白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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ガンダム

0081年10月22日

 

旧アメリカ合衆国ジョージア州オークランド・クラークヒル湖畔

 

オーガスタ基地

 

幾人もの背広を着た人間が、各々を運んできた輸送機から姿を現す。

基地周辺の滑走路には厳重な監視を敷いているのだろう、何機ものモビルスーツの姿が確認出来る。

 

その総数は20を下らない。いや、新型のジム系統機、ジム改の姿を入れればそれ以上とすら言える。

一つの基地に関して言えば、過剰とも言えるその装備の数々…あからさまにそこが重要拠点であると言っているようだが、その為警備は厳重であった。

 

そんな基地に着陸する輸送機、その中でも最も小型の機体の中から、一組の男女が現れた。

恐らくは最後尾、一番最後に現れた二人は案内役の軍人に急かされるように早足で、その場を歩いていた。

 

「おい!あまり急がないでくれ、地球の重力にまだ慣れてないんだ。だいたい、私達が着かなきゃどうしようもないだろうに、そうだそれで良い。」

 

「私はそのくらいで結構です。アナタがもっと身体を動かしていれば、こんな遅くする必要無いのでは?」

 

「ヒルダ!…、なんだその言いぐさは!」

 

決して仲が良いようには見えない二人の手には、互いの左手薬指に指輪が光っている。

決して絢爛なものではなく慎ましいそれではあるが、二人が夫婦であるのだという何よりの証であろう。

 

「フランクリンさん、痴話喧嘩は後にして下さい。」

 

案内役の軍人がそうイライラしながら言うと、うっとした表情でフランクリンは忌々しげに妻の方を見る。

涼し気な顔をしてその顔を受け流す姿から、恐らくは慣れているのだろう。

 

そのまま基地内のカートに乗り込み、風を切りながらとある建物の方へと進んで行った。

見るからに軍事施設ではない、寧ろ何かしらの研究棟とでも言うべきだろうか?

 

大規模な施設の中でも、それは異彩を放つ。しかしながらそんな光景を目にしている二人には、そんなもの何処吹く風と言った具合にしている。

どうやらこの二人にとってここは、別に珍しいところでもないようだった。

 

「しかし……、見慣れた顔が多い。気の所為でなければ。」

 

「どちらでも良いでしょ、それよりも材料実験が出来なくなるのは嫌ですよ?早いところ帰りたい。」

 

フランクリンは、そんな事を言う妻に対して心底辟易していた。二人は大学からの付き合いであり、恋愛を経て結婚をした。同じ様な趣向をしていたところから、自然と惹かれ合ったのだと言えよう。

一人の子供にも恵まれた、互いに尊重し合う良きパートナーとすら言えるだろう。一年戦争が始まるまでは。

 

仕事をしながら育児をする、2人とも仕事人間であるから自然と子育ては放任的になりやすい。

そして今も、最愛の息子を1人コロニーに残してこんな地球にまでやって来てまで仕事ばかりしている。

親としてみれば、落第点の2人だ。

 

「まったく…」

 

彼の悪態はヒルダに聞こえているだろうか?そも、聞こえていたとして何処吹く風と言うところだろうが…。

嘗ての愛は何処へやら、二人の冷め切った間柄は息子によって保たれているだけだ。

 

 

そんな二人が連れて来られた場所は、一つの会議室のような場所であった。いや、大きな画面を背に一つの席があって、その前にずらりと傍聴席があるところから、寧ろ議会席の様な見え方が出来た。

 

そこで、彼等は思った通り前々から顔見知りが多い事に確信を持って、一番近くにいた一人の学者に声をかけた。

 

「お久しぶりです…、ハン博士。」

 

「おや?フランクリン君にヒルダ君か、君達もここに呼ばれたのか…となると…やはりな。」

 

マグネットコーティングと言う一つの技術、それの理論を確立し実用化させた一人の天才、それが目の前のモスク・ハンと言う人物である。仏頂面であまり感情的ではない人物だが、かと言って喧しい頑固親父と言う風ではない。

 

「でしょうね…V作戦と似ています。」

 

V作戦、それは地球連邦軍が一年戦争の起死回生を願って命名された、ガンダムや他の機動兵器への開発プロジェクトである。ここに集まっているメンバーは、嘗てそのV作戦に協力した事のある人物ばかりがいたのだ。

 

「新入りもいるが、やはりそうだろう。それに…彼女もいる。」

 

モスクが親指を倒すように、その人物の方へと指を指す。見れば赤髪を携えた美しい、一人の連邦軍士官の姿がそこにはあった。良くテストパイロットとして、一人の技師としてテム・レイと話をしていた姿が印象深かったそんな彼女。

彼女もまた、その光景に何かを知らないのだろう訝しんだ風であった。

 

「取り敢えず、席に座るとしよう。向こうが空いている。」

 

フランクリンはヒルダと共にハンの後ろに立って、その席へと座る。

一流の技術者が集められた中で一体何が言い渡されるのか、フランクリンとしては心底喜んでいた。

いや、技術者としての血が騒いだとすら言えるだろう。

 

これほどの人数が招集されているのだ、きっと一大プロジェクト間違いなし。いったいどんな物を目指すのかと、年甲斐もなくワクワクとまるで青年の頃のように、今か今かとその言葉を待ち受ける。

 

呼ばれた学者達が全員席へと着くとともに、最前に置かれた登壇に立ったのは見知らぬ連邦軍士官だった。

恐らくは名代だろう、普通このような場に現れるのは決まって現場代理人だ。

その男が話し始めると同時に、長々とした自己紹介と今回集結してもらった人々に、まず見てもらいたいものがあると周囲の照明を消した。

 

壇上の大きなスクリーンに映し出されたそれは、ある模擬戦のデータ。

本来であれば部外者は基本見ることのできないそれを、手元にある小型の機器に添付しながら、グラフの表示と共に提示してきた。

 

このグラフにピンと来ない者たちが殆どであり、それもそのはず純粋な軍人であるならば兎も角、彼等は技術者である。

戦闘記録を見せられ、その中にあるデータを見ただけでそれが何であるのかなど、検討もつかない………たった一人を除いて。

 

「待ってくれ……」

 

説明と映像を停めるようにと…フランクリンの横に座るハン博士は挙手をして言った。

 

「この映像とこの動き、そしてこのデータ。これの説明は君等よりも遥かに私の方が詳しく出来る。

いや、私はこの動きを見るのは初めてではない!!」

 

席を立つと制止の声を振り切って、彼は壇上に立つ。

そして、士官が話していたそれをより事細かに補足していくと、みるみるうちに学者達の顔は難しいものとなる。

そして…、全てが終わった時その疑問が彼らが何故ここに集められたのかと言う、大枠を示していた。

 

「君たちが我々をここに呼んだのは他でもない、このパイロットの操縦に耐えられる、新しいコンセプトのモビルスーツを開発しろと、そういう訳だな?」

 

率直な博士の物言いに名代の士官はYESと答えた。

 

「我々はニュータイプ専用ガンダム…、それの開発を進める為に貴方方を集めたのです。アレックスのそれと同じ様に。」

 

男のその言葉に対して、周囲がざわめく…。

 

ニュータイプ…その言葉の意味は、ある意味で禁句とすら言えるものだった。そして、同時にその言葉の意味は少なくとも連邦軍内では、たった一人の男の名前を頭に出すことが出来る。

 

即ち、たった一人の男の為に態々そんな大金を出してまで、モビルスーツを開発する。

正直な話、正気の沙汰ではない。そんな事をするよりも、万人が扱える高性能で生産性の高い物を創り上げた方が、コストも時間も掛からない。

 

「このプロジェクトに当たって、我々には競合する者達がいます。既に、アナハイム・エレクトロニクス社を中心に据えた、ガンダム開発計画が進んでいますが、これとは別口として対抗馬としての計画なのです。

皆さんには、この計画に是非とも参画してもらいたい。」

 

この言葉に対して、この場に出席した者達の中でいの一番に手を挙げたのは…、軍人として拒否権が薄い女性士官。クリスチーナ・マッケンジーであった。

異動を契機に階級を一つ上に上げると言う、如何にも強引な手段での栄転。

古巣への帰還は、彼女にとっても寝耳に水であり、かなり急な出来事であった。

 

つまりは、この計画を打ち出した人物は少し、焦っているとも言える。

 

アナハイムが力を持つことを懸念してか、それともその技術をジオン残党に流されるのではないか?という、そんな恐れがあるのだろう。

でなければ、たった一人の戦闘記録を中心にその人物特有の機体を造れなど、そんな発想をするはずが無い。連邦軍は常に合理的なのだ。

 

「私もその話に乗りたいのだが、良いだろうか?」

 

嬉々として手を挙げたのは、フランクリンであった。元よりエンジニア、新しい独創的な考えを持っている彼にとってこの機会を逃す手はない。

自らのある意味で師であるテム・レイを超える事が出来るというそんな少しの自尊心と、マッドサイエンティズムな自由に出来るという欲に突き動かされてのことだった。

 

そして、彼が着いてくると言うことは必然的にヒルダも着いてくる事になり、材料工学という点から色々と予算が着くことに納得する事だろう。

 

それを皮切りに、幾人もの人物が手を挙げていく。

学者という人種は、自分の興味のある事を追求するのが好きな人物ばかりだ。それが、金の心配をせずに出来るのなら、大手を振って事を行う事だろう。

 

 

……

 

「また仕事か…、良い加減帰ってきて欲しいんだけどな。」

 

少年が一人、ポツンと家にいる。

歳の頃は10歳かそこらだろう。まだまだ甘えたい盛りのそんな年頃だと言うのに、彼の両親は仕事仕事、仕事の一辺倒であまり家に帰ってこない。

 

サイド7の戦後新しく建造されたそのバンチは、所謂グリーン・ノア2と言う。戦争を逃れてきた人々がそこに寄り添うように暮らし、多くの破壊されたサイドから流れ着いた人々によって、一つの移住先とされていた。

 

「大丈夫よ、カミーユには私達がいるじゃない?」

 

「ファ……、ありがとう。」

 

両親に代わって近所のユイリィ家の人々に、良く預けられている彼にとって、家族というものは案外希薄な存在だろう。

寧ろ、このご近所の人達のほうがよっぽど家族としては良く成り立っているとも言えた。特に、その家の一人娘であるファと言う少女にとっては、満更でもない。

 

「そろそろランチの時間でしょ?一緒に如何ってお母さんが。」

 

「うん…そうするよ。父さんと母さんが帰ってきたら、ちゃんとお礼してくれって言っとく。」

 

一人で家で待たされる。子どもが子供をやる暇さえない…、一人で逞しく生活がなければならない、そんな環境の中で彼は育っていく事になるだろう。それでも

 

「大丈夫よ、お母さんと父さんだってカミーユのご両親の事は良くわかってるんだから。だから、あんまりさみしくしないで。」

 

一緒にいてくれる人がいるだけで、かなり恵まれた環境に彼は住んでいると、そんな自覚はあった。

だから我慢するのだ、偶に返ってくる両親を心待ちにして。そうして皆で一緒にご飯を食べたいと、ささやかな願いを込めて今日もまた、彼は宇宙を見る。

 

 

……

 

「う〜ん、やっぱりここだよなぁ。」

 

難しい顔をしながら、アムロは画面とにらめっこをしていた。ルナツーでの模擬戦を終え、幾人もの知り合いができ、また長期間の訓練航海が始まった彼に宛てがわれた部署は、やはりモビルスーツパイロットとしての身分だった。

 

とりわけ、整備という分野で誰よりも率先して動く彼であったが、基本的に彼に宛てがわれた機体は、その尽くが過剰なセッティングを行われている。

そもそも、マグネットコーティングされている機体を、廃棄寸前にまで追い込んだのだから、それこそそう言った物を用意しなければ、他の機体が駄目になってしまうかもしれない。

そんな事になれば、訓練のしようがないと言う結果に陥ることだろう。

 

「なんだよ…、そんな小難しい顔して。」

 

「いや、機体の反応速度を上げつつ負荷を少なくするには、フィールドモータに限界があるなぁと…。」

 

友人からの問いかけに、そう言って対応しつつ計算を続ける彼であるが、それで原因が取り除ければ苦労しない。

そんな彼の心配を他所に、既に宇宙へと慣れたカールが機体を動かし、外へと飛び立って行く。

 

ここ数ヶ月の間、慣熟訓練を行っていたのだが、その中でも急激な成長を見せる彼と、それに置いていかれまいとするコウの姿もある。

そんな彼らを他所に、アムロは思考に没頭する。

 

「計算上は問題ない筈なんだけど…、やっぱり部品精度なんだろうか…。若干だけど、ガンダムより粗があるように思える。

でも、規格品でやりくりしなきゃ駄目だから…、これがザクとかなら繊細な動きができるはずだから…、やっぱり流体パルス方式も捨てたもんじゃ無いのかも。」

 

色々と考えつくものを付け足しつつ、ジムに足りないものを要望しようと画策している。

そんな彼の要望を反映するかのように、一つのプロジェクトが始動していることなど、この時の彼には知る由もなかった。

 

 

 




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