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「なるほど、、、つまりアーカード殿の目的は元の世界に戻ることだと」
「そうだ。魔王が私を呼んだ。魔王に帰還の方法を吐かすしかないだろう」
アーカードの話を聞いた公王が考える。
「我が国の賢者なら、、、魔王の行方を掴めるかもしれません。それに召喚魔法に関しても知見があるでしょう。一度、お会いになってみては?」
「ほう、、、お前の国は何処にある?」
「ここから西へ。途中に大きなカルロ平原がありますが、貴方たちにとっては特に問題は無いでしょう。案内をお付けいたします」
そう言って公王が微笑む。
リルの眉がピクリと動いた。
「必要ないわ。公国への道なら知ってるから」
「おや、そうでしたか」
公王が残念そうな顔をする。
その目が胡乱な光を放っていたのをリルが見逃すはずも無かった。
「さて、今度は貴様らが私の要望に応える番だ。この世界について詳しく教えろ」
エクラン王がひげをさする。
「そうじゃのう、、、どこから話そうか、、、」
曰く、二千年前に魔王は突然現れた。
その時を境に知能を持たないモンスターとは別に、ある程度の知能を持つ魔物が生まれた。
長らく潜伏していたが、五百年前に突然膨大な量の魔物を従え、人間に牙をむいた。
小さな国から順番に滅ぼされ、元々二十三あった国は今はもはや三つを残すのみ。
人員に優れる王国。
兵力に優れる帝国。
魔法に優れる公国。
魔王は恐らく魔物を作り出す力を持っていて、雑兵から幹部に至るまで無尽蔵に生み出してくる。
しかし、幹部級の魔物を作り出すには膨大な魔力が必要で、一体につきおよそ一年ほどかかる。
だからアーカードが幹部を全員殺したおかげで人間に一年間の猶予が出来た、などなど、、、。
「よって儂らは非常に感謝しておるのじゃ。望みとあらばどんな褒美でも取らせよう。何かあるかの?」
「無い」
「そうか、、、ではこちらが本題なのじゃが、アーカード殿」
三人の王の目が細められる。
周りの人間がごくりと唾をのむ。
「我々人間と共にーーー」
「勘違いするなよ、人間。私は味方ではない」
言い終わらぬうちにアーカードが吐き捨てる。
「私は吸血鬼だ。人間の敵だ。闘争に生きる化物だ。私が護らなければならないのはヘルシング家のみだ。私の闘いの影響で、こちらの人間が幾万幾億死んだところで知ったことか。私を倒す人間が現れるか、さもなくば滅びるかだ。強者を見つけるためなら私は微塵の躊躇も無く棺を開く。滅びたくなければ私を殺して見せるんだな、人間共」
たった一人で人間を滅ぼす。
ハッタリだ、と誰もが思った。
しかし同時に、アーカードの纏う尋常ならざる気配に足が震える。
「話は済んだな。もうここに用は無い。あの男は昼食用に貰っていくぞ」
「な、なにを、、、!ギャッ」
誰もがアーカードに気圧される中、アーカード達を侮辱したあの男が闇に吞まれる。
「ちょ、待てよ!人間は傷つけない約束だろ!?」
アレスが声を張り上げるも、アーカードは唇を釣り上げて嗤う。
「ああ、もちろんだとも。傷一つ付けていないさ、ただ連れて行くだけだ」
そう言い終わると背を向けてリルと共に部屋を出ていく。
それを見た皇帝は何とか引き止めないかとアーカードに向かって叫んだ。
「ま、待ってくれないか!俺たちにはあんたが望むもの全てを与える用意がある!考え直してくれ!!」
しかし、アーカードは扉の前で振り向くと、まるでお前たちでは用意できないとでも言うかのように小さく嘲笑った。
「では、さようならだ」
扉が閉まる。
公王が冷や汗を一滴垂らした。
「まずいかもしれませんよ」
×××
二人は公国へ続く石道を歩いていた。
「へぇ、吸血鬼が血を吸うとその命を取り込めるのね」
二人の口には鮮血が滴るほど付いている。
先程二人は吸血鬼にとっての狩りをした。
リルは初めて人の血を啜り、アーカードは初めて異世界人の血を啜る。
二人とも満足そうな顔をしていることから、不味くは無かったのだろう。
「並の吸血鬼には無理な芸当だ。俺と、その眷属であるお前にしか出来ん」
「普通はどうなるの?」
「グールになる。化物でもなく、人間でもない。哀れな奴らだ。この世界では違うのか?」
「私が知る限り、吸血鬼に血を吸われれば普通に死ぬわね。処女と童貞の血を吸えば眷属化するのはこちらも同じだけど」
「そうか」
アーカードが手に持っていたものをポイと放り捨てる。
かつて帝国の要人だったそれは、空中で三回転半したのち木の幹に激突してバラバラに千切れ飛んだ。
「さて、件の平原とやらに行ってみるか」
「え!?さっきも言った通り、遠回りになるわよ?それにあの公王、絶対何か企んでるわ」
「あの男が何かを企んでいるのは俺も気が付いていたさ。だがその企みからは闘いの気配がした。逃す理由は無い」
「はぁ、、、まったく」
そう、本来エクラン王国からオベロン公国まで行くのにカルロ平原を経由する必要は全くない。
両国の間には長い街道が整備されていて、カルロ平原を通るルートは遠回りになってしまう。
リルは向きを変えて森の中へ入り、まるで道が見えているかのようにアーカードを先導する。
方向感覚が狂いそうな鬱蒼とした森の中を歩くことしばらく、前方に開けた平原が見えた。
そして先にその光景を見たリルが絶句する。
魔王城の崩壊及び魔王の逃走を既に各地に散らばった魔王軍は知らない。
そもそも目の前の人間軍を蹴散らし、国を落とせば良いため、現場の指示系統さえ機能していればあとは関係ないのだ。
そして森に囲まれた広大なカルロ平原。
平原の先の森を抜けると、目と鼻の前にオベロン公国がある。
「ビンゴだ」
そこは戦場だった。
大量の人間と魔物が平原を埋め尽くしている。
距離を開けて両軍が向き合い、今にでも戦いが始まろうとしていた。
大方、公王はアーカードとリルをこの場所に連れてきて、あわよくば魔王軍を一掃して欲しいという魂胆だったのだろう。
両軍の間には一大決戦のような雰囲気が漂っていた。
「数は、、、、両軍合わせて12万ほどか」
「うげぇ、、、めんどくさいわね。通れないことも無いけど、皆殺しとなると時間かかるわよ」
眼前を埋め尽くす軍勢。
血で血を洗う戦争、その乾いた空気にアーカードの口角は自然と吊り上がっていく。
「いや、俺が行こう。ちょうど良い、試したいことがある。リルはここで見ていろ」
「え、、、?でも、、、」
「お前は俺に聞いたな、貴方はなんなの、と。見せてやる。吸血鬼『アーカード』を。その全歴史を」
そう言い残しアーカードが空高く舞い上がる。
そして両軍が睨みあう空間のど真ん中に降り立った。
「な、なんだ、、、魔物か、、、、?」
「ドウシタ?ナニヲザワツク、、、、ナンダアレハ?」
人間も魔物も空から突如現れたアーカードに動揺する中、アーカードがぽつりと呟く。
「アンデルセンのような、素晴らしい人間が居ればいいのだが、、、」
そして、まるで舞台役者のように両手を大きく広げる。
尊大に、傲慢に、堂々と、両の腕を広げる。
アーカードの胸が形を失う。
まるで深淵のように大きな闇が覗き、
アーカードは魔王軍に目をやり、再び人間軍に視線を戻す。
場は整った。
現れ出でたのはーーー
棺。
蓋に刻まれている英文は。
The bird of Hermes is my name, eating my wings to make me tame.
何が起きているのか、何が起きたのか、それらを理解した時、初めて相応しい感情は湧き上がる。
恐怖。
「————」
————時が止まる。
平原を超えて、時が止まる。
痛いほどの静寂の中、アーカードは祈るように両手を握り、天を仰ぐ。
「必ず貴女の元へ帰還を果たそう、インテグラ」
さぁ、謳え。
万感の想いを込めて。
万雷の忠誠を込めて。
溢れるほどの殺意を、
謳え。
アーカード。