〜0082年12月10日 北アフリカ サハラ砂漠
AM 02:12
草木も枯れ果てた大地、見渡す限りの砂の丘。
まるで永遠にも続くように思える程に何も無い、そんな殺風景な場所にあってあるデザートジム・モビルスーツの部隊がその大地を踏みしめる。
砂丘に埋もれることもなければ、砂塵にのまれることもなくただ只管に、其れ等は進路を西へ西へと駆けていた。
『こちらトランスα…現在予定地点を通過、敵の反応はどうか?』
光通信によって送られるそれ、コックピットのレーダーには靄が掛かり、その地にミノフスキー粒子が散布されていることが容易に理解出来た。
『センサーに感なし、しかし本当に現れるのか…?』
彼等の部隊、トランス中隊は地球連邦軍東アジア管区を受け持つ、モビルスーツ師団の隷下の部隊である。
未だにジオン残党が蔓延る大地を、治安維持と称してジオンの残党狩りを行っている。
そんな彼等であるが、今回ばかりは少し様子が違っていた。
『さて…お喋りばかりしていたら……クソっ!!』
ビービーと何か警告が流れる。
それは1機だけではない…、複数機が時間を置かずしてそのアラートにも似たものを受信したのだ。
決して油断していたわけではない…、しかし彼等の頭上に降り注ぐのは、巨大な砲弾…。
モビルスーツの持ち得るそれよりも遥かに巨大なそれは、いったい何処から放たれるのだろうか?
彼等に其れ等が殺到しようとしている瞬間…、どこからか其れを飲み込むような巨大なビームの一閃が放たれると、其れ等は空中で誘爆する。
その光景を見たトランス中隊は、ランダム回避を開始しつつ敵の砲撃が降り注いで来た方角を見やる。
「間一髪ってか?
そんな彼等から遥々30km程離れた位置に、片膝を立て1機のモビルスーツが巨大なライフルを構えて、ギリースーツに身を包みながら彼等を見据えていた。
「こんなの撃ったところであまり良い気はしないなぁ…。敵意は確実に彼等を刺している、僕等が先行しなくても良いのか?」
『それはそうだな、アムロ君。確かに君の言っている事は尤もだが…それは試作品だからきちんと動く保証はない…。』
「貴方はいざという時に動くことも無い欠陥品を創ったんですか?」
ガンダムℵは、その機体をユッタリと動かしながら、その巨大なライフルを地面へと置く。その銃身は非常に高温となり、明らかに無理をしている。
そもそも、そんな装備をモビルスーツに持たせる方がどうかしているのだろうが、使えないことも無い。
「B暗号……、前に行けか。良し!!」
バサバサと羽布を機体に靡かせて、風がそれらを空へと誘う。
それと同時に、幾つかのジョイントが弾け飛び巨大なライフルとエネルギーパックが地面へと滑落する。
ズモモモ
という音とともに、重さに砂が掘られる。その直ぐ隣には、観測用のバギーに乗車した、技術士官であるフランクリンが渋い顔をして立っていた。
「直ぐに迎えが来ますから、程々に待っていてください。」
『わかっているよ、コレから重力下での耐久試験が始まるのだ。邪魔になどならない方が良いに決まっている。』
お世辞だろうか?それとも本気で言っているのだろうか?フランクリンにとって、この戦闘はどうやらそういった認識らしい。
二人の会話が終わったのだろう、アムロは直ぐ様盾に内蔵されているグレネードから閃光弾を発射し、それは空中で炸裂。周囲を明るく染め上げる。
と同時に今度は、勢い良く機体を屈伸させるとスラスターを吹かせ大地を蹴り飛ばす。
見事なまでな大ジャンプ。その高さは優に300メートルは超えるだろう、その高さまで行くと今度は自由落下し始めるも、巧みな操作でスラスターを綺麗に使って見事な着地を決める。
その姿はあからさまに目立っていた。深夜であるにも関わらず、その双眼は夜空に映え、まるで怒りに染まる夜叉の如く。
見るものが見れば震え上がり、戦意を挫くこと当然の如くなり。
機体の正当な性能試験を行っているつもりだろうが、フランクリンはアムロのその行動の意味を理解しつつも、冷や冷やという気であった。
確かに自分の技術を信頼しているものの、いざ限界値の動きをされると怖い思いもしているのだ。
そんな風にアムロが集団へと向かっている間に、フランクリンの直ぐ側には空からの迎えとなる1機のモビルアーマーの姿がそこにはあった。
いや、正確に言えばSFS(サブフライトシステム)と言うものだろう。
「早く乗って!!バギーはワイヤーで牽引するから、砲撃が来る!!」
「バギー等どうでも良い、ライフルの方が先だ。」
フランクリンは足早にそれへと駆け込み、垂直離陸するそれは去り際にバギーにワイヤーを射出して、ライフルを磁力によって吸着する。
と同時に、エンジンを吹かして見事に離陸に成功した。
遠くでは稲妻のような砲声と、それの存在を自ら知らせるような砲光が光続く。
精密な照準射撃の最中、連邦軍のモビルスーツその正規軍大凡1個師団が、見事な連携の下に隠密を取りながら矢面に立つ者達を尻目に、その地へと進む姿が見て取れた。
「コレが戦場か……、モビルスーツ同士のそれとはまるで違うな。」
フランクリンは冷や汗を流しながらそう言った。
トロイホースでは、戦場全体を俯瞰してモニタリングする為に大規模な図が展開されていた。
元々司令船としての機能も併せ持つオールラウンドな船として建造されたその能力は、驚くほどに高いものの殆ど無駄である。
「ガンダムℵ、敵の陽動に入ります。」
「各部隊はアムロを援護、ガンタンク隊に連絡し中距離支援を継続させろ。敵も我々と同じ様に、長距離砲を持っているとな。」
ミノフスキー粒子によって高高度に対する対空戦が行えない故に、トロイホースは我が物顔で其れ等全てを捉える。
貸し出された部隊を運用しながら、ただ只管に敵の正面を撹乱していた。
彼等が何故このような事をしているのか時は少し遡る。
〜0082年11月27日 戦争博物館
多くの人が行き交う学び舎その荘厳な姿とは裏腹に、その歴史を悲惨な世界を当たり前のように人々に見せつける場所…。
地球上で行われた、有りと有らゆる戦争とその痕跡を示すその場所は、戦後の世界を象徴するように今では巨大なモビルスーツまでもが、そこに展示されている。
機体としては動くことは可能なものの、兵器として使える有らゆるものは取り外され、その殆どはレプリカと言われるそれである。
尤も、それもそのはずでここは軍事施設の中でも特に、民間人と多く接触する場所である。
そんなもので、人の手を傷つける必要は無いのだと。だから、ここに職を斡旋された者は戦争から遠く離れたようなものだった。
「よお、お待たせ。お前から呼び出しがあるたァ驚いたよ。ハヤト。」
「茶化さないでください……。来たくなんて無かったんじゃないですか?こんな所なんて。」
人の目もある、広々とした広場の中の一角。
ベンチに座るハヤトは、彼が呼び出した人物カイ・シデンに対して悪態をつくように言った。
それを聞いたカイは、目の前の彼がまるで一年戦争前のそれこそ少年であった時の彼のような、そんな雰囲気を纏っていることに気が付きつつも敢えてスルーする様に、おちゃらけて見せた。
「それで?こんな所に俺を呼び寄せたのは、何か理由がお有り?ま、長い付き合いだから別に良いけどよ。」
「そっちにも届いたでしょう?」
ハヤトのその言葉に、やはりこの話題かと思っていたカイは、懐に忍ばせておいた一通の封筒を取り出すと中身を堂々と読み上げた。
「貴官に対して部隊復帰の要望を送る。コレは命令書ではなく、要望書であり法的拘束力は無い。
復帰する場合は下記への連絡を行う事……以上。
ってな内容のやつのことだろう?10月の終わり頃に届いたさ…。
ま、俺には関係ないけどね。何せ、軍からは身を引いたんだ自由に世界を見て回っていたいからな。それで?お前はこれを見てどう思ったんだ?」
「………、フラゥの所にもコレが届いたんだ。」
ハヤトのその言葉に、カイは眉間に皺を寄せる。それもそのはず、現在慎ましいながらも結婚生活を送る二人に対して、まるでデリカシーの欠片もないような、そんな物を送りつける程に連邦軍は暇なのか?果たして、そうかどうか?
という思考を巡らせる。
ここで合点がいく事は、この手紙が誰宛に送られた代物であるのかと言うことだ。
「て事は、俺達だけではなく。ホワイトベースの乗組員だった奴全員に送られているのかもな。
まあ、当然と言えば当然だろうが。」
カイのその発言にハヤトは目を見開くと同時に、いったいこの地上で何が始められるのかと、想像してしまう。
そしてその予感は確かに、正しい方向に働いていた。
「近々、連邦地上軍が大規模な軍事作戦を実施するっていう、ジャーナリスト界隈では専らな噂だ。
お前……、知らなかったのか?」
「知らないよ、だいたいどうして今頃になってそんな……まさか!」
ハヤトの顔は驚愕に染まる。そして、それをじっと見つめるカイの目には鋭い眼光が宿っていた。
「連邦軍が新しい実験部隊を新設した…、部隊の母艦はトロイホース、ホワイトベースの準同型艦。そして艦長は…」
「ブライトさん…、だとすると僕に声がかかった理由って。そういう事か……、ハハ断って良かったよ。」
ハヤトは安堵の表情を浮かべて肩を落とす…。それ程安心したと言うことでもあるのだろう。
「まあ……そうだろうなお前は…、護らなきゃならないものがいっぱい有るからな。」
「色々と考えた結果だから、悪く言われても仕方ない。けど…、そう言われると落ち着きますよ。そういうカイさんは、どうして復隊を拒否したんですか?」
「俺はジャーナリストだ。色んなものを色んな側面から観て、初めて見えてくるものがある。軍の中にいたんじゃ、そういう物を見ることは出来ないだろ?」
飄々としつつも彼の決意は非常に固かった。いつの日か見た、彼の為に死んでしまった少女、彼女のような人を作らせない為に、自分が出来ることをしようと彼は前を見据えている。
「フラゥちゃんにも伝えておけよ?アムロがまた、矢面に立たされてるってな。」
カイはその言葉を残し去っていく…、もう話すことなど無いとそういう風に。
〜0082年12月6日 北アフリカ カイロ
トロイホースは、ジャブローを出て西へ西へと進んだ。地上を這うように低高度で飛行し続け、時にはジャングルで時には砂漠で山脈でと、順次ガンダムの駆動テストをしつつ順調にその道を進んでいた。
ウラル山脈を越えたところで1本の通信が入った。
何事かとブライトを除くブリッジのクルーには困惑の表情が浮かんだが、艦長である彼は落ち着き払っていた。
いや、寧ろ嫌な予感がしたのだ。
『貴艦はこのまま、アフリカのカイロへと向かわれたし。』
その内容は非常に簡潔であり、同時に何の意味があるのかと思いながらも、艦は滑るようにその地へと向かった。
トロイホースが到着したときには既に、連邦軍の地上部隊が集結を開始しており、広い筈の砂漠地帯。そのアチラコチラに、戦車やモビルスーツが立ち並び、基地には航空隊も揃ってその姿を待っていた。
トロイホースは、言ってしまえばとても目立つ。そして同時に、艦艇とは思えない程に巨大なその姿は、非常に威圧的な物に見える事だろう。
その地に住まう住人からすればあまり良いものには見えていないかもしれない。
「トロイホース艦長ブライト・ノアです。」
到着すれば直ぐに司令部へと挨拶に行こうとしたら、接舷地に既に司令官がいたというのだから驚きも大きかった。
「ああご苦労、まあ歩きながら話すとしようじゃないか。」
襟首に少将のマークを着けながら老兵である彼は、何の気なしに歩き始める。
「私はカルカス・カサラスだ。君の部隊も、運用兵力も知っている。そこでだ……、折行って頼みがある。」
「はっ!なんでしょうか?」
歩きながら話を始める彼に、ブライトは一瞬戸惑うも何やら重要な事を話すだろうという、そんな確信があった。
「コレから我々はジオン残党軍に対する大規模な地上作戦を実施するのだが…、言いたいことは分かるかな?」
いきなりの通知である。トロイホースに届けられた通信にはその様な事は一切入れられていない。
完全に寝耳に水である…、にも関わらずブライトはその言葉に対して異議を申し立てない。
「囮ですか…、前も同じ様にいきなり囮にさせられたことはあります。乗員の理解が得られるかは分かりませんが…。」
「頼んだぞ?……さて、ここでは良いコーヒーが手に入るんだ。どうだろう?一杯。」
空気を変えるためにまるでにこやかにするその男の顔は、決して笑っていない。寧ろ不気味な程に、にこやかだった。
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