剣と魔法とノスフェラトゥ   作:十二夜

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作者が前話で力を使い果たして燃え尽きたので、今回は一回休みの軽い話です。


閑話 魔王の負け惜しみ

俺様は強かった。

 

圧倒的な強者としてこの世に生まれた。

 

親なんて居ない、生まれたときから一人だったが別に何とも思わなかった。

 

やりたいことも無く、溢れ出る力だけが有り余った。

 

「うぬおおおおおおお!!!」

 

ある時、初めて人間を見た。

 

興味深い生き物だった。

 

だから、知ろうと思って数百年ほど人間の国に紛れ込んだ。

 

「チッ、、、ブラッド・ノヴァ!!」

 

これはダメだ、そう思った。

 

想像を絶するほど人間は愚かだった。

 

弱いくせに歴史に学ばず、無限に同じ過ちを繰り返す。

在りもしない神を作り上げては殺しの口実に使い、在りもしない天国に行くために笑顔で同族を殺す。

弱者が寄ってたかって強者を排除し、弱者が持て囃される社会。

 

圧倒的強者として、俺様は心の底から人間を嫌悪した。

本能が人間を受け付けなかった。

 

それからだ。魔王なんて呼ばれるようになったのは。

特にやりたいことも無かったので、人間を滅ぼそうと思い立ったのだ。

 

順調だった。

間違いなく順調だったんだ。

 

ヤツが現れるまでは。

 

あの地獄が現れるまでは。

 

「ッ、、、、!シィッ!!」

 

屈辱の極みだ。

この俺様が敵に背を向け逃亡するなど。

 

強くならねば。

 

ヤツを殺せるほどに。

 

かつてない衝動と共に俺様はそう思った。

 

だから、この領域に足を踏み入れた。

 

入った瞬間、空気が変わるのを感じた。

魔素が肌で感じ取れるほど濃くなり、何かしらの化け物の魔力が常時あたりに満ちている。

 

「もう終わりだ。穿て、血の槍」

 

身体の半分を抉り飛ばされた化け物が俺様の目の前で倒れる。

 

吸血鬼が強くなる方法は簡単だ。

己よりも格上の存在を殺し、肉を喰らい血を啜る。

身体に取り込んだ相手の魔素はやがて魔力となり自らの存在を強化してくれる。

 

俺様は生まれてこのかた格上の相手になんぞ出会わなかった。

俺様より格上なんて存在しなかったし、そもそも強くなる必要も無かった。

 

だが、この領域は違う。

格上なんてそこら辺に山ほど転がっている。

一戦一戦が俺様にとっては命懸け。

 

先程俺様が殺した巨大な鳥の化け物の血を啜る。

再生能力が意味をなさないほどに傷つけられた体が治っていく。

 

そもそも此処にいる化け物共は領域外に出たがらないし、出れない。

だから此処に入らない限り、こいつらの存在は無視してもいい。

実際、領域外で俺様に敵う存在は居なかった。

 

いや、一匹だけ例外が居たな。

 

「氷狼」フェンリル。

 

忌々しい奴だ。

 

どういう理屈だか分からないが、この領域内の化け物共の頂点に君臨する「神獣」の一体にもかかわらず領域外の世界でもピンピンしてやがる。

 

ああ、俺様はあの狼には敵わない、それは認めよう。

強くなる必要も無かったから、多少小突く程度はあってもまともに殺り合おうなんざしなかった。

 

だが、今はもう違う。

 

上空から突然現れた古龍が放つ魔力を全身に受けながら俺様は考える。

 

この場所で出会う全ての存在が俺様より遥かに強い。

だからこそ、此処ならば俺様は何処までも上り詰めることができる。

 

此処で俺様は頂点まで上り詰め、その仕上げにあの「氷狼」を殺す。

そしてヤツを、あのふざけた男を逆襲してやる。

 

古龍が放ったブレスが大地を割り、背後に谷を作るのを後ろ目に見ながら、俺様は走り出す。

 

「まずはこれでも食らうが良い!ブラッド・ノヴァ!」

 

待っていろ。

俺様は必ず帰ってくるぞ。

 

 


 

 

魔王に勝機はある。

 

もし本当に魔王がこの場所で上り詰めたなら、アーカードを数百万回殺し切り、最後の命を消し飛ばすことも可能だろう。

もちろん、人外相手だとアーカードは死に物狂いで抵抗するが、それでも希望はある。

 

だが、魔王は知らなかった。

 

アーカードの傍には今やリルが控えている。

 

吸血鬼と成り、更に力が上乗せされた氷狼が控えている。

 

アーカードに辿り着くためにはまず、この桁違いの化け物を殺さなければならないのだ。

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