トロイホースの出航の前に、モビルスーツの搬入が始まった。グレイファントム級とされる本艦は、モビルスーツ6機を完全な形で収納することが可能な、全地形対応艦である。
強襲揚陸艦と言う比較的中途半端な立ち位置の種別であるが故に、コロンブス級よりも少なく改サラミス級よりも多い、2個小隊、つまり小1個中隊を運用することが出来る。
そんな艦艇に運び込まれる機体は、第13実験部隊と言う名前の通り、先行試作機の配備が行われる部隊であった事から、定数外の機体がその姿を現していた。
「この機体は?」
モビルスーツ隊の隊長へと任命されたアムロは、いちいち運び込まれる機体をチェックする事を仕事とされ、書類や実物に目を通さなければならなかった。
そのため、搬入されてくる見たこともない機体を最初に目にすることが出来た。
作業用のヘルメットを被り、同じくそれを被っている隣の人物と共に、それをチェックしていた。
「ジムカスタムと言う機体らしいですね、その先行量産タイプですから、問題があるかもしれませんけども…。それを色々な場所で試験するのが、我々の仕事ですか…。
乗ってみます?」
つなぎを着た整備主任に機体を聞くと、それの返答は速やかに戻って来る。アムロも触りたかったが、立場上そういう事は部下に任せなければならない。
自機の整備ならいざ知らず、搬入作業までやるのは彼の裁量権外であった。
作業主任…ジェームズからの言葉に首を横に振る。それを見て残念そうにするこの男は、どうやらアムロに操縦してほしかったようである。
「いや良い。ジェームズ主任、アレは?」
見事なまでに目立つ色、白を基調に胸部には暗い青。腹部は赤色と、トリコロールに塗られたその姿。そして、双眼に見えるそのメインカメラは正しくガンダムのそれであった。
「コレは…、RX-82 ℵ…なんて読むんだ?」
「アレフだ…そうだよ。」
突然と後ろから声をかけられた主任とアムロは、その方を見る。少し老け顔だが、スーツを着込んで決めて来たような男が彼等を目掛けて歩いて来ていた。
「始めまして、フランクリン・ビダン技術大尉だ。この機体の駆動系、その設計主任をさせてもらった。君がアムロ・レイ中尉か……、写真の面影はあるな。」
「貴方がコレを…?それに写真ですか?」
アムロが疑問を口にすると、満足したような顔をした彼が嬉々として、掌を前へと出してきた。
アムロはそれを無感動に手を取り、そして整備主任も手を取った。
「テム・レイ主任から良く自慢話を聞かされてね、耳にタコができるかと思ったものだよ…。
さて、話は変わるがこの機体の説明をさせてもらおうかと思ってね、君らがここにいると周囲の人間が言うものでね。」
よくよく見れば、彼は手提げ鞄を片手に歩いて来ていた。ヘルメットもなしに、落下物があれば一大事だが現場の人間であれば必ず被っているだろうが、それだけ急いでいたのだろう。
「ここは少し危ないですから、それにヘルメットを。」
「あぁ、ありがとう。夢中になると前が見えなくなる性質でね…」
ジェームズはフランクリンの頭部を見るや、備え付けの折り畳みヘルメットを出してきて、フランクリンへと被せた。
実際、ボルト1本ネジ1本が18メートルの高さから降ってきたら、それはもう凶器である。
「さて、何から話そうか?現物があるから…、取り敢えずコックピットに行こう。」
「そうですね、そのほうがわかりやすい…。それに、こんなところで突っ立てっていたら、邪魔にしかなりませんから。」
モビルスーツ格納庫の中は、その資材の搬入で右往左往している。副主任がその先導をしているだけに、主任が邪魔をする訳には行かないし、階級が高いアムロに文句を言える人間も早々いなかった。
既に格納庫に直立した形で置かれている、ガンダム
それもそのはずで、機体自体は何ら変哲も無い新型モビルスーツの様であったから。
コックピットに到着した三者、フランクリンが率先してその中へと入ると、残りの2人にはあまり見慣れない光景が広がっていた。
球体状にぐるりとモニターが張り巡らされたコックピット、球体の上部、四分の一くらいの位置には幾つかの状態を示す機器が、コレもグルリと細長く埋め込まれている。
その光景は異様ともいえるもので、殆どの場合の死角と言うものを無くしていた。
「コレは…まさか?」
「噂に聞く全天周囲モニターか…、初めて見るな。」
アムロに対してジェームスはそう語る。どうやら、整備の間では話題に上がることがあるらしい。
アムロも多少この分野に造詣が深いと思っていたが、こう言った細かいところまでは、技術的なところで実現しているとは思っていなかったようであった。
「そう、その通り。コレは全天周囲式モニターだ。パイロットの死角を無くして、ストレスの軽減や索敵能力の増大を意図したものだよ。
ヘルメットへの投影も議論されていたが、こっちのほうが人間が感じるストレスが少ないからな。」
ここまでは知っているでしょう?
等と、当然の話をしているつもりのこの男は、さっさと話を進めこのガンダムの他の機体との大きな差を話し始めた。
「機体中央部は…この図のように従来のセミ・モノコック構造ですが…、脚部と腕部には新機軸の技術を使っています。」
投影されたそれには、装甲材とそれを覆う人の骨格のような構造が映し出されると、それにアムロは驚愕した。
「フレーム構造!?ですが、重量的な分散が難しい筈だが…。」
「良くわかっているね。ただ、今回のそれは従来のそれとは少し違う。
知っての通り、セミモノコック構造は構造材と装甲材が一体化したものだ。
頑丈な機体装甲を構造材とするのは、確かに理にかなっているが……、同時にモビルスーツと言う物にとっては問題がある。
例えばそう……」
駆動系の摩耗、そしてマグネットコーティングとの相性の悪さだ。
「セミモノコックは、装甲を骨組みにしているから攻撃を受けた場合、その装甲が変形した場合機体の駆動に直接的被害が生じる。何より、関節部の摩耗が装甲材と供となると、君の乗機で起きた現象が起こりやすいんだ。」
「それでフレーム構造か……、確かに装甲だけのダメージなら皮を剥がせば済むか。それに、部品単位での交換も簡単になるわけか…。」
「だが、従来機との互換性は無いと…確かに試作機ならではか?」
各々考え始めてしまう。技術者というものはかく言うものか?だが、そんな事関係無いとフランクリンは更に捲し立てるような速度で、話を続ける。
「フレーム構造とした事により、従来機では諦めていた駆動系へのダンパーの取り込みも可能となった。性能としては6割増は期待してくれ。」
フランクリンのその言葉を聞いて、アムロもジェームズも各々が疑問にするところを更に投げかけ続け……、三者三様の言葉は大凡4時間にわたり、主任を探しに来た副主任が来るまで続いたという…。
……
ブライトは、トロイホースの艦橋にて艦長の交代を行っていた。と言っても形式的な事でそれ自体はすぐに終わり、その後の引き継ぎ作業も恙無く進んでいた…。
「時にブライトくん、君は幾つになるね?」
浅黒い顔をした厳つい偉丈夫である、先任の艦長のモーゼス・ブライアン中佐が忙しく動くブライトに対して投げかけた。
「22であります。……どうかしましたか?」
「なに…若いなと、そう思っただけだよ。同じくらいの頃、私は何をしていたのかとね。」
モーゼス中佐は一年戦争の最終決戦、ア・バオア・クー攻略戦に赴く前に戦争が終結し、それ以上の昇級も望めない現状によって中佐という階級で甘んじていた。
そもそも軍人として優秀な部類ではなかった彼が、戦場以外で上に上がれるものはあまりなかっただけに……、あまりにも若い年齢で少佐にまでなったブライトに、ある種のコンプレックスがあったのだ。
だが、その年齢を聞いた時一つだけ同情するような事がある。それは、戦死した自分の息子と同じ年齢なだけに、そのコンプレックスも鳴りを潜めた。
「その年齢だと、良く舐められるのではないかね?経験は豊富だろうが、威厳が足りていない。私はそう思うよ。」
「はあ…。」
ブライトはその言葉に首をひねると、幾つか思い当たる節があった。
とにかく年齢が上の相手は、自分のことを若造だと思って、渋々階級が上であるからという理由で効くだけだ。そのやる気のなさそうな動きは、記憶に新しい。
「英雄であるならば、英雄らしくドンと構えていなさい。それに、髭でも生やしてみれば多少は印象が変わるだろう。」
私のアドバイスを聞くかどうかは置いておいてなと、そう付け加えて、中佐は笑う。
自分よりも二周り以上歳下で、息子と大差ないそんな成年を前に時代の愚かさを感じながら。
「この船は、ホワイトベースよりも安全だ。エンジンも咳込むことはない、だから存分に機能を活用できる事を期待する。」
そう言って敬礼をし、ブライトに握手を求めるその姿は、軍人としてではなく、一人の人間として彼に期待をかけている様に見えた。
アムロたちが、新たなる旅立ちを準備している最中セイラもまた…己の血に向き合おうという動きを見せていた。
「お久しぶりですね、クレア」
「はい…、本当に本当に生きていてくださって…良かった…。」
場所はヨーロッパ・フランスの、岬の見える街の一つのテラス。そこでセイラは、一人の妙齢の女性と話をしていた。
ここ数ヶ月の間、それなりの自由を手に入れたセイラであるが、この機会を逃さぬ内にと、旧交ある人物達に手紙をしたためそして連絡が取れた者と、会っていた。
クレアと言う女性は、代々ダイクン家が地球にあったときから彼等に、仕えてきた氏族その生き残りであった。
既に滅んで久しいラル家や、敗者となったザビ家等とは違い、それこそダイクン家の手となり脚となる。そんな家柄の人物だった。
「私の方こそ、長い間連絡を取らずごめんなさいね。でも、貴女の安否が確認出来ただけでも良かったと、そう思っているわ。だって…」
一年戦争時、ダイクンに付き従った者達の中で、地球へと落ち延びたキャスバルとアルテイシアと共に、サイド3を離れた者たちは多くいた。
それこそ、ザビ家から遠ざかる為に袂を分かつ為とは言え、彼らは新たなる故郷を捨てる。そんな決断をした人々は、その多くが地球や全く別のサイドへの居住を行った。
しかし、そんな彼等を嘲笑うかのように、一年戦争が勃発。ダイクンを信じた者たちは、その多くが何かを理解する間もなく、宇宙に散り、地上に押しつぶされた。
数少ないそんな中での生き残りが、必ず何処かにいると信じセイラは連絡を入れたのだ。
「ありがとうございます。私等の安否を心配なさって……。ところで、そちらの方は?」
「彼女はクスコ・アル、私のボディガード?をお願いしています。こう見えて……ニュータイプなのですよ?彼女は。」
クレアは紹介された女性を見て、少し怪訝な反応をした。ニュータイプ、それこそセイラの父親であるジオンが提唱した存在。ただ目の前のその人物が、果たして本当のニュータイプなのだろうか?と言う、そんな疑惑があった。
もしかすると、アルテイシアが父親の思想に狂わされているのではないか?とも。
実際父親の思想を受け継いで、それで本当に幸せでなかったのだとしたら…、それは呪いだ。
そんな事があって良いのだろうか?と言う、そんな思いもあった。
「疑念を抱くのも尤もですよ、セイラさん。そもそも、ニュータイプが何なのかすら、私たちはわかってないんですから。」
「そうね…。では改めて、私の友人という事で良いかしら?」
「は…はい、ご友人と言うことですね?」
納得がいっていないだろう、しかしコレは本題ではないのでセイラには別になんてこと無いり
セイラがクスコをクレアに紹介したいだけで、彼女をここに呼んだわけではない。
「出会って早々で悪いのだけれど…、貴女の力をお借りしたいと、そう思っているの。」
「そんな畏まらずに、ご命令とあらば私は貴女の言うことは直ぐにでも。」
クレアは、非常に忠誠心の高い人物だった。いや、そもそもダイクンを好き好んだ人間は、基本的に忠誠心が高かった。その強弱が有るとは言え、特に彼女の場合はセイラへの孫を見るような目を持っていたとも言える。
「いえ、私のコレは命令では駄目なのよ。そうでしょう?私たちに主従関係はないの、私はダイクンと言う名を捨てたも同然なのですから。」
セイラはアルテイシアとして、彼女と対面している訳ではない。そこを明確に示すのが、彼女と自分の立ち位置をはっきりすることを、至上とした。
「そう…ですか。良いでしょう。では、セイラ・マスさん?どのような要件で?」
「ありがとう…。実は、キャスバル兄さんの事を調べて欲しいの。まだ、ネットワークは生きているのでしょう?
生きているかどうか、そしてもし生きているのなら何をしていて、どうして連絡してくれないのか。
それを、探ってほしいの。出来るかしら?」
クレアはその言葉に対して、少し考えると外の別の方へと目を向けた。
「あの方達が聴いていたとしても、それでもよろしいので?」
目線の先には、怪しげな車が停まっていた。
如何にも何処か諜報部員が潜んでそうな、そんな格好である。
「ええ、別に悪い事をしているわけでもないのだし。生き別れの兄を探しているだけよ?警戒することではないわ。」
そんなセイラの豪胆で無思慮な言い方に、クレアは心底喜んだ。正しく上に立つべき人物のようで、そんなところにホッとしたのだろう。
「わかりました。では依頼と言う形でやらせて頂きます。」
「よろしくお願いね?」
とそう言って、クスコもそれに乗るかのようにティータイムは更けていく。
オリジナル機体 ガンダムℵの仕様等はまた後日発表します。
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