who am i アイのかたち 作:お昼寝【スタジオホルス】
その日、先生は昏睡状態だったんです。
度重なる激戦、先生の疲労はピークに達し、指揮を執ることができませんでした。
今まで先生に指揮を任せていたこともあり、指揮系統は混乱。
慣れない前線は混沌を極め、敵の侵入を許し
…先生は、なぜか治療室の外で倒れていました
荒れ果てた通路、弾痕、爆発の跡、そして血痕
当たりの惨状から見ても、何らかの戦闘があったのは明らかでした
先生だけは絶対に守ると、その為に敷いた防衛線の内側で…
ですが、敵の姿は見当たらず、先生も無事だったんです
…先生が自ら撃退を…?
到底考えられません、それに目覚めた先生が最初に発した言葉
「あの子は…どうなったんだ」
…あの子って、何方のことだったんでしょうか
全ての所属の生徒の安否は確認できています、本当に奇跡的に
…誰も犠牲にならずに、全員無事だったんですから
…先生の様子は異常でした
生徒の無事を告げても喜ぶどころか、信じられない物を見るかのようにこちらを見ていました
すぐに取り繕うように返事をしていましたが…あれは、あの表情は、まるで
…まるで、敵を見るかのような表情だったんです
…私は先生だった
彼女たちの指揮を執る、唯一の大人だった
彼女達は強かった、肉体的には強靭だった…私とは違って
だが、精神的には脆く、幼い部分があった
当然だ、彼女たちは生徒、子供なのだから
彼女たちを導く存在、それが大人としての
私の役割だと思った
矢面に立つことが出来ず、戦う力のない私のせめてもの責務
役目は果たせていたと思う
私が指揮を執った戦闘は必ず勝利した
一度たりとも犠牲を出したことはなく、常勝無敗
間違った道へ進もうとする生徒がいたとしても、交渉し、説得し、機会を与えた
生徒、子供は間違えるもの
それを償う機会を与えるのも先生の役目だと思ったからだ
全てが上手く行っていた
…不自然なほどに
いつからだろうか、生徒が私に向ける感情に、信頼以上のものが含まれているように感じ始めたのは
ごく少数なら、まだ理解ができた
そしてそれは一時的なものであって、すぐに誤解だとわかるものだと
思春期特有の憧れに似た感情だと気づくだろうと思っていた
…違っていた
初対面であろうと何かしらの理由で信頼される
そしてそれが異常な短期間で、違う感情に変わる
…都合は良かった、そのほうが当然指揮が円滑に進み、作戦も上手く行く
だが、作戦が上手くいくほど、先生としての力量が認知されればされるほど
彼女達から向けられる感情は強くなっていった
示し合わせたようにうまく行く日々
上がっていく評判、そして信頼とその先
まるで"そうなるように出来ている"、とでも言うのかのように…私は彼女たちに好かれていた
…好かれてしまっていた
…これは、"先生"である代償だとでもいうのだろうか
好かれているのは”先生”であって、"私"ではないというのに
"先生"は好かれる、"先生"はそういう特別な存在なのだと
"私"には、そう思えた
そうだと言うのに、私は彼女達に対して
今までとは別の感情を…
少なくない感情を持ち始めている自分に、恐怖した
…それは、先生として正しくないとも感じていた
…否定するしかないのはわかっていた、一度は傷つくことになったとしても結果的には…一時の苦しみで済むのだから
だが、私は臆病だった
一度だけでも、一時だとしても、傷つける勇気がなかった
…言葉の責任を放棄した
有耶無耶にするのにも限界がある、いざ直接想いを告げられてしまえば…返事をしないわけにはいかない
…私は彼女達から少しだけ距離を取ることにした
あまり密接に…深くまで関わることを避けるようになった
その代わり広く浅く…どんな生徒の些細な用事、用件でも身を粉にして生徒の為に尽くすと決めた
裏方でいい、陰から支える、それなら大丈夫だと
…まるで懺悔のようだと、今更ながら思う
おかげで休みはなかったが…知らない生徒はいないと言えるぐらいに、生徒との縁ができた
…大丈夫だ、深く踏み入らなければ大丈夫と、自分に言い聞かせながら
矛盾している、それは解っていた
破綻すらしていた、いざ関われば…接しないわけにはいかないのだから
だが…私は
"先生"であり続けたかったんだ
ある日、ふと目にした生徒
皆一様に目が隠れる程、前髪を深く伸ばす髪型をしていた
学園ごとに違いはあれど、似通った姿に見えた
…何故だろうか
そして彼女達からはそれほど好意を感じなかった
当然だろう、接してこなかったのだから
そう、その当然に…私は酷く安堵した
…その日は陽気が暖かな、よく晴れた日だった
そう、陽気のせいだ、そうに違いない
疲労のせいか…私はいつの間にか寝入っていた
…微かな物置で目が覚める
目を開けるとそこには…
彼女がいた
…あの日、私は指揮を取ることができなかった
突然現れた6つの塔
それに伴って現れた存在
戦いは熾烈を極めた
生徒達の活躍により、勝利を収めることが出来た
だが、無理をしていたツケがきたのか
私は限界を迎えていた
私の身体は彼女達とは違い…弱かったのだ
一体何時間、何日寝ていたのかはわからない
…唐突に目が覚めた
辺りは妙に静まり返っていたが、なにかが聞こえた
…外に誰かがいる、そんな気がした
そして部屋を出た私は
…彼女を見つけた
傷だらけの身体
虚ろな瞳
失われた片腕
そこから流れる大量の、血
そして…消えてしまったヘイロー
…動かない?なんでこんな場所に?
それより腕が…血が…止めないと…
これで良し、これで…
これで…
…これで、どうなる?
ヘイローは消えている、つまりそれは…
彼女は、もう…
それを理解した時、私の意識は途絶えた
目が覚めた時、医務室に居た
私を案じてくれている生徒に、聞かずにはいられなかった
「あの子は…どうなったんだ」
「・・・?」
「何方のことでしょうか?」
・・・何を言っている?
そんなの、決まっているじゃないか
「生徒なら、全員無事ですよ」
・・・無事?
そんなわけがない、あの怪我で無事なはずが
・・・私を気遣っているのか?
やめてくれ、私にそんな資格はない
私は、罰せられなければならないのだから
痛む身体などどうでもよく、彼女を探した
もしかして本当に無事なのではという希望を少しだけ持ちながら
・・・居なかった
彼女はどこにも居なかった
姿形だけでなく、記憶にも、記録にさえも居なかった
私の妄想だとでもいうのだろうか
そんなはずはない、彼女は確かに
・・・確かに…
そこで私は気づいてしまった
・・・彼女の名前が、わからない
忘れたわけじゃない
私は、最初から彼女の名前を知らなかったのだ
・・・なにが、先生なのだろうか
最後に探した執務室
彼女と過ごした場所
そこにかけられていた制服のポケットに
・・・彼女は居た
手紙が、入っていた
そこには彼女が居た証と
・・・彼女の祈りと、願いが記されていた
「私を■えてくれたのは…先■です」
お前のせいだ
「先■のおかげで、私が■ばれたんだと思います」
お前と会わなければ死ななかった
・・・罪が、言葉を歪めていく
・・・罪悪感が、祈りを
願いを呪いに変えていく
「──■のことを■えていて■ださい」
──忘れるのは、許さない
「──どうか、■き■けてく■さい」
──楽になるのは、許さない
「先生、私は■■に会えて」
「貴方の■■で、■■でした」
そうだ、私が先生だったから
先生を続けていたから
私が、生きていたから
彼女は、死んでしまったんだ
そうして私は
「先生、大丈夫ですか?」
彼女の最後の願いすらも
「先生?…入りますよ?」
…護らなかったんだ
「っ!?」
「先生!!」
先生は、黒い服の男と向き合っていた
「・・・だから、先生をやめると?」
「・・・続けられるはずがない」
「私が居たら…生徒が不幸になる」
「私が…」
「先生なんて存在が…居たから…」
「では、貴方が居ない場所での不幸は関係が無いと?」
「…?」
「貴方が…」
「先生が居なくなった世界は、滅ぼうがどうでも良いということなのですか」
「随分無責任なんですね」
「・・・何を言って…」
「貴方に会うのを切望していた私にこの仕打ちとは…」
「本当に、神様というのも酷いことをするものです」
「立ちなさい」
…
「立てと言っているのです」
「ぐっ…」
胸倉をつかまれ、持ちあげられる
「なぜ私がここまで苛立っているのか、わかりますか」
「…私が、先生ではないから?」
「違います」
「貴方が、彼女の行いを裏切っているからです」
「…そうだ、私は彼女を裏切った」
「思い出せない…彼女が記していた祈りも…願いも…」
「違います」
・・・?
「"規格外"」
「とある存在につけられた呼び名です」
「・・・私もそう呼ばれた時がありました」
「貴方はまだ、なにも思い出してはいない」
「彼女たちの名前も、自分の罪も」
「そして元から知らないこともある」
「規格外、そしてこの世界」
「・・・とある存在から託されたもの」
「記憶の欠片です」
「これで貴方は、過去の記憶を覗き見ることができる」
「見せるかどうかは私に任せると」
「・・・今の貴方は、見るに堪えませんが」
「あれだけ切望したのです」
「賭けてみますよ、先生」
「何を…」
「まず、規格外を理解する前に、貴方は知らなければならない」
「彼等…」
「"枠外の存在"を」
「敵影多数!こちらに迫っています」
「各防衛線展開完了!こ、これからどうすれば…」
「貴方達は攻める必要はありません!持ち場を維持すること!」
「防衛戦です!先生が戻るまで持ちこたえなさい!」
「南方方面にも敵が!」
「そちらはゲヘナ生徒が防衛を担当しています!」
「イチカとマシロは?」
「不慣れな生徒のサポートに回っています」
「そうか」
「・・・先生の容体だが…復帰がいつになるかわからん」
「このまま5人で合流の予定だったが、変更だ」
「・・・ハスミ、私は単独で出る」
「・・・お願いします、負担をかけますね」
「その為の力だ、戦略兵器と言われる身も今だけは役に立つ」
「・・・あいつは?」
「一番後方、支援部隊に当てました」
「予言が正しいのならば5人が合流した時だ、戻るまで…」
「先生を、頼む」
「勿論です、イチカが戻り次第私も後方に下がります」
敵・・・ついに実戦…
先生は後方のシャーレ施設内…治療室にいる
距離は少しあるけれど…実質ここが最終防衛ライン
絶対に護る!
…何か、気配が
なに…?
…誰か…中に…?
「!?」
「どうしたの!?」
「すみません!確認してすぐに戻ります!」
「ちょ、ちょっと!?」
「持ち場を離れちゃ駄目だよ!!」
「どうしたっすか!?」
「い、イチカ先輩!生徒が一名中に…」
「!?」
「…私が追うっす!皆は持ち場を離れないで!」
(…■■■、どうしたっすか!?)
…勘違いならいい、でも…
最悪の事を考えたら…確認しない訳には
…照明が、落ちている…?
…おかしい
照明が落ちていることもだけど
なんで誰もいないの?近衛の人は…
この通路…
こんなに長くは無かったはず
いや、そもそも…
こんな通路、記憶にない…
…どこ?ここ…
…どこでもいい、戻って師匠を呼んで
…?
話し声…?
「お集まりいただき感謝いたします。皆様…」
「姿の模倣も御済のようで…」
「面白いものが見れると聞いたから」
「どうやら…争いの最中のようであるな?」
「ええ…この世界の"先生"なのですが…」
「なんと、自らテクスト…コデックスに疑問を持っておられるご様子!」
「疑問を?」
「…認識していると?考えにくいことだが」
「先生である以上、生徒から好かれるのはまさに運命!」
「それを否定し、生徒からの愛を疑うとは…」
「なんと罪深い先生なのでしょうか!」
「…それが本当の愛なのか、それとも強制力によって生まれた感情なのか」
「そもそもそのような強制力が存在するのかどうか」
「それは誰にもわからないことよ」
「そう、神でもない限り…」
「…自信がないのね、この世界の先生は」
「…言語道断である、自らのテクスト、コデックス、テクスチャー」
「それらを疑うこと、それは…」
「ジャンルの…物語の否定に他ならない」
「…違う」
「?」
「真剣に向き合い、考えているからこそ彼はこうなったんだ」
「それは否定ではなく…一種の愛だよ」
「…誰だ貴様」
「この世界は私が目を付けた!私が見つけたのだぞ!」
「…観測する権利は誰だって…私にもあるはずだ」
「…ふん、いいでしょう」
「ですが今から私がすることの邪魔はしないでいただきたい!」
「いまからすること?」
「観測するだけではないのか?」
「…この世界の先生は自らの疑問により行動を大きく変えました」
「その結果がこのような展開」
「そして生まれたこの機会!」
「物語のジャンルが不安定になっているこのタイミングに!」
「主人公たる先生が!主役たる生徒が!」
「両者ともに隙を見せている千載一遇のこの瞬間に!」
「…概念を、降ろそうと思います」
「概念降ろしを?」
「神の創った原初の世界、それを彩るもの」
「それが概念」
「私が降ろす概念は…」
「シャーレの先生死亡概念」
「!?」
「先生を…殺すつもり?」
「そうです」
「そんなことをすればこの世界は…」
「そう!世界は終焉へと突き進む!」
「見たくはありませんか!?先生が死んだ後の世界で…」
「曇り、嘆き、悲しみ、そしてそれ故に輝く生徒たちの煌めきを!」
「おお…それは見たい!是非見たい!」
「…私は反対よ」
「そもそもここは貴方の世界ではないはず…」
「そのような行為、自分の世界でやるべき」
「…それは誰が決めたので?」
「私たち枠外が従うべきは神…」
「そして神によって定められた規則」
「その二つのみです」
「それ以外は些事!そう些事なのです!」
「現に私は…」
「既に概念を降ろすことに成功している!」
!?
「私が定めた概念の執行者…」
「止め得るのは主役たる生徒のみ!だが今この時間、この空間に名のある生徒はおらず!」
「あとは箱さえ壊せば…先生殺しは成る!」
「もしこれが神への反逆…規則への違反だというのであれば概念は降ろせなかった!」
「ですが私は成し遂げた!世界より認められた!」
「ついに私は…観測者を卒業する!」
「私は…■■■へと!!」
「…なら、彼女は?」
「…ん?」
「…なんだお前は?」
「ここには生徒は入ってこれないはず…」
「いつからそこにいた?」
…話し声だけ、聞こえる?
いや…違う
誰かが…何かが
そこに、いた
「…なんだ、今のは」
「過去です、貴方の元いた世界の記憶」
「…私が寝ていた間に起きたことだと?」
「アイツらは、誰だ?」
「”枠外”です」
「・・・枠外って、なんなんだ」
「わかりません、私達には理解できない力を持つ存在…」
「姿こそ似ていますが、あれは私の知る彼、彼女ではない」
「模倣、というのはそういうことなのでしょう」
「ただ、神ではないようです」
「神ではない?」
「彼らにも神がいる」
「そう記憶からは読み取れました」
「神と規則、それらによって縛られている」
「神と…規則」
「…彼女は、どうなったんだ」
「はて…」
「先生でないなら、関係ないのでは?」
「貴方に教える義理はありません」
「ですが…」
「規格外については、理解していただきます」
「順序は逆になりますが…」
「これは、とある枠外の記憶です」
「さあ、行きましょうか」
誰かが居る
誰かが、何かを作っている
・・・誰かはわからない、生徒だろうか
そしてその後ろに…
枠外が、彼女を見ていた
「・・・駄目だ、これじゃ先生は目覚めない」
「もっと違うなにかが…根本的に違うものが必要だ」
「わからない、わからないよ先生」
「どうやったら君は目覚めてくれる?」
「なにをすれば目覚めてくれる?」
「どうしてだ…なぜ命を絶とうとした・・・」
「君はそんな人ではないはずだ!何かがあったんだろう!?」
「なんだってやってやる、なんだって作ってやる」
「だから…教えてくれ…頼むよ…」
(…白石ウタハ)
(…あのウタハが)
(…いや、恐らく彼女だけではないのだろう
(やはりこの世界は…違う道筋を歩んできたんだ)
(その結果がこのウタハ、そして彼女の存在…しかしそれが皮肉にもこの結末を生んでしまった)
(このままでは先生は…そしてこの世界は…)
(…)
(あいつが干渉した概念、それでも世界は…規則は否定しなかった)
(それならば…私が干渉したとしても…)
聞こえるかい
「…?」
聞こえるなら、返事をして欲しい
「なんだ…?声がする?」
白石ウタハ、君は
…君は、この世界が好きか?
「…世界?」
すまない、質問を変えよう
君は、先生を愛しているか?
「…ははは…とうとう私はおかしくなってしまったのかな」
「だが…」
「ああ、そうだよ」
「私は彼を、先生を愛している」
「いや、私だけじゃない…恐らく他の生徒も…」
「…それなのに…私達を置いていこうとするなんて…」
「あんまりじゃないか…先生…」
…そうか
「満足したかい?誰なのか、何が目的か知らないが放っておいてくれないか」
「私は…忙しいんだ」
…白石ウタハ
その想い、何があっても折れないと誓えるか
「何?」
君を疑う訳じゃない、だがそれでも…
たとえ無限の困難に巡り合うとしても、諦めないと誓えるか?
「…ふざけるな」
「誓えるかだと!?当たり前だろうが!」
「何があっても折れなかった、諦めなかったのは…」
「先生だって一緒なんだから!」
「どんなに困難でも、必ず私たちの力になってくれた!」
「距離を取ってたのだって知ってる!それが私達全員を想ってのことだってことも!」
「不器用で…肝心なことはなにも言わない先生だったけれども」
「それを察せないほど私達は馬鹿じゃない!」
「なにがあったのかはわからない…でも、必ず助けて見せる」
「私だけじゃないさ!誰が聞かれても当然そう答える!それが愛するってことだ!」
「私達と先生の…」
「絆をなめるな!!」
…絆をなめるな…か
…彼女も、絆のおかげだったね
「突然現れて姿も見せずに…いい加減にしてくれ…」
…すまなかった、だが姿は見せているよ
君にアイを与えているのは私じゃない、だから見えないんだ、申し訳ないけどね
「…?」
わかった、君がアイを背負っているのも理解できた
だから、私も君に賭けようと思う
「一体なんの話なんだ」
今からこの世界に、概念を降ろす
「…概念?」
既に原初の世界からは外れた次元にいるこの世界だけど…それをすれば確実に君は
…原作という、規格から外れた存在になる
「…規格から、外れる…?」
「そうなれば、先生が救えるのかい?」
「先生がまた目覚めてくれるのかい?」
…恐らく無理だ
「何故だ!」
この世界は今、別の"枠外"が降ろした概念によって
先生は死の運命に囚われている
彼女の犠牲によって結末こそ変わってはいるが…その呪縛は続いている
それを覆す方法は…この世界には恐らくない
「じゃあ!何の意味もないじゃないか!」
だから君が探すんだ!
!?
私は…この別の世界で君や彼女、色んな可能性に巡りあった
そんな可能性が存在するなんて…今まで知らなかった私に教えてくれたのは君達なんだ
だとするならば…この世界の先生を救う可能性も存在するかもしれない
この無限の世界のどこかに
「…無限の、世界」
いいかい、この概念は…
"とある条件"を満たした存在に、"その時最も強く願った事象を叶える"力を授ける
「…力をかい?」
そしてその願いが…この世界で叶える可能性がない時…
この世界にない可能性を探す力…世界を渡る力を与えるだろう
だが、それは呪いと同義でもある
世界と君の時間は止まり、可能性を探す旅が始まる
しかしその可能性は…どこにも存在する保証はない
もしかしたら無いのかもしれない、無限に続く拷問なのかもしれない
時間は止まっても精神は摩耗していく、君が耐えられるとは…到底思えない
…そんな提案しか私にはできない
それでも私は
最強格の誰でもない、全知明星ヒマリでもない、ビッグシスター調月リオでもない
・・・白石ウタハ、私は君を信じる
(…なぜだろうか)
(得体のしれない存在、それも初対面の存在がこんな荒唐無稽な話をしている)
(そうだというのに私には…)
(彼が、祈っているように…願っているように聞こえるのは)
「…じゃない」
?
「呪いなんかじゃない」
「私は…君から貰った願いを、呪いなんかにしやしない」
「だから…」
「私は」
「「規格外」白石ウタハは」
「必ず…可能性を繋いでみせる」
概念の結果、彼女が得た力は”創る力”
しかし…それでも彼女は先生を救えなかった
・・・だから彼女は世界を巡ったのです
貴方を救う可能性を探す旅
無限の世界、無限の可能性を探す旅を
その結果、彼女は創った
貴方の心…原点を元に
この心象世界、「あらゆる世界の交錯点」を
「・・・あらゆる世界の交錯点?」
「元の世界で命を絶とうとした貴方は、目覚めることがなかった」
「…貴方は覚えていないかもしれませんが」
「…眠ったまま、この心象世界で貴方は創り続けていたのです」
「物語…貴方が望む世界を、規格外と…生徒達と共に」
「先生、この世界は貴方がこれまでに創った世界」
「そしてこれから創る世界が交錯する世界です」
「・・・ここにいる私も、その結果生まれた黒服です」
「数多の黒服の集合体、それが私」
「その中には魔王…規格外となった私もいる」
「規格外となり、貴方との再会を切望した私もいる」
「・・・?」
「だからこそわかる、彼女の行いがどのようなものなのか」
「いいえ、わかるんじゃない!わからない!」
「彼女の苦しみは同じ境遇であった私ですらわからないのです」
「私は知っていた!可能性があると!一度会っていたのだから0ではないのだと!」
「ですが彼女は…0かもしれない、それを知りながら無限の地獄にその身を投げ出した」
「そんなもの…理解できない…恐怖すら感じます」
「そうした彼女ですら、貴方を直接救うことはできなかった」
「彼女がこの世界を創った意味、わかりますか?」
「・・・わからない」
「彼女は賭けたのですよ、貴方に」
「貴方がこれまで創った、これから創る世界に賭けたのです」
「そうすることでしか…可能性を見いだせなかった」
「もしかすると、限界だったのかもしれません」
「・・・それなのに貴方は、諦めようとしている」
「ここで貴方が諦めれば、世界は消え去り」
「・・・あの地獄に、規格外も戻ることになる」
「それを貴方は許容するのですか…?」
「…」
「…私も規格外として世界を渡り、様々な世界を見てきました」
「色んな先生がいた、ですが…」
「先生が居なくなった世界、そこはいずれも例外なく」
「終焉を迎えていました」
「…終焉?」
「人によって見方は様々でしょうが…」
「貴方にとっては、そう」
「バッドエンドと、言っても差し支えないでしょう」
「そして貴方の世界も今、その分岐点に立っている」
「貴方がここで先生を諦めれば、世界は間違いなくその方向へ進むでしょう」
「…最後の欠片です」
「…映っているのか」
「ええ」
「…」
「怖いのですか?」
「…そうだね、怖いよ」
「それでも」
「貴方の相棒としての私が言っていますよ」
「見るべきだ、と」
「…相棒?」
「気にしないでください」
「…わかった」
「見るよ」
「では…ご覧ください」
…そして、私は
彼女の、願いと祈りを知る
誰かが、何かが…
そこに、居た
突然、放たれる銃弾
すんでのところで回避し、反撃する
ライフルの斉射は直撃し…
「無駄だ」
「貴様はネームドではない」
…効果は特に見られなかった
「…貴方は、誰」
「…名前はない、私もネームドではない」
「私は概念の執行者」
「名前はなく、この見た目も仮初…模しているだけに過ぎない」
「だが…モブではない」
「役目を…概念を果たすことにより私は、世界へ介入出来る」
「…貴様はモブだ」
「この世界は主人公たる先生、主役たる生徒の為にある」
「物語に介入出来るのは…背負った者のみ」
「お前は…私には勝てない」
「そういうものなのだ」
…銃撃の効果は見込めない…
なら、近づいて急所に直接撃ち込む
それしかない!
相手の銃撃を寸前で回避し、回り込み密着しての銃撃
しかしそれでも…
「無駄だと言っている」
「っ!?」
そのまま、腕を掴まれ…
「しまっ…」
銃弾の直撃により、彼女は吹き飛ばされた
床に転がるライフル
「…理解出来たか?」
「モブでしかないお前に…」
「名を背負わないお前に、私に敵う道理はない」
「…だが、モブは死すらも描写されない」
「故に死なん」
「…感謝するがいい、モブであるその身に」
「そこで倒れ伏していろ」
…腕が千切れるように痛い
…このまま倒れていれば…助かる?
…でも
──そんな訳にはいかない
先生の元へ行こうとしたその存在の後方から響く、一発の銃声
…そこには、拳銃を構え立ち尽くす、生徒の姿があった
「理解出来ないのか?それとも…」
「…ならある」
「?」
「名前なら、ある」
「私達には、名前がある!」
「…」
「先生はお前に」
「名を、聞いたか?」
「…」
「それが答えだ」
「先生が名前を聞かない、聞けない…それは…」
「お前がモブであるという証だ」
「ここは、そういう世界なのだから」
「…それでも」
「私は、みんなと話したんだ」
「みんな…どの学校の生徒もみんな!全員名前を持っていた!」
突然声が響き、それを否定してくる
「観測されなければ意味がないのだ!主人公たる先生に!」
「先生にとってお前はモブでしかない!そのような存在が私の邪魔を…」
「先生を救おうなどと!思い上がりも甚だしい!!」
だが、その声を彼女は否定した
「…違うよ」
「あの人は…私にアイをくれた」
「世界の決まりがあるとして…それで名前を聞くことは出来なかったとしても」
「私は、私たちは先生からアイを受け取れる」
「それは…貴方達に否定はできない」
「…私の
…マシロさん
貴方の出した問題の答え
いまなら出せます
…私は、最も大切な人と大勢の人達…
両方を、選びます
「…」
「貴方が」
──白く
「貴方達が先生を殺すと」
──黒い制服が、白く染まっていく
「そして、その結果みんなを」
──ヘイローが、花開いていく
「世界を壊してしまうというのなら」
──彼女の前上に咲くは、月下美人
「…私は、貴方を倒します」
──彼女は、自らの神秘を曝け出した
…花弁?
一体どこから…
なんだ、こいつは
色が…白く…
反転…している?
「…マシロさん、ハスミ先輩」
「力をお借りします」
「目標を確認、排除します」
「撃ち抜く!」
そのまま放たれる、2発の銃弾は…
「無駄だと…」
「!?」
その存在の腹部を穿った
「身体に傷が…」
──辺りに声が…
枠外の驚愕の声が響き渡る
「…有り得ない」
「有り得ない有り得ない有り得ない!!」
「たかがモブ如きが!名前すらない存在が!」
「テクスチャーの書換え…」
「テラー化だと!?」
「恐怖はどうした!?絶望は!?どこにそのような要素があった!?」
記憶を観測していた先生に、声が…
先生が思い出せなかった、彼女の願いと祈り
手紙が声となって、届いていた
"…先生、遺書なんて縁起でもないかもしれません
でも、念のため書いておけって師匠から言われました
だから、もしそういう時じゃなかったら、読まないでくださいね?
予言通りなら私は、先生を護ることになるみたいです
本当でしょうか?私なんかが貴方を護れるのでしょうか
でも、これを先生が読んでくれてるってことは、そういうことなんでしょう
…本当に誇らしい"
…残り3発…
「…イチカ先輩」
「はい、私はここっすよ」
続く銃撃は…正確に腹部の傷を穿った
「身体が…動かん…」
「こいつ…傷口を狙って…」
「なぜだ…なぜこの身体がモブ如きに…」
「なぜ自我が残っている!?変質していない!?」
「なぜこいつから…」
"先生、私はなにもない生徒だったと思います
全てが普通だった私を変えてくれたのは、先輩方と友達
…そして、先生です
先生、貴方は私にアイをくれました
先生のおかげで、私が選ばれたんだと思います
その結果私が死ぬことになったとしても、それは私の選択です
先生が気に病む必要は、ありません"
「…師匠」
「さあ!暴れる時間だ!」
今までよりもさらに強烈な一撃により、広がる傷口
「なぜこいつから!他のネームドの気配がする!?」
もう一人の枠外が、言葉を発した
「…違う」
「これは、テラー化じゃない」
「…お前か」
「お前が概念を降ろしたのか!?邪魔をするなと言っただろうが!」
「違う!私は降ろしていない!」
「これは…この子達の可能性」
「彼女自身の力だよ」
「そんなもの!許されるわけが…」
「世界が認める訳がない!」
最後の弾丸
コハルちゃん、いや…
私で、終わらせる
"…でも先生の事ですから、無理ですよね
だから…代わりに
ご迷惑かもしれませんが、お願いを書きますね"
「…これで、終わりです」
「貴方も、私も」
銃弾を放つたび、彼女は…
「その…力…」
「そうか…神秘を…」
「絆の…放出…」
「尽きれば…お前も…」
「…本能的にわかるものなんですね」
「消えるみたいです、私も」
──奇跡のようなその力
その代償は…
「厭わないというのか」
「本望です」
…さようなら、みんな
さようなら、先生
──そんなの駄目!!
「!?」
突如として響く、親友の声
そして…彼女の姿が元に戻った
その隙を見逃さず、銃撃を放つ執行者
「ッ…」
「身体が…動く?」
「と、当然だ!そんな無茶苦茶な力…」
「いつまでも続くわけがない!」
あんただけが犠牲になって…いい訳ないじゃない!
「でも…これしか止める方法が…」
彼女の犠牲を良しとしない親友
他に方法はあるのだろうか…
「…終わりだ」
トドメを放とうとする執行者
親友は…コハルは…
「立ちなさい!」
「諦めないで!みんなで支えるから!」
彼女を叱咤し、そして…
「可能性はきっとあるから!」
「お願い!思い出して!」
「ヒトミ!!」
──彼女の名前を叫んだ
「!?」
トドメの銃弾は…
動けなかったはずの彼女に、当たらなかった
まだ…動いて…?
こいつ…何か持って…
ヒトミの右手には、彼女達の祈りが込められた
──最後の切り札が握られていた
…私達の切り札
使わせてもらうね…
みんな…!
私の…!
大切な…!!
目が眩むほどの眩い白い輝き
これは彼女の神秘か、全員の絆か、それともその両方か
走馬灯のように見える彼女の大切な存在
それを…
こいつは…
こいつらは…先生とネームド!?
こいつが背負っているというのか!?
執行者も垣間見ていた
「私達はモブじゃない!」
「!?な、なにを」
「先生は!私達にアイをくれる!」
「私は!先生と世界を護る!」
「
彼女は全ての力を右手に込める
それに呼応するかのように、彼女達の姿が…
それぞれのアイのかたちが刹那、現れた
「こいつらは…」
「ネームドだと!?」
「舐めるなああああああ!!」
ヒトミはそのまま、傷口に最後の切り札を叩きつける
閃光で白く染まり…彼女は…
"私のことを覚えていてください
私の代わりに…
どうか、生き続けてください
先生はこの先もずっと、生徒から必要とされる人です
私がそうだったように…
そんな貴方の中で、私は生き続けていたい
…時々、名前を呼んでくださいね
それが、私の願いです
先生、私は貴方に会えて
貴方の生徒で、幸せでした
──月下ヒトミ"
ふざけるな…
ふざけるなふざけるなふざけるな!
こ、こんなイレギュラーで私の概念が…
喚き散らす枠外を前に、残りの枠外はそれぞれ言い放って消えていく
…ここまでです
観測に徹していましたが…見るに堪えません
…あの子は立派でした
…素晴らしい
素晴らしい命の輝き!これこそ奇跡!
確かにモブだったはず!しかしそれではあのような行為は…
であれば昇華…いやそれとも世界への干渉!?
いずれにしても興味深い!
ああ…創作意欲が湧いてきた…帰って創らなければ…
…しかし、この枠外は諦めなかった
いや、まだだ
お前がそう来るというならば、それを利用してやる!
執行者!お前も意地を見せろ!
「…認める」
「お前は…お前達はモブではない」
「それ故に、私は消え…お前の死は描写される」
「しかしそれは…先生のみに」
「お前の思い出、痕跡、存在を世界から持っていく」
「その事実が…」
「…先生を…死に…追いやる…」
それが、執行者が最後に残した呪いだった
世界を蝕む呪縛だった
いいぞ!これでこいつは犬死だ!
結末は変わらない!世界は曇ったまま…
終わりを迎えるがいい!
記憶の欠片は、そこで終わっていた
「…行くのですか?」
「…ああ、行かなきゃならない」
「思い出したので?」
「…」
「…そうですか」
「それでも、私にとって」
「…貴方は、先生ですよ」
「お前は、一体私にとって」
「どんな存在だったんだ?」
「…時には敵、時には味方」
「赤の他人、飲み友達、魔王…」
「そして、相棒だった時もあるかもしれません」
「恋人は…流石にないでしょうね」
「…そんな、存在ですよ」
彼なりの冗談だったのだろうか
そんな彼に対し、先生はお礼を言った
「…そうか」
「今はお礼を言っておくよ」
「はて、お礼を言われるようなことでは…」
「行ってくるよ、ありがとう」
「…"黒服"」
「!?」
そうして、先生はアイにいく
生徒と、自分自身に
「…クックック」
「また、お会いしましょう」
「先生」
次回、最終話
who am i アイのかたち