白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

11 / 91
事後

 

ハバロフスク襲撃事件から数週間、地球連邦軍の報道規制も虚しく、その事件は瞬く間に世界に拡がっていった。

この影響もあり連邦軍の影響の強い地域では、よりジオン残党軍に対する排斥が進められていく事になるが、反して地球連邦を良く思っていない地域からすれば、そう言った勢力を引き入れる。そんな宣伝効果もあったようである。

 

しかしながら、当事者であった者達からすればそんな事どうでも良い事で、連邦軍の失態を非難する者達もいれば、そんな事よりも被害者に対する賠償を払えと言うものもいる。用は物質主義的に、救いを求めていた。

 

そんな中にあって、この襲撃事件を表として処理したアムロ等交戦したパイロット達は、持ち上げられることになる。

見事、テロリスト等を一掃した英雄。一年戦争の英雄は今でも英雄であろうと、そんな宣伝を謳う。

当人たちは辟易としていた。

 

アムロに関していえば、教室内にあってそれまでも特別な扱いを受けていたものの、より一層よそよそしいと言うか、尊敬の眼差しで見られていると言う、そんな違和感のある生活が始まったのだ。

目の前にいる彼と、戦闘を行う彼は全く別人のように映るのだが、そんな彼があの様な戦闘を行えるのだと。

 

人をある程度知り、そしてその正体を知った時人はそれを真の意味で誇ることが出来る。アムロと言う人物を知る事によって、彼等からすれば誇らしいものとなっていた。

 

そんなアムロであるが、ある日疲れた顔で食堂に座っていた。周囲には学友が、それこそ今までいなかったような人までも、彼とともに食事をしている。

 

「また、記者に色々と聞かれたみたいだなぁ?大変だろうなぁ。」

 

「そんなんでもないよ、聞くことなんていつも通り決まってるから。寧ろ、一般の人達からの質問の方が難しいからさ…。」

 

「それにしちゃ……、疲れて見えるぜ?なあ?」

 

彼の目元にはあからさまにクマができている。それは、夜遅くまで起きていると言う意味でもあり、正直に言えば褒められたものではない。パイロットと言うものは、常に身体の健康に気を使わなければならないのは、当然のことだからだ。こういう所が、彼の悪い部分である。

 

「戦闘詳報を書き直すの梃子摺ってるんだ…、このままだと君等のモビルスーツの運用に影響しかねないから…。」

 

アムロは先刻の戦闘において、ある事に対して非常に大きな憂慮をしていた。

それは、ザクやドム等の公国製モビルスーツに良くある傾向で、連邦軍のジムにはない大きな欠点…。それは、手盾の有無だ。

 

先の戦闘で、ザクに搭乗していたパイロット達は、確かに連邦軍に於いてはかなりの実戦経験を積んだ者達だった。

だが、蓋を開けてみればその戦闘はお世辞にも上手く行っているとは言えないものだったのだ。

 

最大の問題として、それは使用するモビルスーツの違いと言う、あからさまな条件の違いから来るところに起因する。

 

ザクは、非常に優れた量産性と単価的安さを担保とされた機体である。それ故に、ビーム兵器は限定的なもので殆ど使用出来ないし、なにより機動力は最も低い部類にある。

確かに優秀な部分もあるが、総じてジムに劣る。それは仕方のない事だ。

 

だが、盾は別である。

もし、あの戦闘においてどれかの機体が手盾を所持していれば、制圧射撃を行いたい時、遮蔽物を気にせず敵を攻撃することも出来ていた筈だ。

そして、アムロの機体に対してもそれは言えることだ。

 

もし、盾があれば180ミリ砲を無茶な運用をしてまで使用して、敵の目眩ましをしなくとも、完封出来たと言うそんな思考がアムロの脳裏にはあった。

そして、コレ等から導き出されるのは如何に盾というものが重要な装備であり、それの有無が戦闘の雌雄を決するものかというものである。

 

モビルスーツにどれだけ強力な装甲を施しても、それはモビルスーツのキャパシティを超えるものだったのならば、機動力も駆動時間も制限されてしまう。

盾であれば、モビルスーツの装甲を敢えて上げずに、空間装甲を作り出すことが出来る。

勿論、デメリットもあるが集団で戦闘する上では、集中防御という観点からはメリットとなる。

 

アムロはこの事をより詳しく、上層部へと届ける為にそれを書いているのだろう。それこそ、パイロットと言う視点から。しかも、それこそ英雄としての箔は他者の追随を許すものではない。確かな戦歴は、その影響力の担保となる。今回の事件に対してもまた、そうだろう。

 

「ただ、少し知恵が足りないんだ。皆にも協力してもらいたい。」

 

特に新兵からの視点というものは非常に役に立つものだ。どれほどバックアップに使用されている要員が優れていても、それは慣れた人間の感覚であって素人のそれとは感性が違う。

であるならば、素人同然の彼等からそれを聞くことができれば、どれ程良いことだろうか?

 

英雄様が、きちんと弱音を吐いてくる。超人のような強さを誇るが、人間的には年相応でなにより人よりも頭が良い分悩みも多いのだろう。

そういう時はこぞって、彼に恩を売ろうと彼等は奔走しようと考えていた。

 

情けは人の為ならずと言う言葉の通りに、何れは巡り巡って帰ってくるもの。食堂にいる、アムロの周囲にいる者たちは暇な時間、彼に対して様々な疑問をぶつける事となる。

その中には、無論カールの姿もあったのだが……、彼に助けられた筈の候補生の姿は無かった。

 

 

 

同じ頃、ジャブローの一室にて

 

でっぷりと太った男ゴップが一人、齎されたプリントを手にとって読み込んでいる。

重要書類である事など当然とも言えるものなのだろう、それを渡した人間もまた直ぐに退出したようである。

 

「まったく…、彼を殺したところで再び戦争が起こる訳でも無かろうに、過激派というものは本当に頭のネジがおかしいのではないのかな?」

 

一人そう呟いているが、果たして本当に一人なのだろうか?明ら様に誰かにそう聞こえるように言っているかもしれない。

ただ、彼は葉巻を口にするとそれに火をつけて、口の中で煙を蒸すとゆったりと椅子へと背中を預けた。

 

彼にとって、アムロというものは紙面上の存在に過ぎず数字の一つでしか無い。

しかし、同時にそれだけ彼の事を知ってなお、平等に扱っているとも言えた。

 

それと同時に、彼は幾つかの書面に目を通し、ジオンとの折り合いや捕虜の扱い。そして、救出した多くの被験者達を見て思考を巡らせる。

有益となるものは何であるか、利用できるものはジオンであっても使うべし。それが彼のポリシーである。

 

ジオン降伏後に齎された、ニュータイプの研究データを元に様々な研究機関が設立されるのを、彼は止めることが出来ずにいた。それは彼の限界でもあり、一人の人間としての限界でもある。

 

今現在、この男には軍人としての時間はあまり多く残されてはいなかった。

そう、それは年齢から来る退役と言う。至極当然の成り行きのまま、彼は軍を去らなければならない。

 

尤も、彼の場合は軍籍を退いたとして連邦議会議員の地位が約束されている事から、権力を手放すわけではないが、連邦軍への直接的介入は完全に限定される事を意味していた。

 

自らの後任は果たして誰であろうか、どういった人選を行うべきか…、彼の口からそれが出ることはない。

戦争で多くの民衆が死したのと同時に、連邦軍の中でも高官は多く生命を落とした。その弊害は、彼が目に掛けていた自分たちへも降りかかっていた。

 

恨みはしない、しかし非常に面倒臭い事にはなっていたのだ。

 

「まったく、退屈しない世の中だな。」

 

古参の将で最も高齢である彼であるが、それでもなおその目には闘志が宿っている。

如何にこの後に連邦の財政を安定化させ、連邦軍内部を引き締めることが出来るか、それは彼の手腕に重くのしかかっている。

ただ、たった一人の人間がそれを行うにはあまりにも重荷であり、同時に時間というものがどれ程得難い戦略的資源であるのかという、現れでもあった。

 

……

 

シャイアン…午後のティータイム、良く整理されたテラスの中を、幾人かの女性達が何やら話をしながら、ティーカップを片手にお菓子を食す。

 

非常に絵になるとすれば、絵本の中から飛び出したかのような金糸の髪をした女性、セイラと赤髪を靡かせる少し逞しき女性クリス。

そして、その周囲には幾人もの連邦軍服を着た女性士官達の姿があった。

 

話の話題はなんであろうか?皆それぞれに持ち寄ったお菓子を、全員に配っているようである。

 

「彼も忙しそうにしてるのよ、『今は戦争じゃないから、俺の役目は多いんだ〜』ってね、羨ましい限りよ?でもね、訓練教官やってるコッチからすると、少し複雑なんです。」

 

そう語るのは、髪を肩口までのショートボブに纏めた連邦軍人。ノエル・アンダーソン曹長であった。

彼女がシャイアンに配属されたのは、ここ半年の出来事であり言ってしまえば、クリスの直属の部下となったわけだ。

 

アムロが士官学校へと渡ったあと、空白となった模擬戦要員であったが、問題はその技量と戦闘時間の長さであった。

アムロと言う人物は、操縦技術もさることながら同時に体力面から見ても、超人的な人物である。

 

そんな人物と同じ様な仕事を、果たして常人がやって退ける事が出来るのかと言えば……、まあ難しい以外に答えはない。

それ故に、クリスや他の教官へと負担が集中する事を嫌った故に、連邦軍の誰かが気を利かせたとすら言えた。

 

ただ、もう一つ問題を起こしたと言う事もある。それは言ってしまえば、痴情のもつれとも言うべきところだろうか?色恋沙汰と言うものはどんな職場にも多少はある事だろう。

雑多に男女の数の差があまり無い連邦軍内にあって、そんな事が起こらないと言うこともなく…、まあ彼女の場合は新しい上司をビンタする程度には嫌ってしまったのだが…。

 

軍内部でのそう言った諍いは、許容すべきことではない為、互いに離しておく事がベターであろうか?

と言った結論に至り、彼女はこの僻地に送られたのだ。尤も、僻地だと言うがここ半年の間に、多くの者達がここシャイアンへと送られてきている。

 

勿論左遷されてきた者もいるだろうが、優秀な人材であるが故に手放したくないと、そう思われている者達の待機場所とも言える。

 

そんな対面もあるがそれはそうとして、どうやら姦しく話をしているのは、意中の男性の事についてであろうか?誰も彼もが苦労をしているらしい。

 

「そうでしょうね、男っていうのは自分の意見に強いものを持つものですから…。でも、そこが好きなところなのでしょう?」

 

「はい…えっとそうなんですけど…。」

 

「良いなぁ…、私もそう言う相手が欲しいのだけれど、お生憎様でとんとそういう人がいないの。」

 

互いに心を開いているのだろうか?或いは牽制か?その人は自分のものだという、そんなアピールか?ともかく、セイラはクリスを警戒しつつ人としては信頼していた。

セイラにとって、アムロとはそういう人ではあるからだ。ここ1年の間離れていて、その思いは強くなってきている。

 

だから、彼が帰ってこれる場所をより強固により逞しくしようと、色々な伝手を使って人脈を太くしようとしているのだ。

その事をノエルは知らないが、クリスは薄々感じている。

 

「どうかしら?アプリコットなのだけれど、お口にあいます?」

 

「えっと……はい、美味しいとおもいます…。」

 

ただ、その中にあって一人だけ浮いている人物がいた。

長い栗色の髪が多少クセはあるものの、美しく風に棚引いていた。

緊張しているというよりかは、非常に警戒色が強いとすら言える。唯一、セイラに対してだけはその色が薄いと彼女だけが理解している。

 

「アル少尉は緊張しているようね、大丈夫よ。ここにいる人達は、貴女の出自は気にしないわ。いろいろと思うところはあると思うけれど…、私が保証するわ。」

 

アル少尉と言う言葉を発したのは、この中の誰よりも品格のある装いをしている一人の女性。日系人である事はそうであろうが、軍人ではない。

いや、元は徴用兵であったであろう事は確かで、操舵手としては恐らくは随一とすらセイラは思っている。

 

ミライ・ヤシマ・ノア、昨年結婚したばかりで既に1児の母親をやっている彼女。本来であれば家庭もある事だろうに、誰かが機転を利かせたのだろう。ここにこうして参加していた。

 

「そうよ、もっと色々とお食べになって?毒なんて入ってやしないから。」

 

アルと呼ばれた女性士官、本名はクスコ・アル。ジオン公国のグラナダに於いて、パイロット候補生として養成を受けていた女性士官と、表向きにはなっている。

その実態は、非常に面倒臭い存在であるがどういう事か?セイラにはその情報が入っていた。

 

曰く、ジオンのニュータイプ研究機関。フラナガン機関でニュータイプの養成を受けていたと言う…そんな情報を。

その情報の出処は…、まあセイラの人脈の太さは色々と深い事情があるにせよ、クスコはそれにある種の信頼を寄せるほか無い状況である。

 

貴重なサンプルとして、囚われた彼女であるが人体実験を嫌った誰かにここへと移送された。

現在では、連邦軍の制服を着させられこんな所にいるのだ。

 

キリキリとする空気の中、女子会は続いた。

 

 

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。