剣と魔法とノスフェラトゥ   作:十二夜

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初投稿です。

温かい目でどうかどうか、、、


ようこそ、伯爵

その日、魔王は上機嫌だった。

 

この世界の吸血鬼の真祖にして、魔物の支配者。

忌まわしき人間を一掃し、新たな世界を作り上げようとしていた魔王は、既に人間の国をほとんど滅ぼし、残すところ三つの大国のみとなった。

しかし、人間の最後のあがきとも呼べる三国同盟の抵抗は想像を絶するほど激しく、8年もの間、最後の一歩を踏み込めずにいた。

 

そこで魔王はダメ押しの策を考えた。

 

かつてないほど強力な魔物を召喚し、自分の配下に加え、一気に人間を叩く。

そのために彼は全配下の魔力、そして自分自身の魔力を5年もの時をかけて魔法陣に流し込み、この世の理が許す限界まで詰め込んだ。

そして今夜、その召喚が行われる。

 

満月がとても明るい夜だった。

 

魔王城、大広間。

 

魔王は玉座に座りながら、目の前の大広間の床に描かれた巨大な魔法陣を眺め、唇を歪めた。

魔法陣を囲むように並ぶのは12人の幹部達。

今まさに召喚を行おうとしている。

 

「これだけの手間を掛けたんだ、俺様に届くほどの魔物が出てきてくれなきゃ理不尽ってモンさ」

 

魔王は自分の力に絶対的な自信があった。

例え、どんな化け物が出こようと従えられる確信があった。

 

床の魔法陣が光りだす。

魔力が立ち上り、風となって竜巻の如く大広間を駆け巡る。

 

「ククク、さぁ来い!!俺様に従い、その力を示せ!!!」

 

――魔王は知らなかった。

 

魔法陣に込められた膨大な魔力に釣り合う存在など、最早この世界には存在しなかったことに。

故に魔法陣は異世界にその存在を求め、不運にも見つけてしまった。

文字通りの、理不尽を。

 

異変は唐突に起きた。

 

「ッ!?」

 

月が紅く染まった。

夜空が血に濡れる。

 

ゴトッ

 

魔力の竜巻の中心から重いものを床に落としたような音が響いた。

やがて光が収まり、そこにあったのは――

 

「「「棺??」」」

 

魔王と、大広間に集合していた幹部たちが同時に声を上げる。

現れたのは黒い棺。

そんなはずはないと誰もが思い、よく見ようを目を凝らした瞬間、

 

ぞわり、と

 

全身に悪寒が走った。

 

殺気を向けられているわけでも、魔力で威圧されているわけでもない。

 

ただ、棺の中に「なにか」が居る。

 

その「なにか」を本能が恐れている。

 

ただ「居る」という、それだけでありえないほどの死臭をまき散らすその存在に、脳が全力で警鐘を打ち鳴らす。

 

 

魔王は自分が恐怖しているという事実が受け入れられなかった。

吸血鬼の真祖。

生涯でただの一度の敗北も無い。

 

故に先ほどから震えている体は気のせいだと、棺に向けて一歩を踏み出す。

 

その時、棺の蓋が開いた。

 

今までの比じゃない死臭が、「死」が、溺れるほどに溢れ出してくる。

 

幹部たちは咄嗟に完全武装、何か胡乱な動きでもしようものなら直ちに抹殺できるよう、各々の武器を棺に突きつける。

魔王は思わず二歩下がり、万全の戦闘態勢を取った。

 

そして、棺から「死」が這い出す。

 

「私の安眠を妨げるとは、見上げた度胸だな。実に結構」

 

「死」は、長い黒髪に、赤いコートを身に包んでいた。

赤い鍔広の帽子を被り、夜にもかかわらずサングラスをかけ、魔法陣の刻まれた白手袋を着けた長身の男。

男は周囲の状況を把握するなり、両手をパンッと打った。

 

「ほぅ、これはこれは。なるほど、手厚い歓迎だ。素敵だ、実に素敵だ」

 

そう言って赤い目を輝かせたが、すぐに眉を顰め、

 

「しかし、我が主(インテグラ)の気配を感じられない……貴様、ここは何処だ?」

 

そういって武器を突き付ける幹部たちには目もくれず、魔王に視線を向けた。

 

たまらないのは魔王だ。

 

(なんだこれは…なんなんだコレはッッ!!!)

 

魔王は本能で男がこの世界の存在ではないと悟った。

この世界にこんなものが居て良いわけない。あってはならない。

 

体の震えは大きくなる一方。

本当なら、一目散にこの場から逃げ出したい。

しかし、わずかに残ったなけなしのプライドと威厳がそれを許さなかった。

知性のある存在が呼び出されるのは想定外だったが、努めて気丈に魔王は言葉を返す。

 

「俺様がここに呼んだ。ここは貴様にとっての異世界、とでも言っておこう。忠告しておくが、抵抗は無駄だ。俺様に勝てるとは思うなよ?元の世界に戻してほしくば、俺様に従い、人間を滅ぼせ。」

 

――間違えた。

 

男の顔を見た魔王は刹那のうちに後悔した。

 

その顔に浮かんでいたのは、憤怒。

目はまるで小石を見るかのように細められていた。

 

「おい、犬っころ」

 

地獄の底から響くような声。

 

瞬時に幹部たちは動き出した。

 

こいつは危険だ、殺さなければならない。

これ以上魔王様を侮辱させてたまるか。

 

頭に血が上るままに男に迫る。

 

しかし、全てがあまりにも遅い。

 

「私が手本を見せてやろう。脅迫というのは……こうするんだ」

 

有利が不利へ、強者が弱者へ。

絶対的な立場から突きつけるのが脅迫だ。

決して、()()()ではない。

 

 

「拘束制御術式、第3号 開放」

 

 

死体が、12個。

 

一瞬だった。

 

魔王の目が、黒い何かが広がったと認識した瞬間、既に終わっていた。

 

無残に転がる、かつて幹部だったモノ。

死体はすべて嚙み千切られたかのように真っ二つになっていた。

 

男の両手にはいつのまにか銀と黒、二丁の拳銃が握られ、黒い銃の銃口が、魔王に突きつけられている。

 

「これが、脅迫というものだ。私を元の世界に帰せ、犬。(インテグラ)が待っている」

 

しかし不幸かな、魔王は銃を知らない。

 

それ故、男が攻撃して来ないことから先ほどの攻撃で力を使い果たしたと判断。

こっちの番だとばかり、男を殺そうと動いた瞬間、

 

ズガァン!!

 

「ぐ、うぅッッ」

 

銃から飛び出した弾丸は狙い違わず魔王の心臓を貫き、肉を抉り、胸に大穴を開けた。

 

しかし、そこは魔王。

すぐに再生する――はずだった。

 

(回復が……遅すぎる!)

 

普段なら一瞬で治るはずが、まるで阻害されているかのように穴がふさがらない。

 

それでも掌に魔弾を生み出し、男に次々と撃ちこむ。

この世界でも最強格の魔王による全力の魔弾が雨のように降り注ぐ。

余波だけでほとんどの存在は瞬時に消し飛び、ドラゴンでさえも殺し切れるかもしれない威力。

轟音が響き、煙が巻き起こり、大広間が崩壊する。

 

「ハァ……ハァ……」

 

ありったけの魔力を使い果たした魔王。

煙が晴れると果たして――

 

「ハァ……フッ、俺様に逆らった罰だ。造作もない」

 

ほとんどミンチとなった男の死体があった。

これほど潰されていれば、例え魔王であろうと即死。

 

あまりにも損失は大きかったが、これ以上この化け物を生かしておくほうがまずい。

殺した、と魔王が安堵した、その時だった。

 

男の体が再生を始めた。

 

「バカなッッッ!ありえないッ!!」

 

瞬く間に下半身の再生を終え、腕が再生し、頭が再生し、

 

「犬は狗の腹に収まるのがお似合いだ。なァ?犬っころ」

 

口だけの顔で、そう言った。

 

「貴様は確かに他とは違うようだ」

「貴様を強敵と認めよう」

「失望させてくれるなよ?」

 

 

「拘束制御術式、第2号、第1号 開放」

 

 

再生を終えた男の体が形を失った。

男の体が闇に溶ける。

影が広がり、無数の目が覗き、異形の化物が顔を出す。

 

「ギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

魔王は絶叫を上げた。

 

魔王の目の前に広がるのは、無数の目。

目、目、目、狗、目、目、目、百足、狗、百足、目目目目目目目目狗目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目狗目目目目目目目百足目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目百足目目目目目目目目目目目目狗目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目、、、、、、、、、、、、

 

「あ、ああああああ、うわあああああああああ!!」

 

魔王は二千年の生涯で初めて、敵を前に逃げの一手を打った。

かつてないほど素早く無数のコウモリに変身すると、一目散に散らばって逃げていく。

 

それを異形の狗が即座に食い殺していくが、全てを食らうにはあまりにも多い。

 

「ふん、数匹逃がしたか。興醒めだ」

 

男はそう呟くと、異形の化物達を棺もろとも自らの影に収納した。

再度、自分に拘束制御術式が施されるのを感じる。

 

今回はうまく逃げられたが、次はない。

この世界のどこに居ようと必ず見つけ出して、帰還の方法を吐かせ、殺す。

主のよく言う、見敵必殺というやつだ。

 

「それに…」

 

今、主の傍には自らの眷属が控えている。

おっかなびっくり頼りない奴だが、生半可な敵では相手にすらならないだろう。

 

それよりも男の関心はこの世界の人間に向いた。

 

まだ見ぬ異世界。

まだ見ぬ人間。

 

この世界にも、素晴らしき人間は居るのだろうか。

諦めを踏破し、絶望を切り刻み、化物である自分を殺し尽くしてくれるような人間が居るのだろうか。

 

男は魔王城の扉を開け、ゆっくりと外の世界へ一歩を踏み出す。

月光が男の顔を照らし、目の前に鬱蒼とした森林を浮かび上がらせた。

 

「良い夜だ。異世界の夜もなかなかどうして、悪くはないな」

 

もし、この世界が気に入らなければ、棺の蓋を開けば良い。

 

(インテグラ)との繋がりが切れた今、男は自らの意思で「第零号」を開放できると確信していた。

男はこの世界に「死の河」を流すことに、僅かな抵抗も躊躇も無かった。

 

男の名前は、アーカード。

 

化物共の頂点に君臨する、極上の化物。

 

ヘルシング家に仕える、最強の吸血鬼。

 

「この世界の人間の血を啜ってみたいものだ。まずは、街でも探すか」

 

夜はますます深まり、月は一層輝く。

アーカードは心なしか足取り軽く、森の中へと消えていった。

 

 

 

――遥か離れた崖の上から、魔法を使ってこちらを見ている人影がいたことには、さすがのアーカードも気付かなかった。

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