白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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蠱毒

宇宙世紀0086年 6月 —— ダカール、黄金に彩られた毒蛇の巣

 

あのオーガスタの騒動や、各所での小競り合いから数ヶ月。

地球連邦議会内部での暗闘は、未だ底知れぬ熱を帯びて続いていたものの、表面上の武力衝突や露骨な対立は奇妙なほどに鳴りを潜めていた。

 

地球至上主義を掲げ、軍内部での覇権を急拡大させる『ティターンズ』。

 

それに反発し、宇宙居住者の権利と連邦の正常化を訴える地下組織『エゥーゴ』。

 

そして、その二大勢力の狭間で、表向きは「正規地球連邦軍」として中立を装いながら、風向きを見極めようとする巨大な派閥――『日和見主義者たち』。

 

アムロ・レイやコジマ准将が率いる第13外郭独立艦隊『クレール・ルクス(C・L)』の最大の支持母体は、皮肉なことに、この日和見主義者たちであった。

 

C・Lが正規軍の枠組みとして機能し、ティターンズに対する強力な抑止力(あるいは噛み犬)として重宝されている背景には、一人の巨大な「政治のドン」の存在があった。

 

ワイアット大将の前任たる兵站の将軍にして、連邦政界・軍事産業に底知れぬ影響力を持つ怪物――ゴップ元大将である。

 

彼は退役後も政界の奥の院に鎮座し、ティターンズの独裁を嫌う正規軍の保守派や日和見主義者たちを束ね、C・Lの活動資金と政治的庇護を担保していたのだ。

 

それぞれが、それぞれの思惑と殺意を腹の底に隠し持つ連邦議会。

 

しかし、ここは野蛮な戦場ではない。政治家たちは、闘争というものをどこまでもスマートに、そして優雅に進めようとする。

――そう、政治資金パーティーというものは、まさにそのために行われる「血の流れない戦場」なのだ。

 

豪奢なシャンデリアが黄金の光を降らせる、地球連邦の首都ダカールの広大なバンケットホール。

 

オーケストラが奏でる優雅なワルツの調べの中、連邦の重鎮たち、巨大企業のトップ、そして各派閥の将官たちが、高級なシャンパン・グラスを片手に談笑を交わしている。

 

ティターンズの漆黒の軍服を着た将校たちが傲慢な笑みを浮かべて闊歩する横を、エゥーゴに資金を流しているであろうアナハイムの重役たちが、慇懃無礼な態度で通り過ぎる。そして、その両者の顔色を窺いながら、ゴップ派の政治家たちが分厚い腹を揺らして愛想笑いを振りまいていた。

 

まさに、黄金で飾られた毒蛇の巣。

だが、そのどす黒い欲望と欺瞞が渦巻くホールの中心に、一輪の清廉な花が咲いていた。

 

セイラ・マスである。

 

彼女は今夜、一切の装飾を削ぎ落とした、洗練された純白のイブニングドレスに身を包んでいた。

 

美しい金糸の髪は上品に纏められ、その透き通るような白い肌と、凛とした蒼い瞳は、周囲の脂ぎった権力者たちとは明らかに次元の違う、圧倒的な気高さと存在感を放っている。

彼女がなぜ、このような魑魅魍魎の蠢く場に足を運んでいるのか。

 

それは、オーガスタの孤児院と、心に傷を負った子供たち(強化人間たち)を保護し続けるための『資金繰り』のためである。施設の運営には莫大な金がかかる。特に、ティターンズの息がかかった機関からの干渉を防ぐためには、それを上回る政治的な後ろ盾と、クリーンな資金ルートが必要不可欠であった。

 

「……素晴らしいドレスですね、マス代表。今夜の貴女は、まるで女神のようだ」

 

恰幅の良い連邦議員が、いやらしい笑みを浮かべてセイラに近づき、グラスを掲げる。

 

「お世辞をありがとうございます、議員。ですが、私が求めているのは女神への賛辞よりも、戦災孤児たちへの具体的なご支援の方ですわ」

 

セイラは、冷たい氷のような微笑を完璧に張り付けたまま、グラスを軽く合わせた。

 

「先日お渡しした、オーガスタ施設への医療設備投資の件、ご検討いただけましたでしょうか?」

 

「おや、あんなものはすぐにでもサインしますよ。……貴女のような美しい方が、我々正規軍の『日和見派』に顔を立ててくださるのならね」

 

議員の言葉の裏には、明らかな牽制が含まれていた。

 

彼らは知っているのだ。この美しい女性の正体が、ジオン・ダイクンの遺児『アルテイシア』であるという噂を。

 

そして、連邦最強の切り札であるアムロ・レイの最も親しい存在であることを。

 

日和見主義者たちにとって、セイラを自分たちの資金援助の枠組みに縛り付けておくことは、アムロとC・Lをコントロールするための「最も有効な首輪」になり得るという計算があった。

セイラは、そんな彼らの浅ましい思惑など、とうの昔に見透かしていた。

 

(……本当に、どいつもこいつも腹黒い狸ばかりね)

 

心の中で毒づきながらも、彼女の表情は微塵も揺るがない。

 

「ええ、期待しておりますわ。子供たちの未来は、議員のような『寛大で平和を愛する』方々の手にかかっているのですから」

 

相手の自尊心をくすぐりつつ、決して言質は与えない。

戦場でモビルスーツを駆るアムロが「剣」であるならば、今この絢爛豪華なパーティー会場に立つセイラは、優雅なドレスという名の「装甲」を纏い、言葉という名の「銃弾」を放つ、もう一人の戦士であった。

 

 

少し離れたVIP席では、杖をついた小太りの老人――ゴップ元大将が、分厚い葉巻を燻らせながら、純白のドレス姿で立ち回るセイラを細い目で興味深げに観察していた。

 

「……見事なものだ。ジオンの姫君は、政治という泥水の中でも決して汚れを見せん。アムロ・レイが執心するだけのことはある」

 

ゴップは、紫煙の向こう側で低く笑う。

 

「ジャミトフも、エゥーゴの連中も、そして我々も……あの純白の華をどう扱うかで、次の時代の覇権が決まるやもしれんな」

 

表面上の平和を装うワルツの旋律の裏側で。

連邦の運命を握る役者たちは、純白のドレスを纏ったセイラ・マスを中心に、次なる血みどろの権力闘争の火花を静かに、そして確実に散らしていたのである。

 

 

この魑魅魍魎が蠢くダカールのパーティー会場へ乗り込むにあたり、セイラには一つの懸念があった。

 

単身で乗り込めば、有象無象の政治家や野心家たちが「我こそは」と群がり、あるいはティターンズの息がかかった者たちから露骨な牽制や嫌がらせを受けることは火を見るより明らかである。

 

だからこそ、セイラはエスコートとして、屈強なボディーガードでも、日和見派の政治家でもなく、一人の『古き友人』を伴っていた。

 

純白のドレスを纏うセイラの傍らで、落ち着いた深いネイビーのイブニングドレスを品良く着こなし、優雅な微笑みを絶やさない女性。

 

ミライ・ノアである。

 

旧姓、ミライ・ヤシマ。

地球連邦の政財界に絶大な影響力を持つ巨大複合企業『ヤシマ・グループ』の正統なる後継者。現在はドロドロとした後継者争いや権力闘争から身を引き、C・Lの旗艦艦長であるブライト・ノア大佐の妻として、二人の子供を育てる母として生きている。

 

だが、ここ地球の社交界の頂点において、彼女の顔と名前を知らないモグリなど一人として存在しなかった。

 

「おお、これはミライお嬢様! 久しぶりにお姿を拝見できて光栄の極みですぞ!」

 

「ブライト大佐の奥方に収まられたと聞いておりましたが、その気品はヤシマの当主であられた亡きお父上そっくりだ。……ぜひ、我が社の次期プロジェクトについてもご助言を」

 

セイラの予想通り、というよりもそれ以上の勢いで、会場にいた実業家や政治家たちが、まるで甘い蜜に群がる羽虫のようにミライの元へとすり寄ってきた。

 

彼らにとって、ミライが現在ヤシマ家の実権を握っていようがいまいが関係ない。「ヤシマの血を引く直系令嬢」というブランドそのものが、無視することなど絶対に許されない絶対的な権威なのだ。ここで彼女を無碍に扱い、万が一にもヤシマ・グループ本家の逆鱗に触れるようなことがあれば、彼らの政治生命や会社の命運など一夜にして吹き飛んでしまう。

 

「お久しぶりです、閣下。父が存命の頃は大変お世話になりました。……ですが、今の私はただの軍人の妻。難しいお話は分かりかねますわ」

 

「ふふっ、またまた御冗談を」

 

ミライは、押し寄せる欲の皮の突っ張った男たちを相手に、微塵も隙を見せない完璧な淑女の笑みで対応していた。一年戦争の激戦を潜り抜け、ホワイトベースの母として個性的なクルーたちを纏め上げてきた彼女にとって、社交界の腹の探り合いなど、ただの退屈な茶番に過ぎない。

 

そして、このミライの存在こそが、セイラが仕掛けた「最も強烈な政治的メッセージ」であった。

 

羽虫のようにミライへ寄ってきた男たちは、当然、その隣で優雅にグラスを傾けるセイラの存在に気づき、そして息を呑むことになる。

 

(……ミライ・ヤシマが、ジオン・ダイクンの遺児のエスコートとして同伴しているだと?)

 

それは、言葉を交わさずとも、この会場にいるすべての権力者たちに一つの事実を突きつけるのに十分な破壊力を持っていた。

すなわち、『地球の巨大資本ヤシマの血筋が、アルテイシアの肩を持っている』という強烈な視覚的証明である。 

 

これを見せつけられては、ティターンズの将校たちであっても、迂闊にセイラへ手出しすることはできない。もし彼女に危害を加えたり、あからさまな圧力をかけたりすれば、それはオーガスタの孤児院に対する弾圧に留まらず、「ヤシマ家への敵対行為」として受け取られかねないからだ。

 

「……さすがね、ミライ。あなたが隣にいてくれるだけで、連中の目の色が露骨に変わるわ」

 

セイラは、すり寄ってきた政治家たちを適当にあしらった後、シャンパングラスで口元を隠しながら隣のミライに小さく囁いた。

 

「ふふっ。私なんて、ただの客寄せパンダよ。それに、今の私は『ヤシマの令嬢』ではなく『C・Lのブライト大佐の妻』でもあるわ。……セイラさんの盾になれるなら、この名前も悪くないわね」 

 

ミライは悪戯っぽく微笑み、セイラと軽くグラスを合わせた。

ヤシマの令嬢という絶対的な防壁でありながら、同時にC・Lの司令官の妻でもあるミライ。

 

彼女がセイラに付き従うという構図は、連邦議会の日和見主義者たちにとって「C・L(武力)とヤシマ(資本)が、ジオンの姫君(大義)を擁護している」という、極めて強固で手出し不可能な聖域を作り上げていた。

 

「これで、施設の資金繰りも少しは楽になりそう。……巻き込んでしまってごめんなさいね」

 

「水臭いことを言わないで、セイラ。私たち、あのホワイトベースで一緒に地獄を見た仲じゃない。……それに」

 

ミライは、遠くのVIP席からこちらを窺っているゴップ元大将や、ティターンズの将校たちへ鋭い視線を向けた。

 

「アムロやブライトたちが宇宙で命を懸けて戦っているのだもの。私たち女は、この泥水の中で、彼らの帰る場所をしっかり護らなくちゃね」

 

「……ええ。本当にその通りね」

 

純白のドレスのセイラと、深みを帯びたネイビードレスのミライ。

一年戦争を生き抜いた二人の女性が並び立つその姿は、ダカールの黄金のバンケットホールにおいて、いかなる最新鋭モビルスーツの装甲よりも固く、そして美しい『盾』として、魑魅魍魎の蠢く政界に毅然と立ち塞がっていた。

 

ヤシマの令嬢という絶対的な防壁と、ジオンの姫君という大義。

ダカールの黄金に彩られたバンケットホールにおいて、セイラ・マスとミライ・ノアが作り上げたその「聖域」は、有象無象の政治家や実業家たちを遠ざけるには十分すぎるほどの威力を発揮していた。彼らは遠巻きにグラスを掲げ、愛想笑いを浮かべることしかできない。

 

しかし。

 

大企業や連邦議員が一堂に会するこの権力闘争の場において、この最大の「チャンス」を前にして臆するような者は、そもそも歴史の表舞台には立てない無能である。

 

群衆が、まるでモーゼの海のように静かに二つに割れた。

その聖域のただ中へ、周囲の空気を凍らせるほどの圧倒的な存在感を放ちながら、二つの人影が歩み寄ってきたのだ。

偶然か、それとも必然か。

 

互いに向かう先と、意図するところが完全に一致してしまった二人の男。

 

「……奇遇だな、ブレックス准将。このような華やかな場に、貴官のような『宇宙の事情』に明るい御仁がおられるとは」

 

一人は、深い皺の刻まれた顔に冷酷な笑みを浮かべる初老の男。

急進派『ティターンズ』の総帥、ジャミトフ・ハイマン。

 

「ええ、全くです、ジャミトフ閣下。地球の重力に縛られた方々ばかりでは、議会の風通しが悪くなりますからな。少しばかり、宇宙の風を吹き込みに参った次第です」

 

もう一人は、軍服を隙なく着こなし、知性と反骨心をその瞳に宿す男。

 

反ティターンズ組織『エゥーゴ』の象徴、ブレックス・フォーラ准将。

 

連邦の次代の覇権を巡って血みどろの暗闘を繰り広げている二大巨頭が、セイラとミライのテーブルを挟んで、ピタリと同タイミングで歩みを止めた。

 

表面上はシャンパングラスを片手に穏やかな笑みを浮かべているが、その実、二人の間では視線だけで互いを千に引き裂くような、凄絶な牽制と殺気が交錯していた。

 

「お初にお目にかかる、マス代表。いや……アルテイシア・ソム・ダイクンとお呼びした方がよろしいかな」

 

ジャミトフが、重々しい声で口火を切った。

 

「オーガスタでの貴女の献身的な活動は、我がティターンズも高く評価している。……時に、人類がこの美しい地球を保全するためには、強権をもって『無知なる大衆』を正しく導く管理が必要不可欠だとは思われないかね?」

 

ジャミトフの言葉は、暗に「ティターンズの独裁による全人類の強制宇宙移民」という彼の真の目的を仄めかしていた。

 

「お戯れを、ジャミトフ閣下。一部のエリートによる傲慢な支配など、ダイクンの思想への冒涜に過ぎない」

 

すかさず、ブレックスが鋭く切り返す。

 

「マス代表。我々エゥーゴは、宇宙に住む人々の自治権と、地球連邦軍の正常化を目指している。腐敗した重力に魂を引かれた者たちを打ち倒し、人々が自らの意志で宇宙へと上がり、革新を遂げる。それこそが、偉大なるジオン・ダイクンの真の遺志であるはずだ」

 

セイラは、両隣から突きつけられた、全く質の異なる二つの「正義」を前にして、静かに紅茶のカップを置いた。

隣に立つミライも、扇子で口元を隠しながら、この異様な政治闘争の行方を鋭く見つめている。

 

セイラは内心で、深い、あまりにも深い嘆息を漏らしていた。

 

(……本当に、滑稽な男たち)

 

ジャミトフとブレックス。

 

驚くべきことに、この水と油のように憎み合う二人の男が目指している最終的なゴールは、どちらも『人類の宇宙への回帰』なのである。

 

地球の自然を回復させるために人類を宇宙へ追い出そうとするジャミトフ。

 

スペースノイドの権利のために連邦を正そうとするブレックス。

 

目的は同じであるにも関わらず、その手段は完全に相反しており、互いに全く理解し合うことができない。

だからこそ、彼らはこうして武力を蓄え、間もなく地球圏全土を巻き込む巨大な戦火を交えようとしているのだ。

 

そして、彼らがそれぞれの思惑で「ダイクンの遺児」という大義名分を利用しようとしている意図を、セイラは痛いほどに察していた。

 

「……お二人の高邁な理想、拝聴いたしました」

 

セイラは、純白のドレスの裾をわずかに揺らし、毅然と顔を上げた。

その蒼い瞳には、ジャミトフの威圧にも、ブレックスの熱意にも微塵も揺るがない、鋼のような光が宿っている。

 

「ですが、私はどちらの『大義』にも与するつもりはありません」

 

「……ほう。それは何故かな?」

 

ジャミトフが片眉を上げる。

 

「何故なら、あなた方の思想は、結局のところ『傲慢』だからです」

 

セイラの言葉に、ブレックスの表情が僅かに強張った。

 

「人類を無知だと決めつけ、強権で管理しようとするティターンズ。あるいは、腐敗を正すという名目で、新たな戦火を地球に呼び込もうとするエゥーゴ。

……どちらの道を選んだとて、結果は同じです」

 

セイラの脳裏には、いつも不器用に、しかし誰よりも真摯に人間の可能性を信じようと泥を這いずり回っている、一人の男の言葉が刻み込まれていた。

 

『――人は、そんなに急には変われない。だからこそ、一人一人の人類を信じて、時間がかかっても良いから、ゆっくりと理解し合うための時間が必要なんだ』

 

「どんなに高尚な理想を掲げ、性急に事を進めようとしたところで、人類はそう簡単に争いを忘れることなどできません。強権や暴力で強制的に宇宙へ回帰させたところで、不満を持った人々は必ず武器を取る。

……結局は元の木阿弥となり、この地球が再び血塗られた戦場にされるだけなのです」

 

セイラの声は、静かでありながら、ホールを包むワルツの旋律を切り裂くような不思議な浸透力を持っていた。

 

「必要なのは、武力による粛清でも、強行的な革命でもありません。人が人を理解するための、途方もない『時間』です。

……私は、その時間を稼ぐために、オーガスタの子供たちを護り、そして私の大切な人が戦う場所を護り続ける。それが、アルテイシアとしての私の答えです」

 

ジャミトフの冷酷な目と、ブレックスの熱を帯びた目が、同時に沈黙した。

 

彼らは気付かされたのだ。

 

目の前に立つこの純白のドレスの女性は、自分たちの政治闘争に巻き込まれるような脆弱な駒などではない。

 

彼女はすでに、ティターンズでもエゥーゴでもない、第三の強大な意志――「人間の可能性を信じる」という、アムロ・レイの思想と完全に同化し、共に歩むことを決めた揺るぎない『戦士』なのだということに。

 

「……なるほど。どうやら、若き英雄の剣は、この上なく強固で美しい鞘に収まっているらしい」

 

ジャミトフは不気味に喉を鳴らし、それ以上踏み込むことをやめた。

 

「……ダイクンの真意、しかと受け止めました。マス代表のご健勝を祈ります」

 

ブレックスもまた、深く一礼し、それ以上の勧誘を諦めた。

両巨頭が静かに引き下がっていく背中を見送りながら、ミライがそっとセイラの腕に触れた。

 

「……立派だったわ、セイラ」

 

「ありがとう、ミライ。……でも、少し足が震えてしまったわ」

 

セイラは小さく微笑み、シャンパングラスを口元へ運んだ。

戦火の足音が間近に迫るダカールの夜。純白のドレスを纏ったセイラは、愛する男の思想を胸に抱き、これからも続く血みどろの権力闘争の中で、決して折れることのない一本の光の柱として立ち続けていた。

 

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