who am i アイのかたち 作:お昼寝【スタジオホルス】
誰かが呼んでいる
誰かが私を呼んでいる
一人ではない、複数の声がする
誰だろうか?わからない
思い出せない
なぜ私に固執するのだろうか
やめてくれ、私にはそんな
…そんな、資格など無いというのに
…ここは、どこだろうか
私は、誰だ?
思い出せない、名前すらも
ただ…そうだ、先生と、そう呼ばれていた
ここは…
…会議室…いや、多分教室だったんだろうか?
何故かこの部屋を教室だと思った
ふと、鏡が目に入る。
…疲れた顔をしている自分が目に入る。
辺りには生徒用の机
…なにかあるな
これは…クジラ?
クジラを象ったなにかのようだ、だいぶ使いこんだ形跡がある
そのほかの机にも、生徒の荷物だろうか?荷物の乗った机が全部で5つ
黒板には地形の地図、メモ書き、退学届
地図は…砂漠ばかり、豊かな土地ではなさそうだ
借金返済まで残り…?物凄い金額だな…
生徒の名前が書かれた退学届、生徒名は
…?
なんだこれ…読めない、そもそも見えない、なぜ?
尚、その退学届にはハンコが押されていなかった。
生徒の私物だと思われるもの以外に、変わったものが
奇妙な花瓶が置いてあった
飾られていた花は…
…月下美人と、昼顔?
黒くひび割れたような花瓶といい、花の組み合わせといい
…なにか意味があるのだろうか
ドアは…開いてる
私が教室から出ると、そこは…
校庭だった
「!?」
振り返ってもドアは見当たらない
…気にしたら負け、か
再び正面を向くと、そこには…
誰かが、いた
「やあやあ、先生、久しぶりー」
「なあに?その顔、化け物を見るような目で見るんだねー」
「うへー、わかってはいたつもりだけど、やっぱり堪えるなぁ…」
「まぁいっか、先生、とりあえず乗りなよー」
そう言うと、いつの間にか隣にあった車へとその子は乗り込んだ
…悪意は無さそうだ、なぜかそう思うと同時に
…うへー、という言葉遣いを、酷く懐かしく感じた
「乗れって、君は運転できるのかい?」
「うへへ、任せてよ」
「…そう」
私は助手席へと乗り込む
「…じゃあどうぞご自由に」
「よーし、じゃあしゅっぱーつ!」
車はそのまま校庭を通り抜け、外へと
外は日中、とても天気は良く晴れ渡っているようだ
しかし他に車の通りはなく、人の気配もなかった
車はそのまま人気のない道を走っていく
「…ねぇ君」
「んー?どしたの先生」
「運転してもらってこう言うのもなんだけど、運転下手過ぎないか?」
「失礼だねぇ!こう見えて運転歴は長いんだよ?」
「いやしかしさっきから頻繁にエンスト…」
「あはははは、ギアを入れ間違えちゃったよ、えーと右がアクセル左がブレーキ…」
「ちょちょちょ、車両下がってるよ!?」
「坂道発進は苦手なんだよねぇ」
「なんでさっきから左側を走らないんだ!?」
「車両って右側走行だっけ?左側だっけ?」
「本気で言ってるのか?!」
「うへー、流石に冗談だよ、真面目に運転するねー」
そういうと自然な運転で車は走り始めた
「なんだ、普通に運転できるじゃないか、なんで最初からしないんだい?」
「んー?ちょっと試しておこうと思ってねー」
「?」
「その様子だと無駄だったのかなぁ?」
「えっと、何の話かな?」
「…先生は、なにか感じない?」
「なんでもいい、この風景でも、私の運転でも、最初の教室でもいい、なにか感じなかった?」
…
「…おじさん」
「!?」
「おじさんって、あの教室にいた?」
「私が先生と言われているのなら、あの教室の先生だったのかな?でもそれだとおじさんっておかしいよね…」
「えっとね先生、おじさんっていうのは」
「そうか校長か教頭のことか!」
「いやアビドスに教頭とか校長はいないよ」
「亜美戸須?」
「んー、亜美戸須かアビドスかどっちなんだろうねぇ」
「まぁでも先生、全くの無駄ってわけじゃなかったよ」
「それに目的地にも着いたしねぇ、少しだけ歩くよ、先生」
車から降りしばらく歩くと…不思議な場所に出た
「先生以外連れてきたことないんだよ、秘密の場所なんだ」
「そうなのか、でもなんでそんな場所に私を?」
「…」
「?」
「そっか、まぁそうだよね」
「君は、私を知っているのかい?」
「…そうだね、知ってるよ」
「教えてくれないか、私が誰で、君が誰なのか」
「ううん先生、ごめんね、それはできない」
「どうして?」
「それが先生の為だから」
「大事なことを聞くね、先生」
「大事なこと…?」
「うん、この世界では大事なこと」
「誰って…」
「…ごめん、わからない」
「わからないけど、なにかひっかかるんだ」
「私が先生と呼ばれていた、それだけは覚えている」
「君は、私の生徒だったのか?」
「…そうだよ、私は生徒で、貴方は先生だった」
「先生のおかげで、私は、いいや私達は救われた」
「アイを無くしかけた私を、先生は助けてくれた」
「だからね、次は私たちが助ける番」
「先生、思い出して、私たちとの
「これはその為だけの物語だから」
「君は、何を言って…」
「大丈夫、先生が困ったとき、助けにいくから」
「お別れだよ、先生」
「…あえてこう言わせてもらうね」
別れの挨拶は、決めていたから
「先生、また、明日。」
「!?待って…」
…そして私の意識は暗闇へと落ちていった
君は…当番の子かな?
ちょっと待っててね、今お茶を…
眼を、瞑って貰えるかな
うん、やっぱり綺麗だ
…私は目を覚ました
ここは…
見覚えのない部屋だ
さっきまで、外にいたはずなんだけど…考えるだけ無駄か
もしかして夢だったのだろうか?それにしてはリアルすぎる
…落ちていく感覚だけは、しっかりとある
考えるだけ無駄だろう
部屋は廃墟という言葉が似あうぐらいボロボロ、壁はひび割れ埃だらけだ
片隅にモニターが置いてある
電気が生きてるのか…?
近づくと画面の内容が確認できた
…次のニュースです、…を襲撃した…ですが鎮圧が確認され…
…奇跡的に犠牲は出ず…しかしシャーレの…
ノイズでよく聞き取れない…シャーレとはなんだろうか
そこまで聞き終えるとモニターは電源が落ちてしまった
部屋にはめぼしいものはない
行くしかなさそうだ
ドアをあけると、近代的な印象を受ける場所にでる
横にはサーバー、壁面には電光掲示板が瞬いている
表示がある…
"ミレニアムプライズ特別賞受賞作品テイルズ・サガ・クロニクル2
一番足りていないのは正気、と酷評された前作とは打って変わり高い完成度が魅力で…"
"ミレニアムの遺跡にて発見されたAL-1Sと名乗る少女のミレニアム所属をセミナーは認める方針を示しており…"
ミレニアム…なにかのグループだろうか?テイルズ…?
AL-1S…?機械の型式番号みたいだが…少女?
「…えー、える、あい、あり…」
・・・なんだいまの
女の子…?
突然、廊下の照明が消え、非常電源に切り替わった
停電か?
正面にはドアがあり光が漏れている
…どの道進むしかないか
ドアが開くと、そこはロッカーと沢山のゲーム機が印象的な部屋だった
ここは、どうやらゲーム部屋だろうか?私もこういう部屋を持っていた
そう、趣味に使うお金が大きすぎるって怒られてたっけ
…誰に?
…駄目だ、思い出せない
「先生?」
!?
「先生、来てくれたんですね!」
「■■■は喜びを隠せません!」
「君は…?」
「■■■は、すみません先生、それは出来ないんです」
「出来ない?なにがだい?」
「気にしないでください、先生ならすぐ解決できると、私は信じてます!」
「?」
「それより先生、時間がないのでこちらに来て座ってください」
「■■■と、ゲームをしましょう!」
「ゲーム?」
「あ、もしかしてさっき書いてあったテイルズ…」
「ミレニアムクエストをしましょう!!」
「違うのか…」
「いいけど、時間がないって言ってたよね?」
「そうですよ、早くしないとクリアまでいけないのです!」
「クリアまでさせるつもりなのか…」
「とりあえずスイッチオンです!」
ミレニアムクエストは非常にレトロチックなゲームで、昔プレイしたような懐かしさを覚
える
「随分昔っぽい雰囲気のゲームなんだね?」
「先生?どうしましたか?」
「いや、それよりもこの、登場人物の名前が見えないのは仕様なのかい?」
「■■■には見えていますよ?」
全ての登場人物の名前が見えないわけではなく、一部の所謂固有名詞を持つキャラクターの名前が見えなかった
「私には見えない…」
「先生、はやくはやく!」
言われるままに続けていると、少女が時折解説を入れてくれる
ここで■■■と■■■に出会った。この戦いで■■■や■■■の面々と仲間になった。最後はみんなと仲良くなれた、と
ただ…多分名前なのだろうそれは…私には聞き取れなかった
「そして先生、■■■は魔王から勇者になったのです!」
「魔王から勇者に?」
「そうです、先生」
「決めるのはいつも自分です」
「他人ではなく、自分で決めるのです!」
「他人ではなく、自分…」
「そうです、そしてそれが他人には受け入れがたい選択だとしても…」
「私は、それを尊重しようと思います」
「うっ…」
…なにか、ひっかかっている
「すみません、すこし変な話になってしまいました」
「先生!ラスボスですよ!魔王■■■を倒すのです!」
「そうだね、勇者は魔王を倒すもんだ」
「ちなみにこの魔王はなにか悪いことをしたのかい?」
「開発費をくれないのです!冷酷な算術使いなのです!」
「随分家庭的な魔王だね…?」
「ほら!先生来ますよ!」
「本当に算術を使ってくるとは思わなかったよ…」
「…負けてしまった」
「仕方がないのです、レベルを上げる時間がありませんでしたから」
「RPGの宿命だね」
「クリアするまでといっていたけど、いいのかい?」
「大丈夫です、意味はありましたから」
「意味はあったのか」
「ええ、先生なら解ると■■■は信じてます!」
「初対面なのに、そう言ってくれるんだね」
…
「初対面なんかじゃ、ないんです」
「…やっぱりそうか、でもごめん、私はわからないんだ」
「知っています。先生は私を、■■■のことを覚えてはいないと」
「そういう世界なので」
「そういう世界…?」
「私は、別の世界の人間なのかい?」
「君達とは違う世界の人間だから、顔も名前も思い出せない、そういうことかい?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えます」
「どういうことだい?」
「それは…」
戸惑う彼女の様子が…突然変わる
「…先生、お久しぶりです」
「久しぶり?いきなり何を」
「そうですね、先生はわからないでしょうね」
「先生、私は先ほどまでの…王女ではありません」
「私の名前は…今はKEYとお呼びください」
「王女を補佐するAIです」
「補佐?AI?つまりは別の人格ってことかい?」
「そう受け取って貰って構いません。そして私の存在は元の世界では消えているとされていました」
「・・・最近、戻ったみたいですが」
「元の世界?消えているってどういうことだい?戻った?」
「元の世界です、この世界ではない世界。そして貴方は…」
「そこから、外れた存在なのです」
「…外れた?」
「すみません、先生。これ以上は駄目です」
「ですが…この世界は貴方の為の世界です」
「それだけは…信じてくれると、私は嬉しい」
…
「でも、じゃあなんで、私は元の世界を覚えていないんだい?」
「それは…」
「すみません、私は王女の補佐AI、王女の意思に反することはできません」
「王女の意思に反する?」
「先ほど王女は言いました、先生の選択を尊重すると」
「それがどんな選択であろうとも」
「私はなにを選択したんだい?」
「それは…駄目なんです、それでは意味がない」
「先生、もし今の先生が望むのであれば」
「思い出してください、自分自身の手で」
「この世界は、その為だけに作られた世界です」
「それが困難で、苦難に満ちた旅だとしても」
「私と王女は、先生を応援しています」
そうして、そのKEYという少女は目を閉じた
「…先生、いま■■と話していましたか?」
「彼女も来れていたんですね、この世界に」
「良かったです、彼女がKEYではなく、■■として居られた世界が他にもあって」
「先生、いまから大事なことを聞きます」
「…ごめんね」
「…いいんですよ、先生」
「■■■と■■は先生を応援していますから」
「んしょっと、最後に選別です!」
「!?」
「勇者の道を開けよ!光よ!」
いつのまにか少女が持っていた大砲のようなものから、眩い閃光が放たれ、壁をぶち破る
そこには、白い空間が広がっていた
「君、そんなもの持ってたかい!?」
「持ってませんでしたよ、さっきまでは」
「でも先生、■■■は勇者ですから、光の剣を持っていて当然なのです!」
「私がそう選んだのですから、私がそう、信じているからここにあるのです」
「信じているから、そこにある」
「じゃあ先生、これでお別れです」
「また、会えるのかな」
「…私たちは、そう信じてます!」
「わかった、じゃあ行ってくるよ」
「はい!…勇者よ!今こそ旅立つのです!」
壁を越えた先は白い空間が広がっており、私が入ると次第に暗くなっていく
そのまま意識も暗く沈んでいき…
私は、そのまま落ちて行った
別に大した理由はなかったんです
先輩や、同級の子が気にしているみたいだったから
だから片づけを手伝っただけ
別に特別な感情なんかではなかったはず
でも
その日は私にとって特別な日になりました
…私は目を覚ます
…また、気を失っていたのか
夢ではないよな
落ちてゆく感覚はしっかり覚えている
部屋は医務室だろうか、医療器具に書籍などが置かれている
…ふと1冊の本が目についた
…精神的トラウマとPTSDについて?この本だけ凄く摩耗してる…
"〈精神的トラウマとPTSDについて〉
PTSD(心的外傷後ストレス障害Post-Traumatic Stress Disorder)とは、実際にまたは危うく■ぬ、深刻な怪我を負うなど、精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じる、特徴的なストレス症状群のことをさします。
出来事の例としては災害、戦争、戦闘、重度事故等であり、自分自身ではなく他人が巻き込まれるのを目撃する等でもトラウマ体験と成りえます。"
後半は症状についての記載のようだが、ずたずたに切り裂かれている。
ひどいな…まったく読めない
机の上にはカルテと日記
名前の記載の部分についてはもやがかかっていて読めない。詳しいことはわからないが私の知識でもバイタル・心電図等は正常であることがわかる。
日記は…所々滲んだ字で書かれている
"バイタルは正常、心電図も異常なし、精密検査の結果も全て異常なし
なのに起きてくれない…なぜでしょうか
団長は言っていました、恐らく意思の問題だと
救いを求めてくれれば私たちは全力で応える、それが救護騎士団です
でも、救いを求めてくれない人には私たちはこうまで無力だったのでしょうか
それでも私たちは諦めません、なにか出来ることがあるはず、なにか"
治療に失敗したのだろうか
…なんだか気分が悪い
…先に進もう
ドアを開けると、そこは屋外だった
洋風に見える街並み、ただし人気はなく
少女が一人だけ、立っていた
「あ、先生!やっほー☆待ってたよー!」
「やっと会えたね、本当に嬉しい。でもなにを話そうかな?いざってなると困っちゃうなぁ」
「君は…君も私を知っているのかい?」
そう言うと、少女はびくりと肩を震わせた
「…そうだね、知ってるよ先生」
「…とりあえず、行こっか☆」
「行こっかって、どこに?」
「決まってるでしょ、先生」
「ショッピングだよ!」
少女はそのまま私の手をとり走り始める
「ほらほら先生早く!」
「ちょっと、力強いな君は?!」
そのまま手を引かれるままに本屋、服屋、靴屋と順々に巡っていく
「いや、店員も誰もいないんだけど、勝手に取ったらだめだろう?」
「んー?先生、お会計はもう済んでるんだよ?」
「そうなのかい?いつ誰が支払ったのか知らないけど、本当だろうね?」
「…本当だよ、先生。大切な人からのプレゼントだったんだ」
「それは…良かったね?」
その少女は教科書、学校で指定されていそうな体操服、スクール水着、運動靴等を買うと満足そうにこちらを向いた
「えへへ、先生。これで買い物はおしまい。次は…」
「ボランティアの時間だよ!」
「ボランティア?」
「そう、ボランティアといえば草抜きだよね!」
「普通は海岸のゴミ拾いとかそういうやつじゃないかな…」
「いいから!ほらそこのドアの先で待ってて!」
「君はどうするんだい?」
「私は着替えてから行くの!このままじゃ汚れちゃうから着替えなさいって言ったのは…」
「…いいから先に行ってて!…それとも一緒に着替える?私は、別にいいけど☆」
「いいわけないよね…わかった、先に行ってるよ」
ドアの先は運動場のようで、グラウンドが広がっており、その外周には雑草が生い茂っている
「これを全部…?まさかな」
「そのまさかだよ、先生」
「いつのまに後ろにっ!?」
「えへへ、着替えたり髪を結うのに時間がかからないのは便利かなー」
「だけどこの体操服、やっぱり可愛くないんだよね…あまり見せたくなかったんだけど」
「えーと、その…」
「この雑草を抜けばいいのかい?スコップと飲み物も準備して、偉いじゃないか」
「…そこらへんの反応は一緒なんだ…」
「なにか言ったかい?」
「ううん、それじゃ始めよっか!」
そこからは二人で黙々と草を抜いていた
特に何も話してこないけど…時折視線を感じて見てみると慌てて目線を逸らされる…
「ところで、ボランティアといったけど、君はなぜボランティアを?」
「んー?うーん、前は300時間ボランティアをしろって話だったからやらされていたんだけど」
「前、ってことは今は違う理由が?」
「…そうだね、大切な人の為、かな?」
「…善行を積めば願いが叶う的な?」
「あはは、本当にそれで願いが叶うなら何時間でもやるんだけどね☆」
「何時間でも?そこまでして叶えたい願いがあるんだ?」
…
「あるよ、私にはある。絶対に叶えるんだ」
「先生にはないの?叶えたい願い」
少女の態度が、変わった
「…急にどうしたの?」
「答えて、先生。先生に願いはないの?」
「そんないきなり言われても…」
「いきなりじゃないんだよ、先生。先生にはあったの。願いが」
「…君の知ってる、私の話かい?」
「そうだよ、先生」
「…ボランティア、終わっちゃったね。次行こっか」
そう言うと、少女が指を鳴らす
辺りが突然、屋外の景色から廃れた教会へと変わった
パイプオルガンに蓄音機は壊れており、ステンドガラスは所々割れてはいるけれど…厳かな教会そのものだ
「今更驚かないと思ったけど…これは凄いな」
「ここはね、先生。私にとっての特別な場所なの」
「先生が私にアイをくれた場所だから」
「私が、君に愛を?」
「どうだろうね?ちょっと今の先生が考えてることとは違う気もするなぁ☆」
「…先生、教会ってどういうことをする場所だと思う?」
「礼拝かな?聖書を読んだりもするし、祝福を受ける場所でもあるよね」
「それと、懺悔できる場所でもある」
「…懺悔「
「先生は懺悔したいことはない?」
「誰かのお菓子を食べちゃったとか、ちょっと悪戯しちゃったとか、先生だったらすけべなことしちゃったとか」
「それとも…」
──誰かを殺しちゃったとか
「…いま、なんて言った?」
「…先生は、なにもないかな?」
「私は…」
…なんだいまの…
「…先生、取り返しのつかないことでも、償えると思う?」
「救いようのない悪い子でも、魔女でも、いい子に変われると思う?」
「答えて、先生」
「…なんだい、その質問は」
「私が、何かしたのか?君は知っているのか?」
「君達は思い出せと言うけど、何を思い出せと言うんだ」
「…もう一つ、聞くね?」
「…わからないよ…」
「私はなにも覚えていないんだ、先生だったということ以外」
「私の為の世界だというのなら、私は知りたい。私がこうなった理由を、なにをしたのかを」
「…先生、本当に、何も覚えてないの?」
「もう私に、魔女じゃないって言ってくれないの?」
「お姫様って、言ってくれないの?」
「名前を呼んでくれないの?■■って呼んでよ、先生…」
「魔女…お姫様…」
頭が…割れそうだ…
「どうして?先生なんであんなことしたの?」
「私たちのことはもうどうでもいいの?」
「変われるって、償えるって先生は言ったじゃない」
「その先生が!なんで!」
「■■!よすんだ、それ以上はいけない!」
これは…私の記憶…?
「君は…」
「いきなりですまない、先生」
「彼女も混乱している、すまないが…これでお別れだ」
「…私は、どうすればいい?」
「そのまま眠って、落ちてくれ」
「次はウサギの子と出会うと思う、そこでまた…」
「うう…」
「すまない、だが必要なことなんだ」
「先生、この世界は先生の為の世界だ」
「だから、ここには先生の敵はいない」
「それだけは、覚えていてくれ」
「…責めるように言っちゃって、ごめんなさい」
「先生、また会おうね、絶対」
そして、私の意識は落ちていった
私は、目を覚ます
…何回目だろうか、目が覚めるのは
頭痛は収まってる
時折見えるのは…前の世界ってやつか?
辺りを見渡すと、そこは暗く、陰惨な雰囲気が漂う至聖所だった
今まで感じた気分の悪さとは比べ物にならない悪寒を感じる
…誰かいるのか?
その言葉に応えるかのように、暗がりから…
何かが、いた
「…君は、誰だ?」
「ウサギ…というのは君の事かい?」
「教えてくれ、私はなにをすればいいのか、何を思い出せばいいのか」
「君は知って…」
「黙れ」
っ!?
突如叩きつけられる猛烈な怒気に、気圧される
「この私に向かってウサギなどと」
「お前の愚かしさには虫唾が走る。だがそれも仕方のないことなのかもしれん」
「今のお前は、先生ですらないのだから」
「…私が、先生ではない?」
「むしろなぜ先生だと思っていた?何も覚えていないのに」
「いや、私は覚えている、先生だということだけは覚えている」
「そしてあの子達も…私を先生だと言っていた、それは私が先生だという証拠なんじゃないのか?」
「生徒から先生と呼ばれれば先生なのか?お前にとって先生という立場はその程度のものだと」
「だからお前は簡単にその役割から降りるのだ」
「なにを言って…」
「…いいだろう、望み通り思い出させてやる」
そう言って指を鳴らすと、隣になにかが現れる
…え?
「さあ、思い出してもらおうか」
「…お前の罪を」
それは…傷だらけの少女だった
だが、息があることはわかる
「その子は…?」
「さあ?お前が知らないのなら生徒ではないのでは?」
「先生だと言うならば、生徒であるならば知っているだろう?」
そう言うとそれは指を鳴らした
「うぅ…」
「なにをしてる!?」
「…役割を遂げている、私の」
「役割…?こんなことがか?」
「…この世界はお前のために作られた世界」
「思い出すための世界、その為の物語」
「何を言っている!?やめるんだ!!」
「だが、私の役割は違う」
「私は、私の役割を…願いを叶える」
「カハッ・・・」
「やめろ!それ以上は駄目だ!」
「ならば思い出せ、彼女の名前を」
「名前?名前を思い出せばやめてくれるのか?」
「…早くしないと手遅れになるぞ」
「ま、待て!思い出す!思い出すから待ってくれ!」
私のその言葉を聞くと、そいつは動きを止め…
「思い出すとは、なにを?」
そう、私に聞いてきた
「彼女の名前だろう!?わかったから少しだけ…」
「く、くくく…」
「あはははははははははははははは!!」
唐突にそいつは笑い出した
嗤っていた、嗤って…哭いて…
急に、止まった
「…思い出すとは、なにを?」
雰囲気が、違う
「だ、だから…彼女の名前を…」
「言葉は正しく使え、先生だというのであればな」
「思い出すとは、知っていたこと、記憶を蘇らせること」
「…知らないことを、どう思い出すつもりだ?先生」
「…え?」
「彼女は生徒、そしてお前は先生だった」
「だが、お前は彼女の名前すら知らない」
「お前は彼女から、名前を聞かなかった」
「・・・聞いて、いない?」
「そしてお前には罪がある」
「罪…?名前を知らなかったことか…?」
「今まで誰も教えてくれなかったのはなぜか」
「思い出せと言いつつも、直接語らなかったのはなぜなのか」
「それはお前が耐えられないと思ったから」
「自分で気づくまでと、奇跡を願い、この世界を創り、信じて待った」
「優しい生徒達、皆お前にアイを持っている」
「それも彼女たちの役割なのかもしれん」
「だが、私は違う」
「私はお前に微塵もアイを持っていない」
「お前が憎い、憎くて堪らない」
「お前が壊れようが、知ったことではない」
「お前に罪を思い出させ、そして罰する。それが私の役割」
「…私は、何をしたんだ?」
「…先生、お前には罪がある」
…吐き気がする
「お前の罪で多くの生徒が死ぬ」
…視界が歪む
「お前の罪で世界が滅ぶ」
…いつの間にか、私は膝をついていた
「あえてこう表現しよう」
「バッドエンド、と」
「私には罪がある…」
「…そうだ」
「そしてそのせいで…」
「世界が滅ぶ、お前と生徒の大切な世界が」
「見ろ」
「目を逸らさずに彼女を」
「あ…」
そうだ、私は知っている
あの子を、知っている
「ああ…」
そして 私は 思い出す
私 が
殺 し た
あ の 子 を
思 い 出 す
「そんな、私は…」
──嘘じゃない、本当の事だ
「彼女の事を、今まで忘れて…」
──そうだ、私は忘れていた
「名前すら知らずに、それすらも忘れて…」
──殺したことも、都合よく忘れて
「それでいて…先生だと名乗り…」
「まだ、これでもまだ先生だと名乗るか?」
…ごめんなさい
「誰に謝っている」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
「…」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「…ここまでか」
・・・そいつは手を振り上げ、そのまま私に向かって振り下ろす
私の意識は
「…護ってあげれなくて、ごめんなさい…」
落ちていった
次回、who am i 罪のかたち