僕は僕で色々と調べておく必要があるからね。とりあえず生徒会長と教師陣、あとは各学年の代表候補生のデータをメインにしておくとしよう。そうと決まれば早速生徒会室に……と生きたいところだったんだけど、僕の目の前には長い金髪縦ロールのクラスメイトが立っていた。彼女は透き通った碧眼の持ち主で、プライドはかなり高そうなお嬢様といった雰囲気だった。IS学園の制服は生徒によってカスタマイズ可能だが、彼女の制服はパニエ、ペチコートを組み込んでドレスみたいだ。黒いストッキングを着用しているのも特徴的かな?
「貴方、ISの適性が無いと先ほど仰っていましたわよね?そんな男性が何故IS学園にいるのですか?」
「僕がこの学園にいる理由かい?織斑一夏退の監視、保護が主な仕事かな?君の名前は確かセシリア・オルコットだったね、イギリスの代表候補生で試験運用されているBTシステムの適性持ちだったかな?専用機は第3世代型《ブルー・ティアーズ》、BTシステムのサンプリング試験機らしいね」
「……貴方何処まで知ってますの?」
「知っていることだけだよ、それに僕はIS開発研究所に居たって自己紹介でも話したはずだよ。だからそう言った知識は詳しくないとね?」
自分の頭をポンポンと叩きながら目の前のオルコットにそう言うと、彼女はなんとも言えない表情をしていた。正直僕は彼女が一夏くんの敵や障害にならなければどうでも良いんだけどね、運良く友達になってくれたらISの知識も深まるかも知れないから万々歳なんだけど……このプライドの高さだと難しそうだね。
「さてと、話はもう良いかい?あと数秒で呼び鈴が鳴ってしまうからね」
そう言って僕が席に着くとオルコットは何か言いたそうにしていたが、席に戻って行った。ふむ、BTシステムのデータは正直欲しい。適性が無かったとしても操縦者によっては変わった使い方をしてくれるかもしれない、どうにかしてデータ盗めないかな……
「さて授業を始める。と言いたいところだが、再来週に行われるクラス対抗戦に出場するこのクラスの代表を決める。言葉そのままの意味だ、誰かやりたいヤツはいるか?自薦他薦は問わん」
クラス長を決めるのか、僕には無縁な話だね。ISを動かせなければその代用の機体もまだ無い、一夏くんが代表になるっていう手もあるけど、どう考えても実力不足だろうし。ここは代表候補生のオルコットを推薦するのが無───
「はい!織斑くんを推薦します!」
「私もそれが良いと思います!」
「私も賛成です!」
物珍しい男性操縦者だから、なんて理由で推薦したのかい?全く、そんな勢い任せに推薦して大丈夫なのかな?ただ僕としても一夏のデータは気になるところ、対抗戦後のデータを千冬に言えば渡してくれるかな?多分無理な気がする。
「お、俺!?無理ですよ!?ISも操縦したこと無いんですよ!?」
「仕方ないよ一夏くん、これで他の推薦もしくは自薦が出なかったら見事に君はこのクラスの代表者だ。一夏くんが誰かを推薦しても良いんだよ?」
「……じゃあ咲夜さんで」
おっと、まさか僕に話が回ってくるとは思わなかった。だけど一夏くん、僕はISの適性が無いんだ。つまり代表者になったとしてもクラス対抗戦には出られない、形だけの代表者になってしまうんだよ。まぁ束の機体がISと同等の能力を秘めていれば、別のお話だけどね。
「一夏くん、僕を推薦してくれたことは嬉しい。だけど僕はこのクラスがしっかりと成長するのを考えて、イギリスの代表候補生であるオルコットさんを推薦しようかな」
「……わたくしをですか」
「そう。代表候補生というのは少なくともIS稼働時間はゼロでは無い、一般生徒よりも努力しているエリートと言うことになる。一夏くんに詳しく説明すると、代表候補生というのはその国の代表者になり得る可能性を秘めた人物ということ。だからこれから数ヶ月の授業の内容は既に頭の中に入っていることになるしある程度ISの操縦を熟知している、僕ら二人と彼女を比べてもスタートダッシュの差は歴然。そもそも僕には適性が無いからスタートも無いんだけどね。一夏くんが彼女に追いつけるとしてもそれにはかなりの努力と知識が必要になるわけだ。まぁ何かしらの可能性で君がオルコットに勝てる可能性もあるんだけどね」
「俺が……?」
「そんなのあり得ませんわ!」
「ありえない、ね?この世界に絶対なんて事は無いんだよ。絶対に男性には操縦できないISだったインフィニット・ストラトスも、今はこうして織斑一夏という存在によって絶対という言葉は無くなった。ISに備わっている絶対防御も、絶対に防いでくれるというわけでは無い。操縦者が死亡しなければ良いんだから、それ以外の危機では防いでくれない。もう一度言おう、この世に絶対・絶対的なものは無い」
僕がそう言い終えると、教室は静かになってしまった。「絶対は絶対にない」一見すれば矛盾の様に見えるこの言葉だけど、不可能な事など無いという前向きな意味と、油断は禁物だという戒めの意味がある言葉だ。
一夏がセシリアに勝つかも知れない、もしかしたら僕にもISの適性があるのかも知れない。今はまだ無理でもその内実現するかも知れない。セシリアのプライドは高い、いつしかそのプライドが砕け散る日が必ず訪れる。そして一夏もきっと……
「……他に自薦他薦する者はいないな?織斑、オルコット、柊の中から決めることになるが……異論は無いようだな」
僕が代表になっても何の意味も無いってば、それとも模擬戦でもして一番強いヤツが代表者になる。とでも言うつもりなのかな?そうだとしたら間違いなく僕らは90%の確立で負けるよ?
「一週間後、三人には第3アリーナで模擬戦を行って貰う。そこで勝利した者を代表者とする、異論は無いな!」
ありまくりだよ!
「千冬」
「織斑先生だ、馬鹿者」
「……ちーちゃぁぁぁぁぁ!?!?!?頭!頭がつぶれるぅぅぅっ!!!!」
「二度も言わせるつもりか、大馬鹿者」
冗談じゃないか!幼馴染みの軽い冗談だったじゃ無いか!アイアンクローは容赦が無いよ千冬!頭からミシミシって鳴ったら駄目な音が聞こえてきてるよぉぉ!!!それに足が底に着いてないから!浮いてるから!おろしてぇぇぇぇ!!!
「千冬姉!そこまでにぃぃぃぃぃ!?!?!?」
「織斑先生だ……この馬鹿者共!」
一夏くんもアイアンクロー!?弟に容赦ないなこの姉ぇ!?
「アリーナで戦うって言っても、一夏くんには機体がないだろう!?それともどこからか専用機でも届くのかい!?」
僕がそう言うと千冬の表情がピクッと動いた、どうやら大当たりみたいだ。それはそれとして速く地に足を着けさせてくれないかい?ずっと掴まれて浮いているんだが……
「柊、お前の予想通りだ。一夏には専用機が渡る予定だ。お前にもな」
「えっ!?咲夜さんにも!?だけど適性が……」
「そう、こいつには適性が無い。だからISとは違う機体が渡される予定だ」
千冬の言葉に教室全体がザワザワとし始めた、オルコットでさえ表情を変えてこちらを見ている。まったく君は……まあいいさ。
「……とりあえず離してくれないかい、織斑先生。さっきからずっと足が地に着いていないんだ」
「最初からそう呼べ、馬鹿者が」
僕と一夏くんを掴んでいた手が力を抜いてゆっくりと離れる、全く痛かったじゃないか!それにしても専用機持ちが三人このクラスにいる事になったからか、僕たちに視線が集まってるね。
「専用機持ち……つまり政府からの支援が出るって事だよね」
「絶対データ目的だけど、羨ましいよね」
「でも柊さんはISじゃないんでしょ?なんだろうね……?」
なんだろうね、僕も機体のことを理解していないから同じ気持ちだよ。でも束が関係しているから絶対ろくな機体じゃないんだよね……自爆装置とかついてそう。ついてたら絶対に外してやる。
それにしても一夏くんの専用機か、どんな機体だろう気になるな。千冬が暮桜ってISに乗ってたこともあるからそれに似た武装の機体なのかな?それとも同じコンセプトなのかな?気になるなぁ……僕の機体、まともだと良いなぁ
「一夏くんはハンデを貰いなよ、今の状態じゃまともに操れるわけが無い。専用機が当日に届く可能性もあるし、ぶっつけ本番になりそうだからね」
「えっ……咲夜さんの機体はどうなんですか?」
「僕の機体も恐らくその前日、もしくは当日に届くことになるだろうね。IS学園に在籍すること自体、一週間で決まった話だからね。そのおかげでこの制服は僕のアイディアじゃなくて織斑先生が僕に着せたい制服だからね?成人男性しかも幼馴染みにこんな制服を着せて、それを眺めるのは楽しいかい?」
僕の制服はユニセックスタイプで上はスタジャン風、下はサスペンダーボトムス。しかもサルエルパンツタイプだ。少し大きいサイズを僕が頼んだからか、萌え袖みたいになってるしボトムスはブカブカでベルトで無理矢理腰からずれないようにしてある。全く千冬、これは君の趣味なのかい?
「……私が決めたデザインでは無い」
「ダウト、僕が制服の話をしたのは千冬だけだよ。だから千冬いぎゃぁぁぁぁ!?!?」
「私が!決めた!デザインでは無い!分かった!」
「分かった!分かったってば!!!痛いいぃぃ!!!つぶりぇりゅ!つぶりぇりゅぅぅ!!!」
瞬時にアイアンクローしてくるあたり、絶対に千冬がこのデザインに決めたのは間違いなかった。全くそこまで顔を赤くして否定しなくても良いじゃ無いか……意外と気に入ってるんだよ、このデザイン。
クラスの代表の話がなんとかまとまり、僕たち選ばれた三人は一週間の猶予が与えられた。この一週間をどう扱うかで変わってきそうだけど、正直言って僕に出来ることはほとんど無い。一夏くんは箒ちゃんと共にアリーナを借りて訓練機を動かしているらしいが、僕にはそんな事は出来ない。僕には僕のやることがある。
「さてと、ここが生徒会室か……どんな強面がいる事やら」
僕はゆっくりと生徒会室の扉を開けると、そこには誰も居なかった。おかしいな……もう授業は終わって放課後だから一人居ても良いはずなのに、誰も居ないなんて。それに鍵を掛けないなんて不用心にも程がある。
「まぁもう一つ別の用件は無事に出来そうだね」
生徒会長の席にある一台のノートパソコンに手持ちのUSBを差し込んで重要そうなデータを片っ端からコピーしていく。お、他クラスの生徒名簿とかあるじゃないか、ありがたくコピーさせて貰うとしよう。専用機のデータは……流石に生徒会でも持ち合わせない無いか、お?過去のクラス対抗戦や学年別トーナメントの映像データが保管されているじゃないか、これはありがたく頂いていこう。
「あらあら、新入生の可愛い男の子がまさかここまで大胆なことをしてくるなんて思わなかったわ。今すぐにその席から離れれば、お姉さん見逃してあげるわよ?」
モニターに夢中になっていると、そんな声が聞こえてくる。後ろを振り返ると水色のミディアムヘアの生徒が扇子を持って立っていた、ニコニコとこちらに笑みを浮かべているがその笑顔の裏には何かを隠しているようにも見えた。まだ半分ほどしかコピー出来ていないため、時間稼ぎをするとしよう。
彼女の目が一瞬だけ細目でこちらを見たようにも見えたが、気にしないことにしておくとしよう。
「可愛い男の子というのは辞めて頂きたいね、僕はしっかり成人しているからね」
「大丈夫よ、そんな嘘言わなくても。織斑一夏くんでしょ?私は更識楯無、IS学園の生徒会長を務めさせて貰っているわ」
……どうやら一夏くんだと僕は思われているらしい、これを利用するべきかそれともしっかり訂正するべきか。いや時間が欲しい、更識と名乗った彼女の情報も多少知っておくべきか。
「更識、楯無さん?ちゃん?」
「うん、好きに読んでくれて構わないわ。それでどうして織斑くんがここに居るのかしら?もしかして私にISの事を教えて貰いたいとか?」
「……間違いでは無い。実際ISの操縦に関しては無知にも等しい、ISの操縦に長けている人物に直接指導して貰えれば、基本的な操縦や技術のノウハウはある程度頭の中に入れることは出来るだろう」
「あら、意外と頭良いのね。受験の時にIS学園の試験会場に間違えて入ってしまったと聞いた時には、頭がちょっとアレなのかと思ったのだけど」
「人間いつかはボロを出すものだ、完璧な人間など一人も居ない者だよ」
ピクッと、彼女は僕の言葉に一瞬反応したように見えた。彼女は何かを隠している。それが一体何か僕には分からない、だけど一瞬僅か一瞬だけ反応しただけでもそれが大事な物だという事は僕にも分かる。
「それ織斑先生に向かっても言えるの?」
「勿論、彼女とて完璧では無い。人間必ず弱さがある、ただそれを何処まで隠し騙していけるのか。君とてその一人だろう?」
「貴方もね……織斑一夏くん。いいえ、柊咲夜さん」
流石に彼女が聞いていた話と僕の口調が違いすぎて感づいたか、だけどもう遅い。データはしっかりコピーさせて貰った、これからの研究資料とし重宝させて貰うとしよう。
「僕の名前をちゃんと分かったのは感心しよう、だけどそれ以外のこともしっかり目を通しておいた方が良い。例えば一夏くんを狙って既にIS学園に協力者をつくっているとかね」
「えぇ、貴方に言われなくても」
僕は更識から目を離すことなく、USBを抜き取ってゆっくりと生徒会室を去った。手にはしっかりとUSBが握られていて取られはしなかった。
「さてと、これから忙しくなるな……箒ちゃん、一夏くんのこと頼んだよ」