「な、なんでですか?咲夜さんは2勝したじゃないですか!それに、代表を決めるときにそう言う決まりだったはずです!」
模擬戦が終わり僕と一夏くんそしてオルコットが集まって食事をしていた、話の内容は勿論1年1組のクラス代表の件について。僕が運良く2連勝することが出来たが、僕は代表をするつもりは一切無かった。
「うん、確かにそう言った決まりだったね。でもね一夏くん、本来学生で無い僕にこのクラスの代表を任せるのはナンセンスだよ。ここはIS学園、それなら現役の生徒である君たちが代表をした方が収まりが良い。僕はあくまでも特例の転入生で20代、そんな僕が生徒達を背負うことは出来ないよ」
「ですが、柊さんは間違いなくこのクラスではトップですわ。わたくしも油断していたとはいえ負けてしまいましたし……」
「素人相手に油断してしまうのは、誰もが通る道だと思うよ。オルコットくんは第3試合で一夏くん相手に全力を出し切った、それは油断を捨てた代表候補生としてはとても素晴らしい事だ。BT兵器の扱いには適性があったとしてもかなりの練度が必要と聞く、君は努力を積み重ねてきた正にエリートだよ。そんな君が代表になるのも良し、一夏くんのスキルアップのためにあえて彼に代表を譲るのも良しだ。そこはオルコットくんに任せるよ、僕は既に辞退しているからね」
既に千冬には辞退することを伝えてある、元々巻き込まれた形で挑んだ試合だからね。勝っても負けてもどちらでも良かった、ジェダのデータや2人との戦闘データが僅かにでも取れたことが個人的には喜ばしいことだ。
オルコットくんには悪いけどこれ代表候補生としての判断力を鍛える機会だと思ってくれれば良い。
「わたくしが……そうですわね。織斑さんのIS操縦能力は確かに荒削りな面が目立ちますけれど、わたくしや柊さんと対等に戦える実力を秘めています。IS学園の授業やトーナメントなどで更に潜在能力を引き出せる可能性も充分あると思いますわ」
「えっと、それはつまり……」
「わたくしは辞退して織斑さんに代表を譲ることにしますわ」
「う、嘘だろ!?」
うんうん、その方が僕としても面白いし良いと思うよ。特にクラスメイト達の士気が大きく上がることは間違いないだろうからね、彼女らは物珍しい男性操縦者というだけで名前を挙げたのだろうけど、ここまで接戦となれば一夏くんが代表になったとしても文句は無いだろう。あったとしたら何故他の生徒を推薦しなかったのか、納得するまで問い詰めたいところだね。
「お、俺で務まるでしょうか?」
「充分務まると思うよ。それにクラス対抗戦にもそれなりに猶予がある、それまでに少しでも詰めておくことが出来れば充分さ。一夏くんの専用機「ホワイト・ユニコーン」は近中距離をメインとした武装構成、全身装甲型は今となっては珍しい機体なんだけど素肌を晒さないっていうメリットがある。特にISの全身装甲型はシールドバリアーと装甲の二重防壁があるから、操縦者にダメージはほとんど行くことは無いと思って良いよ。ただ高威力な武装に対しては絶対防御が発動するから気をつけてね」
「咲夜さんのパイルバンカーとか?」
「試してみる?」
「い、いえ!!!辞めておきます!」
オルコットさんが吹き飛ばされたのを見たからかな?あれはクリーンヒットした結果だから、身構えていればあそこまでの威力を受けないだろうに。
「とりあえず一夏くんがクラスの代表者になることは確定、オルコットくんは織斑先生に代表を辞退することを説明しておくこと。そうすれば残った一夏くんが代表になるって先生も分かるはずだから」
「わかりましたわ」
「明日の反応が心配なんですけど……」
「大丈夫、絶対に受け入れてくれるさ。受け入れなかったらそもそも推薦するなって話だからね」
僕がクスクス笑いながら話しているのに2人して苦笑いすることは無いんじゃないのかい?僕は事実を言っているつもりなんだけどね……
翌日のホームルームにて、一夏くんが無事1年1組のクラス代表になったことが織斑先生から口頭で伝えられた。生徒達は納得している者と納得できない者に分かれていたが、織斑先生が推薦したのは貴様らだ、と言って黙らせてしまった。流石、生意気な1年生をある程度見てきた教師だ。鎮め方もよく分かっている様子。
それでも納得できないのであれば過去の自分自身を呪うと良いさ。
「クラス代表は織斑一夏で決定だ。では授業を始める!」
そうしてホームルームは強制終了、1限目の授業内容に入ったのだった。
正直一夏くんを代表にしたのはかなり状況的に有利になるかも知れない。今の彼の実力はオルコットくんの言った通り荒削りな面が多い、そもそも一週間のうち使用できる時間は放課後のみ、そんな状態で仕上げろと言われても厳しいのは間違いなかった。しかし一夏くんの天才的なセンスと箒ちゃんによる手厚い特訓のおかげであそこまで持って行けた、そう考えると状況はかなり良い方向に進んでいる。それにこれからはオルコットくんや僕も特訓に参加する、僕の場合は一夏くんの監視や守護、オルコットくんはBT兵器のデータを一つでも多く集めるため。ある意味利害関係は良い方向になっている。午後からはISを使用した実践授業が始まる、オルコットくん、一夏くんは専用機持ちとして見本になるように選出されるだろう。それにこの学園では代表候補生も平等に1から学び直すことになる、もう慣れた動きだろうが基礎を学び直すことは僕の考えとしては正しいと思っているからね。
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、特例として柊。試しに飛んで見せろ」
ふむ、僕はISではないのにこうして前に出されると言うことはそれだけ飛行操縦は重要と言うことだろう。実際あの試合ではほとんど足を地面に着けることなく空中戦が当たり前だった。一夏くんとオルコットくんはすぐにISを展開、一夏くんはまだ慣れていないから展開するのが若干遅れていた。
ISは一度フィッティングしたらずっと操縦者の身体にアクセサリーの形状で待機している。オルコットくんは左耳のイヤーカフス、一夏くんは右腕のガントレット。ガントレットは防具なのだがそこは気にしたら負けなのかもしれない。
「柊、2人を観察していないでさっさと機体を展開──」
千冬の声を遮るように機体を展開する、少し重厚感がある機体が身体を覆っていた。ISのように拡張領域は無いため、武装を身に着けた状態での展開となっていた。
「──したのはいいが、武装は置いていけ」
各センサーを確認しつつ、武装をパージして端の方へまとめることにした。マウントで固定されているだけのため背部のガトリングとミサイルコンテナはすぐに取り外せる仕組みだった、これがあるから武装を簡単に組み替えることが可能になっている。研究開発者の意見としてはかなり便利な方法だ。正直第3世代型機体よりも第2世代型機体の方が個人的に好みだと言っておこう。
オルコットくんはブルー・ティアーズ、一夏くんはホワイト・ユニコーンを装備した状態で地面から十数センチ浮遊していたが、僕は地面に足を着けていた。
2人の機体はあの試合以降に修復が始まっていたが、機体を見るに完全に修復は終わっていた。
「よし、飛べ」
千冬にそう言われると2人の行動は早かった、急上昇して遙か頭上で静止している。スペック上ではホワイト・ユニコーンの方が高いのだがまだ一夏くんは扱い切れているわけでは無さそうだった。それでもオルコットとの差は2秒以内、初心者にしては十分過ぎる実力を持っていると思うよ。
「柊?私の声が聞こえなかったのか?さっさと飛べ!」
地上から2人を見上げていたら千冬に怒られた、それどころか蹴り飛ばされた。悪かったってば、でも研究者としては色々と気になることがいっぱいあるからつい観察したくなるんだよ。これ以上千冬に蹴り飛ばされるのはゴメンなので大人しく急上昇する、ちなみに急上昇と急降下については午前中に座学で習った物だった。「自分の前方に角錐を展開させるイメージ」で行うと教わったが、正直言って人によって異なるだろう。僕の場合は自分自身が自由に空を飛べるのをイメージしているからね。
「なんか、今ひとつイメージが掴めないです。なんで飛べてるんですか?」
「説明しても良いけどかなり長くなるよ?反重力力翼と流動波干渉の話にもなってくるからね。すっごく簡単にまとめるのであればISにはPIC、パッシブ・イナーシャル・キャンセラーが搭載されているからって話になる。これは授業でも習ったとおりISの基本システムで、これで浮遊や加減速を可能にしている。で、そのシステムを詳しく説明するとさっきの反重力力翼とかの話になってくる訳」
「わ、分かりました。説明はしなくていいです……」
「それは残念だね」
「織斑さんには今は難しいかもしれませんわね」
楽しそうに微笑むオルコットくん。流石に代表候補生ともなるとそこまでの知識も叩き込まれるらしい、オルコットくんにも彼のコーチをして貰っている。箒ちゃんが近接面なら、オルコットくんは中遠距離がメイン。それぞれの得意分野に合わせた方が効率が良いからね。最初は僕もコーチとして入ろうとした、そうすれば一夏くんと共に行動できるからね。ただそうした場合1人行動する時間が減ってしまう。それに別行動しているときに一夏くん達が協力しなければいけない場面もあるだろう。そうなったときに平等にレベリングしておいた方が強大な敵が来たとしても対処出来そうだからね。個人的にはホワイト・ユニコーンとブルー・ティアーズの機体データを解析して研究したいところだけど、これから先2人が強くなることを見越して機体データを先送りしてより質の高いデータを手に入れるのも良いだろう。特にブルー・ティアーズのBT兵器は適性が低くても使用可能な有線式の研究開発を行ってみたいからね。
「柊っ!お前わざとか!いつまでそこにいる!早く降りてこい!」
気が付くと通信回線から怒鳴り声が響いていた。見ると、千冬が山田先生からインカムを奪われておたおたしていた。可哀想……あ、僕のせいか。
「もう一度言うぞ!急降下と完全停止をやって見せろ!目標は罰として地上から5センチだ!わかったな!」
「……あ、うん」
気が付けば2人は地上に着地している様子であり、オルコットくんは目標通り着地。一夏くんは僅かに足がめり込んでいた、恐らく完全停止するときに見誤ったのだろう、タイミングを見計らうと地面にめり込むとクラスメイトにもこれで分かっただろう。さて、僕も行くとしよう。
頭から真っ逆さまに落ちていく、そして減速するタイミング見極めてしっかりと体勢を変えて地上へ。
「よっと。ふむ、0.5ミリのズレかな……?」
「よくやった、あとで褒美のゲンコツを渡してやる。覚悟しておけ」
かなり怒ってる、そんなに僕無視したのかな?そう思っているとオルコットくんがこちらに近づいてプライベート回線で教えてくれた。どうやら僕は彼女の言葉を4回無視したらしい、それでかなり激おこプンプン丸になっているという。
「はぁぁぁ……織斑、武装を展開しろ」
「は、はいっ!」
一夏くんはホワイト・ユニコーンに搭載されているビーム・ガトリングガンとシールド、実弾バズーカを展開した。ビームサーベルは背部バックパックに装備されているため既に展開されている状態だった。まだそれぞれの武装をイメージするのが難しいらしく、少し展開には時間が掛かっていた。ただ雪片弐型だけはすんなりと展開している辺りすぐにイメージできるんだろう。千冬が使っていたのをよく見たことあるからかな?
「雪片以外を同じ速さで出せるようになれ」
褒めてあげないのが千冬らしい。
「オルコット、武装を展開しろ」
「はい!」
左手を肩の高さまで上げ、真横に腕を突き出す。一瞬光っただけでその手には狙撃銃のスターライトmkⅢが握られていた。一夏くんより圧倒的に速い。しかもマガジンもしっかりと接続されている、セーフティーを解除すれば即座に射撃可能になる。但し問題があるとすれば僕に銃口が向いていることだろう。
「さすだがな、代表候補生。ただしそのポーズは辞めろ、横にいる柊を撃つつもりか?正面に展開できるようにしろ」
「も、申し訳ありません!」
まぁ人によってはポーズを付けた方が展開イメージがつきやすいとかあるんじゃないかな?ほら戦隊ものとか特撮で変身ポーズ真似する子供みたいに、何度も繰り返した結果身体に染みついてしまった可能性もあるしね。
「オルコット、近接用の武装を展開しろ」
「……っ……うぅ……」
あ、オルコットくんは近接武装の展開が苦手なんだね。一夏くんとの試合で近接武装を全く展開しないからどうしたのかな?って思ってたけど、思わぬ意外性が出てきたね。
「もうっ!インターセプター!」
ヤケクソじゃないか。ちなみに武器の名前を呼ぶのは初心者用の手段として教科書の頭の方に書かれている、代表候補生がそれをするというのはオルコットくんにとっては屈辱的なことだろう。
「何秒かかっている……だから織斑に接近されるんだ」
「っ……」
「初心者相手に簡単に懐を許すな」
「……はい」
そのインターセプターはショートブレードのため、零落白夜やビームサーベルにそこまで耐えられそうに無い。ただある程度耐えられるブレードを持っていながら使用しないという選択肢はないだろう、使用するかしないかでその試合内容も大きく変わる可能性だってあるのだから。
「柊、武装を展開しろ」
「……え?いや、全部あそこにあるんだけど?」
「近接ブレードやナイフはどうした?」
笑顔でそう言う千冬、その額にはまだ青筋が立てられていた。これ完全に怒っているね……
「……持って来いってことかい?」
そうたずねると千冬は笑顔のままだった。このやろう……持ってくれば良いんだろう!?持ってくればぁ!!!
そうして追加武装が入ったコンテナを持ってくると、授業終了の鐘が鳴った。生徒達が校舎に戻っていく中、千冬はただ僕をじっと見ていた。僕は機体を待機状態にして彼女と向かい合っていた。
「千冬……」
「……なんだ?」
「怒ってる?」
「あぁ、怒ってる」
「……ごめんって」