白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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始末

 

「マイク…ピーター…アン…ヒューイ……ザックス…、へんじを…しろ!!」

 

ジジジと、何かが放電するようなそんな音が響き渡る。

薄暗いコックピットは、液晶画面が作り出す人工の光に僅かに照らされて、その内部を映し出す。

幾つかのコンソールには亀裂が走り、メチャメチャになってしまったものもある。

 

だがそんな中にあってパイロットであるチャップマンは、壊れたものを代替するように、未だに生きている物を、使ってその機体グフを立て直した。

左腕を欠損し、戦闘続行に悪影響を及ぼしているにも関わらず、彼の戦意を現すかのように、その単眼は力強く光り輝いている。

 

ザ…ザザザ……プッ

 

「こちら……ザック…、これより敵に突貫する。援護を求む…」

 

その言葉が何を現すのか、チャップマンは直ぐ様理解すると機体を立て直し、周囲を見渡しながら落ちている嘗ての味方であった残骸からマシンガンを奪い取ると、黒煙の中を急激に機体を加速させ一直線に進軍を開始した。

 

試作されたホバーシステムから裏打ちされたかのように、機体はブースターを点火し加速されていく。それに着いていくように、巨体と言える紫のそのドッシリとしたドムが、1列となって目標へと進んでいる。

片腕となったグフは、マシンガンを撃ち続けながら右へ左へと機体を揺らす。

 

互いに回避しながら、徐々に加速していく…

 

「不味い…目標がなんなのかは知らないが…!阻止射撃!撃ちまくれ!建物に当たっても構わない!!」

 

それを見たレイヤー大尉は、周囲に展開していた者達に号令を放つと、ばら撒くようにマシンガンを撃ち続ける。

地面に当たればそれを抉りながら跳弾し、建物に当たればそれを抉り飛ばす。

 

幾つかのそれが敵の機体に命中するが、ザクマシンガンのパワーではグフやドムの装甲を撃ち抜くには、幾ばくかエネルギーが足りていない。

 

「慣れてやがる…!」

 

そんな中で、一発がドムの頭部へと致命打を撃ち込んだ。しかし、カメラセンサーを破壊されながらも、尚も前進し続けるその姿は正しく執念の鬼であった。

そんな最中、突破されるのも時間の問題か?と思われた直後、グフは思い切り機体を上空へと翻し、ドムを庇うかのようにその身を前に差し出す。

 

直後、大規模な爆発とともに何かがそれに直撃した。それは、上空から落ちてくる180ミリカノンの砲弾。

そう、チャップマンはその身を呈してドムの射線上へと入り、その砲撃を受けたのだ。

勿論、そんな物が直撃すれば陸戦を想定しているグフとて、ただでは済まない。

 

見事に土手っ腹に砲弾が当たれば信管が作動し、成す術無く爆発した。そんな火煙をものともせず、ドムは前へと進み続ける。

闇雲にジャイアントバズを連射したと思えば、それを投げ捨て射線を作り上げた。

 

ちょうどそのバズの砲弾の向かった先には、防御射撃を行っていた者達がいたものの、その直撃弾を避けるために一時的に退避しした。

だが、その一瞬。その一瞬が、陣形に穴を穿つ。

もしコレがジムであれば、盾で受け止めていただろう。だが、所詮はザクである。そうなるのも無理はなかった。

 

ドムは最終速度380km/hに到達し、その不可思議な軌道によって射線を予測させない。

そして遂に…、防衛線に出来た穴から士官学校への道が開いた。

 

「狙いはあっちかよ!俺等は無視か!この野郎!!」

 

一人のパイロットが照準を向けるものの、その先には士官学校がある。下手に撃てば確実にそれは同士討ちになるだろう。

 

「バカやめろ!」

 

それを抑える味方の行動は正しく、しかし突破された事実は変わらない。凡そ30kmの距離を3分という速度で進んで行くその姿は、正しく陸戦兵器である。

この時、何故かそのドムを阻止する為の砲撃が止んでいた…。いったい何が起きていたと言うのだろうか?

 

 

〜ハバロフスク襲撃直後〜

 

館内放送が鳴り響き、眠っていた候補生達は眠い眼を擦りながら、その音に驚愕していた。

 

「コレは演習ではない!繰り返す、コレは演習ではない!」

 

人工音声が危険信号を周囲に投げかけるとともに、自分たちの今出来ることを瞬時に選択する。

それは士官学校2年目の生徒たちが率先する事により、入ったばかりの1年が大混乱するのを抑える為に動き出す。

しかし、悠長にしていられる時間など無く、時は無情にも過ぎていく…。

 

カールは、警報から飛び起きるといち早く身支度を終え、廊下に飛び出す。既に幾人かは同じ様に行動しているのを確認すると、直ぐに事態の収集へと動き出した。

 

如何にエリートの多い士官候補生等であるとしても、所詮はただの人間である。

どれだけ訓練を繰り返し、心を鍛えていたとしても死への恐怖と言うものは誰しも持っているもの、サイレンが鳴るたびにビクビクする者もいた。

 

「とりあえずだいたいの収容は終わったか?」

 

一通りの事を終え、さあ自分も入ろうと思った次の瞬間。視界の端に誰かがヨロヨロと歩いているのを見た。

 

「オイ!!早くこっちに、来い!」

 

カールはそう言うが、その人はそんな事を聞かず寧ろその声を聞くとビクビクとして、どこへとも逃げ出そうとした。

それを見たカールは苛立たしげに舌打ちした。

 

「クソがよ!」

 

静止の声も聞かず、カールはそれを追い掛ける。

半狂乱になりながら走るその人物、それを息せき切って走るカールは何時の間にか外へと飛び出していた。

煙の立ち上がる街、そして突発音が聞こえる。

 

相変わらずヨロヨロと進んで行くその人物は、あろう事か味方のザクの足元へと移動していくではないか。

アレでは戦闘の邪魔である。

ザクの方もそれを見てとると、右腕に抑えるように持っている180ミリカノンを撃つ姿勢を一旦取りやめた。

 

『アナタはなんでこんな所に!!速く避難してください!!』

 

スピーカーから届く声、カールはその声に聞き覚えがあったが、そんな事よりもとにかくあの男を停めることを優先し、やっとの事で追いついた。

 

「この馬鹿野郎!死にてぇのか!」

 

しかし、暴れる。ものすごい力で。

徐ろに首に腕を回し思い切り首を絞める。手加減はする者のゆっくりと首筋が圧迫され、その男はグッタリとなった。

いい加減ここを立ち去らなければまずいと思っていたが、どうやらそんな時間は無さそうだった。

 

『急いで!!』

 

「わかってるよ!」

 

キーン

 

と言う甲高い音が聞こえる。

その音にカールは聞き覚えがあった。敵味方識別用にと、教本と映像から教えられたドムの熱核ホバー、その特徴的な音である。

今現在、この基地にドムのストックは無いし何より、訓練用に調達されたなどということは、未だに聞いたこともない。

急いで彼は建物の陰に隠れるように、なんとか身体を小さくする。最低でも被弾を抑えようとしたのだろう。

 

しかし、それでもアムロの乗るザクは180ミリを撃つのを躊躇った。いや、仕方のない事だろう。

そもそも、対MS用の長距離砲。その射撃の際に放出される爆風とその反動は、射線上でなくとも地面を滑ることになれば、人間の鼓膜など一瞬で破れてしまうだろう。

別かもしれない、しかしそこに到達するまでの間射撃を停止するには、それ以上の理由は存在しなかった。

 

僅か2分、その時間射撃を停止させられた。その間に、ドムは味方を犠牲にして此方へと突っ込んでくる。

 

「チィイー!!」

 

射撃を行えば確実に当たる。だが、巻き添えを作るのは御免である。それも、顔見知りが戦場で死ぬ所を見たくはないと言う、アムロらしい思考で。

 

だから、彼は思い切りの良い行動に出た。

180ミリ砲をぶら下げながら、ザクはゆっくりとしかし確実に歩み初め、徐々に加速していく。

一歩歩く事に、関節にかかる負荷を見て限界の挙動を確信したのか、急激に速度を上げ走る。

 

腰部左に突き出したヒートアクスの柄、そちらへと意識を行いつつ、目の前の敵へと牽制射を行う為急激なブレーキングと同時に180ミリを射撃する。行進間射撃、そんなものでは射線がブレる、特にこれ程の長砲身ではそれも顕著だ。

だが、そんなもの構いはしない、間髪入れずに射撃する。

 

もはや至近、目と鼻の先のドムめがけるもドムはそれを、ひらりと反らす。用に機体を、僅かにザクの左側へと動く。

しかし、そんなドムの思考とは裏腹に砲弾は地面へと吸い込まれ、土煙を天高く躍らせる。

 

しかし、ドムの搭乗者たるザックス…。彼はザクの性能を良く知っていた。

ドムとザクとでは、その機動性は遥かにドムが勝る。正直に言って、ザクは鈍重に映る事だろう。

故に、己の経験と勘を頼りにヒート・サーベルをザクがいるであろう場所に対して、そのままの勢いで野球の左バッターが振るうように、それを横に振る。

 

被弾面積を増やすと同時に、ザクの回避モーションであればここまでで確実にダメージが入ると、そう言う確信があった。

 

しかし……、その確信はたった一つの驚異的事実に塗り替えられる。

ドムのコックピット、その前面モニターに映し出されるのは眼前に迫るヒート・ホークの鋒、しかしザクのその姿はまるで見えない。

回避を取ろうにも、それを行えるような時間も無くそれは吸い込まれるようにコックピットに近付いてくる。

 

それを目にしたパイロットの思考の中には一つの言葉が、脳裏を過ぎた。

 

「白い……悪魔!」

 

それが、ザックス。彼の最後の思考だった。

 

土煙が晴れた後、そこに有ったのは機体がサーベルを構えたままに止まったドムと、思い切り膝を突きヒート・ホークを振りかぶるザク。見事なまでにそのホークは、ドムのコックピットを溶かし捻り込まれ、内部のパイロットだけを狙った正確な一撃…。

 

そして、ザクは立ち上がる。

パイロット、アムロ・レイ。彼の瞳の先にあったのは、煙を上げる街の姿、それだけであった。

 

 

……

 

 

煙を上げる街、子どもの泣き声…親を子を探す人々の言葉。救急を告げる車両に、瓦礫を撤去する連邦のザクの姿。

力なく横たわるジオンのモビルスーツ、爆散し散り散りになったパーツ達。

それは、戦後の姿とは言えやるせない気持ちを人々に植え付けるには、充分な光景であった。

 

なんの為に誰の為に、彼等はこんな所に現れて街を破壊し基地を攻撃するような、そんな愚行を犯したのか…。今となっては誰にも分かることではない、ただ確かな事があるとすれば…明日からはまた何時もの日常が始まると言うことだろう。そこに足りないのは、幾人かの生命と建物だ。

 

連邦軍による検視の結果見えてくるものは、とても受け入れられないような結果である。

彼等の行動が、あまりにも不可解なものであったと言うところは、改めて誰もが思っていた。

 

如何なジオンの残党軍と言っても、結局は元は軍人であるという事実はあるのだから、何かしらの意図があっての行動であるというところはそうなのだろう。

 

現にハバロフスクという連邦勢力圏で特に安定している地域、そんなところに連邦軍の監視の目が届かなかったと言うことは、あまりにも不可解である。

まるで、いつ何処に誰が何をしに行くのかとか、戦力の空白が何時始まるのか、始めから知っていなければこの奇襲はあり得ないものだった。

 

正規の連邦軍、特にジム1個大隊が有れば今回の事態も早々に決着が着いた筈であるし、これほどの被害も出ることはなかった。

つまりは、明らかにこの残党を誘引する為に誰かが情報を流したと言うことだった。

 

だが、いったい誰が?こんな事を計画したのだろうか?彼等の目的は?いったい何であろうか?

軍施設を狙うのならば、民間居住区の少ない基地周辺が良かったはずである。

しかし、結果は士官学校を狙っていると言う事実は、贔屓目に見ても異常である。

 

要人がそこにいたのか?だとすればと言ったところで、検視は打ち切りとなった。

結局、その相手が何者であるのか等ということは分からずじまい。

ただ、ハバロフスク士官学校の教官団は一つの疑念を持ってその報告を受け取った。

 

ただ、その報告はあまりにも杜撰なものである。

敵6機中4機を破壊せしめたアムロ、彼の功績を讃えつつも、単なる残党の襲撃として形を付けたのだ。

 

そんな報告故に教官団は一つの結論に至った。

狙われたのはアムロ・レイであろうと。

そして、その彼を狙って連邦軍内部から彼を暗殺する為に、何かしらの方策が練られた。そんな可能性が高いということを。

 

味方を謀殺する?そんな事は本来あってはならないが、実際それが起きているのだから、教官団はその疑念を持ちつついつも通りに仕事を続ける他無い。

 

ただ、そんな中にあってコジマと言う男は、連邦軍と言うそんな巨大な組織に巣食う、暗い暗い癌の様なものに対して怒りを持って前を向いた。

そして、官僚的であり組織のそれに沿って生きてきた男は、残り少ない半生をここに来て切り替える決心を付ける。

 

このまま行けば、連邦軍は内部から分裂する。そんな確信めいた考えとともに、それを止めるためには誰かがそれを上に伝える義務がある。

彼は、一時の好き嫌いよりも現実の無情さを叩きのめす為に、将へと昇進する。と言う、そんな道を模索し始めるのであった。

 

 




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