ライブキャスターを返す前日の夜、サザナミシティのポケモンセンターで眠るまでの間のこと。キョウヘイはライブキャスターを取り出して誰かに連絡を取ろうとしていた。
「さて、あの人には繋がるかな……」
その通話先は……
「そちらから連絡とは珍しいですね……キョウヘイ様」
アベニューの運営を担当している秘書の二人。通話先の画面は不明だが、イチミさんの声が聞こえる。
「はい。遅い時間に電話をしてごめんなさい。イチミさん達に伝えたい事があったので連絡しました」
「それは何でしょうか。もしや、先にお願いした件でしょうか」
「一度、イチミさんやミライさんに聞いてもらって意見を聞きたいなと思って連絡を取りました」
「それで、どのような名前に?」
ゆっくりと急かすことなくイチミさんが自分の回答を促す。
「それで名前はLAWDにしたいと考えています」
「その理由、お聞きしても?」
さて、俺の案をイチミさんやミライさん。店舗を出している人達はどう思うだろうか。
「はい、やっぱりライモンシティとヒウンシティの間にありますから、遊ぶ人、仕事帰りの人そういった人たちが休憩場所や買い物をする場所として使ってほしい……そして、LAWDはそれらの意味を持つ単語の頭文字になります」
こうして自分の意見を他の誰か……それも、色々な経験をしている筈の大人の人に堂々と言うのは緊張する。けれど、これは必要なことだし、避けてはいけないことだ。なんだかんだアベニューを続けていけているけれど、それはいつもアベニューにいる二人の力があってこそ。だからこそ、負担になる部分は少しでも減らしていきたい。
「なるほど、LAWDはそれらの略称という認識でいいですか?」
「はい」
……さぁ、どうだろうか。
「ありがとうございます。よく考えられた……それでいて呼びやすい名前だと思います。正直、もっと複雑な名前やライモンシティに名前負けしない派手な名前を持ってくると思っていましたが、とても良いと思います」
正直、ほっとした。改めて、いいタイミングでルリさんへ相談出来た気がする。
「ありがとうございます。ところで、こういう時ってセールをした方がいいんでしょうか。今までは仮の名前で出していたと思うんですけど……」
「ええ、キョウヘイ様も考えてくださっていること、心強く思います。それは私もミライも考えております。名前を新しくする上で近い内に一度、足を運んで頂けますか?」
「分かりました。少し、持ち物の確認やバトルできる人も欲しいなと考えていたので、明日行きますね」
「了解しました。到着しましたら、いつもの部屋にお越しください」
「──はい、それでは失礼します」
方針は決まった。なら、後は休むだけだ。
「今度、ルリさんにお礼を言っておかないとなあ……」
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翌日、朝食を簡単に済ませてからウォーグルの空を飛ぶで移動する。
「こんな朝からごめんな、ウォーグル」
少し眠さの残る声で返事をしたウォーグルだったが、気にするなと言わんばかりにイッシュ地方の上空を高く飛ぶ。その高さはイッシュ地方の名物である観覧車よりも高く、ライモンシティからフキヨセシティまで一望できるまでの高さだ。
こうして思い返すと、イッシュ地方をかなり駆け巡ったことが分かる。これでもまだ通っていない町もあるのだから、改めてイッシュ地方の広さに驚くばかりだ。
「お、そろそろだな」
観覧車が見えてからウォーグルは下降していく。そうして、アベニュー前で何時も通り飛び降りた。
「よし、ウォーグル。お疲れ様」
一鳴きしてモンスターボールへ戻っていく。それを確認してアベニューへ入り、事務室の扉を開けた。
イチミさんとミライさんが来てから、名前を変えるにあたっての意見交換を進めることに。
セールと言えば、ママがよく特売の時にスーパーへ足を運んでいた時を思い出す。安い商品を事前にビラで確認してから向かっていたけど……
「正式な名前を出すにあたって……ビラ配りとかって必要でしょうか」
「そうですね。昨日もそれについて話しましたが、時間が足りないかと。新しい顧客を増やすきっかけになると思うのですが、効果が限定的になると思います」
そうなると、次に出来る考えってこの程度だよなぁ……
「では、全体的に少し割引をする方向でしょうか。5%とかですかね?」
あまり店舗の方にも負担にならないぐらいがいいだろう。さて、イチミさんとミライさんは……示し合わせたように二人で頷いた。及第点、だろうか。
「それで良いと思います」
「私も、同意見です」
「では、何時頃やりますか。名前を取り換えることは出来ますけど……お店の方に割引を急遽お願いするのは難しいですよね」
「それに関しては既に連絡しています。正式な名前が決まったら、一度セールを始める旨は伝えていますし、前回キョウヘイ様が旅立った後にセールを近くに行うと伝えていましたので」
いつの間にそんなことを……いや、助かりますけど。
「既に店舗を出しているメンバーには伝えておりますので、やろうと思えば直ぐに行いますが、如何しましょうか」
うん、ポケモンバトルで考えよう。……こういう時だったらキョウヘイはどうする。迷いのある指示を出せば、ポケモンだって動きが鈍る。なら、迷っちゃいけない。今のタイミングで個別に割引するなんて難しいだろう。
「うん、やろう。アベニューの出入り口に置けば、そう時間は掛からないはず」
「分かりました。イチミ、立て看板等の準備をお願い出来ますか」
「了解、ミライの方は店舗のメンバーに伝達を」
二人がてきぱきと動いていく。こうなると、俺も何かした方がいいけれど……一体、何をすれば。
「ええと、俺はどうすれば」
俺の呟きが聞こえたのか、ミライさんがある棚を指してくれた。
「良ければ、ここで店舗の人からの声を確認してみては如何でしょうか。取りまとめた資料がありますので」
「ありがとう。確認します」
こういう書類仕事ってやったことないけど、しっかり目を通すのって大変だな……。幸い、いわなだれのように大量にある訳でもないから、二人がいなくても何とかできそうだ。
それにしても……色々な意見があるな。
・スポーツ用品を取り扱ってほしい。
・ミュージカルやスポーツ観戦に使えるアイテムって売っていますか?
・2年前に出会い、交わし、そしてボクの心を埋め尽くしたあの夏。そして、夏の終わりと共に去っていった少年に会いたいです。このアベニューが多くの人に利用されるのであれば、どうか探してくれますか?
・ポケモンバトルでよくプラスパワーやディフェンダーを使うんですが、それをまとめ買いしたいです。
・最近、ポケモンのタマゴを友達から貰ったんだけど、中々孵ってくれません。これじゃ足が棒になっちゃいます。卵の孵化をお手伝いしてくれる場所、ってありますか?
・ライモンシティにはよく来るのですが、子供を一時的に預かれる場所があると嬉しいです。
・いつも利用しています。店のメニューがもっと増えてくれると嬉しいです!
・新規事業を展開していると聞いてやってきたが、こりゃあ繁盛する訳だ。同じく社長の身として、どれだけ発展できるか勝負しようじゃねえか。それから、古道具屋は悪く無かったぞ。
・ライモンシティに行った時、カフェをいつも利用しています。もう少しラインナップを増やすことは出来ますか。
・ポケモンの強化アイテムや傷薬なんかもまとめ買いしたいです。
一部、変なのあった気がするし、一人はこれ……ヤーコンさんだよね。まぁそれは置いといて……幾つか気になる要望があった。
「道具のまとめ買いか」
これは自分も欲しい所だ。出来れば沢山買うと安くなるおまけがあると嬉しいけれど……確か、今のマーケットではポケモンバトルに関わる商品はあんまり取り扱っていないんだっけ。これは、俺も欲しいなぁ。それと、これも気になるな。
「ポケモンで言うと預かり屋さんか……」
子供を一時的に預かる場所が欲しい……か。そうなると、保育所がいいんだろうけど……前に戻った時に店舗開設希望者の要望には書いていなかったな。けど、この意見も似た方向で複数あるし、頭に留めておこう。
「えーと、後は……」
要望依頼の書類を基の場所に戻し、続いてアベニューの近況を確認する。どうやら、緩やかではあるが右肩上がりに来ている人も増えているし、特にカフェとマーケットの利用率が増えているようだ。客層の情報は……ない、か。だけど、記録によれば、ヒウンシティで働いているような30代以上の人も増えているらしい。ただ、気になる点もある。
「アベニューには入るけど、お店を利用しない人もいるのか」
アベニューに入ったものの、何もせずに出てきた割合も相当数いることだ。町のご老人が散歩のコースとして使っているとかだろうか。うーん、これだけじゃよく分からない。やっぱり、店の案内をした方が良いだろうか。
「……様……ヘイ様」
「あっと……ごめんなさい。イチミさん、ミライさん」
「いえ、各店舗の店員への通知から割引の実施、出入り口へ看板の設置が終わりました」
「今から割引を始めることも伝え終えています」
「ありがとう。早速始めようか。それで、二人が戻ってくるまでにアベニューへの要望を見たけれど……幾つか気になる要望があったよ」
「ご覧になられましたか。何か気になる要望はありましたか」
「個人的に3つ。1つはポケモンや子供を預かれるような施設。もう一つは商品のラインナップ増加、それからもう一つ、マーケットとかで商品のまとめ買いをしたいっていう要望かな」
「なるほど。1つ目については了解しました。もし、そう言った店舗を希望されていたらピックアップしておきます」
「ありがとう」
「2つ目、3つ目ですが……各店舗でも、ある程度の売り上げが出た時点でやっていきたいという要望を伺っています。仕入先との調整が必要ですが、此方も準備を進めております」
こうして色々とやってくれるのは本当に有難いけど、何か俺もやった方がいいよなぁ……
「それって、俺も何か出来たりする?」
「そうですね……それならば、アベニューの知名度を今よりも上げる必要があると思います。ところで、キョウヘイ様は不特定多数の方に自分の活躍などを見てもらいたい方でしょうか」
うーん……何が起きるか分からないけど、プラズマ団と敵対している今の状況知ったら、絶対に面倒なことになるよね。
「……あまり好きじゃないかな。でも、必要になってくるということだよね」
俺の答えを予想していたイチミさんが……
「そうですね。ですが、もう一つ方法があります」
「それは?」
電光石火のように意見を提示してくれた。
「知名度のある方を招待することです。例えば、既にキョウヘイ様が戦ったジムリーダーなどはどうでしょうか。ヤーコン様以外にも挑戦されたのでしょう」
確かに、それなら知られる人数も限られる上に、多くの人に知ってもらえる効率的な手法だ。
「なるほど、それは良さそうです」
「ですが勿論、それをするからにはジム制覇は最低限必要になってきますが……そちらは大丈夫でしょうか」
ふと、昨日のルリさんとの会話を思い出す。まだ集まり切っていないのに、ちょっとした見栄を張ったことを。
「そうだね、今は6個だけど、8個までは確実に集めるよ」
あの時はちょっとした見栄だった。だけど、トレーナーの1人として勿論ポケモンリーグに挑戦したい。そして、それがこのアベニューの役にも立つなら、確実にやろう。もし、ポケモンのレベルが足りないと感じたら、経験を積んでいけばいいんだ。
「ありがとうございます。もし、私どもでも手伝えることがあれば、気軽に言ってくださいね」
よし、一区切りついたかな。
「今、他に俺がしなきゃならないことはありますか?」
イチミさんとミライさんが目を合わせたものの……そう言った課題は出てこなかったらしい。
「いえ、それでは旅の方に戻られますか?」
「いや、今日はここにいる。ただ、アベニューやライモンシティで道具を買ったり、スタジアムとかでバトルをしていきたいと思っています」
「畏まりました。それでは、用事がありましたらこちらまでお越しください」
そうして、二人は普段の業務へ戻っていく。
「うん、いつもありがとう。イチミさん、ミライさん」
管理室を後にして、何となくアベニューを歩いてみる。セールを始めたからか、興味本位で店を見ている人も多い。家族連れや若い男女、それからご老人……ざっと見ても通りだけで20名はいる。これがもっと発展すると人数が更に増えていくのだろうか。
「全然、イメージできないけど」
とは言え、賑やかな様子を見ると好きだ。流れで受けてしまったが、これを続けるのも悪くない。
人で賑わうアベニューを徒歩で進み、そのままライモンシティまで移動する。アベニューの賑わいも好きだが、ライモンシティはライモンシティで別の賑わいがある。やはり、イッシュ一の娯楽施設が集まる場所だからか、若い人の歓声が多く聞こえてくる。そんな歓声を聞きながら何となく散策していた時、聞きなれた着信音が。
「おや……ルリさんか」
通話を始めると、控えめな声がライブキャスターから響く。何時もなら、休憩時間の合間で駆けてくれているらしく、短い話で終わってしまうが……
「あの……キョウヘイさんですか?」
「今日はお仕事がお休みなのでお預かりして貰っているライブキャスターを受け取りに行きたいんですけど……キョウヘイさんの予定は空いていますか?」
ああ、この関係も今日で終わりか。
「はい、空いていますよ」
けど、元々は落とし物。何時かは返さないとルリさんにとっても問題になるはずだ。そう思えば、落とし物をようやく渡せるという面で一つホッとで一息つけるはずなんだけど……何処か残念に感じる自分がいた。
「えっ、空いているんですか。よかった……それではライモンシティの観覧車の前でお待ちしましょう」
「分かりました。そこまで時間かからないと思いますけど、慌てて来なくていいですからね」
「はい。それでは、キョウヘイさんとお会いできるのを楽しみにしていますね。では、さようなら」
あ。自分も今ライモンシティにいると言い損ねてしまった。……それにしてもルリさん。俺の勘違いじゃなければ、急いで来そうな気がするけど大丈夫かな。
「ま、まぁ、家から来るなら時間もかかるはずだし……次の町へ向かう準備をしてから、観覧車の前へ行こう」
きっと、時間もまだあるだろう。そう考えて、対戦相手を求めてビッグスタジアムへ向かう。その途中、白いつば広帽子を被った若い女性とすれ違った。
「何か急いでいたな、あの人」
慌てていたようだけど、大丈夫だろうか。
ビッグスタジアムに入って数分したものの、一人とも勝負をしないままビッグスタジアムの試合を何となく眺めている。
「うーん……」
自分自身でも分かっていたが、どうも約束が気になって、ポケモンバトルをしようと思えないのだ。なので、上の空でスタジアム内の試合を見ていたのだが、試合内容も丸で頭に入らない。そんなキョウヘイを見兼ねてか、腰につけているモンスターボールが一斉に揺れ始める。
「な、何だよ。お前ら」
ボールの一部分から彼らの様子がちらりと映る。おかしい、性格がバラバラな筈の彼らがニヤニヤとこっちを見て笑っている。
「……そりゃ気になるさ、悪い?」
揶揄っているのだと気づき、思わず不貞腐れる。
「あー……もう。行けばいーんだろ、行けば!」
早々に用事を済ませようと、早足でスタジアムを出ていった。
ライモンシティの観覧車……それは若者の街とも言われ、イッシュ地方の中でも遊興施設が集まる中でもシンボルと言える存在だ。若い男女であればデートの約束の地、子供であればイッシュ地方を見渡せる景観が楽しめる地だ。巷では出会いに餓えた男女や観覧車には不釣り合いな山男がいるという噂を除けば、デートの聖地とも呼べる場所だ。
「まぁ、乗れないんですけどね」
あまりにも名物となったことで、2名で乗らなければならないという制約が付いた。そして、その制約のお陰で多くの独り身が血の涙を流しているらしい。以前、ヒュウと乗ったことがあったけれど、確かにあの眺めはポケモンに乗る以外で中々お目に掛かれる物じゃない。だから、人気になるのもよく分かる。
「……ん?」
二人組の男女、あるいは友人同士が並んでいる中、列の近くで白いつば広帽子を被った薄桃の髪を伸ばす女性がいた。帽子を深く被りながら、周囲をきょろきょろとしている……うーん、気になる。というかあの人、さっきすれ違った人じゃないか?
「あの人、かなぁ?」
自分と同様にその人が気になった誰かがが話しかけた所、びくりと肩を上下させて首を左右に振ると、再び帽子を深く被った。うーん、どうしてあの人はこんな場所にいるんだろうか。人見知りだとしたら、元々人の少ない場所にいそうなものだけど……それをしていないということは、あの人がルリさんなのだろうか。
「……」
だとしても、あの様子なら例え普通に話しかけても、さっきの人と同じ対応になるよね。
さて、どうしようかと悩んだ時、再び動くボールが二つ。
「ん?」
ルカリオとダイケンキが俺の腕を差すような素振りを見せて……ああ、そういうことか。確かにそれなら、違ったら違ったで構わない。うん、試してみる価値がありそうだ。
「あの、すみま……」
「わっわたし、違いますから!」
その高速移動を思わせる素早い動きに驚きつつも、ルリさん宛の通話ボタンを押す。すると、目の前の女性の動きが止まった。
「……え?」
そうして、彼女のライブキャスターの画面とこちらを何度も見て……
「もしかして……キョウヘイさんですか?」
「はい。初めまして、キョウヘイです」
よし、ようやく落ち着いてくれたかな。
「すっ、すみません!」
相も変わらず頭を下げる速さに驚いた。帽子が落ちないだろうか。
「私、勘違いしてしまって……えっと、はじめまして……ですね。私、ルリです」
なんだなんだ、とこちらを見る二人組の人達……まぁ、そりゃ気になるか。ルリさんが周囲の目に気付いたのか、帽子を再度深々と被ってしまう。うーん、このままでは進む話も進まないな。
「少し、移動しますか。えーと……ジェットコースターの奥にあるベンチとかどうでしょうか」
「は、はい、そうですね」
若干人の目が集まりつつある列から離れ、ジェットコースターの前を通り、ピカチュウとピチューの大きなバルーンまで歩く。そして、その先の花壇の奥にベンチがあった筈だ。
「ああ、良かった。空いていて」
「そ、そうですね……それにしてもイメージと違っていたので驚いちゃ……てしまいました」
「俺のイメージって一体……」
よく声が高いとか言われるし、自覚もある。うーん、早くヒュウみたいに声変わりしないかな。
「確かに声は高いですけど、とても落ち着きがある人だと思っていたから、大人っぽく聞こえていたんです」
「あー……」
もしかして、プラズマ団との抗争やアベニューについて話していく内に、色々と慣れてしまったんだろうか。いいのやら、悪いのやら。
「あはは……」
それから、どうもこの人の距離感が分からない。一歩引きながら悪戯を仕掛けてくるサンダースのようだ。いや、これはサンダースの逃げ足が速いだけかもしれないけど。
「年齢も近そうだから余所余所しく話さなくていいですよ。俺もそっちの方が楽だし」
「そ、そうですね。普通に喋りますね……ふふっ」
深く被った帽子をルリさんが少し上げてくれたので、少しは顔が見られ……
「……まずはこれ、返さないと」
…………あっぶねー。キョウヘイ、深呼吸だ。あんまり意識していなかったけど、ルリさんかなり綺麗な人なんじゃ……
「ありがとう、キョウヘイくん。中々時間が取れなくて遅くなっちゃってごめんなさい。でも、キョウヘイくんとのおしゃべりは楽しかったから遅くなってラッキーだったかな?」
……ただでさえ瀕死に近かったのに、さらっと、捨て身タックル級の言葉を言われた気がする。
「あはは……」
「あの……よかったらこれからも話し相手になってくれないかな?」
えっと……何だこれ、何だこの展開。
「……あ、はい。俺で良ければ」
「良かった……断られたらどうしようかとドキドキしちゃった!」
本当だよ。こっちだってあまりのことに固まりそうなのに!
「それと、もう一つお願いがあるの」
何だろう?
「私、ライブキャスターをキョウヘイ君にかけすぎちゃってマ……じゃなくて仕事場の先輩に怒られちゃったの」
あー……確かに、それなりに連絡取っていたけど、少ない休みの時間の中でかけてくれたってことだし、それが見つかっちゃったってことか。
「だから、キョウヘイくんから連絡をくれないかな?」
「はい。いいですよ」
断る理由なんて、何一つない。
「えっ、いいの。よかった……キョウヘイくんて優しいね」
「そ、そうかな……」
「ふふっ」
「普段だと私は仕事場にいることが多いから電波が繋がりにくいかもしれないんだけど……こまめにライブキャスターをチェックして連絡をくれるとうれしい……かな」
……どんな仕事をしているかは分からないけど、追っかけみたいな連絡方法でいいの、これ。
「あはは……」
「ごめんね。家族で今日はライモンシティに来ているから……じゃあ、今日はこれで帰るね。さようなら、キョウヘイくん」
ルリさんがベンチから立ち上がって去って行く。最後にこっちを見て一度頭を下げて、今度こそ帰って行った。
「……ふー」
とりあえず終わった……で、いいんだよな。まさかの展開ばかりで正直頭が追い付いていないけれど……
「ルリさん……か」
だいぶ、だいぶ破壊力があった。アベニューで話していたことが頭から飛んだくらい。
何処か違う世界に住んでいるルリさんは、引っ込み思案に見えて天然で……それでいて、周囲の目を気にしている人だった。きっと、何をしているかは聞かない方がいいんだろう。今までその話だけは出てきたことが無かったし。
「あー……」
見上げた先にあった太陽は今日も明るく、自分たちのことを見守っているようだった。
一旦、連続投稿は此処まで。
纏まった時間が取れたら、2の方の転載も行います。
(pixivとハーメルンで書き方の書式が違っていることや文章全体を再度推敲している【結構粗があるんですよねぇ……】ので、意外と時間がかかるのです……)