白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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アムロ等士官候補生達の宇宙での訓練航海は、恙無く行われ半年という期間の後、地球へと再び降りる。

 

1年間の地球と半年間の宇宙とで、どちらに適性があるのか?その疑問が確実に形となって表れ、連邦地上軍と連邦宇宙軍での棲み分けが行われる。

その為、この後の半年間は宇宙軍を主とした者たちは、ナイメーヘンへと集結し、残りの半年間そこで過ごす事となる。

 

アムロは勿論のこと、彼と行動を共にした者達はその大半が宇宙軍への高い適性を持っていた。特に優秀な者達は、宇宙と地上で高い適性を平均して持っていると言うことで、連邦宇宙軍でありながら、地上勤務も可能な教育を行われる。

 

顔見知りとなった、コウ等もまたそのような教育を受けることとなったが、アムロだけがやはり特殊な扱いを受けていた。

卒業に際して彼は、一つの論文を書き上げることを義務付けられたのだ。

 

題材はモビルスーツ運用に関する事や、実戦と訓練の大枠な違いだとか自由にしても良いと言ったところだった。

それを言われるよりも前に、彼はその論文の題名を既に考え纏めていた……。

 

『小部隊による、敵Iフィールド搭載機に対する対応』

 

それは、ある種アムロにとってとても重い物事への回答だった。

 

「Iフィールドって、要するにあのジェネレータとか後シールドに使われてるあれでしょ?確か…、ソロモンで使われたって言う。」

 

論文を提出する前に、アムロは友人等にその内容を見せた。感想を聞きたかったと言うこともあるが、その内容の整合性等も鑑みて未体験者にどうそれが映るのか見たかったということもある。

 

「ああ、そうだ。戦艦のビーム砲も、近接用のビームスプレーガンもまるで効果が無かった…。多くの人命がたった一機のモビルアーマーにやられたんだ。」

 

「だとしても…、コレは一種の挑戦だぜ?軍備とかそう言った類のそれと、現実の兼ね合い。

下手したら上に登れなく成るかもしれない、それじゃあもったいないだろ?」

 

内容は言ってしまえば、ある種の軍上層部への現状に対する批判も混ざっていた。

軍備の使い方のその無駄、未だにビンソン計画を引き摺って大規模な艦隊を創り上げようと躍起になっている。

 

今更大規模な宇宙艦隊同士の戦闘など国家間の戦争が、起きようもない連邦の一強体制。

あまりにも無意味な、大艦巨砲主義者達の並走する者無き建艦競争

 

それによって生じる膨大な財政への圧迫と、払底した人的資源からの強引な徴収…。

それ全てが、今は亡きジオン公国軍の亡霊から逃げるかの如く行われる。何とも悲しき性であろうか、人というものは恐ろしいと思うからこそ強い力を得ようとする。

 

その一端を崩す為の彼の論文は、そう言った人々から見れば当に敵からの視点と言うものだろう。

自分達は護ろうとしているにも関わらず、それを行う事を邪魔立てしようとしているのだから。

 

「なら、俺が上に行けなかったとしたら、誰かがこう言った事をやらなければならないんだ。何年…何十年かかったとしても、必ずやらなければならない。

でなければ、百年後には負の遺産となって連邦軍は弱体化する。

 

自分たちの強大な戦力に胡座をかいて、何を見ることもせず。進歩に見向きもせずに、対策を練る事もせず。のうのうと、ただ膿みの様に身体を蝕む。

連邦軍が地球連邦瓦解の要因になってしまう。

 

それだけは避けなきゃならない。平和の為に創り出した政府を、平和が腐り落としてはならないんだ。」

 

そんな小難しい演説めいた事を言った彼に対して、周囲は少し渋い顔をした。

 

「………、まあそれが事実だとしてだ。そんな思い詰めて考えるなよ、世界に絶望した。なんてお前に言われた日にゃ、誰が止められるんだ?」

 

「ああそうさ、アムロ。君がどれだけ思い詰めても、所詮は独りよがりだろ?なら、俺達が力を貸すからさ変な方向には行かないでくれ?」

 

考え過ぎるのも考えものだと、皆に落ち着けと言われる。コレはまあ、若気の至りと言うものなのだろう。

彼として連邦を見ても、確かに無駄は多い。だが、時代が変われば人も変わる。少しずつ変化していけば良いし、その間支えるのはお前一人の問題ではないとたしなめる。

 

未来を憂いて、自分の今を蔑ろにしそうだという感想もあった。確かに、彼が背負い過ぎることも無いのだ。

 

「……いや、なんか心配かけたかな?」

 

「別に?ただ、強すぎる人間が弱いところを見せてくれてるみたいで、ホッとしてるのさ。」

 

そんな会話の成り立った士官学校も終わりを迎える。

別れに涙するものも、互いに肩を取り合うものも、そして友人を…、彼は最後に写真を撮った。

 

 

〜0082年8月

 

彼等は満を持して、連邦軍士官学校を卒業する。

アムロ・レイの席次は上から数えて3席であった。数百人の内の3席なのだから、彼の成績は非常に優秀なものであり、同時に彼も人であると言う印象を齎した。

これが首席等というものになっていれば、益々彼に対する恐怖は増長した事だろう。

 

彼の評価は非常に高いが、やはりそう言った面での期待値と言うものもあり、ハードルが高かった。その中でのこの順位であれば、誰でも納得するだろう。

何より、18歳という年齢でそれだけの成績を残した彼は、一端のエリートである。

 

ただ、やはり彼には自由というものは存在しなかった…。

 

 

 

その年の9月上旬、卒業したばかりの彼は配属先を待っていた。実際席次の高い者たちから決まっていくそれであるが、彼は一月あまり音沙汰もなく、やはりシャイアンへと帰途する他無かった。

 

シャイアンに戻った彼に待っていた物とすれば、セイラと使用人達。そして、人の多くなったシャイアン基地くらいであろう。

制式な士官となった彼に対して、基地の面々の態度はそれ程変わることもなく、寧ろ軍人らしくなった彼に同族意識が芽生えていた。

 

ただ、その中にはクリスの姿は無かった。

 

「クリスさんどうしたんですか?」

 

セイラといる時、さりげなく彼女の居場所を聞こうと声をかけた。

 

「あら?そう言えば教えていなかったわね、あの人別の基地に転属になったのよ?私もそこに行ったことはあるけれど、今度行ってみる?」

 

「因みに何処なんですか?」

 

「オーガスタってところなのだけれど、彼女の古巣らしいのよ。私も仕事で行くことがあるから、その時行きましょう。」

 

セイラはそう言ってアムロに共に行こうと誘った。一月の間、軍からの要請もなく待機せよと言われていることもあるが、偶には別の場所に行きたいというそんな思いもあった。

何より、今まで散々士官学校で様々な人と共に会ったのに、これでは腐ってしまうとそう思ったところもある。

 

 

0082年10月下旬、彼はセイラと共にオーガスタ基地へと足を運ぶ。

 

「お待たせ〜、ちょっと手間取っちゃって。お久しぶりねアムロ中尉、3席だったって噂聞いたわよ〜、結構成績優秀なのね。」

 

「クリスさんこそ首席だったんでしょう?お互い様ですよ…、それよりここで何をしているんですか?」

 

それを聞かれたクリスであるが、どう説明しようかと悩んだ。というのも、彼女のいるここでのそれは軍の機密事項である。

おいそれとそれを言うのは憚られるし、そんな彼女の困った顔にアムロは直ぐに気がついた。

 

「機密ですか、しょうがないですよ。僕だってそういう事はあります。」

 

「そう言ってくれると助かるわ。」

 

そう言うと基地の中を案内するという。

勿論、機密事項の多い部署であるからか表面的なものしか目にすることは出来ないが、それでもこの基地が如何に大規模な施設であるかと言うことがわかった。

 

外観から推測するに、モビルスーツの開発を行っていることなど容易に理解出来たから。

 

「そう言えば、訓練飛行のデータを何処かに送れと言われていましたけど…もしかして……それ絡みですか?」

 

「ノーコメント…って言っても、君なら直ぐに分かるわよね。」

 

勘のようなものだが、アムロはここで何が作られているのか何となく理解した。

要するに、彼のデータを元にしたモビルスーツが建造されていると言ったところだろう。

 

「ここからは併設されている孤児院よ…、セイラも何度かここに来たことがあるの。」

 

「まだ少しとっ散らかっているところはあるけれど、施設は立派なものだから。難民の子たちも、貴方が来るのはきっと喜ぶわ。」

 

セイラはこの施設に何度か訪れたことがあった。

元々ニュータイプ研究所が設置されていた筈なのだが、いつの間にかその施設は研究所としては比較的小規模なものへと成り下がっていた。

 

特に研究員の数は最盛期のそれよりも3割程度と少なく、寧ろその分孤児院を運営する為の、そう言った人材の方が多くなっていた。

連邦軍の上役が何かしらをこの施設にしたことは明らかで、ここで育っている孤児達も見知ったおじさん達がいなくなったのを、多少不安がったそうである。

 

そんな子供たちがいる部屋へと、アムロが到着すると子供達はちょうど自由時間であったようで、セイラのほうへと駆け寄ってくる。

 

「お姉さん久しぶり!!」

 

「ええお久しぶりね、今日は紹介したい人がいるの。」

 

とセイラが言えば子供達はセイラの後ろにいるアムロのことを見て、皆驚いたような顔をした。

 

「この人はアムロ、アムロ・レイ。」

 

「お兄さん本物!?」

 

彼は有名人である。特に、こう言ったコロニー落としの被害者孤児たちからすれば、正しく英雄という意味でも。

家族の生命を奪った奴等と戦って、そして勝ってくれた人なのだと。

 

物心が着いている子達からすれば、そんな憧れにも似たヒーローが今目の前にいる。

それが嬉しくない者などいない。

 

「ねぇ!お話聞かせて!!」

 

「お話?何の?」

 

無邪気な笑顔が彼を出迎えるものの、話をしろとせがむその姿に嫌なものが背を伝っていた。

 

「ジオンをやっつけたときの話!!」

 

「モビルスーツを動かすのってどんな気持ち?乗り心地とか!」

 

無邪気にも、彼にとって嫌な思い出を話せと言ってくる。さすがに巫山戯るなとか、そんな事を彼が言えるわけもない。

寧ろ子供達のそんな言葉を聞きながら、少しずつ…一つずつ彼は丁寧にも話を始めた。

 

そんな彼の後ろ姿を見て、セイラも、クリスも、彼がいったいどんな思いで戦い続ける覚悟を決めたのかと言うものを、改めて見せられていた。

 

悪いのは、ザビ家という人達で決して全てのジオン兵が悪者ではない。

色々な物が重なって、争い合うしかなくなってしまっただけで、本当であれば分かり合うことは出来るはずだと。

 

どんなに否定されても、どんなに嫌がられても子供達に説教臭くも説こうとする。

幼い頃から復讐に身を窶して欲しくないという、そんな思いもあったのだろう。

 

そんな子供達の中には、彼の言葉に耳を傾けようとする子もいる一方で、それでもと言い続ける子達もいる。

その子の名前は、ゲーツと言う。

アムロよりも2つ3つ程歳下で、どちらかといえば弟のような年齢差であった。

 

そんな彼は、ジオンをいや戦争をほとほと憎んでいた。

そもそもジオンが戦争を起こさなければ、ここにいる子供たちだって親を兄弟を喪わずに済んだはずなのだから。

 

「君の言うこともわかるよ…、でもね憎み合うだけが道じゃないと、僕はそう思うんだ。」

 

それでも、アムロの意思は固い。

 

何より、ここにはジオン出身の子供だっている。

互いに憎み会うことなくここにいるのだからと、可能性を否定しない。

そして、そんなゲーツと同じ様な子供達が、どうしてここにいるのか、この会話だけで彼は全てを理解した。

 

このオーガスタ基地に、こんな所にどうして孤児院を併設したのか。

そして、子供たちが何のためにここにこうして集められていたのかを…。

 

強化人間計画

所謂人工ニュータイプを作り出そうという、そんなプロジェクトがあるのだということは彼も知っていた。

だがまさか、セイラがそんな計画を知っているとは思いもしなかった。

 

そして同時に、セイラはアムロが何を思っているのか理解したかのように、言葉を紡いだ。

 

「大丈夫よ。ここの研究員は皆真艫だから、だから安心して?無駄な命の消耗なんて、そんな馬鹿らしいこと私が許さないから。」

 

セイラのその言葉には強い意思があった。しかし、施設の奥にいる爬虫類を思わせる男は、アムロという人間にある種の恐怖を持っていた。

 

「彼が責任者?」

 

「今はね、昔の責任者にはここを離れてもらったらしいわ。」

 

彼の側には少女がいた。その子は良く彼に懐いているし、何よりそんな人間であるのなら、完全なマッドサイエンティストではないだろうという。そんな楽観的な感情もあった。

 

「何かがあれば僕は許しませんよ」

 

「分かっているとも、無駄にはしない。アプローチは決して、一つでは無いからな。」

 

少なくとも、アムロはセイラをクリスを信じている。なら、信じる他無かった。この胡散臭い男を。

 

 

そんな見学会も終わり、数日後アムロに遂に部隊への配属が決まる。彼は再び、ジャブローへと赴くのだった。

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。

オーガスタニュータイプ研究所には、医療集団になってもらいます。
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