小艦隊5隻のサラミス級が、ゆっくりと進んでいる。
進行方向には、巨大な小惑星・ルナツーが静かに鎮座していて、そこに幾つかのゲートが創られている。
誘導電波と信号により、半自動化された機構によって寄港するその姿は、巣に帰巣するかの如く。
アムロの艦隊運航は、恙無く進行し目立った問題もなくスムーズにそれは終了した。
一見すると難しそうに思える艦隊運用であるが、元来サラミス級というものは個艦運用を、行う艦艇ではなく寧ろ小艦隊からなる艦隊を幾つも形成し、それを一つの集団として扱うために設計された艦艇である。
つまり、艦隊運航こそがサラミス本来の使い道であるから、自ずとデータリンク・システムを使用する事により、単艦で艦隊全てを運航することも可能であるのだ。
非常にハイテクなこのシステムを無効化する為に、ミノフスキー粒子というものは使われたと言っても過言ではない。
ただ、連邦軍もこれらの運用に支障をきたす状態を野放しにすることも無く、現在では赤外線通信と光通信を応用してのデータリンクを推奨している為、艦隊運用は余程のことが無い限り支障をきたす状態にはならない。
そのおかげか、アムロの指示通りに艦隊はすんなりと動いていたのだ。
いや、寧ろアムロというある種の機械オタクは、この構造を深く理解していて、より深い部分でこの機構を理解していたとも言える。そう言った意味では、彼の適性に合っていたとも言える。
スペースデブリの衝突や、その回避等も訓練過程では行われ、艦隊に配備されているモビルスーツを使用した其れ等の撤去作業も、彼等に課された任務であった。
事故の発生し辛い宙域で、より精密にモビルスーツを宇宙空間で動作させるには、そう言ったものの方が割と効率的だった。
ジャンク屋等の登録団体とは違い、公的機関による執行には手間と時間と経費がかかるが、訓練過程でそれらを行う事によりコスト削減と、練度の確保の一役になるという意味でもコストパフォーマンスは高かった。
そんな過程を終えて、艦隊がルナツーへと寄港すると同時に、アムロの艦隊での訓練は一応の一段落と言ったものだろう。
「かなりスムーズにやれたな、君には色々と驚かされるよ。その歳でそれだけ出来るんだ、いつか階級が抜かれそうだな。」
「お世辞は良いですよ、何も問題が無いようにしてくれているのでしょう?なら、アレが当たり前です。」
アムロに対してヘンケンは評価したが、アムロはそれに対してあまり納得は行っていない様子であった。
確かに訓練課程で問題が発生しないというのは、まあ粗探しとしては及第点であろう。
そもそも、問題が起きないようにされていた事に対して気がついていた事を、ヘンケンは深く感心すると共に彼の視野の広さを実感していた。自分が同じ時分の時は、これほど優秀だったかと…。
そう、アムロの操艦に関して言えば特段秀でた物はない。確かに、妙に勘が冴えていたりはするものの、やはりモビルスーツのような独り善がりの通じるところではない。
一つ動きを間違えば、忽ち大損害に発展するのだから艦隊運用は難しいのだろう。多くの人間を統帥すると言う、そう言った事を彼はこれから覚えるしかないのだ。
そこは良い、今回の操艦に当たって艦隊の航路上は綺麗に掃除がなされていた。
そう、例えば本来ありそうな場所に無い物がある。例えば……、ジオン公国のモビルスーツの残骸だろうか?
あまりにも不自然なほどに其れ等が存在しない宙域を、彼等は進んで来たのだ。
有るのはコロニーの残骸や、連邦軍艦艇の残骸くらい。
これはただの訓練生であれば、何の気も無く淡々と動くだけだろうが、アムロには気に入らないものだった。
お膳立てされているように感じたのだ。
そして、その勘は確かに当たっていた。
地球連邦軍は、今回の訓練航海に当たって宇宙空間でのモビルスーツの運用を考えていた。
その運用とは即ち、重武装と機動性と言う2つの要素が今後どの様に発展していくのかと言うところだろう。
並のパイロットのデータは幾らでもある。
ジオン軍の残党は掃いて捨てるほど多く、未だに宇宙海賊の様に彷徨っている連中もいる。
そう言った相手との戦闘はそれなりの数が起きていて、そう言ったところからデータを取っていた。
だが、そこに問題がある。
本来、モビルスーツとはいや兵器とは同等の相手と相対する為に進化し続けていかなければならないものだ。
だが、戦争も終わり、戦う相手も無いに等しい連邦軍が、正規戦を想起した物を組み上げられるのか?それは難しい。
特にパイロットを比較的に大切にする連邦軍にとって、そう言った物は必要となる。
だが、盾で防御し周囲を包囲して戦うジムには、限界というものがあった。
盾はビーム兵器が登場して以降、徐々にであるがその効力を喪いつつあった。
どれほど頑強な装甲を着けようと、どれほど分厚い肉を着けようと、そのビームはいとも容易く其れ等を貫通する。
技術的な頭打ち、モビルスーツの発展の方向性が迷走した。
汎ゆる物を強化しようとする者達もいれば、装甲を強化し更に長射程化する事によってそれを回避しようとするものもいた。
だが、予算というものは無限ではない。湯水の如く溢れ出るほど等というものも無く、連邦軍の今の懐事情は芳しくない。
センサーの強化や装甲には多大な費用がかかることは、誰の目にも明らかだ。
そこで、ならばと機動性を上げようとする者達がいた。
当たらなければどうと言う事はない…、そう言った結論なのだろう。
だが、問題は当たらない前に避ける必要が有るのだが、それを成すためには現状、データが不足している。
それを、取得する為には尤も効率的に情報を取得する方法がある。
何より、これから想定されるニュータイプと呼ばれる特異な存在に対する力が必要となる。
だが、答えは単純に近くに転がっている。
それは、誰よりも回避能力が高く実戦経験豊富で、何よりカウンターを完璧にこなす人材…であり、ニュータイプと言う存在に対して最も造詣が深い人物。
アムロ・レイ
彼を如何にして宇宙に上げ、効率よく情報を搾取するか。それだけが求められた。
幸いな事に、彼は連邦軍の士官学校へと進んだ事から、計画を簡単に進めることが出来る。
何より、彼を士官学校に入れるのに協力したのはそれしか無かったからだ。
「彼の動向は極めて優秀です。一流の軍人よりも機転が効くと、そんな評価です。やはり、ニュータイプと言うものは特別なのでしょうかねぇ?」
ルナツー司令室、そこに座る二人の軍人。階級章からかなり上の方なのだろう、空調の良く効いた室内で二人は人工の重力下でコーヒーを呷りながら、机を挟んだソファでそう話している。
「フン…所詮は若造だ。どれだけ足掻こうと、権力には敵わないだろう。それよりも、功績をチラつかせて階級を上げ我々の掌に入れば、それだけ利益になる。そうだろう?ヘボン少将。」
「確かにそうですが、私は気が引けます。あのような若い兵が命を張る、まったく嫌な時代ですよ。ワイアット大将、彼を利用するだけでなく庇護も視野に、それだけはお願いします。」
その言葉に対して、やや目を細めるワイアットの姿は、ステファンにはドーベルマンのような剣呑な物を感じるものの、艦隊を預かる将兵である彼は、引くことはない。
「それは、彼の利用価値次第だよ。データは頼むよ?コンペイトウに移動する際、充分に気をつけ給えよ…。」
その言葉が意味する事に対して、ステファンは露骨に嫌な顔をしながらも、敬礼をしてその場を後にした。
ルナツーに到着した候補生の面々を待ち受けていたのは、束の間の休息と…
「おいっ!!模擬戦だってさ!アムロの動きが見れるらしいぜ!!」
親善的な余興の為に行うと予定されていた、候補生と教導隊との模擬宇宙戦闘であった。
ただ、この時のそれはとてもでは無いが常軌を逸した、そんな戦闘構造となっていた。
理論上、モビルスーツの運動性はパイロットの技量に依存し、その戦闘能力を飛躍的に向上していくものである。
であるならば、連邦軍きっての撃墜王。
修正された撃墜数において、一人だけ突出した桁違いの戦果を残した、最も多くを撃墜した男アムロ・レイ1人に対して、教官が大凡12機、ジム小隊4個と言う物量で挑む。
これは、到着までの間に予定されていたものである。
そのため、アムロはあらかじめ貸し渡されるジム・コマンドに対して、ある注文を投げかけた。
『マグネット・コーティングが出来るのであればお願いします。後は、駆動系のリミッターを解除しください。遅くて、まともに使うのに苦労するので…。本気の戦闘を観たいんでしょう?』
相手の図星を突くような注文と嫌味を言った彼の注文通り、彼のジム・コマンドは何かの嫌がらせだろうか、珍しく暗い青色に塗装されてその場に姿を現していた。
「おいおい、本当に特注かよ。こんなガキが撃墜王たぁ驚きだ。」
ルナツーのその格納庫で自らに貸し出されるジムの姿を見ようと、アムロはその場に来ていた。
すると見慣れぬ人物が彼に近づいて来て、厭味ったらしくそう口にしたのだ。
アムロの対戦する相手であるルナツー駐留軍、その部隊のモビルスーツ大隊長はそう口にしながら、アムロのその顔を揶揄した。
「お言葉ですが少佐、彼の戦果もデータも確かな強さの証明です。舐めてかかれば、我々は痛い目を見るでしょう。」
別の方向から、アムロを擁護するような言葉が投げかけられた。自分の部隊長に対して、そう言い放った若きパイロット。金髪の髪と鋭い眼光を覗かせる瞳を覗かせ、骨張った顔で威圧感を放つ。
そんな彼の姿に隊長は一瞬たじろぐも、フンッと鼻息を荒くしつつ言葉を口にしない。その場を離れていく…。
「すまないなぁ、悪い人では無いんだがこう…プライドが高いのが難点でな。良く、ああやって新人に突っかかるんだ…、根は良い人なんだ。」
「気にしてません、あの人が僕の事を疑っているのは仕方ないことですし、年齢とか容姿とか子供っぽいでしょ?」
気にもしていないと、擁護した男に対して隊長の非を謝る必要はないとアムロは自嘲気味に言った。
その言葉に男は目を丸くする。
「ハッハッハッ、こりゃあ一本取られたな。案外大人な対応で…もっと歳相応な反応を期待したんだが…。
まあ良い。自分はヤザン、ヤザン・ゲーブル少尉だ。これからもよろしく頼む。」
「こちらこそ、アムロ・レイ少尉です。見た目に依らず、案外丁寧な人なんですね。」
「人の気にしている所をよく言うぜ、まあ悪くはないがな。」
歳はそれなりに離れているものの、この男のことはアムロはあまり嫌いではなかった。
2,3話をした後、アムロは乗機の整備を担当していた整備兵に多少の礼を言ったあと、機体に乗り込んだ。
ふんわりと、重力を感じない中シートに腰を掛けるとともに、システムを起動する。
見慣れたコンソール、その形は何処となくガンダムのそれに似ていたが、多少の違いはある。
寧ろ、ガンダムよりもボタンの数は少なくなっている所に、無駄を削ぎ落とした量産機としての輝きがある。
各関節駆動系の最終確認がてら、少しの微調整をしていく。
特にレバー等は、彼の操縦速度に耐えられるものか入念に、それを弄る。そんな中、ふと先程話をしたヤザンの事が脳裏を過ぎる。
「あの人、かなりの手練れなんだろうか…、あの隊長とか言う人よりももっと強い圧を感じた。」
誰に聞かれてもいないながら、そう口をこぼすと共に自然とレバーを握る手に力が入る。
さながら、実戦に出る時のようなそんな刺してくるような感覚と、自らに対する敵意を感じる。
そんな感覚を覚えながらも、出撃準備を続ける間にジムのコンソールが明滅した。
「よう!聞こえるか、アムロ。」
「突然どうしたんです?暇だから、茶化しに来たんですか?」
カールが画面に映っており、その後ろには近くの部屋になったコウ等の姿もあった。
「いんや、オペレーターを志願したんだ。向こうさんも訓練の一環になるし、何より顔見知りがいた方がやりやすいだろう?だからさ…、それにここにはこのモビルスーツオタクのコウ・ウラキがいる。見ろよこのキラキラとした瞳を。」
「ちょ、ちょっと待てよ!キラキラさせてないって…」
等と、その後ろから声が漏れて来ている。
アムロはふいに馬鹿らしくなって、鼻で笑った。そうしたら、自然と力んでいた手は、自然とその力を無くし手汗は引いていた。
「兎も角、頑張ってくれよ…俺達のエース様!」
「お前等のになった気なんて無いんだがな…、まあ負けないように頑張るよ。」
その言葉を言い終わると、コックピット内部を全て把握し終えたのか短く息を吐く。
それと同時に柔和である彼の瞳は、力強く前を見据える戦士の面持ちになっていった。
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