大きな戦争とそれより始まる様々な紛争の火種が、今尚燻っている。
一年戦争と呼ばれる大規模な戦争によって、人類はその総人口の半数以上を失い、人類史上類を見ない被害を齎した。
一年戦争後、最大規模の紛争と呼ばれたデラーズ・フリートを中心とする、ジオン公国軍の残党によるテロリズムは戦後の平和に浸ろうとしていた人々にその狂気を突き付けた。
テロの鎮圧は、再び世の人々の前に現れた一人の英雄、アムロ・レイ。彼の活躍により、地球に落着する寸前のコロニーを無事にソーラ・システムによって焼き払うことによって幕を閉じた筈だった。
しかしジオン残党の活発化に伴い、それを契機としてティターンズと呼ばれる過激なグループが、地球連邦軍内に設立されると状況は大きく変わる。初めの頃は真面目な治安維持を行なっていた彼等であったが、その命題によって次第に軍内を掌握していく。
地球からの宇宙移民者に対する弾圧は、一つのピークに達しそれに反発する勢力が現れた。
時に宇宙世紀
暗い暗い暗がりがある。何も見えない、いや点々と何やら光っているのか?小さな小さな光が瞬いている。
星か?しかし星ならば、其れ等は天球と同じく動く筈だ。其れ等の光はパチパチと、一定の間隔で着いたり消えたりと繰り返す。
パイロットスーツに身を包んだ者が目を瞑りながら、座席に座っている。それは瞑想か?はたまた眠りについているのか?
どちらにせよ、その目を瞑っている場所は普通の場所ではない。
球形に縁取られた小さな空間の中に、空中に浮くように置かれた座席、其れ等から延びるコンソールが暗い空間を僅かに照らす。
白を基調としたパイロットスーツに身を包み、その姿勢を安定的に置きながら、両の手を股の辺りで組み、人差し指が僅かに
トントン
と互いを押し合っている。
小さな小さな音が、そんな暗がりの中を反響し一定のリズムを刻んでいると、何かがあったのかピタリとそれは止まる。
それと同時に彼は目を見開き、素早くコンソールを目覚めさせると、その空間に彩りが加えられた。
まるで空中に浮かんでいるかのように、座席はブランコとなって彼を包む。
良く見れば、彼のパイロットスーツの襟首辺りには地球連邦軍少佐である事を、示す星が一つ着けられた階級章が燦然と輝いている。
そんな彼が動き出してから僅かに遅れるように大音響が鳴り響いた。
ゔ〜う〜
と言うサイレン音が鳴り響き、その音に導かれるように彼の座席はゆっくりと、しかし人の走りよりも速く前へ前へと進んでいく。
その下を、邪魔にならないように避けながら幾人もの作業服の男達が駆けずり回り、慌ただしくも規則正しく自らのすべき事を成そうとしている。
ピーピー
と言う音がそんな空中に響き渡ると、彼はコンソールを操作して空中に画面を浮かび上がらせると、その向こう側からは男が顔を覗かせていた。
「レイ少佐!」
「わかっている、敵の規模は?」
管制官と思しき男からの連絡に対して、優しげな声を発する彼は、レイと言う名の男でありそれはそれは信頼を置かれているのであろう。彼のその質問を聞いた管制官は安堵の表情とともに、緊張感を持って答えた。
「はい、敵数18機ないし20。内モビルスーツの数量は大凡15と推定。威力偵察として既にコア・イージーの小隊が迎撃に出ていますが、多勢に無勢でしょう。」
「わかった、ドダイの状況は良いな?」
「はい!即応部隊が遅れています、お気を付けて。」
その言葉をもらうと、彼は片手をヘルメットの額に当て敬礼をする。
記された方角に敵の部隊がいるのだろうか、コックピットにそれらが反映されると、何かを確認すると首を縦に僅かに振る。
そうやって僅かな時間確認作業を行なっている内に、管制画面に一人の女性が現れる。
金髪碧眼で切れ長の目を優しげにしながらも、凛々しい女性。顔立ちから痩せ型なのだろう事が分かるがおかしな事に、僅かに下腹部が膨らんでいた。
「アムロ…気をつけてらっしゃい…。貴方にはまだ」
「ああ、必ず帰ってくるよ。二人きりにはしたくないからね。」
誰であるのか確認するような事はしない、彼女は彼の愛すべき人であり護りたい者であるのだから。
ドダイと呼ばれる、モビルスーツの空中戦を補助する機体サブフライトシステム、それが空を駆ける。
人から見れば巨大なその体躯を大空に舞い上げながら、周囲を旋回し始め主を待つかのように。
バラバラと黒点が次第に近づいてくる、その速度は遅いとは言い難くやはり多勢に無勢だったのだろう。だが確かに、幾らかの敵の数は減っていることから、少しの時間は稼いでいるのだろう。
次第に近付く機影に対して、地上にある施設。嘗て核戦争を想定して作られたその施設は、今こそその真価を発揮するかのように、その持ち得る潜在力を敵の眼前に示す。
その分厚い鉄塊の様な、巨大な扉が開くとそこに1機のモビルスーツが姿を現す。
地球連邦軍とすれば、その姿は誰もが目にしたことだろう。一年戦争を皮切りに、地球連邦軍が作り出すモビルスーツ。その旗印としていつも姿を現すそれは…、所謂ガンダムと呼ばれるそれであった。
だが、それは見た目だけで、本来であればそれは所謂ジーラインと呼ばれる機体であるはずだ。
だがこの時、この場所にいる人間にとってはそれは正しくガンダムである。
その証拠に、その機体はゴーグルアイには似つかわしくないV字アンテナが輝く。
故に彼らにとってそれは、ガンダムなのだ。
幾度の改修、そしてガンダムmk2からのデータによって連邦軍内の機体はそのアップデートを受けていた。
連邦軍内の所謂穏健派と呼ばれる人間から得られたそれらを基に、このシャイアンのジム2は元より、ジーラインも確かなアップデートを成されていた。
鉄筋コンクリートの内部から出現したその機体は、一息に跳び立つと空中待機していたドダイに見事に着地する形で、その機体を空へと駆け上がる。
眼前に広がる敵の数は、その挙動は決して難しいものではないが確かに練度と言うものはあった。
「アムロ・レイ…討たれるなよ…。」
独り言を呟くように、自らを叱咤する。Rx78-2ガンダムのデータは一年戦争後、確かに地球連邦製のモビルスーツにフィードバックされていた。
その為、アムロ・レイ、彼の育て上げたそれが基礎となりモビルスーツの挙動も、パイロットに対する補助も、ありと汎ゆる面で一年戦争時のそれとは比べ物にならない程に優秀なものである。
従って、彼に関して言うのなら過去の自らその劣化コピーと戦っている様なものである。
そんな物が配備されているのが当たり前で、そうともなればさしもの彼であっても死を覚悟する。
だが、今の彼には帰る場所も護る人もいるのだから、彼が敗れる要素など紙一重も無い。
「マッケンジー隊が来るまでの辛抱か…、やってみせるさ。」
敵との相対速度は音速を超える、敵がゴマ粒のように見える距離から直ぐに目の前に敵が現れると、まるで曲芸のような動きで次々と攻撃を逸らし、あたかもそれが来るのが分かっていたかのように、一つまた一つと数を減らす。
ただ、それは確かに一方的なものに見えるだろうが、全てのものにリソースが有り、それを可能な限り絞りながら戦う彼にそれは一時凌ぎである。
それに…。
「コレで敵の第一波なら、第二波の前にはケリをつけなければ…。ティターンズめ…!」
敵の総量は彼にも分からない、何故ならばこの大地の3分の1以上は、敵も同然であるのだから…。
ティターンズとエゥーゴ、そして日和見主義の者達、その3つに分かれた地球連邦軍は今当に内戦に突入していた。
物量で勝るティターンズ、そして北米大陸においてそれに対抗し得る勢力はあまりにも少なく、その中で最前線とも言えるのがここ、シャイアンとなっていた。
ただ、頼もしくもここにはアムロが心を許す、幾人もの味方がいる。
「来たか!!」
空戦の最中、基地から飛び立つ幾つかの機影…それこそが、彼の率いる部隊とその友邦達。
そして……、彼にとって恩人ともいえる人が率いる、モビルスーツ大隊である、マッケンジー隊であった。
都合により週1更新です。
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