モチベがいい感じに戻ってきたのでまた書きます。
生きているうちには完結させるので、、、、ゆるして、、、、
他国との玄関口ということは膨大な量の物流や人が動くことである。
そうなると必然的に貿易が発達する。
首都ユールはまさに貿易によって最も栄えている都市の一つであり、その夜景はしばしば『人類の光』と称されている。
あながち誇張でもないらしい、とアーカードは夜の街並みを歩きながら思った。
一体こんなに大量の人が昼間は何処に隠れていたんだろうか。
そう思わせるほど、ユールの夜は熱気に溢れていた。
どこもかしこの人でにぎわっている。
露店の数も昼間より多く、閉まっている店は一つも無い。
レストランの中では誰もが思い思いの肴で一杯引っかけていた。
街の至る所で明かりがつき、道の両側には街路灯まで灯っている。
それがアーカードの目にはひどく新鮮に映った。
この世界の発展度合いは地球で言えば16世紀頃だろうか、ちょうどアーカードが吸血鬼として活動し始めたころだ。
だから、服装や学問や社会などは非常に酷似している。
ただ、この世界には魔法がある。
夜に火以外の明かりが灯るし、街路灯はあるし、生活様式も衛生環境もまるで19世紀だ。
そのちぐはぐさが、この世界の人間の軌跡を現しているようで、アーカードの口角が無意識に上がる。
「ちょっと、、、顔が闇の大魔王みたいになってるわよ。あからさまに周りが怖がってるじゃない」
「大魔王如きにこの俺が斃されるものか。アンデルセンを連れて来い、アンデルセンを」
「何の話!?」
夜の明かりに照らされたリルの美貌は昼間とはうって変わり妖しげな魅力を感じさせる。
美しく伸びた背筋も堂々とした足取りも、男女問わず周りの目を引かずにいられなかった。
まぁ、隣のアーカードの姿を見た瞬間一人残らず目を逸らすのだが。
怖いもん。
二人が広場に足を踏み入れると、周りの熱気はさらに一段階上がる。
人の声が絶えず飛び交い、大勢の人がそれぞれの夜を過ごしている。
そんな中、一人の男がアーカード達に近づいてきた。
30代ぐらいの無精ひげがやたらと似合う男は、すでにかなりの量を飲んでいるらしく、顔を赤くしながらまるでアーカードが見えていないかのように無謀にもリルに声をかける。
「よぉ、美人の嬢ちゃん。夜遊びとは感心しねぇな。俺と一杯どうだい?なぁに、俺の奢りさ。夜の世界ってやつを教えてやるよ、、、手取り足取り、な」
「は?」
男が吐き出す酒臭い息にリルは顔をしかめる。
嗅覚の鋭いリルにはたまらないだろう。
だが、それとは反対にアーカードは男の姿を観察して目を細める。
(随分と酔っているのに、身体の重心が全くブレていない。片手剣を腰に下げているにもかかわらず、か。それにコイツの目は大量の血を吸った目をしている。おもしろい)
「まぁ聞けよ嬢ちゃん。実はな、俺の名前はエレグってんだ。そう、あのエレグとは俺――ん?」
エレグと名乗った男がアーカードの視線に気づく。
「――?」
そのままエレグはアーカードをじっと見つめていたが、突然まるで冷水を浴びせかけられたかのように顔がサッと青くなる。
酔いが醒めたのか、リルのほうにも視線を向けると舌打ちをした。
「テメッ、人間じゃねぇな!?」
「ほぅ!」
アーカードが唇を吊り上げるのと、既に剣を半分抜いたエレグが周りに異常を知らせようと口を開いたのは同時だった。
「全員ッ―――!?」
「リル、殺すな」
「了解」
エレグが叫び終わる前にリルはエレグの首を掴むと、目にもとまらぬ速さで上空に跳躍した。
そのまま砲弾のような速度で城壁外の森に着地する。
その背後から血の羽を広げてアーカードが悠々と降り立つと、エレグに向かって手招きした。
「少し遊んでやろう。来い」
「言われなくともッ!」
流れるように抜剣し、目にもとまらぬ速さでアーカードに接近したエレグが首に向かって剣を振りかぶる。
そのまま何の抵抗も無く、エレグの剣はアーカードの首を薙いだ。
(ッ!?なんだ?こいつは明らかに俺よりも格上なのに、あまりに弱すぎる)
まだ終わっていない、そう確信したエレグはアーカードの心臓を抉るために突きを放つ。
突きは剣を用いて行う攻撃の中では最も速度が速い。
反応できるものでは無いはずだ。
そのはずなのに、首を失ったアーカードの身体によって心臓に届く寸前のエレグの剣は、軽々と二本の指で止め――ようとしたがそれでは足りずに五本の指先で掴んで止めた。
宙を舞うアーカードの生首が笑みを浮かべる。
「良い判断だ。動きも悪くないな。なかなか強い。人間、お前は何者だ?」
アーカードの首と身体をかろうじて繋いでいた一筋の血が蠢く。
断面から噴き出た血液が、首を手繰り寄せるかのようにひとりでに次々と繋がっていく。
「何者って程でもねぇよ。名が売れて調子に乗ってた傭兵ってとこだ、こんちくしょうめ」
アーカードの指に挟まれた剣はびくともしない。
悪態をつきながらエレグは剣を手放すと、腰から二振りの短刀を引き抜く。
そのまま二方向からアーカードの心臓を狙うが、再生を終えたアーカードが片手でそれを防ぎきる。
そして、掌をエレグの胸に当てると、反応する間もなく力を込める。
「グボァッ!?」
およそ人体から鳴ってはいけない類の音を響かせながらエレグが吹き飛んだ。
一直線に木の幹に激突し、力なく崩れ落ちる。
「ゴボッ!ゲボッ、ゲホッ!こいつは、、、ちっとキツイぜ、、、、」
そう言いながらもエレグは立ち上がり、震える手で自らに回復魔法をかける。
回復魔法とは言ったが、そんなに役に立つものでもない。
この世界で最高の使い手の回復魔法でも、骨折を数本直すのが限界だ。
エレグの回復魔法では、精々深めの切り傷を治すのが限界。
しかし、それでも無いよりはマシで、エレグの胸には変わらず青黒い痣が広がっているが、内臓の損傷はいくらか治せたようだった。
「待っていてくれるとは、全くありがたいねえ」
エレグが再び戦闘態勢に入る。
アーカードは指で挟んだままの剣を手に取ると、慣らすように軽く振った。
「良い剣だ。少し使わせてもらおう」
アーカードの姿が消えた。
と思えば、エレグの背後で地面を踏みしめる音がする。
「ヤ、、、ベェッッッ―――!!」
目では追いきれない攻撃にエレグが辛うじて反応する。
すでに振り下ろされている剣をまともに受ければ短刀ごと両断されるのは目に見えていた。
よってエレグは全神経を動員して一か八か斜め横に受け流そうとする。
果たして、奇跡的なタイミングで剣の腹に合わせられた二本の短刀は、剣の軌道をわずかにズラした。
「オオオオオオッッッ―――!!!」
同時に剣に沿って駆け上がるようにエレグがアーカードの首に肉薄する。
迫る刃を気にも留めずに、それを見たアーカードが微笑んだ。
「素敵だ」
エレグの眼前に現れたのは、銀の銃口。
それが何かは分からないが、その銃口の奥にエレグははっきりと『死』を見た。
「だが、まだ足りないな」
454カスールカスタムオートマチックをエレグの眉間に突き付けたアーカードは、躊躇なくその引き金を引いた。
空間をつんざく轟音が響き渡る。
その後、数秒の静寂が辺りを覆った。
だが、いつまで経ってもエレグの意識が途切れない。
死を覚悟して目を閉じたエレグが恐る恐る目を開けて振り返ると、自分の頭ではなく背後の木に大穴が空いていた。
「傭兵、エレグ。私は貴様を
エレグが驚いてアーカードの顔を見上げるが、そこからは一切の感情が読み取れない。
「な、何を、、、、」
「なに、簡単なことを頼みたい。貴様がいつもしている事だ」
そう言ってアーカードは実に良い笑顔を作った。
「傭兵。貴様に私の護衛を依頼する」
×××
この世界における傭兵は、騎士や兵士とは似て非なる物として扱われる。
国の軍隊や騎士団に所属する兵士は、魔王軍との戦いにおいて主に集団戦を担う。
仲間とカバーし合う前提での訓練をこなし、集団で敵と戦う想定で育て上げられ、数の暴力で敵を圧し潰す。
もちろん、一流の兵士は個での戦闘でも十分に強い。
しかし、組織に属する以上、上の立場の人間の指示を仰がなくてはならない。
刻一刻と変化する戦場では、それは弱点になる。
臨機応変な対応が難しく、小回りが利かない。
その欠点を補うための役割を与えられたのが、傭兵である。
基本的に国が傭兵ギルドと契約し、ギルドが傭兵を貸し出す。
傭兵は基本的に個人、または少数で動く。
戦場においては、臨機応変に動ける遊撃隊として活躍する。
その点、数の暴力を前にしたときは目も当てられないが、自由に動ける遊撃隊の存在は大きい。
昔こそ金次第で動く傭兵は忌避される職業だったが、人間同士で争っている場合では無くなった今、兵士と並んで尊敬の目を向けられる職業となった。
そんなエレグは僅か二週間前に、傭兵の中でも最上位のAクラスに昇格した。
Aクラスの傭兵は騎士団の副団長や中将にも劣らぬ立場を持ち、ある程度の政治的地位すら保持する。
そして言わずもがな、人々の憧れの的である。
それゆえにアーカードはエレグという名前の傭兵を知っていたのだ。
山賊とその哀れな被害者が知っていたので。
「なぁるほど、つまり旦那は魔王のせいでこの世界に来た、と」
「そうだ。この世界については右も左も分からない。そこで貴様のような人脈が広く、地位も高い人間は便利だという訳だ」
「でもなぁ、旦那とそこの嬢ちゃんは吸血鬼なんだろ?魔王の配下ではないにせよ、人類にとっての敵なのは、、、」
アーカードは実に良い笑顔のまま、銃を突きつけた。
「どうやら依頼という言葉が誤解を招いたようだ。正しくは脅迫、だったな。それとも何か?吸血鬼の餌ワクワク体験といってみるか?」
「めっっっ滅相もございません!!!!!!!」
エレグが両手を揉み始める。
そろそろ音速を超えそうだ。
「何もタダでとは言わないさ。報酬にはこれをやる」
そう言ってアーカードが右腕を影に異形化させると、その中から大量の宝石を地面にばら撒いた。
「な、、、な、、、こっ、これは全部本物か!?」
「もちろんだ。こんなのはまだ一部に過ぎない。全部を合わせれば三百品は固いな」
「さ、、、三百、、、、だと、、、?」
輝く大粒の宝石、緻密に加工されたネックレス。
一つ一つが素人目にも超高額だと分かるものが、あと三百個あるという。
言わずもがな、これらの財宝は山賊がせっせと溜め込んできたものだ。
それをアーカードは全部搔っ攫ってきていた。
「答えを聞こうか、傭兵」
「、、、、どうやら選択肢はねぇようだ。分かった。あんたの話を受けるよ」
「実に結構」
アーカードはリルに目配せをすると、血の羽を出して宙に浮きあがる。
「では、戻ろうか」
「戻るって、え、ちょ」
リルがエレグの首をむんずと掴んで持ち上げる。
エレグがプラプラと揺れながら、引き攣った顔でアーカードに聞いた。
「な、なぁ、冗談だよな?ちょ、待てって、ははは、旦那もお人が悪い。まったく、面白くない冗d」
「舌噛むわよ」
「んんんんんんんんんんんッッッ!?!?!?」
悲鳴は夜空に消えていった。
ユールの路地裏に無事に着陸し、ご一行はホテルに戻って来ていた。
「すげぇな、エンリ・ユールかよ。公爵様も泊まりに来るって話じゃねぇか。一泊で俺の報酬三回分は消し飛ぶぞ」
「飯ぐらい黙って食え」
部屋に届けさせた夜食を前にエレグの興奮は最高潮に達していた。
世界有数の最高級ホテル。
上級貴族になってやっと手が出せるようになるホテルに一週間も泊まれるというではないか。
「俺、旦那についてきて良かったよぉ、、、、」
アーカードは相変わらずワイン片手に月を見上げている。
銘柄はジュエ・ド・ムルギューレ。
王城で飲んだ品だが、どうやらアーカードの口に合ったようだ。
「良い夜だ。風も心地良い。これだから月を眺めながらワインを飲むのはやめられん」
眼下に広がっているのはルーエの街並み。
既に明かりは消え、寝静まった街が月光に浮かび上がっている。
アーカードはこの時間が好きだった。
のだが。
「はぁ~さっぱりした」
「上がったか嬢ちゃ――キィエエエエエエエエ!!!!」
「わっ、なによ」
奇声を上げながらエレグがアーカードの傍に駆け寄ってくる。
「旦那、旦那ァ!なんでアイツは全裸でうろついてやがるんだ!?」
「喚くな。女の裸体ぐらいで何を騒いでいる」
「いや、おかしいだろォ!!、、、、ん?」
エレグの視線がリルの尻に注がれる。
より正確に言えば、そこから生えている尻尾に。
「え、なんで尻尾生えてんの」
「だって私、フェンリルだし。吸血鬼になっちゃったけど」
「、、、、は」
「アーカード様に負けて眷属にされたのよ」
「え、フェンリル?」
「うん」
「神獣の?あの氷狼?」
「そうだってば」
エレグが遂に白目を剥いた。
「な、、、、なぁ、、、、、、キュウ」
そのまま気絶して後ろにぶっ倒れた。
「なにコイツ」
「軟弱者め」
アーカードはそう吐き捨てるとワインを一口含んで再び夜空を見上げた。
(さしずめ、異世界HELLSING・分団といったところか)
たった今、やっとセラスが眠りについたのを感じた。
地球では、まもなく一日が経とうとしている。
傭兵のクラスはA~Fです。
その上は傭兵ギルドマスターです。
エレグは人間の中ではかなり強いです。
最強傭兵は誰だ議論には大抵10番目ぐらいに名前が上がります。
四英雄と双璧と賢者は強すぎて人外扱いされてます。