剣と魔法とノスフェラトゥ   作:十二夜

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これが書きたかったんだ。


The bird of Hermes is my name.

誰一人、僅かにも動けずにいた。

 

人間も魔物も。兵士も将軍も。弱者も強者も。

指先どころか視線すら動かせない。

 

人間軍と魔王軍の決戦の地、カルロ平原を中心に異常な静寂が生まれていた。

 

()()()起ころうとしている。

 

黒く、紅く、とても恐ろしい()()()、解き放たれようとしている。

 

起こってはならない何かが、出てきてはいけない存在が、棺から出ようとしている。

起きてしまった現実を本能が受け取り、無意識に察知してしまう。

 

ただ気に障らぬようにと、身体が正解を体現していた。

これ以上は刺激してはならないと、揃って不動に徹していた。

 

 

人も魔物も、その他の生命も、自然すらも。

 

 

音がない。人も、虫も、鳥も、吹いている筈の風すらも、息を潜めるように静まっていた。

概念すら失われたのではと思うほどの無音。

 

 

その中で高らかに響く声がある。

地獄の底から聞こえる福音のような。

 

 

私はヘルメスの鳥。

 

 

棺に紅い魔法陣が浮かび上がる。

 

蓋が、外れる。

 

糸が切れた。

 

「うわあああああああああああ!!!!突撃いいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

「コロセ!!!!アレヲ、コロセエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」

 

全方位から降り注ぐ攻撃。

槍が、剣が、矢が、魔法が。

 

人間と魔物の心は一つだった。

戦争なんてどうでもよかった。

ただ、コイツだけは、どうか、どうか、頼む、コイツだけは、なんとしても、殺さなければ。

殺さなければ、、、!!!

 

 

私は自らの羽を喰らい、

 

 

棺から血のように紅い触手が伸ばされる。

 

蓋がずれ、深淵が開く。

 

 

「「「「「「「「ああああああアアアアアアアあああああああああアアあああああアアあああアああああああああああああああああああああああああああああああああああアアあアアあアアアアアアアああああああああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」」

 

 

攻撃が一層激しくなる。

人間も魔物も、もはや半狂乱になってアーカードただ一人に向かって攻撃を続ける。

地面にはクレーターが空き、大地が轟き揺れる。

だが、まだ足りない。

まだまだ、止まらない。

 

「ハ!「ハ!「ハ!!「ハハ!「ハハハハハハ!!「ワハハハハハハハハハハハハハハハ!!!「ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

アーカードが嗤う。

笑う。

哂う。

 

凄惨な、残虐な、邪悪な、惨憺たる笑顔を裂く。

 

もう遅い。

全てが遅い。

もうすぐだ、もうすぐその時が来る。

死が、起きる。

 

 

飼い慣らされる。

 

 

平原に生まれた、ただ一点の『死』。

 

棺の中に集う死により、その他の存在が薄められていく。

 

気付けば攻撃は止んでいた。

 

強烈な『死』に色を奪われゆく世界には、音もない。

 

 

 

やめてくれ……。

 

 

もうそれ以上はやめてくれ……。

 

 

凍り付く矮小なる者達の祈りは届かない。

 

 

小さな棺に収まろう筈もない膨大な『死』は、今か今かと開放を待ち、より濃く膨大に膨れ上がっていく。

 

 

 

銃は構えられた。照準も定められた。

弾は弾装に入り、遊底は引かれ、安全装置も既に外された。

そして、引き金を引くのはアーカード自身。

 

殺すのは、アーカードの殺意。

 

 

 

来る。

 

河が、来る。

 

ついに、開放の時が来る。

 

 

破滅が誕生する。

 

 

「拘束制御術式 第零号 開放」

 

 

『死』が、弾けた。

 

 

『ああああぁぁぁぁぁぁ嗚呼ぁあああアアアアああァァァァ嗚呼ァァァァァああああああ!!!!』

 

 

死人が舞い、地獄が謳う。

 

死が、起きている。

 

イェニチェリ軍団が、ワラキア公国軍が、度重なる十字軍が。

 

オスマン帝国軍が、第一次、第二次世界大戦の兵が。

 

アーカードの全歴史、数百万の命が濁流となって一斉に流れ出す。

 

瞬く間に平原を埋め尽くして、なお止まらず。

 

地獄の中心には、嗚呼!

 

化物、悪魔、ドラキュル、ドラキュラが!

 

アーカードが!

 

「串刺し公」ヴラド・ドラクリヤその人が!!

 

 

「これが、、、貴方なのね、、、」

 

地獄のど真ん中、リルがおそるおそるヴラド公の前に進み出る。

その目は恐怖と畏敬でごちゃ混ぜになっていた。

 

アーカードとは似ても似つかぬ風貌。

 

無精ひげを生やし、騎士のような甲冑を身に包んだ中年。

腰には精巧な装飾を施された、一振りの剣。

 

「なんと、、、お呼びすればいいの?」

「アーカードで良いさ。私は、ただのアーカードだ」

 

初めから勝負になんてならなかった。

 

人間も魔物も一切の抵抗を許さず、等しく串刺しにされ吞み込まれていく。

 

アーカードの領地に、新たな領民として迎えられる。

 

「た、たすーーー」

「ああああああ!」

「嫌だ、、いや」

「ニゲロ!ニゲロオオオオオ!!」

 

平原にあった軍勢は、それを上回る暴力によってみるみるうちに数を減らしていく。

 

その数は千を下回り、百を切り、やがてーー消える。

 

ゼロ。

 

いや。

 

まだだった。

 

「ほう、、、?」

 

失望しかけたアーカードの瞳に光が戻る。

 

まだ抗っている存在が居た。

 

四体の魔物と、、、一人の人間。

 

アーカードの視線がその人間に向けられる。

 

戦場に似つかわしくない軽装に身を包んだ偉丈夫。

歳は三十前半、長い黒髪を後ろで結んだ男だった。

 

手には一目で業物と分かる太刀。

 

目にもとまらぬ速さでそれを振るい、修羅の如き様相で死の河を蹴散らしている。

 

ワラキアの騎士が、オスマン兵が、米兵、ドイツ兵が。

 

尽く一刀の下に切り伏せられている。

 

アーカードの笑みが深くなる。

 

 

素敵だ、素晴らしい。

 

 

見つけたぞ。

 

 

「リル、手を出すなよ」

 

 

腰の剣を引き抜き、アーカードが動く。

 

 

上空からの強襲。

 

 

一瞬で男の上に移動したアーカードは、そのまま上段から剣を振り下ろす。

 

 

男もアーカードを認識した瞬間、振り下ろされる剣に合わせるように太刀を掲げる。

 

 

激突、火花が散る。

 

 

地面が割れるほどの衝撃が轟き、しかし男は完全に攻撃を受けきる。

 

 

「そうだとも、私はお前を見つけたぞ!素敵だ!!」

 

 

即座にアーカードが下から切り上げる。

 

 

しかし男はアーカードの剣を受け流し、反す刃で袈裟に切る。

 

 

アーカードの胸が鎧ごと切り裂かれ、鮮血が噴き出る。

 

「フ、フフフフフ、、、、名を聞こう、人間」

「ほざけ。素っ首を切り捨ててくれるわ、化物」

 

一人の人間と一体の化物が、一歩ずつ歩み寄って行く。

 

切るべき化物を凪いだ心で見据えながら、人間との闘争に心を昂らせながら、静かに歩んで行く。

 

まだ互いの剣が届く筈もない十メートル以上はあろう距離。

 

そこで示し合わせたように二人が止まる。

 

「愉しい愉しい闘争を始めよう。小僧」

「辞世の句は要らんか。のう、(わっぱ)

 

 

――二人の姿が消え、中央で激音が鳴り響く。

 

 

「――――」

 

「、、、、」

 

 

刀と剣が、高みに並び立つ剣士達により交差する。

 

 

「っ、、、、、」

 

「、、、、、、」

 

 

周囲の騒音は一息に掻き消された。

 

 

鳥肌が全身を覆い、激烈な開幕に総じて痺れ上がる。

 

 

「私の心臓に突き立てて見せろ、人間!!!」

「殺すぞ童あああああああああ!!!!」

 

 

斬撃は瞬時に千の火花を生み、万の剣戟音が鳴り響く。

 

 

誰も近づけない半径十メートルの円。

 

 

その中で、二人はひたすら思いのままに剣を振るう。

 

 

「フッ――!!」

 

 

限界まで研ぎ澄まされた太刀の切っ先が、アーカードの左胸をほんの少し傷付ける。

 

 

アーカードの突きを刃で滑らせながら踏み込み、弾いた後の振り下ろし。

 

 

「――――」

 

 

更に斬り下ろしから跳ねた刀が、正確に刃を見切るアーカードの顎付近を空振りする。

 

 

それとほぼ同時に、アーカードは男の腹部に剣を薙いでいた。

 

 

掠めて飛んだ服の切れ端が、塵となって風に流れる。

 

 

「ッ――!!」

 

「――――」

 

 

続けてアーカードがもう一回転し、追撃する男の太刀を弾く。

 

 

その勢いでアーカードは真っ向から己の重さを全て乗せ切った見事な突きの一撃を見舞いする。

 

 

頭蓋を狙い済ましたその一撃を真正面から受け、そして空を舞う木の葉が風で煽られるように、男はひらりと体の外へと受け流す。

 

 

まるで大木が倒れ掛かって来たような重さを持つ一撃をいなし、刃をアーカードの側へと向け、剣の側面を叩いてそのまま斬り上げる。

 

 

有象無象の化物であればこの返しで沈むであろうが、アーカードは努めて冷静に身体が外側へ流れた勢いを自ら利用し、そのまま前のめりになるように前へ転がり、心の腑臓を削り切ろうとした返しの一撃を避けてみせた。

 

 

互いに後ろへと飛び下がり、再び合間を測る。

 

 

愉しくて仕方ないかのように、アーカードがにやりと笑う。男もいつしか笑みを浮かべていた。

 

アーカードはありったけの敬意をこめて口を開いた。

 

「私は吸血鬼アーカード。名を聞かせてくれ、侍」

「オボロ・ミナヅキ。わしの名よ。いくぞ、アーカード。此れを受けてみい」

 

オボロが右手の中でくるりと柄を一回転させ、鞘へと納める。

 

 

右足の踵を前へ向くように置き、左足大きく後方へ引き下げる。

全身を独楽に巻かれた紐のように内へ内へと巻くようにねじり、左手で鞘をがしりと掴み、右手を柄から半紙一枚上の位置で置き留める。

 

 

ずるり、ずるり、砂利が擦れる音を立て、半歩ずつ歩み寄る。互いの距離は八メートル弱。アーカードは居合の構えを見た途端、吸血鬼としての能力を開放する。

 

 

オボロが星見をするように顔を空へ向ける。

いつの間にか雨雲に包まれていた曇天の空から、色が落ちてくる。

それは紅。

すなわちアーカードの身体から溢れ出る、呪いの色である。

 

 

頭上を覆う影から無数の目が覗き、魔犬が顔を出す。

 

 

しかし、オボロはしかとその光景を見据え、鞘から刃を放ち、空を斬り付ける。

 

 

空一面の目玉と魔犬を逆手で刃を振り抜き、唐竹に斬って割る。

 

 

どさりと、大の男の寸胴を斬り落としたような重い音が聞こえ、続けざまに己の立つ場所より他に影の残骸が落ちてくる。

 

 

「クハハハハハハハハハ!!!!ワハハハハハハハハハハハハ!!これを切るかオボロ・ミナヅキ!!!!」

 

心底楽しそうな笑みを浮かべ、アーカードが構え直す。

オボロも構えを直し、居合の構えを止め、刀を振り被り上段にて構えを取る。

 

 

三度、激突。

 

 

「ッーーー!!」

 

 

円の中心で、一歩も譲らずかち合う刃が絶え間なく激音を鳴らす。

 

 

この相手しかいないとばかりに、歓喜して剣を振るう二人。

 

 

既に相当な時間が経過していた。それでも全く足りないとばかりに何ら構うことなく、一瞬の駆け引きが巻き起こる極限の剣戟を続ける。

 

 

呼吸すら憚れる戦闘の中、想像を絶するほどに濃密な数瞬が繰り広げられる。

 

 

剣同士が散らす火花の煌きや、閃く刃、無数の斬撃の応酬は背筋が震えるほど美しい。

 

 

しかし、どんなに愉しい宴でもやがて終わりをむかえる。

 

 

鍔迫り合いの中で長剣が太刀を弾き、返す剣がオボロの肩口を切り裂く。

 

 

徐々に、だが確実にオボロが押され始めていた。

 

 

二人の実力はほぼ拮抗。

 

 

しかし、アーカードは自らが持つ無尽蔵の体力に加えてどんな傷も治す吸血鬼の再生力。

 

 

心臓に刀が突き立てればアーカードを殺せる、だがあと一歩、どうしても届かない。

 

 

対してオボロには細かな傷が目に見えて増えていき、ついにアーカードの剣が届く。

 

 

「ちぃっ!!!」

 

 

ふくらはぎがぱっくり開く。

 

 

踏み込みを狙った一閃を、息の上がったオボロがまともに受ける。

 

 

そのまま瞬きの間に無数の深手を負わされる。

 

 

オボロがバランスを崩し、わずかに前に倒れかける。

 

 

隙。

 

 

それを見逃すアーカードではなかった。

 

 

その顔は、祭りを終わらせたくないと駄々をこねる子供のようで。

 

 

それでいて無防備な頸に振り下ろす剣には確かな殺意が込められていた。

 

 

「さようならだ、オボロ・ミナヅキ」

 

 

剣はオボロの素首をするりとーーー

 

 

 

 

切り落とさなかった。

 

 

 

 

ゴガァン!!

 

 

 

 

鈍い金属音が鳴り響く。

 

突如、戦場に現れた第三者。

 

アーカードとオボロの間に音もなく割り込んだのは、重装備のフルアーマーに身を固めた純白の騎士。

 

オボロを背後に庇うように立ち、極大の盾を地面に突き刺して片手でアーカードの一撃を受け止めていた。

 

どこから現れた?先程までは間違いなく居なかったはずだ。

 

一瞬の逡巡、膠着。

 

その隙にアーカードを弾き、盾を持たない左手から魔法で衝撃波を出してアーカードを後方に飛ばす。

 

そのまま間髪入れず足元に魔法陣を展開、オボロもろとも消え去った。

 

「逃げたか、、、、クククク、、、、また貴様と戦えるんだな、オボロ」

「アーカード様!大丈夫?」

「問題無い」

 

必死に抗っていた魔物共はとっくに河に呑まれていた。

 

河がアーカードの元へ集う。

 

夥しい量の命が棺に詰め込まれ、やがて再び蓋が閉じられる。

 

それに伴ってアーカードもまた、赤いコートの姿に戻っていた。

 

「あ、おかえりなさい、、、やっぱりこっちの方がシックリくるわね」

「フン。時間も無い。とっとと公国に行くぞ。案内しろ」

「わかったわ、こっちよ」

 

二人は森の中に入っていく。

 

オベロン公国はすぐそこだ。

 




ヴラド公モードになったアーカードの強さは未知数なので、妄想で書かせていただきました。
やり過ぎた気がする、、、。
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