剣と魔法とノスフェラトゥ   作:十二夜

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読んでくれてありがとうございます。

皆さんに足を向けて寝られません。


伯爵 vs.「氷狼」

ジャッカルから飛び出た弾丸は狙い違わずフェンリルのこめかみに着弾した。

 

が、

 

「ガルルル…フスッ」

 

下手な戦車なら貫けるほどの威力を持った弾丸はしかし、肉に阻まれ頭蓋に届く前に止まる。

嘲笑うように鼻息を吐くフェンリル。

 

分厚いコンクリートを思わせるフェンリルの筋肉は、本来筋肉が最も少ないはずの頭蓋周辺にまで及んでいた。

むしろ、首や胸などの急所ほど、それを守るように一層分厚い筋肉に覆われている。

 

その上、

 

「なるほど、これは厄介だ――ッッ!?」

 

疾すぎる。

 

たった一度の跳躍で地面が割れ、アーカードとの間にあった数十メートルが刹那のうちに詰められる。

そのまま一切の反応を許さない速度で前足を振りかぶり、薙ぐ。

 

ズドンッ!!

 

隕石が落ちたかのようなクレーターが空き、まともに受けたアーカードが錐揉みしながら冗談のように吹き飛ばされる。

アーカードの強靭な肉体ですら、一撃で手足は捩じ切れて上半身と下半身は別々を向き、腹から臓物が飛びだす。

 

そして砲弾のように木を数本なぎ倒して、停止。

 

本来なら闘いは既に終わっているが、相手はアーカード。

未だ色濃く発せられる殺気を感じ取ったフェンリルは、ノータイムで追撃を食らわせる。

しかし、既に着地点にその姿は無く、

 

「ここだ、阿呆が」

 

背後、上空。

 

瞬時に再生を終えていたアーカードは、追撃が来るまでのコンマ数秒の間に全力で跳躍、まんまと背後を取ってそのまま空中で発砲。

 

迎え撃つようにフェンリルの背中から生えた氷の毛が鞭のようにしなってアーカードを切り刻む。

そしてフェンリルの口から発せられたダメ押しのブレスが直撃するが、次の瞬間には無傷で地面に降り立つアーカード。

 

間合いは十分、しかし次の瞬間には既に、フェンリルが目の前で腕を振りかぶっている。

 

「二度も食らうと思ったのか?」

 

横に跳んで回避するアーカード。

そして攻撃に合わせるように、銃を連射。

 

しかしフェンリルは全く意に介さず今度は背中の氷鞭を使い数百の斬撃を飛ばす。

 

地面ごと抉り飛ばすそれらを搔い潜るように正面からアーカードが接近、再び銃を連射。

 

前足による横殴りの攻撃が襲ってくるがそれを上回る速度で走り抜け、回避。

 

そのまま前足の間を潜り抜けて腹の下に入り、振りかぶった抜き手を突き刺した途端、フェンリルの腹から魔法陣が浮かび上がり、突き出た氷の槍が意趣返しのようにアーカードを串刺し殺す。

 

「ちぃッ!攻撃手段が多い奴はこれだから面倒だ」

 

復活。

 

攻撃。

 

宙に浮かぶ無数の魔法陣から降り注ぐ氷の槍を回避した先に待っていたのは、フェンリルの牙。

 

猛烈な嚙みつきを避け上に跳べば、襲い掛かる氷鞭とその斬撃。

 

しなる氷鞭を銃弾で弾き返し、不安定な空中で斬撃を全て回避。

 

着地と共にブレスが飛んでくるが、アーカードは甘んじてそれを受け、消し飛ばされるまでの間にできる限りの発砲。

 

そして復活し、一旦距離を取って睨み合う両者。

歯を剥き出しに唸るフェンリルに対し、アーカードの笑みは未だ消えず。

 

戦況は完全に膠着状態。

 

フェンリルの攻撃は確実にアーカードを殺すが数瞬後には無傷で再生している。

対してアーカードは死なないが、その攻撃も通らない。

手刀を使った徒手空拳での接近戦では、明らかにフェンリルに譲る。

その上、向こうは魔法という未知の攻撃手段。

 

お互い決め手に欠けていていつまで経っても決着が付かない。

 

「とでも考えているんだろう?馬鹿め」

 

アーカードは嗤い続ける。

 

血沸き肉躍る闘争。

相手が人間でないのは少々残念だが、フェンリルの瞳に浮かぶ知性は下手な吸血鬼や人間にも勝るものがあった。

 

故に、負けは有り得ない。

化物()を殺すのは、いつだって人間でなくてはならない。

 

「まさか二日続けて開放することになるとは、実に、嬉しい悲鳴だ。感謝しよう、狼」

 

 

「拘束制御術式 3号、2号、1号 開放」

 

 

闇が広がる。

アーカードが形を失い、影に溶け出し、魔犬が顔を出す。

瞼を上げ、無数の目が開き、巨大な口が笑みを形作る。

 

フェンリルは全身が粟立つような殺気を感じた。

そして、二千年間生きて初めて確信する。

 

――この化物は、自分の命に届く。

 

 

「では教育してやろう。本当の吸血鬼の闘争というものを」

 

 

即座にフェンリルは全力を以て迎え撃つことを決意。

 

複数の魔犬が飛び掛かるが、フェンリルにとっては塵芥、負ける道理もなく瞬時に噛み千切る。

 

そしてなにかを溜めるかのように、体を弓のごとく反らす。

ギチギチと音が聞こえるほどに引き絞られた体が悲鳴を上げるが、構わずフェンリルはさらに力を入れる。

 

その隙を狙って森と同化したアーカードが無数の巨木を投擲する。

一本で数トンにも上るそれらは、直撃すればフェンリルといえどもただでは済まされない。

 

更に何体ものアーカードの分身が襲い掛かる。

 

全てまごうことなき「本物」である彼らは、一撃一撃が音速を超え、手刀はソニックブームを放つ。

しかし、それらの攻撃が当たることは無かった。

 

まさに木が降り注ぐその瞬間、時が満ちた。

 

 

脱力。

 

 

解放。

 

 

音が、吹き飛んだ。

 

 

放たれたブレスは余波だけで巨木を全て粉砕、アーカードの巨大な影を丸ごと消し飛ばし遥か彼方の山脈まで消滅させ、直線上の衛星を幾つか貫いた。

 

遅れて冗談のような衝撃波が星全体を襲い、更に遅れること数秒、思い出したかのように轟音が響く。

数え切れないほどの「最強」を屠ってきた、絶対の一撃。

 

しかしそれでも、まだアーカードを滅ぼすには足りない。

 

影が蘇る。

再び深淵が口を開ける。

 

だが、今回ばかりは流石に復活が遅い。

それでも数秒の内に完全復活、闇となって広がろうとしたアーカードは瞬時に己の失敗を悟った。

 

攻撃を途絶えさせてはならなかったのだ。

復活するまでの数秒、自由に動けるたったの数秒、絶対の一撃さえも放って稼いだその数秒の間に、フェンリルは己の切り札の準備を終えていた。

 

蘇ったアーカードを待っていたのは、地面に広がる巨大な魔法陣。

そして頭上を覆うドーム型の結界。

 

「ガルッ」

 

フェンリルは、勝ち誇った笑みのようなものを浮かべ、魔法を発動した。

 

氷狼。

その言葉が表す本当の意味を。

 

神の如き、理外の力を。

 

―――世界が静止した。

 

アーカードも、森も、空気も、宙に舞った砂も、そして、原子さえも。

 

絶対零度。

 

一切の運動が許されない、死の世界。

万物を構成する原子は結合する力を失い、僅かな力でさえ加えようものならどんな物質でも塵のように崩壊していく世界。

 

アーカードも例外ではなく、一切動けないまま猛スピードで死と復活を繰り返していた。

 

動くということは原子が動き、熱が発生するということ。

 

そうなればこの世界は絶対零度ではなくなり、矛盾が発生する。

 

つまり、フェンリルの魔力が絶対零度を持続する限り、どんなに動きたくても、どんな手を使おうとも動けない。

 

アーカードの敗北、()()()()()

 

事実、もしフェンリルがおよそ24日間この状態を維持していたら、アーカードは持てる命を全て使い果たして滅んでいただろう。

 

もし、フェンリルがもう少し慎重になっていたら。

アーカードが人間以外に倒されるという、その偉業を、その異常さを、もしフェンリルが理解していたならば。

 

だが、そうはならなかった。

 

フェンリルに宿る野生と王者の誇りが、完膚なきまでの勝利を求めた。

 

故に、この絶対零度の世界で唯一、矛盾を無視して動けるフェンリルが動く。

 

前足の一撃をアーカードに見舞う。

異形のアーカードが、殴られた砂の山のように細かく砕けて吹き飛ぶ。

 

しかしその瞬間、フェンリルの敗北が決定付けられた。

 

 

ズガァンッ!!!

 

 

鳴るはずの無い銃声が鳴る。

そして、、、フェンリルの前足が吹き飛んだ。

 

「ッッッッ!?ッッッッッッ!?」

 

前脚を一本失い、バランスを崩したフェンリルが地面に倒れる。

 

産まれて初めて味わう激痛、そして理解できない状況。

何が起こったのか、なぜ急に脚が吹き飛んだのか。

混乱したフェンリルに絶対零度の世界を維持する集中力は最早無かった。

 

結界が解け、世界が動き出す。

熱が戻ってくる。

 

アーカードが、戻ってくる。

 

「チェック・メイトだ」

 

残った三本の脚も同様に吹き飛ばし、影でフェンリルの背中を覆って氷の鞭を封じたアーカードは、フェンリルの眼球にジャッカルを突き付け、そう言って楽しそうに嗤った。

 




アーカードの銃は原作通り、100万発入りのコスモガンです。
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