剣と魔法とノスフェラトゥ   作:十二夜

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伯爵、ヒロインを得る

アーカードがやったことは実に単純だった。

 

どれ程筋肉が厚くとも、生物である限りは必ず存在する弱点がある。

 

関節だ。

 

頭蓋に銃弾が通らないと見るや否や、アーカードは関節の破壊に全神経を注いだ。

 

まず四本の手足、それぞれの関節に一発ずつ銃弾を撃ち込む。

 

めり込むだけで大したダメージは与えられないだろうがそれでも良い。

 

あとは最初に放った弾丸に重ねるようにして銃弾を一か所に打ち込み続けていれば、やがて骨を砕き脚を吹き飛ばす。

 

実に単純。

 

だが、僅かにもズレが許されないその作業を、高速で戦闘しながら行わなければならない。

その上標的は四つ、それも絶えず不規則に動き続けている。

 

初めから目的は関節の破壊、ただ一つ。

拘束制御術式の開放は、フェンリルの意識を自らの関節の痛みから逸らすため、関節の破壊を悟らせないための隠れ蓑。

 

そして、フェンリルが絶対零度の世界でアーカードを粉々に破壊したその刹那、アーカードの周りの原子が動き、熱が生まれ、時間とも呼べないような僅かな時間の中、動くことが許された。

 

即座に影からジャッカルを持った腕を生成、吸血鬼として持つ身体能力を全力で酷使、限界を迎えつつあったフェンリルの右前脚関節に狙いを定め、発砲。

 

この間、実に0.00016秒。

 

まさに、身の毛がよだつ程の神業。

 

それを成し遂げてしまうのが、吸血鬼アーカード。

 

「零号を開放していないとはいえ、ここまで俺を死に追い詰めたのはお前が初めてだ、狼。誇るがいいさ。そして負け犬らしく、、、、なんだ?」

 

フェンリルの眼球に銃を突きつけるアーカードが感じた違和感。

 

「グルルルルルルルルルルル、、、、」

 

その瞳に浮かぶのは、己を打ち倒したアーカードへの称賛と尊敬、そして―殺意。

 

(魔法かッ!!)

 

吹き飛ばしたはずの前脚がミサイルのようにアーカードの頬を掠める。

そして、さらに三本の脚が魔法によって操られ、左右からアーカードに襲い掛かる。

 

アーカードはそれらを影に飲み込むことで冷静に対処し、再び前から飛来する最後の前脚を地面に叩き潰す。

 

そしてフェンリルに視線を向けると、今まさに最期の力を振り絞ったブレスをアーカードに向けて放とうとしていた。

 

あまりにも無駄な抵抗なのはフェンリルにも分かっている。

それでも王者の誇りとして、せめて最期に一度殺して、逝きたかった。

アーカードに見下されたまま死ぬのはあまりにも耐え難い。

 

だが、瀕死の状態ではあまりに遅く。

ブレスを放つ直前にアーカードによって強制的に顎を閉じられ、エネルギーが霧散する。

 

今度こそ万策尽きた。

 

「ク、フフフフフフフフ、、、、」

 

だが、その瞳の輝きは。

 

なお、その目が映すのは。

 

一切失われていない殺意と戦意は。

 

「ブハハハハハハハハハ!!ワハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

呵呵大笑。

愉快だ、とてもとても愉快だ。

 

「良いぞ、狼!気に入った!その強さ!その闘志!嗚呼、気に入ったさ。お前が人間なら、殺されても良いと思える程な。死体を此処に捨て置き、腐らせるにはあまりに忍びない。喰おう。そうだ、それが良い。喰って、噛んで、潰して、吸って!お前を俺の一部としよう」

 

もちろんアーカードは人間以外の命を取り込んだことはない。

フェンリルの命は命とカウントされるのか、問題なく使役出来るのか、魔法は使えるままなのか。

そもそも取り込めばどうなるのか。

 

あまりにも不確定要素が多いが、このまま止めを刺し、血を吸わずに立ち去るという選択肢は最早アーカードには無かった。

 

邪悪に凄惨に悪魔のように嗤う。

アーカードの口が裂ける。

歯が剥き出す。

 

 

「ようこそ、私の領地へ」

 

 

その日、二千年を生きた神なる獣は、たった一体の吸血鬼により殺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血を吸う瞬間、アーカードが感じた違和感。

 

まるで自らの分身が作られるような、両者の間に見えない繋がりが形成されるような。

 

(まさかこれは、、、まずい!)

 

慌てて牙を抜くが時すでに遅し。

既に血を一口、飲んでいる。

 

この感覚をアーカードは一度体験したことがある。

そう、セラス・ヴィクトリアを眷属にした時と同じ感覚。

自らの眷属を作る感覚。

 

 

 

「あら?人型になっちゃったわ。種族も吸血鬼に変わってる、、、。貴方、私を眷属にしたの?てっきり殺されるものと思っていたのに。先程まで貴方に対して感じていた殺意も、今はもう消えちゃったし。主人に害を為せないのは、眷属としての本能なのかしら」

 

「嘘だろ、、、お前、雌なのか」

 

 

 

アーカードに血を吸われたフェンリルは、みるみるうちに傷が治り、体が縮み、身体が作られ、あっという間に目も醒めるような美女に早変わりした。

 

歳は20代前半くらいだろうか。

 

腰ほどまでに伸びた髪は透き通った銀色、切れ長の瞳は吸い込まれるような蒼。

 

雪のようにきめ細かい肌は病的なまでに白く、瞳の蒼と美しいコントラストを作り出している。

 

申し訳程度に残っているふさふさの尻尾と、髪の毛先が氷のように物理的に透けているという事実が、辛うじて目の前の女がフェンリルであることを示していた。

 

何より、、、スタイルが良すぎる。

 

キュッと引き締まった身体、健康的な曲線を描く尻、腰のくびれがとても眩しい。

そして、胸がでかい。

いわゆるボンキュッボンである。

 

、、、まぁ、アーカードに性欲は無いため無意味なのだが。

 

ふざけるのはこれくらいにして、珍しくアーカードは混乱していた。

 

無理もない。

図らずも異世界で二人目の眷属を作ってしまったのだから。

 

「雌」であることと「処女」であること、そして一定以上の知性があれば人間でなくとも問答無用で眷属にしてしまうなんて完全に予想外である。

 

ダメだ、頭が痛い。

 

「おい、お前」

「あら、『お前』だなんてつれないわ。もう貴方の眷属なんだから、親しみを込めてリルって呼んでちょうだい」

「、、、、お前、ちょっと俺の頭を冷やしてくれ」

「リル、よ」

「、、、、、、、、、」

「、、、、、、、、、」

「、、、、リル、早くしろ、殺すぞ」

「ふふん、わかったわ。はい」

 

キーン

 

しかし頭を冷やして(物理)、冷静に考えると、異世界の案内人が出来たとも考えられる。

正直、助かる。

アーカードはこの世界のことをまだ何も知らない。

魔法も、国も、地理も、慣習も。

早かれ遅かれこういう存在は欲しいと思っていた。

それがたまたま手に入ったと思えばいい。

うん、そう考えよう。

 

「よし、お前」

「リル」

さすがのアーカードも折れた。

 

「リル、お前にはこの世界のことを教えてもらうぞ。なにせ異世界から来たばかりでな、さっぱり分からん」

 

するとリルは納得したような顔になって、あからさまに溜息のような息を吐いた。

 

「なんだ?」

「安心したのよ。貴方の強さはもはやこの世のものではなかったわ。異世界の化物に負けたというなら、まだ自分を許せるじゃない。もし貴方がこの世界の存在なら、負けたショックで10年ぐらい寝込んでたでしょうね」

 

そういうとリルはおもむろにぴょんっとアーカードの前に移動して、瞳の奥をじっと見つめ始めた。

 

そのまま数分が経ち、痺れを切らしたアーカードが声をかけようとしたその時、リルは驚愕と畏怖がごちゃ混ぜになったような顔で言った。

 

「貴方、、、一体なにが、、、いえ、一体()()()()?」

「なに、、、?」

「まるで深淵よ。数え切れないほどの何かが貴方の中を蠢いているわ。個体の許容量を遥かに超えてる。貴方、本当に吸血鬼?神か何かじゃなくて?」

「安心しろ。どこに出しても恥ずかしくない立派な吸血鬼だ」

 

(さて、イレギュラーはあったが当初の予定通り、ひとまず人間の国に行ってみるか)

 

眷属にしてしまったことにより、アーカードが気に入ったフェンリルはもう死んだと言ってもいい。

その闘志も、その殺意も、僅かに見えた諦めを拒絶する心も、もうアーカードには向けてくれない。

その時点でアーカードの興味は尽きるはずだった。

だが、、、まぁ。

 

「、、、、ふん、行くぞ。人間の国に案内しろ。お前もそろそろ、血が吸いたくなってくるだろう」

「いいわよ。確かに言われてみれば吸血衝動が沸き上がってきたわね。それで、貴方のお名前は教えてくれるのかしら?何て呼べばいいの?」

「アーカード。そうだな、、、」

 

一瞬、『マスター』という呼び方が脳裏に浮かぶが、アーカードはすぐに首を振ってその考えを消す。

そう呼んでくる奴は一人で十分だ。

 

「好きなように呼べ。別に気にしない」

「じゃあ、アーカード様って呼ぶわね。ふふっ」

 

そう言ってリルは上機嫌に歩き出そうとするが、アーカードが声をかけて引き留める。

振り返ったリルが目にしたのは、吸血鬼の能力で創り出した女物の服を片手にたたずむアーカードの姿だった。

 

「とりあえず、、、服を着ろ」

「??」

 

リルは全裸だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ×××

 

 

 

 

 

 

 

俺は自分を信じられなかった。

 

俺たちが四英雄なんて呼ばれるようになって久しいが、それでもこんな無茶苦茶なことは逆立ちしたってできやしない。

 

今なら鼻からパンを丸呑みできるね。いやマジで。

 

「ねぇアレス、やっぱり帰らない?アイツやばいってあたしには分かるのアイツ絶対やばいって」

「僕も同感です。アレス。先程フェンリルの気配が完全消滅しました。つまり、、、信じたくはありませんが、、、あの男が勝ったのでしょう」

 

両側から話しかけてくるのは「槍神」アルテと「剣神」レケンス。

 

アルテは俺たちの一つ上。こいつが最年長だ。

黒色の背中まで伸びる髪に切れ長の瞳。

右目の下にはほくろがある。

酒が入ると気が違ったように人が変わるが、普段は凛々しい。

 

レケンスは俺と同い年、何というか爽やかすぎる面で腹が立つね。

街を歩けば女から黄色い声援が飛びやがる。

ケッ!

 

そして二つ名の通りアルテは主に槍での戦闘、レケンスは主に剣での戦闘を極めている。

俺?俺は「拳神」。徒手空拳だ。

 

そして、今まさに俺の鼻にパンを突っ込もうとしているのが「魔神」ニィクス。

 

こいつも同い年のはずなんだがまるでガキのように小さい。

肩で短く切りそろえた青い髪がさらに幼さに拍車をかけている。

物騒な二つ名だが顔は可愛いし、おそらく精神年齢では俺たちの中で一番高い。

その代わりいつでもマイペースだ。

 

「はやく、、、食べて、、、。アレス、鼻から食うって、言った」

 

っておいやめろ、頼むから、鼻に入るわけねぇだろ痛い痛い痛い。

 

こんなふざけたことをしているが、ニィクスは俺たちの中で唯一の魔法使いだ。

 

年々勢いを増す魔王軍に、俺たち人類が取った最後の策は魔王城への奇襲だった。

汚いなんて言うなよ、守りたいものがあるなら、倒すべき敵は後ろから刺すのさ。

 

というわけで俺たちが偵察に抜擢された。

 

こいつの隠蔽魔法があるからだった。

なんたって俺たちが四英雄と呼ばれるようになったきっかけ、六年前の七日戦争にてただの一人にも気づかれずに魔王軍の中央まで侵入、増援に来た魔王軍のモンスター四万体を一瞬で消し飛ばした正真正銘のバケモンだ。

 

魔法という面では公国の「賢者」の方が優れているかもしれねぇが、こと隠密になるとニィクスの右に出る者はいない。

 

そんな俺たちは魔王に感知されないギリギリの距離から望遠の魔道具と透視の魔道具で魔王城を監視していた。

 

ニィクスに魔法をかけてもらい、そろそろ近づくかというタイミングで、それが起きた。

 

のちに「赤い夜」と呼ばれる現象。

 

月が紅く染まり、夜空が血に濡れる。

 

そして魔王城の大広間から、莫大な魔力反応。

 

俺は咄嗟に透視の魔道具を大広間に向ける。

魔王にバレるかもしれないなんてどうでも良かった。

これほどの魔力反応、勢ぞろいした魔王軍幹部。

明らかに俺たちは何か重大な局面に立ち会っている。

 

みんなが俺の手元の魔道具を覗き込む。

 

そして見たーーー

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

棺が現れ、男が這い出て、幹部を瞬殺、魔王を圧倒し、そのついでとでも言うかのように魔王城内のモンスターを皆殺しにしたことを。

 

有り得ないんだ。

 

魔王軍がなぜ厄介か。

それは無尽蔵の戦力に尽きる。

 

俺たちだって人類の最高戦力だ。

幹部とも互角以上に戦えるし、調子が良い時は複数の幹部を相手取ってなお勝つことが出来る。

だが、俺たちは有限だ。

代わりなんていない、誰かが欠ければそれだけで甚大な戦力低下になる。

 

魔王軍は違う。

殺しても殺しても魔物が沸く。

 

幹部を殺せば次の日にはまた新たな幹部が生まれる。

そいつを殺してもまた次の、さらに次の、と無限に繰り返される。

 

実際この十年で俺は四十四体、レケンスは五十七体、アルテは三十九体、ニィクスは二十二体の幹部を屠っている。

 

だが、魔王軍の戦力は一向に減らない。

 

魔王が人間への侵攻を始めた頃は幹部級の魔物が五百体以上居たというのだから、ふざけた話だ。

 

だから人間はここまで追い詰められた。

 

魔王を殺すしか手段が無いのだが、魔王城から動かない上に、いつでも最低九人の幹部がその身を護っている。

だから中々手が出せなかったが、今回は違う。

 

三国同盟は短期総力決戦を決めた。

 

自国の防衛を捨て、「賢者」、「双璧」、「四英雄」を一気に魔王城にぶつける。

この七人ならば、魔王の命に届くことも夢ではない。

 

それをあの男は、、、たった一人で、、、だと、、、、。

 

「ちょっと、、、何よコイツ、、、気配がどの生物にも当てはまんないわよ!」

「どうやら魔王はとんでもない『なにか』を召喚してしまったようですね。彼が人間の味方ならば良いのですが、、、、、、でなければこれは、、、ふっ、絶望ですよ」

「ガク、、、、、、、ブル、、、、、、、!!」

「と、とりあえず落ち着け。気配を辿って慎重に後を尾けるぞ。遠視の魔道具はダメだ、感づかれるかもしれん。あの男の行動を見極め、そして、、、可能なら接触する」

 

その旨を後方に待機していた連絡部隊に告げると、俺たちは動きだした。

 

そして太陽が昇ったころ、男がどこに向かっているかを察した俺たちは顔を青褪めさせた。

予感は、的中する。

 

一キロメートル程先で男と向き合っていたのは、神獣。

 

「おいおい勘弁しろよ、、、フェンリルは無茶だ、、、」

 

もし男が人間の味方だったら、このままだと貴重な超戦力をみすみす見殺しにしてしまう。

だが、助けに入ったところでフェンリルにまとめて殺されるのがオチだ。

あれはもはや生物じゃない。

神の類いだ。

 

 

俺たちは闘いが始まった気配を肌で感じながら、じっとしているしかなかった。

 

 

そして話は冒頭に戻る。

 

 

いやはや、、、フェンリルに勝つなんざまるで神話だ。

 

だがこれで決まった。

接触するしかない。

 

男は間違いなく人間ではないだろうが、魔王城での行動から、万が一にも人類に味方をしてくれる可能性はある。

もし人類の敵だったならその時は、、、

 

「アルテとニィクスは散れ。いつでもあの男に全力の一撃を叩き込めるように準備。俺とレケンスが接触する。総員完全武装。、、、覚悟を決めろよ?ヤツが人類の敵なら、倒すことは諦めろ。命を賭して消耗させるんだ。あとは、、、あいつらがやってくれるさ。行くぞ」

 

アルテとニィクスは頷き、気配を消して男を左右から挟むように移動する。

 

俺とレケンスは完全武装し、一瞬互いに目を見合わせて歩き出す。

 

「まさかよりにもよってあなたの隣で死ぬなんてね。僕は美女に囲まれて死にたい派なんですよ」

「文句言うんじゃねぇよ。友達の隣で死ねるなら、上等だろ?」

「友達ときましたか。ふふ、それならまぁ、いいでしょう」

 

軽口をたたき合うのは緊張の裏返し。

隣を見ればレケンスの手はかつてないほど震えている。

思わず笑ってしまったが、すぐに気を引き締める。

 

さぁ、お話をしようじゃねぇか。




本当はヒロインを出すつもりはさらさらなかったのですが、ヒロインがいた方が何かと良いよねってことで。

気付いたらフェンリルがキュア・リル!してました。

あと今回は筆がのって書きすぎちゃったので、次の更新は少し遅れます。
大学の期末テストがががががががが、、、、
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