剣と魔法とノスフェラトゥ   作:十二夜

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投稿が遅れると言ったな?あれは嘘だ。

この世界の言語と単位は作者のミラクルパワーにより地球と同じです。
アーカードは英語話してます。


伯爵、邂逅す

「ところでリル。お前この森でいつも何をしていた?」

「別に何もしてなかったわよ。五百年食っちゃ寝してただけ。ときどき魔王がちょっかいかけてくるけど、あんなのは相手にもならないわ」

 

二人は並んで森の中を歩いていた。

 

リルの記憶が正しければ森の出口まであと一時間はかかるので、特にやることも無い二人は先程からとりとめのない話をしている。

 

「アーカード様はどうしてこの世界に来たの?」

「その魔王とやらに召喚された。気に入らん低俗な豚だ。魔王はすんでのところで逃したが、ふん、残りのやつらは鏖殺した」

「あはははは!やるじゃない!ざまぁみろだわ」

「そこまで嫌っていたなら、自分で殺れば良かったろうに」

「いやよ、メンドクサイもの」

 

アーカードが創り出した深紅のイブニングドレスを纏ったリルが妖艶に微笑む。

 

元々アーカードが渡した服はもっと殺伐としていたが、不満に思ったリルがあれこれ注文を付けた結果今の形に落ちついた。

 

地面につくほど長いスカートから覗く足には、同じく赤いヒール。

尻尾まで大きく開いた背中からは、目が眩むほどの白い肌が艶めかしく覗いている。

健康的な鎖骨が浮きあがる肩を剥き出しにして、胸をこれでもかと強調した姿には誰もが目を奪われるほどの美しさがあった。

腕にはアーカードと同く白い手袋が肘の上までを覆っている。

 

今まさに貴族のパーティーから抜け出してきたような恰好は間違っても危険な森の中でして良いものではない。

しかしリルはむしろ、狼の姿の時よりも堂々と森を練り歩いている。

 

すれ違うモンスターはことごとく逃走し、まるで近くにいれば死ぬかのように、決してリルに近づこうとはしなかった。

奇しくもそれは、リルが本来持つ王者の気品をドレスが一層磨きをかけた結果だった。

 

ちなみにリルは今、もともと持っていた力に加え吸血鬼の強靭性や再生力、特性などがさらに上乗せされているという地獄の様相を呈している。

何人たりとも、目をつけられれば瞬殺以外の未来は無いだろう。

 

そしてあと少しで森を出れるという時、二人の後ろから声が響いた。

 

「少し待ってくれないだろうか!そこの御仁とお嬢さ、、、ッ!?フェンリル、、、、だと、、、、!?」

「これは、、、まずいですよ、、、!!」

 

振り向いた二人の目に映るのは、滝のような冷や汗を流す二人の男。

 

片方はガントレットを着けた若い赤髪の男。

もう片方は剣を腰にひきさげた金髪の男。

 

アレスとレケンスである。

 

一目で相当な業物とわかる装備を身に包んだ彼らは、死地に赴くかのように警戒を強めてアーカードに話しかける。

 

「我々はエクラン王国の者だ!単刀直入に問おう!我々人間と手を組んでくれないだろうか!!」

「貴殿は全魔王軍幹部の討伐、魔王城の攻略と人類に多大な貢献をしました。我々エクラン王国には、貴殿を最優先国賓待遇で迎える用意があります」

 

そうは言うが、二人は既に臨戦態勢に入っていた。

 

アレスは考えうる限りの身体強化魔法を重ね掛け、レケンスは剣の柄に手を置き間合いを図っている。

アーカードが何か胡乱な動きをしようものならすぐに飛び掛かれるよう闘志を全神経に張り巡らせていた。

 

それがまずかった。

人間に闘志を向けられ、アーカードが喜ばないはずもなく。

 

左手には既に454カスールカスタムオートマチックが握られている。

 

「ほざけ、人間。貴様らが俺に戦意を向け、俺がそれに殺意で応えた。であるならば、闘争は既に―――!」

 

(いや、待て)

 

一触即発の空気の中、アーカードはすんでのところで思いとどまる。

 

(リルだけじゃどうにも不安だな。コイツはさっきから何もない空間を見つめたまま動かない。、、、いや、本当に一体なにをやっているんだコイツは)

 

先程からリルは横を向いたまま空中に視線を固定していた。

 

加えて鋭く尖った氷の髪が触手のように、背後の一点を微動だにせず狙っている。

 

まるで、そこに居る誰かを牽制するかのように。

 

(それにリルは長い間森にいたせいで人間のことには詳しくないだろう。話を聞くにこいつらは国の中でもかなり上部。ここでこいつらを殺すより、おとなしく王に会って話を聞いた方が得策か。ここは英国ではない。この世界の情勢を知らんことにはどうにも動けん。チッ、、、仕方あるまい)

 

アーカードは銃を下すとぶっきらぼうに聞いた。

 

「それで、、、貴様らは私をどうする気だ」

 

アーカードから放たれていた押し潰さんばかりのプレッシャーが霧散したことで、場の空気が一気に弛緩する。

 

アレスとレケンスは無意識に止めていた息を吐いて深呼吸した。

 

「どうもしません。貴殿の功績はあまりに大きすぎる。褒美も、扱いも、我々だけで判断できる範疇を超えています。まずは、私たちの国王に面会してほしい。無論、人間を傷つけないという条件は必要ですが、、、、。どうでしょう、貴殿にとっても、悪くない話では、、、?」

 

レケンスが言葉を選びながら提案する。

目の前には人外の化物が二体。

少しでもなにか間違えれば即死する。

 

その時リルがアーカードの袖を軽く引っ張り、横を向いたまま、

 

「元々人間のいる所に行くつもりだったし、いいんじゃない?話だけでも聞いてあげたら。もし何かあっても、私と貴方ならどうとでもなるでしょう?」

 

(そうだな、、、)

 

アーカードにとって、人間と戦うことができなくなる条件は呑めない。

 

誰よりも人間を愛し、敬意を払い、羨望の情を抱き、多大な期待を寄せる化物。

だからこそ、人間と闘い、人間に殺されることこそがアーカードの存在意義。

 

しかし、、、

 

(まったく、頭を使うのは俺の仕事じゃないぞ、我が主(インテグラ)

 

「了解した。()()()()()()()()()、私が人間を傷つけることはない」

 

極度の緊張状態にある二人は気づかない。

 

「良かった、、、、」

「よし、そうと決まれば急ぐぞ。、、、、だからよぉ、フェンリルさん、そいつらを放してやってくれねぇか?頼む」

「あら失礼ね。縛りつけたつもりなんて無いのだけど」

 

ぷいっとリルが前を向く。

すると左右から忽然と女が現れ、地面に膝をついて空気を求めるかのように喘いだ。

隠密魔法で姿を消していたアルテとニィクスだ。

 

「ハァッ、、、、ハァッ、、、、、!」

「し、、、、、、、しぬ、、、、、、、、、、」

 

別にリルが何かをしたわけではない。

ただニィクスに目を合わせ、アルテに氷の髪を突き付けただけ。

それだけで二人は蛇に睨まれた蛙の如く、本能的に息を殺して硬直した。

呼吸すれば殺されるかのように。

 

「俺はアレスで、こいつはレケンスだ。そこにいるのがニィクスとアルテ」

「よ、、、、よろしく、、、、」

「わたし、、、、食べても、、、、、美味しくない、、、、よ、、、、?」

 

二人が息も絶え絶えに自己紹介する。

至近距離で見つめ合ったニィクスにいたってはよほど怖かったのだろう、今にでも泣きそうだ。

 

「私はアーカード。そして、、、、おいリル、お前の名前はなんだ」

「そういえば言ってなかったわね。フェンリルよ。よろしく」

 

するとリルはアーカードの腕に自分の胸を押し付けるように腕を絡ませ、しなだれかかって言った。

 

「私はアーカード様の眷属だから、あなたたちを害する気は無いわ。けれど、アーカード様の敵は私の敵だということを、その頭にしっかり刻みなさい」

 

気温が急激に下がる。

アレスたちはただ頷くことしかできなかった。

アーカードの目は死んでいた。

 

「さ、さて!ニィクス、馬車を頼む」

「ん、りょーかい」

 

ニィクスの両手から魔法陣が現れる。

すると周りの木がひとりでに動きだし、寄せ集まり、あっという間に木で出来た馬と馬車を作り出した。

 

木の馬がまるで意志を持っているかのようにヒヒンといななく。

 

「さぁ、二人とも乗ってくれ。見た目は堅そうだがこう見えて座席は意外と柔らかいんだ。乗り心地は保証するぜ」

「この魔法は簡単そうに見えて、極めて高い魔素把握力と魔法制御が求められます。この世界でも使い手は二人しかいません。彼女はその一人というわけです」

 

ニィクスが誇らしげにむふーと胸を張る。

だがアーカードたちが見向きもせずに乗り込んでしまったことで、しょんぼりと落ち込んでしまった。

 

「ところでよぉ、、、だれが相席する?」

「「「いやいやいやいやいやいや」」」

「だよなぁ、、、、、」

 

結局もう一台馬車を作り、御者無しで走る二台の馬車が王都を目指す。

 

広い馬車に二人きりのアーカードとリルは、馬車から見える景色を眺めながらつかの間の馬車旅を楽しんだ。

 

リルが隙あらばメンドクサイ犬のようにじゃれついてくるため、アーカードの目は死んでいた。

 

 

――そして、王都が見えてくる。

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