「ルナツーの日和見主義者共め……ッ!!」
バリン、と鋭い破砕音が薄暗い執務室に響き渡った。宇宙におけるティターンズの最重要拠点である要塞『ゼダンの門』。その司令官室において、バスク・オム大佐は、怒りに任せて手にしていたクリスタルグラスを粉々に握り潰した。
地球上において、北米大陸(C・L)と極東管区が事実上の共同戦線を構築したという凶報は、瞬く間に宇宙へと伝播し、ティターンズの戦略に甚大な悪影響を及ぼしていた。その余波は、ティターンズが執拗に世論誘導と懐柔工作を行っていた宇宙の要衝『ルナツー』にも及び、彼らは再び強固な「中立」の立場を表明したのである。
バスクの分厚い掌の中で砕けたガラスの破片は、彼の肉に深々と突き刺さることはなかった。それは、彼の手が長年の軍務でタコのように分厚い皮に覆われていたからであり、それが無ければ間違いなく血みどろになっていたはずだ。
しかし、その分厚い掌とは対照的に、今のティターンズという巨大組織の「皮」は、確実に薄く、そして脆くなり始めていた。
事態の発生から二ヶ月以上。
地球連邦軍という巨大な身内同士の争いであるこの内乱は、各勢力が決定的な激突を避け、各地で小競り合いのような局地戦ばかりが頻発する、奇妙な膠着状態に陥っていた。
戦局は一進一退。そもそも、ティターンズという組織が「エリート中のエリート」を自称する格式ばった軍閥であるにせよ、地球連邦軍という組織はあまりにも巨大すぎた。
末端の整備兵や艦艇のクルーに至るまで、ジャミトフやバスクの選民思想が完全に染め上がっているわけではない。
彼らの大半にとって重要なのは、明日の飯であり、給与であり、家族が平穏に暮らせる場所が保たれることだった。イデオロギーに命を懸ける者など、ごく一部の狂信者でしかなかったのだ。
一方で、彼らとは対照的に、前線で引き金を引くエリートパイロットたちは、現実と理想との激しいギャップに苦慮していた。
「……ルナツーの司令部が、また中立を宣言したってさ」
「いっそ、武力行使で黙らせちまった方が早いんじゃねぇのか?」
ゼダンの門のパイロット待機室。ジェリド・メサ中尉が忌々しげに吐き捨てた言葉に、カクリコン・カクーラーが皮肉げに応じた。
思想が強く、理想主義者が多いパイロットたちの中には、事態の停滞に痺れを切らし、極端な感情を抱く者も少なくない。だが、彼らとて現実が見えないほどに凝り固まっているわけではなかった。
「エマはどう思う? 俺たちの艦隊だけで、あのルナツーを落とせると思うか?」
ジェリドの問いかけに、ロッカールームのベンチに座っていたエマ・シーン中尉は、静かに首を横に振った。
かつてC・Lとの連絡将校という名の「人質」として差し出されていたエマは、先日行われた将校交換の政治的取引により、ティターンズへと帰還していた。
彼女と引き換えにC・L側へ引き渡されたのは、カミーユの母であり優秀な技術者であるヒルダ・ビダンである。短期決戦を志向していたティターンズ上層部にとって、後方の研究者であるヒルダよりも、即戦力として前線で戦術的価値を発揮するエマ・シーンの奪還の方が、理にかなっていると判断されたのだ。
しかし、この事態が長引き、戦争が長期化の様相を呈している現在の状況において、その判断は『致命的な悪手』となりつつあった。技術開発の遅れや、C・L側に「人道的な大義名分」を与えてしまったことは、ボディブローのようにティターンズの首を絞めている。
「落とせるわけがないわ。……あなたたちだって、本当は分かっているはずよ」
エマの冷静な指摘に、ジェリドもカクリコンも沈黙した。彼らは馬鹿ではない。ルナツーという要塞の異常なまでの巨大さと、そこに駐留する艦隊の規模を考えれば、単独での武力制圧など自殺行為に等しい。
ルナツーは、資源採掘用の小惑星ジュノーを地球の衛星軌道に繋ぎ止め、内部をくり抜いて建造された、宇宙世紀における最も凶悪な岩盤要塞である。
地球連邦軍の宇宙艦隊の半数を賄うその絶対的な防衛拠点は、かつての一年戦争において、あの破竹の勢いであったジオン公国軍でさえ、本格的な攻城戦を諦めざるを得なかったほどの致命的な堅牢さを誇っていた。
仮に核兵器を使用したとしても、あの岩盤を穿つには何百発もの弾頭を撃ち込む必要がある。
さらに恐ろしいのは、ルナツー自体が連邦軍最大の『核兵器貯蔵施設』であり、宇宙一の大量報復能力を有しているという事実だ。そんな場所を、同じ連邦軍の艦隊で攻め落とせる道理など存在しなかった。
―――
ティターンズが宇宙で身動きが取れなくなっている一方で、C・Lの内部でもまた、この「奇妙な戦争」の性質が、ある少年の運命を宙吊りにしていた。
エゥーゴの手に落ちた父、フランクリン・ビダンの救出を真面目に模索するC・Lの姿勢に心打たれ、カミーユ・ビダンは自らC・Lの軍籍に入り、モビルスーツパイロットとして戦うことを志願した。
だが、コジマ准将やブライトたちは、その志願を大いに、そして断固として拒否したのである。
彼らがカミーユに突きつけた却下の理由は、極めて建前じみており、しかしこの内乱の本質を突くものであった。
『現在は戦時ではなく、あくまで平時における
そう、地球連邦軍全体に言えることであったが、この当時、誰もがこの事態を正式な『戦争』であると認識していなかったのである。
ティターンズはこれを「一部の反乱分子の鎮圧」と呼び、C・Lは「暴走する一派閥の牽制」と呼んだ。
大規模な総力戦が起きないが故に、政治的な駆け引きの舞台の裏で小規模な武力衝突だけがダラダラと繰り返される。
誰も「これは戦争だ」と認めないが故に、致命的な一撃を避ける。
その政治的な欺瞞と事勿れ主義こそが、事態の長期化を招き、エリートパイロットたちの精神をすり減らし、カミーユのような若者の行き場を奪う、最も残酷な『泥沼』の正体であった。
―――
宇宙世紀0087年、初秋。
地球圏がティターンズ、C・L、エゥーゴ、そして各サイドの思惑によって泥沼の群雄割拠に突入している中、遥か数億キロの彼方から、一隻の超大型輸送船が地球軌道上へと帰還を果たしていた。
木星資源採集船団の旗艦、ジュピトリス。
過酷な木星圏の重力と放射線に耐え抜き、地球の全人類が使用する一年分にも匹敵する莫大なヘリウム3(熱核融合炉の燃料)を満載して帰還した彼らを待ち受けていたのは、歓迎のファンファーレではなく、地球圏の狂った内乱状態であった。
「我々が遥々、命懸けで木星から帰ってきたというのに……この状況は何だ?」
ジュピトリスの広大な船橋。
その中央の指揮官席で、薄紫色の髪を長く伸ばした男――パプテマス・シロッコ大尉は、通信用モニターの向こう側に映る連邦政府の官僚に対し、苛立ちを隠そうともせずに冷たく言い放った。
『で、ですから……! 現在、地球圏は少々立て込んだ状況でして。各勢力の勢力圏が入り乱れており、ジュピトリスの入港および補給の対応が遅れているのです』
「立て込んだ状況、だと?」
シロッコは、モニターの向こうで脂汗を流しながらペコペコと頭を下げる俗物官僚の姿に、心底からの呆れと軽蔑を覚えた。
自他共に認める天才エンジニアであり、ジュピトリスという巨大な木星船団をその若さで統率する生え抜きのエリートである彼にとって、地球の重力に魂を引かれた者たちの『権力闘争』など、下らない猿山の猿芝居にしか見えなかったのだ。
木星船団の乗組員たちは、文字通り命を削ってヘリウムを運んできた。
過酷な宇宙線、吹き荒れる太陽風、そして木星の凶悪な大磁場。一歩間違えば船団ごと宇宙の塵となる危険地帯を、絶対的な規律と強固な意思の結束で乗り越えてきたのだ。
早々に積み荷を降ろし、次の木星への航海に備えて乗組員たちを労わらなければならないというのに、地球連邦軍は内乱状態に陥り、貴重なエネルギー資源の受け入れ先すら決められないでいる。
『げ、現状、安全に積み荷を降ろせるのは、中立を宣言しているサイド6の港湾施設となってしまいますので……。申し訳ありませんが、もう少し軌道上で待機していただけないかと……』
「……さっさと準備をしたまえ。我々の忍耐にも限度がある」
シロッコは冷徹に通信を切ると、深く椅子に寄りかかった。
乗組員たちの間にも、地球圏の無様に対する激しい苛立ちと不信感が蔓延し始めている。
「大尉。いっそ我々が、ティターンズなりエゥーゴなりに武力介入し、事態を早期に収拾してしまいましょうか? この船に積まれているヘリウムとモビルスーツの技術力があれば、どの勢力につこうと戦局を一変させられます」
副官が、憤懣やる方ない様子で進言してきた。
シロッコも一瞬、自らが表舞台に立ち、この愚鈍な地球圏の連中を自身の圧倒的な才覚によって統治し直そうかと考えた。
しかし、同時に冷静な自己分析がその思考にブレーキをかけた。
(木星船団は『一個の巨大な家族』だ。木星の環境下では、誰もが生き残るために私の強固な意思に絶対服従する。統率が取れなければ死ぬからだ。……だが、地球圏は違う)
地球圏の人間は、無能な俗物であったとしても、空気が読めず日和見であったとしても、のうのうと生きていられる。戦争をする「余裕」があるというのが、その最たる証拠だ。
死の恐怖という絶対的なタガが外れた数多の俗物を率い、政治的な調整を行うという経験に、シロッコは乏しかった。
一人の人間が二つの場所に存在できないように、彼には『戦場の天才』としての顔と、『泥沼の政治家』としての顔を同時に完璧にこなすことの困難さを理解できるだけの、高い知性があった。
「……いや。我々は当面、静観する」
シロッコは、メインモニターに映し出された青い地球を見下ろしながら、静かに首を横に振った。
「地球圏の俗物どもがどれだけいがみ合おうと、勝手にやらせておけばいい。……それに」
シロッコの切れ長の目に、ある種の冷たい、しかし強い興味の色が宿った。
「アムロ・レイという存在が。そして、ジオンの血を引くアルテイシア・ダイクンという女が、コジマなどという老将を担ぎ上げ、政治的に動いて事態の収拾を図ろうとしている。……あれは、観察しておいて損はない」
シロッコは、木星へ向かう前から、そして帰還の途上においても、地球圏の情報を収集し分析し続けていた。
ティターンズという権力装置や、エゥーゴという急進派の動きは、所詮は旧態依然とした権力闘争に過ぎない。しかし、北米と極東を抑えた『C・L(北米方面軍)』の動きだけは、少し異質であった。
一年戦争の英雄アムロ・レイが、単なる最強のパイロットとしてではなく、政治的な調停者として動き、極端な武力衝突を避けながら、現実的な落とし所を探っている。
(敵対し、すべての俗物を力でねじ伏せるよりも……あのニュータイプたちとは、どこかで折り合いをつけて協力し合うことになるだろうな)
シロッコの中に、確かな『希望的観測』があった。
彼は天才ゆえに傲慢であったが、同時に極めて合理的な男でもある。アムロやアルテイシアといった傑出した才能を持つ者たちが、無能な官僚たちに代わって世界の舵取りをするのであれば、それは自分にとっても好都合である。
「アムロ・レイとアルテイシア。あの二人が地球圏の政治にどれほど深く組み込まれているか、当の本人たちは否定するだろうが……表に出てきてしまった以上、もう後戻りはできないはずだ」
シロッコは、薄く笑った。
「地球圏の戦乱は、一年やそこらでは終わらんだろう。……我々は、高みで見物させてもらおうか」
木星から帰還した天才のその冷徹な予想は、正しく的を射ていた。
地球圏の群雄割拠は、アムロたち『C・L』の現実的な奮闘と、ティターンズの焦り、エゥーゴの暴走、そして迫り来るアクシズの影とが複雑に絡み合いながら、さらなる長期化と泥沼の様相を呈していった。
―――
北米大陸の南端、突き抜けるような青空と潮風が吹き抜けるフロリダ州・ケープカナベラル。
シャイアンの地下要塞を離れたセイラ・マスは、かつての戦友であるフラウ・コバヤシとの再会を果たすため、この海沿いの街にある彼女の邸宅を訪れていた。
「お久しぶりね、セイラさん」
「ええ、こちらこそ。色々と立て込んでいるでしょうに……急に押し掛けてごめんなさいね」
フラウの家は、一年戦争の戦災孤児であるカツ、レツ、キッカの三人の子供たちの賑やかな声に溢れ、温かな「一つの家族」としての空気に包まれてセイラを出迎えた。だが、その輪の中に、家長であるはずのハヤト・コバヤシの姿はなかった。
「ハヤトは……、いないのね」
セイラがさりげなく問うと、フラウは少しだけ困ったような、寂しそうな笑みを浮かべた。
「ええ、彼、最近とても忙しいみたいで。ほら、昨今色々と物騒なことが起きているじゃない? ケネディ宇宙港の博物館の方も対応に追われているらしくて、家を空けることが多いのよ」
フラウの言葉に嘘や隠し事はなかった。彼女はこの時、自分の夫が反地球連邦組織『カラバ』に所属し、地下活動に身を投じていることを全く知らなかったのだ。
そして同時に、セイラもまた、ハヤトの正確な所属までは把握していなかった。
ただ、彼が「何か」をしているという気配だけは感じ取っており、それが一体何を示しているのかを探るために、彼女は身重の身体を押してわざわざこのフロリダまで足を運んだのである。
そのカラバが、理念こそ立派であれ、裏ではティターンズと同様の腐敗したルオ商会やエゥーゴと結託する『政治的な犯罪組織(テロリスト)』へと変貌しつつあることを……平和な食卓を守るフラウは、知る由もなかった。
子供たちが庭へ遊びに出た後、リビングに残された二人の女性は、妊婦同士、そしてかつて同じ艦で青春と死線を共にした女同士の、飾らない会話を弾ませた。
二人とも、お腹の中の子供が『第一子』である。身重の身体が抱える不安、出産への恐怖、そして新しい命への期待。それは、陣営や政治的な思惑を越えた、ごく普遍的な共通の話題であった。
何より、一年戦争という残酷な運命によって「互いに両親を失っている」という事実が、二人の息を深く、そして優しく合わせていた。
「……そう。アムロが、お父さんにね」
紅茶のカップを両手で包み込みながら、フラウは感慨深げに呟いた。かつて、誰よりもアムロの傍にいて、彼の世話を焼いていた少女時代の記憶が、ふと彼女の瞳をよぎる。
「なんだか、ごめんなさいね」
フラウは、ふくらんだ自分のお腹を愛おしそうにさすりながら、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。
「未練がましくって。……私が、彼を振ったのにね」
一年戦争後、ニュータイプとしての宿業とアムロの危うさに耐えきれず、彼の元を去ったフラウ。そして、アムロの腕の中へと入ったセイラは、こうして彼の子供を宿している。
その言葉に、セイラはふふっと吹き出した。
「それもそうね。だから私は、こうして残り物を頂いた……というわけ」
セイラもまた、自身のお腹を優しく撫でた。
「残り物」という自嘲気味な表現。しかし確かな愛情表現であった。
そこには悲壮感はなく、共に生きていくと決めた夫への深い信頼が滲んでいた。
「アムロさんは、連邦の犬みたいに過ごしているって……皆、噂してます!」
穏やかな昼下がりの空気を切り裂くように、不意に鋭い声が響いた。
いつの間にか庭から戻ってきて、リビングの入り口に立っていた長男・カツであった。彼の目は、思春期特有の反抗心と、大人たちの複雑な事情に対する義憤に燃えていた。
「そんなこと言われて、恥ずかしくないんですか!? セイラさんだって……!」
カツのその痛烈な言葉は、彼自身の純粋な正義感から来るものであり、同時に、大人たちによって掛けられた『色眼鏡』でもあった。
ハヤトの周囲には、博物館の支援者という名目で、アナハイム・エレクトロニクス社から送り込まれた人員(エゥーゴやカラバのシンパ)が多数出入りしていた。
カツたち子供は、彼らが「ただのハヤトの仕事仲間」だと思って親しくしていたが、その会話の中で、地球連邦軍という体制側(C・L)に残って戦うアムロたちを『ティターンズに抗いきれない連邦の犬』と蔑む声や噂話を、無意識のうちに刷り込まれていたのである。
「コラ、カツ!! なんてこと言うの!?」
フラウが血相を変えて立ち上がり、カツを激しく叱りつけた。恩人であり、戦友である彼らに対するあまりにも無礼な言葉。
しかし、カツは唇を噛み締め、セイラから目を逸らさなかった。
彼にとって、エゥーゴのような「分かりやすい反体制」こそが正義であり、体制の内側で泥まみれになりながら政治的均衡を探るC・Lのやり方は、ただの臆病な妥協にしか見えなかったのだ。
「いいのよ、フラウ」
セイラは、怒るフラウを静かに手で制した。そして、戸惑うカツの目を真っ直ぐに見つめ返し、極めて穏やかな、しかし芯の通った声で応じた。
「……連邦の犬、ね。ええ、そうね。アムロも私も、今はそう呼ばれても仕方がない場所にいるわ」
セイラは、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「でもね、カツ。犬っていうのは、ただ飼い主に尻尾を振るだけの存在ではないのよ。……時には、吹雪の中で迷った誰かを導くためにいる。人よりも鼻が利き、危険なものをいち早く見つけるのは、彼ら『犬』の方がずっと優れていてよ?」
急進的な正義を掲げて暴走するエゥーゴやカラバ。そして、選民思想で世界を支配しようとするティターンズ。
その両方の狂気をいち早く嗅ぎ取り、全人類が取り返しのつかない破滅の崖から落ちるのを防ぐための、抑止力としての猟犬。
それが、現在アムロ・レイが引き受けている役割であった。
カツは、セイラのその凛とした威厳と、言葉の奥にある底知れぬ覚悟に圧倒され、返す言葉を失った。
「だから、私たちは……あ、っ……!」
セイラが、カツに向かって優しく微笑みかけた、まさにその瞬間であった。
彼女の顔からスッと血の気が引き、その場にうずくまるようにして膝をついた。
「セイラさん!?」
「う、嘘……っ……!」
妊娠9ヶ月。
予定日にはまだ早い。しかし、シャイアンからフロリダへの長距離移動の疲労と、激動の時代がもたらす極度の緊張が、彼女の身体に限界を突きつけていた。
セイラは、激しい痛みに顔を歪めながら、自分のお腹を強く抱きしめた。
「フラウ……ごめんなさい、私……産気づいたみたい……っ!」
フロリダの陽光が差し込むリビングに、緊迫したフラウの叫び声が響き渡る。
地球圏が新たな戦乱の泥沼へと沈みゆくその最中、アムロとセイラの血を引く「新たなる生命」が、予定された運命を前倒しにするかのように、この世界へ産声を上げようとしていた。