授業終わりの夜。僕はジェダの機体データをコピーしていた、あの試合で僕は一夏くんとオルコットくんと模擬戦闘を行い結果僕は勝った。そのデータがジェダの戦闘ログに記録されているため、ノートパソコンと接続してデータを確認する。
ブルー・ティアーズのBT兵器はやはり試験的な意味合いが多いがデザインとしてはかなりまとまっている方だろう、ただあのミサイルだけ頂けない気がするが……あくまでもBT兵器のサンプリング機と言うことだろう。これから先BT兵器がどう進化していくのか楽しみだが、個人的にBT兵器は足止めとして使うか相手に絶対的なダメージを与えるかで役割が変わってくるだろ。
まず足止め的に威力の低いBT兵器を搭載するのであれば、別の武装を搭載した方がマシだろうし、絶対的なダメージを与えるBT兵器を搭載したとしてもそのBT兵器頼りな機体を開発してしまえば致命的だし、あくまでもBT兵器は補助的な兵器止まりになるんじゃ無いかな?世の中にはBT兵器を大量に搭載し、その全てを簡単に扱えれば無敵と考える人がいるかもしれないが、正直言ってそれで満足か?と聞きたいね。BT兵器で相手を蹂躙するのは最初こそ楽しいだろう。全方位オールレンジ攻撃など手持ちや携行武装ではほぼ不可能だからね、しかしそれが続けばワンパターン化し例え強くとも見飽きてくるだろう。
それにね、BT兵器を扱えるからって有利になれるわけじゃない。例えば同じBT兵器搭載機での戦闘の場合はどちらがよりBT兵器の扱いに慣れているか、どれだけBT兵器搭載機に対して対抗出来るかが肝心になってくる。まぁもっとヤバいのはBT兵器非搭載機で、相手のBT兵器を次々堕として行って手数を確実に消してくるタイプ。
僕?違う違う、僕なんか足元にも及ばないよ。本当にヤバいのはノールックでBT兵器を撃ち落としたり、真正面からオールレンジ攻撃を避けて突っ込んできたりする操縦者だよ。僕の場合は自動照準と追尾ミサイルによる破壊だったから、相手が上手く動けばあっという間に僕なんか倒されてしまうよ。
ホワイト・ユニコーンは神獣ユニコーンをデザインモチーフにされているらしく、全身装甲型で装甲色は真っ白。頭部にはユニコーンの様な角があるが、それは特に意味は無いデザインだと個人的には思うんだよね。だってISにはコア・ネットワークというものがあって操縦者同士で会話可能なオープン・チャンネルとプライベート・チャンネルが利用できるようなっている。僕のジェダはISと通信できるように頭部装甲の右側、そこにインターコミュニケーションシステムが搭載されている。ノイズキャンセルシステムなどもあるため戦闘中でもクリアに相手の声が聞こえるため意外と便利だ。
話を戻してホワイト・ユニコーンのデータだ。基本的に武装はシンプル、コストを徹底的にダウンして武装を減らせば第3世代型の量産機に出来るかも知れない。まぁコアが限られているし操縦者にはどう映るかわからないから、少数生産とかになるのかな?ビームサーベル一つにビームライフル、それとシールド。後は従来の武装も使えるようにしておけばある程度いい線行くんじゃ無いかな?専用機や魔改造機体には負けるだろうけどね。いやそもそもこの機体は凍結廃棄された機体のはず、原型はほとんど残っていないが面影は本当に僅かな柄に残っている。この機体を回収したのは間違いなく束だろう、ということは何かしら仕込んでいてもおかしくは無い。ジェダの様な特殊装甲か?それとも単一仕様能力、あれを意図的に組み込んでいる可能性もある。そもそも姉弟だからといって単一仕様能力が同じと言うことはあり得ない、コアを同じ物にしたとしてもその能力が引き継がれるかと言われれば答えはNO。意図的に何かしら細工をしなければ間違いなくこの仕様は不可能だろう。
「あとはアレがまだ残っていたら……いや、束に限ってそんな事は……」
もしあのシステムが残っているとしたらかなり強力な機体に仕上がっているはず。そのシステムを制作した僕が言えたことでは無いし、ホワイト・ユニコーンの特殊フレームも僕が作り出した物だから正直何も言えない。ただあの機体は扱える人物が居ないというか機体が操縦者を選んでいるかのような……そんな感じだった。だから凍結廃棄されたんだけど、多分彼女の事だ完全にデータも引っこ抜いているんだろうな。
「ひとまず戦闘データの解析は終了、ジェダの戦闘データも良い感じに記録できてるし特殊装甲の有用性も充分。これから先の戦闘データとか諸々考えるだけでわくわくしてくるね。特にこれからやってくるであろう専用機持ちの代表候補生との戦闘データもしっかり取らせて貰うとしよう」
各国のISの性能、見せて貰おうじゃないか。
「というわけでっ!織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
「「おめでと~!」」
夕食後の自由時間、場所は寮の食堂。1組のメンバーが全員揃っていた。ぱんぱーんとクラッカーが乱射されており、一夏くんの頭に紙テープが乗っていた。ただ一夏くんの表情はあまりよろしくなかった、おそらくクラス代表という立場が重く心にのしかかっているのだろう。そんな事を知らずに各自飲み物を手に盛り上がっている。壁を見てればそこにはデカデカと「織斑一夏クラス代表就任パーティー」と書かれた紙がかけられている、ここまで大きい事にしなくても良いだろうに。それに1組だけかと思って見れば2組の生徒などちらほら混ざっているようにも感じられる、何故1組のパーティーに他生徒が紛れ込んでいる?いや別に楽しそうだから僕としては構わないんだけどね?
「あの咲夜さん、どう見ても30人以上いる気がするんですけど」
「うん、1組以外の生徒も居るからね。人気者は辛いね一夏くん」
「……本当にそう思ってますか?」
僕は思ってるけど箒ちゃんは一夏くんが注目されるようになって、他の女子生徒にちやほやされているから少し嫉妬してしまっているけどね。立場的にはどうしようもないからね、彼女もこれから先はある程度慣れていくと思うんだけど……しばらくは嫉妬して頬を膨らませているだろうけどね。
「はいはーい、新聞部です!話題の新入生である織斑一夏くんに特別インタビューしに来ました!」
盛り上がっているところにそんなことを言ってくる生徒が入ってきた。彼女は2年生の黛薫子と名乗った、新聞部の副部長をしているらしく一夏くんに名刺を渡していた。僕は少し離れたところで紅茶を飲んでいたため名刺は受け取っていない、そもそも彼女の目的は一夏くんであって僕では無い。オルコットくんも騒がしいのはあまり好きでは無いらしく隣の席で紅茶を飲んでいた。
「イギリスの紅茶は有名だと聞くが、日本の紅茶はイギリス人はどう感じるものなのかな?」
「悪くないですわね。ちなみにこちらは何というものですの?」
「日東紅茶のカフェインレスオリジナルブレンド、美味しいからよく飲んでいるよ」
「日東紅茶……ですか?」
「まぁ馴染みは無いかもね。他にもいろんな種類があるからスーパーとかで見るといい」
オルコットくんと紅茶を楽しみつつ、一夏くんが取材を受けているのを見守る。黛は無邪気に子供のように瞳を光らせてボイスレコーダーを一夏くんに向けていた。困った様子でインタビューを受ける一夏くんの隣で箒ちゃんは相変わらず頬を少し膨らませていた。一夏くんが少し困惑的に答えているのを見つつクッキーに手を伸ばすと、どうやらこちらにもインタビューしに来たらしい。
「セシリアちゃんもコメント頂戴!」
「わたくし、こういったものはあまり好きではありませんが、仕方ありませんわね」
そんな事も言いながらも満更ではなさそうな表情だった、それに写真撮影されているのが一夏くんで分かったからなのか紅茶飲みつつ髪型をセットしていたしね。
「まずわたくしがクラス代表を辞退したかというと、それはつまり織斑さんの成長を見込んだからですわ。織斑さんは確かに世界初の男性操縦者としての肩書きは持っていますが、ISの操縦技術はまだまだ未熟。それでも僅か一週間という短い期間の特訓でわたくしや同じ境遇である柊さんに肉薄した実力をあの試合で見せてくれました。わたくしや柊さん、そしてクラス一同で学んでいけば織斑さんの実力は間違いなくクラスで一位になれる存在だと思いますわ。わたくしは彼に可能性を感じていますし───」
「ああ、長そうだからいいや。写真だけ頂戴」
「さ、最後まで聞きなさい!」
「いいよ、適当にねつ造しておくから。よし、織斑くんに惚れたからってことにしよう」
「なっ……」
流石のオルコットくんもこれには絶句している。何を馬鹿なことを……
「へ?」
「ん?」
おっと、どうやら声に出てしまっていたらしい。いやー無意識だったから気が付かなかったよ。
「あ、柊もコメント頂戴」
「は?」
自分でも驚くくらい低い声が出てしまった。それに食堂にいる全員が驚いている様子だった。
「あいにくと事前連絡も無しに取材してくるようなマスゴミ類の取材は受けないようにしている、それにコメントを言ったところでねつ造されるのは目に見えているからね。そんな記者に何かコメントする事があると思うのかい?まぁ子供の戯れの一つなのだろう?好きにねつ造したまえ、僕は自室に戻らせて貰うからね。あぁ、ティーポットに残っている紅茶はオルコットくんに差し上げるよ、日本の紅茶ゆっくり楽しんでくれたまえ」
そういって一足先に食堂を後にする。あんな取材よりも僕は優先しなければいけない物があるからね。
「柊さん怒って帰ったのか?」
「いや、あれは無関心なだけだと思う。それに俺も取材とかは事前連絡してくれる物だと思うし、それに咲夜さんのこと「柊」って呼び捨てにしただろ?確かにここでは1年1組の生徒だけどそれ以前に咲夜さんは千冬姉の同級生、例え咲夜さんの身長が150㎝で華奢な体格だったとしても大人には変わりないんだからさ」
「……一夏、それ本人の前で絶対に言うなよ。柊さん不機嫌になるからな?」
それは俺でも思うよ。だから本人がいないのを確認して言ってるんだろ?それに俺もどこか思っていたことはあるし、咲夜さんが言ってくれてスカッとしている部分もある。だけど正直咲夜さんが取材受けてくれないと何で俺が代表になったのか分からないんだよな、セシリアだって話してる途中で切られてねつ造するって言われたし……咲夜さん、インタビュー受けたって長いから切られると思ったのかな?多分そうだと思うけど。
「あ、えっと……ま、まあいいや。とりあえず織斑くんとセシリアちゃん並んでね。写真撮るから」
「あ、はい」
「注目の専用機持ちだからね、ツーショットもらうよ。握手とかしてくれるといいね」
「……そうですか」
セシリアはちらっと俺の事を見てくるが、ハッキリ言って「めんどくさい取材をさっさと終わらせたい」と言った雰囲気がある。
「それじゃあ撮るよ!88×78-2×0は?」
「……えっと6866?」
「ぶー、6864でしたー」
……そうですか。
パシャッとデジカメのシャッターが切られた。それから黛さんの取材は終わり、この「織斑一夏クラス代表就任パーティー」は10時過ぎまで続いた。正直言って女子のエネルギーを侮っていた、そう気が付いたときにはもう夜はどっぷりと更けており、俺は消耗して部屋へと帰還。ベッドに寝っ転がった。
「今日は楽しかったか?」
隣のベッドに腰を下ろしている箒が訪ねてくる。
「どこがだよ。疲れただけで楽しいものか。咲夜さんも途中でいなくなったし……唯一同じ男性同士で気楽に話せると思ったのに。箒は逆の立場なら嬉しいのかよ?」
「いや、全く楽しくないな。男に囲まれて私一人など……考えただけでも恐ろしい」
「それが俺や咲夜さんだからな?咲夜さんは気にしていない様子だけど、多分同じ年齢だったら絶対気にしてるからな?」
「そうだろう。さて私も寝るよしよう、今から寝間着に着替えるから仕切りを出して向こうを向いていろ」
同居生活も一週間を超えたが、なんで箒はいちいち俺がいるときに寝間着に着替えるんだろう?俺が歯を磨いているときやシャワーを浴びている時に済ませればいいと思うんだが……俺は実際そうしているわけだし。それにシャツを置く音やスカートを脱いでいる音が仕切り板越しとは言え聞こえてくる、以前偶然目撃してしまったシャワー上がりの姿が自然と脳裏に蘇ってきて、落ち着かなくなってしまう。俺だって健全な15歳男子なわけで、この落ち着かない感じは慣れない。
「よし、いいぞ」
箒からの許しが出たので俺は身体の向きを戻して仕切り板を元に戻した。別に戻さなくても良いんじゃないかって俺は思うんだが、前にそう言ったら箒が何故かふくれっ面になったのでもう言わないことにしている。
「あれ?帯が新しいやつになってるな」
箒は寝間着浴衣を着用している。どこまでも和なやつだ。まぁ純日本人だからな。ともかくその腰に巻いている帯が昨日までのものとは違うやつだったので、俺は何の気無しに指摘した。
「あぁ、よく見ているな」
少しだけ上機嫌になった?よくわからんやつだ……色も模様も違うから流石に気が付くだろう。なにせ箒を毎日見ているからな。
「似合ってるぜ」
「そ、そうか。似合っている……か。そうかそうか」
箒が少し微笑んで頷いている、なんでなのだろうか?
「よし!では眠るとしよう!」
寝るにしてはテンション高いな。ともあれ箒も自分の布団に入って消灯、室内は静寂に包まれた。
「……一夏」
「うん?」
「そ、その……おやすみ」
「おう。おやすみ」
少したどたどしい感じで箒と挨拶を交わした。少しずつ眠くなってきた俺は、ゆっくりと睡眠へと落ちていく。
その日の夢は、何処か懐かしかった。俺と箒、千冬姉と咲夜さんの四人で道場にいたのを思い出した。