。これなら味に飽きることはないだろう。
「パルデア地方ってところでは、これとは違うパンを使うのが主流なんだよ」
「そうなんだ。ところで、何でそんな変な顔を?」
サンドウィッチって、パンを具材に挟む料理だよね。何で嫌な記憶を思い出したかのような顔を……
「あぁ、うん。パンの挟み方が独特な人もいるらしくて……ね?」
これ、あまり聞かない方がいいやつか。
「そ、そうなんだ……それじゃ、いただきます」
「……どう、キョウヘイ君?」
まずは王道のシンプルな卵サンド。一口、二口と食べ進めて……ぴりっとした胡椒のアクセントが堪らない。
「美味しい!」
「良かった。まだまだあるから、食べていいからね」
以前、料理もやっているとは聞いたけど、美味しい。俺はトレーナーだからポケモンの食事には気を遣う方だけど、その分自分のは後回しにしちゃうところだあった。旅の中だったら……大体ポケモンセンター周辺で済ませるか、道路の途中だったらインスタントか手持ち出来る食事で済ませていた気がする。
だから、自分の為に作って貰った料理というのが……思った以上に嬉しい。
「ご馳走様」
「口に合ったなら、良かった」
食事を終えた俺達は、砂浜から海を眺めながらポケモン達を眺めている。その中でも一番楽しんでいるのがラプラスだ。ルリさんもポケモンをボールから出して自由にする時間は取っているようだけど、ラプラスが遊べるような水辺は早々ないらしく窮屈な思いをさせているとルリさんが言っていた。だからこうして、わざわざサザナミタウンまでやってきたんだけど、その甲斐はあったようだ。上機嫌に辺りを泳いでいる。俺のメンバーもそれぞれの過ごし方をしている。
ダイケンキはラプラスと一緒に海へ出て泳いでいる。ウォーグルはルリさんのプリンが何処かへ行かないように注意しつつもビーチの上空を、文字通り翼を広げて飛んでいる。ゾロアークは体色が黒のせいで暑いらしく日差しの当たる砂浜ではなく、木陰のある場所で風を感じている。ルカリオはウインディと一緒に周囲を走った後、静かな場所で瞑想をしている。ここ最近、静かな場所に行かせてあげられなかったのは悪かった。ルリさんにとって一番長い付き合いのパッチールは、日差しの暑さを嫌って、ルリさんの横にいる。さて、残りのサンダースは……
「そう言えばキョウヘイ君」
「なに?」
「以前、キョウヘイ君が交換してくれたイーブイの親って……」
そのサンダースにイーブイはじゃれついている。サンダースもある程度自由に過ごした後は、絡んでくるイーブイの相手をしている。
「うん、そういうこと。少しメンバーを預けたことがあってさ。その時に貰ったんだよ」
「そっか……ふふ」
「?」
確か、以前イーブイいいなぁと言っていた気がするし、ルリさんなら大丈夫と思って交換したけど……何かあったっけ?
「何でもないよ……あっ、もうこんな時間だね」
時計を見れば午後の3時50分。確かにそろそろ切り上げないといけない頃だ。
「そろそろ戻るけど、皆いいか?」
「皆、そろそろ行くから戻ろうね」
16時20分の電車に乗れば、18時前にはライモンシティに到着するはずだ。