白き流星の羽搏き   作:丸亀導師

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実験隊
実験部隊


〜0082年10月

 

ジャブローは蒸し暑い外とは裏端に、快適なクーラーの良く効いた指令室の中で、一人の士官が上官から辞令を言い渡された。

 

「ブライト・ノア少佐、貴官は本日を持ってジャブロー司令部より新設部隊への移動を命ず。」

 

「はっ…、はい!新設部隊…ですか…?」

 

指令を受け取った男は、ブライト・ノアと言う年若き士官。年齢にそぐわない、少佐という階級章を襟首と肩に着けそう言い渡された事は、彼にとっては突然の出来事であった。

 

一年戦争当時、士官の尽くが戦死したホワイトベース。そこに、偶々配属されていた士官候補生であったブライトであるが、何の因果かその艦の艦長となり、なし崩し的に英雄とまで持て囃される存在となってしまった。

 

アムロと同様に、軍の良い宣伝材料とされジャブローの本部付けの士官となっていたが、彼の配属された先は無くなっても痛くも痒くもない部署。

戦死の心配もない後方勤務と言う、恵まれた環境…。しかし、実体としては、死んでほしくないというある種の飼い殺しがそこにはあった。

 

戦後の動乱、人手不足を嘆く連邦軍であるがニュータイプを率いていた男という、そんな触れ込みが災いしたのか左遷と同じ扱いを受けていた。

 

結婚に、第一子の誕生と目まぐるしい環境の変化。飼い殺しにされてもなお、それ以外の食べる方法も知らない彼は、妻となったミライと子供を守る立場であるが故に、それを甘んじて受け入れるしか他はなかった。

 

そんな最中にあった彼に、突如として司令部から実戦部隊への移動命令が出されるというのは、彼をして驚いた。

そのタイミングの悪さに…。

 

妻であるミライは第二子を妊娠しており、その出産予定日は近付いていた。そんな中で、父親であるブライトが全く遠い場所へと旅立つのは如何なのだろうか?

 

「私には妻がいます。何より、妊娠しており身重な身なのです。それを放置して、自分に宇宙へ行けとそう仰るのですか!?」

 

護らなければならない人がいる、何よりも大切な家族がいるのにそれをまるで感じさせない命令は、受け入れ難かった…。

一人の身で有るならば、喜んで拝命した事だろうに現状から抜け出すその声が、運の悪い事に彼を呼んだのだ。

 

「君の身の上話は良く知っているよ?ヤシマ家のご令嬢を嫁に貰ったそうだなぁ?全く、君のような男には勿体無い…。分かっているかね?

もし私が君の立場なら、喜んで拝命するがね?」

 

「……!?妻は政争の道具ではありません。第一…、ヤシマ家とは既に話しはついていると!!」

 

ミライの事を道具のように言われて、ブライトは激昂した。ただでさえ難しい立場、そこにヤシマ家のご令嬢との結婚に子供までいるとなれば、そこを狙ってくる奴らは五万といる。

だからこそ、政争を嫌ってヤシマ家との話をつけていたにも関わらず、この目の前にいる上官はそれを道具と言った。

無性に腹が立って仕方がなかった。

 

「君たちが話をつけたどうか等、他の者たちから見ればどうでも良い。寧ろ、そうやって後ろ盾を無くしてくれたほうが、より道具として扱いやすくしていると、気が付かんものかな……?

私は決して、君を道具にしようなどとは言っていない。寧ろ、忠告しているのだよ。

 

この命令を受け入れなければ、君は使い捨てられる可能性すら有るということをね。

わかったのなら、拝命しなさい。でなければ、連邦軍から除隊する事だな。尤も、すんなり除隊など出来ると考えているかは別だかね?」

 

「……っく!?…わ…かりました。拝命したします。」

 

厭味ったらしく言われたことに対して、ブライトは手渡された封筒を受け取るしか選択肢は残されていなかった。

彼は英雄とは呼ばれているが、所詮はまだ22歳の単なる青二才。上からの高圧的な態度を柳の様に受け流せるだけの、そんな胆力を持ってはいなかった。

 

「な〜に、あの方も君を悪いようにはしないだろうさ。君がきちんと仕事をこなしていればね。下がってよし」

 

「失礼します。」

 

答礼をし、ブライトは手に持った封筒にいちいち気をつけながら、部屋を後にした。

そして彼が真っ先に向かったのは…、身重な妻の状態を確認しようと、廊下を駆け出した。

 

 

……

 

〜0082年11月上旬

 

ジャブローの乾ドックに一隻の船が入港してくる。

巨大なゲートが口を拡げ、宇宙からフワリと降り立ったその船は、白磁のように美しい船体と特徴的な双胴のその姿を白日に下しながら、ただゆったりと進んで来る。

 

ゲートの中のその暗がりを、まるでそれが当たり前であるかのように進む姿は、湖に泳ぐ白鳥の如し。

優美なその姿、それとは裏腹にその巨体は地上で浮かぶにしては俄に巨大すぎる。その船体は、何を運ぶ為にここにやって来たのだろうか?

 

その姿を見あげる青い連邦軍服に身を包んだアムロは、その特徴的な船体形状にホワイトベースを想像した。

だが、ホワイトベースのその姿よりかはもっとスリムに洗練されており、無駄の少ない装飾はより機能的に見えた。

 

彼の近くにいる兵士は、彼の顔を見ても何とも思っていない。寧ろ、階級章を目にして年齢とまるで合っていないその姿に、新任士官様がこんなところで何やってるんだ、とでも思っている事だろう。

 

「すいません、あの船はなんて名前なんですか?」

 

「あ〜…アレですか?アレは、トロイホースですね。今日ジャブローに入渠して来るペガサス級は、それしかありません。

士官殿は…何か思い入れでも?」

 

若い士官であっても、何で軍人になったのか等というところは実際あるだろう。

そんな物を聞きたくなったとも言える。

 

「いえ、自分が前に乗っていた艦に似ていたので…、でもこっちのほうが何かカッコいいですけどね。」

 

「ほお…ペガサス級に乗船した事があると…?」

 

避難民であったのか?そもそもこんな年齢、青い士官服ならまだ19に至っていない筈だから、そんな人物がペガサス級に乗る等一年戦争時に避難民だったのだろうか…?と、そう思ったところで一人の人物に心当たりがあった。

 

ペガサス級に乗船していて、かつ士官として今尚現役で軍人をやっている新任士官…。何より19歳未満であれば、該当者は1人しかいない。

と、そこまで思い立ったところで、アムロは何かに満足したのか兵士に礼を言ってそこを去る。

 

結局正体は分からないままであるが、その歩く姿は妙に型に嵌まっていた。

 

 

 

ジャブローの大会議室。

そこは数百人単位の人間が、1箇所に集まれる程度の広さを持った部屋である。

アムロはそこに到着すると、自分が指定された席を探して一つ一つシートのアルファベットを辿っていく。

自分の段に到着すれば、その数字を探して動いていくがそこで、ある人物と出会ってしまった…。

 

「え…?ブライトさん!!」

 

「はっ……?アムロ…?お前なんでこんなところに。」

 

「貴方こそどうして…、いやそうかそう言う事か?」

 

そこには彼の見知った顔、戦友というよりかは一種の家族のように苦難を共にした人物。その一人である、ホワイトベースの元艦長であったブライトがそこにいたのだ。

 

そこで先程、港の方でトロイホースが入港してきた事に合点が行くと同時に、自分達がどうしてここに集められたのか、それを確信していた。

 

「また、同じ部隊ですね。よろしくお願いします。」

 

「まて…まだ決まった訳では…あっ。とにかく座れ。」

 

周囲からの視線を感じたのか、ブライトはバツの悪そうな顔をするとアムロに着席するように促す。

その姿に何か居た堪れない物を感じるも、アムロは言葉通りに席に座ると、その場から見える景色に少しだけ落ち着かなかった。

 

見知った顔の人が他にいるかと、そう探して見てもあまりそう言った顔はない。

ただ、同期の人間が多いようなそんな気がする。

 

寧ろブライトと同じ頃か、前後5歳程度で集められているのだろう。それでも幾人かは、歳のそれなりに行った者もいた。

 

暫くそうやって周囲に注意を払っていると、全員が集まった頃だろうか、一番前に偉そうな人たちが現れた。

見慣れない顔、ただその声は聴いたことがある。

 

そうそれはホワイトベースが、ここに入って来て暫くした時補給などを行なってくれた将官の内の何人かに、その声の主は居たはずだ。

名前は何であったろうか?確かそう…ゴップという名前だったか?

 

士官候補生の前にすら姿を現さない、ここジャブローの長とも言えるそんな人物。

そんな人がどうしてここにいるのか、等誰にも分からない。

ただ、目の前の人物が決して善意で動くような人物でない事は確かであった。

 

「此度諸君らがここに着てくれたこと、誠に感謝に絶えない。今、地球連邦軍が置かれている立場を、諸君らは知っていると思うが、厳しい財政の中地球圏の安全保障を、高いレベルで維持していかなければならない。

その為、現状我々には遊兵等という物を造る余裕はないのが実情である。

 

諸君らは再編された、第13実験部隊となる。

艦長には、嘗てホワイトベースを担ったブライト・ノア少佐が新任される事となった。

 

しかしながら、彼もまた諸君等と同じ様に若いのが実情である。新兵ばかりのこの部隊、歳下とは言え各部門の長はきちんと彼の命令に従ってもらいたい。私からは以上だ。」

 

ゴップの話が終わると同時に、各部門の長とそれを中心に各部門へと各々選別されていく。

アムロはその中でも、モビルスーツ部隊への配属となった。

 

「アムロ・レイ中尉、貴官は本日よりモビルスーツ隊の隊長へと任命する。」

 

アムロは新任の士官であるが、それにしても一個中隊を任される事になるとは思ってもみない。

本来中隊長と言うのは、大尉が指揮するものだから、要するにこの部隊に限って言えば、アムロは大尉相当の指揮権を持つことになる。

 

ただ、最大の障壁は階級よりも年齢だが…。

実務経験から言えば、アムロはモビルスーツパイロットとしての時間は誰よりも長い。そして正規の士官であるから、戦時任官からそのままモビルスーツに搭乗しているパイロットからすれば、所謂戦友となるだろう。

武勇を示すのが一番手っ取り早いと言えた。

 

ブライトの傍らには、彼の同期なのだろう艦橋要員がズラリと並んでいて、少々居心地が悪そうである。

あの中で唯一の佐官なのだから、たまったものではないだろうが…。有名税というものだ。

 

「諸君等の健闘を祈る。」

 

そんな時間も直ぐに終わりを迎え、各員は荷物を持って乗船作業を始めた。

直ぐの発進とはならず、各部門担当の位置へと集結し明日の出航を待つのみだった。

 

 

 

ひとしきり仕事の終わったゴップは、慣れない仕事に多少の疲れを感じながらも、己が選抜した部隊が思うように動いてくれるよう期待をしていた。

そもそも、抑止力としてたった一人の人間を軟禁する事に疑問を持っていたゴップが、アムロと言う人物だけではなく、ブライトに目をつけていないはずも無い。

 

新編部隊の長として、彼を任じたのは動かしやすい駒であると同時に、人間関係的に護りやすい立場の人間であったという所が大きかった。

ゴップにしてみても、シュウ・ヤシマの忘れ形見であるミライ・ヤシマの事を気にかけていた。

まさか、彼女がブライトと子供を創り結婚するなどとは、夢にも思わなかったが、同時に軍とヤシマ家の関係は切っても切れないものとなっていた。

 

シュウの相続権を半分ほど持っている筈のミライであるが、彼女にはヤシマ家への経営に参画するつもりは毛頭ない事がわかっていただけに、ゴップ自らが動くしかない状況が多々あった。

しかしながら、相続権を半ば放棄していたとしても、ミライはヤシマ家の血筋。それも本家の女である。

それを逃すというのは、あまりにも勿体無い事である。

 

そこで一つの妙が閃いた。

現在、ジャブローで冷や飯ぐらいを行っているに等しい、ミライの伴侶であるブライトを武勲を立てられる立場へと押し上げる。

少しでも功績を挙げれば、彼の階級も上げやすくなるだろう。

そうなれば、連邦議会での発言権も大きくなるに違いない。何より、ヤシマ家の血筋を引いた者の夫が有名になる事は決して悪いことではないのだ。

 

しかしながら、逆に言えばリスクもそれなりに大きい。

例えばブライトという人間は、決して野心家という側面が大きい訳では無い。

事大主義というものではないが、彼個人に力がないばかりに流され気味となっている。

 

ではどうするかと考えたところで、ある一つの部隊を思い出した。

実戦を経験する事なく終戦を迎え、結果新兵のまま未だに戦場に立った事のないエリート部隊。

トロイホースを根城としたその部隊は、未だに税金泥棒を続けていた事に。

 

その艦の艦長も、そんな現状に嫌気が差している事だろう。ならば司令部着きに変えても良いと、餌を吊るしておけば難なくそれは引っ掛かった。

そして、今回のこの新編部隊を創設するに至ったのだ。

 

改ペガサス級と言えど、その運用方法に変わりはない。最も実戦経験が多く、何よりも使い方を心得ている二人のカードをそこに射し込むには、意図も容易いところがあった。

 

「さて…ワイアット君。後は君が彼らをどう使うか、じっくりと見させてもらうよ。せっかく用意した駒だ、上手く運用して見せ給え。」

 

そう一人口にするゴップの姿は、まるで何処か闇の社会の重鎮めいた気迫と、黒さが目立っていた。

伊達に連邦軍を統括する男ではない、ワイアットですら彼の掌上で踊る駒の1つでしかないことに、本人は気が付いているだろうか?

 

 

 




グリーン・ワイアットのこの時の階級が中将と言うことにあとから気がついたので、その部分を全頁修正致しました。

誤字、感想、評価等よろしくお願いします。
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