モクモクと立ち昇る黒煙と、硝煙の匂いを燻らせながら瓦礫の街を闊歩するザク…。
抵抗する軍人達を容赦なく打ち据え、我が物顔で街を制圧していくその姿は、正しく征服者のそれであった。
しかし、そんな中にあっても決して人々の濁流には手を出さず、一介の軍人として最低限のモラルを意識していたその姿は、正しく上に立つべき人物であると彼らは思った。
「抵抗するのを辞めてください…、我々は貴方達を殺す為に来たのではない。貴方方と話をする為にここに来たのだと。」
そんな言葉を発する青年の姿を…、今も覚えている。
彼は、あどけない容姿と侮られる青二才と言われながらも、その家柄に似合わず横柄な態度をすることなく、ただ兵士たちと同じ目線に立ち前線で戦う。
そして言うのだ、敵兵にも家族がいるのだと。だから、被害というものは最小限でなければならないのだと…。
戦争の終わらせ方を見据えた、そんな彼の考えは前線の兵にとっては後先の見えない闇であった。
だが、終わりを考えているからこそその先に彼に着いていこうと、そう思う者たちは多くいた。
決して前線に来ない長男、高圧的な風貌と憤怒に駆られる激情型の次男。そして、態度を崩さず誰も信用しない長女……、そんな中にあって末席に座る彼だけが、前線で兵隊と共に飯を食う。
そんな青年のことが、皆好きで好きでたまらなかった。
「お前にも部隊を預ける。若輩者な私だが、君達のような頼りになる者達のおかげでここに立つことが出来る。今後もよろしく頼む。」
正面を向いて、人の目をみて見下さず。ただ、己等に力を託して下さった彼……そんな姿を目に焼き付けようとしていた………
〜0082年12月8日早朝
ビービー…ビービー
自分を呼び覚ます音が鳴り響き、微睡みの中から瞳を開ける。暗がりの中、一人寝静まるベッドの縁に座り直し受話器を片手に取ればそこからは聞き慣れた部下の声がした。
「どうした?何があった…?」
「はい!至急ご連絡をと思いまして、取り敢えず指令室へ来てください!!」
焦ったようなその言い様は、この男の目を覚ますには充分だったのだろう。
キッと目を剥くと、直ぐに己の制服へと袖を通す。
キッチリと前を閉めることはない、そんな事をしている時間はそう多くはないと、自身に言い聞かせ思い切りドアを開けて廊下を駆けた。
指令室………、その名前に些か負けている。そんな粗末な部屋、重要な機材も殆ど置かれていない。
あるのは、簡易的に造られたレーダーモニターと無線。そして、それなりに造られたTVモニターくらいだろう。
それでも、彼等としてはよく頑張ったほうだと言えた。
「遅れてすまない!それで、何があったのか!?」
「ロンメル中佐!コレが、こんな物が全方位周波で流されています!!」
ロンメルと呼ばれた男がその場に現れると、その部下である男がボリュームダイヤルを片手に、ラジオを無線をそしてテレビを点けてみせる。
それを聴いてみれば、嫌なほどに目が見開き表情筋が強張っていく。
そして、徐ろに目をやや左下に向けて何かを考える素振りをすると、直ぐに何かの結論を出したのだろう矢継ぎ早に指示した。
「皆に声をかけろ!!急がねば手遅れになる。」
アフリカ大陸……、そこは人類発祥の地。
人類最古の歴史を持つその地であるが、今や見る影もなく只々荒野と大森林そして何も無い砂漠が広がっているだけである。
多くの都市が嘗てそこには存在していたが、歴史の濁流に呑み込まれ多くは今は人も住まない……。
地球連邦発足時、この大陸の国々は地球連邦という大きな枠組みに対して異を唱えた。
それこそ欧米主体の国家運営というものに、長らく歴史的な負の遺産を押し付けられてきた彼らからしてみれば、信じられるものではない。
特に宗教的括りなくしても、彼等にとっての欧米はあまりにも溝があった。
その結果、宇宙世紀元年のラプラス事件を皮切りに報復攻撃として、多くの国が滅び。そしてその人口は宇宙へと打ち上げられ、棄民として今もなお苦しめられている。
そんな宇宙世紀でさえも黒い部分のあるその地に於いて、今なお連邦軍に対して対抗していこうという。そんな独立支持勢力が存在した。
アフリカ解放戦線と自称する彼等は、ジオンが地球へと降下する以前からこの地に根付いていた勢力であった。
僻地へと追い込まれていった彼等であるが、ジオン公国が興した一年戦争を皮切りにその勢力を一時的に増大し、ジオンを後押しする。
しかし、それも長くは続かない。一年戦争という通り、戦争はたった一年にして終戦しあとに残ったのは、烏合の衆となった彼等だけだった。
ジオン公国軍残党と手を取り合いながら、ジリジリと後退していく日々。地下抵抗勢力としての力も徐々に喪いつつあった彼等であるが、ここで更なる試練が待ち受けていた…。
「徹底的に戦うべきです!!あのような脅しに屈しては、我々の先祖から受け継ぐこの大地を、あのような輩に盗られるわけにはいかんのです!!」
ロンメルは近場の協力関係にある者達、その最高権力者に声をかけ先程聞いた物を問いただす。
どのような回答をすれば良いか、受け入れるべきか?それとも戦うべきか…。
正直に言ってしまえば、彼は非常に迷っていた。
そもそも、連邦軍としてみればジオン残党がこの地にいる事は、目の上のたんこぶ状態である。
落ち着いて軍縮すらままならないと、連邦本部ですら思っているのだろう。
彼等が重い腰を上げたのにも、そういう理由がある筈だと。
ここで長期間のゲリラ戦を行っていれば、確実に連邦は軍備に圧迫される筈である。
だが、そんな彼等の目論見に対して連邦軍は軍を大動員して、正面から叩き潰しに来るという。故に、ロンメルの目論見は泡と消えた。
問題はそれだけではない。連邦は攻撃を開始する時間と、攻撃する地点を指定していた。
そこは、残党軍の根城や経済的な中心都市であったりする場所である。失えばより苦しい立場に追い詰められることだろう。
そして、その指定にはもう一つの誘惑が鍵となる。
〘投降すれば命までは取らない〙
〘人道回廊の整備を行い、戦場となる区域の民間人は避難する時間を与える。〙
コレが信用に値するかどうかは兎も角、各地の電波を完全に掌握されている以上、これらは確実に履行される見込みはある。
でなければ、そんな多くの事をして約束を踏み躙れば、それは連邦軍の威信に傷が付くからだ。
ただ、持っていける荷物は限られる。
たった2日いや既に2日を切っているのだ。家財道具等かなぐり捨てて、食料物資だけを持って逃げろという。
傍から見れば人道的だが、その顛末は確実に宇宙への強制移民が待っている。
しかし、考えていられる時間的猶予は無い。たった数時間の内に全てを決めなければならないという、そんな連邦軍の策略は見事にこの状態を作り上げていた。
ロンメルは言い争う人々を前にして目を瞑り、考える。考えて、考えて考え抜いて……、そして一つの結論に辿り着いた。
「静かに!!………、我々ロンメル隊は現時点をもってこの地を放棄、敵主力の攻勢に乗じてに連邦軍に対して奇襲をかける。」
彼のその言葉に周囲は唖然とし、同時に歓声が湧き立つ。
コレこそジオンの兵士だと、戦士だと。
だが、そんな賛辞の言葉ロンメルにとっては心底どうでも良い様に聞こえていた。
何故ならば
「私はロンメル隊と言った。貴官ら現地民の部隊には言っていない。」
彼は自分達だけで戦おうとしているのだ。
この大地に根刺した彼等ではなく、余所者であるジオン軍人。ただ、その者達だけで。
「何を…言っている。我々と君等とは仲間ではないか!!この2年間、我々がどれだけ貴官等の為に尽くしたのか…、分かっていない訳ではあるまい!!」
それは事実だ。
「それには感謝している…。だが、我々高貴たるジオン公国軍人が、土人たる貴様等と共にこの地に眠るつもりは無いと、そう言っているのだっ!!」
その言葉に、そこに住まう人々の視線は強烈な物を持っていた。同時に、この言葉の意味を理解した者達からは、哀れみと感謝の念を受けている事は、彼には届かないだろう。
だからこそ彼等を…、未だに選択肢に残されている彼等には生き延びてもらうしかない。
こんな無謀な戦争を続けた哀れたる者たち、そんな自分達の滑稽な道化の姿を。
「ニキ少尉…、各地に点在するジオン軍に通達…。我々は断固として抵抗すると。良いな?」
「ハッ、ハイ!」
ニキという若輩者、彼には愛する人がこの地にいる。
話によれば、良好な関係を持ち既に子供すら身籠っているのだと言うが、そんな少尉の事を知ってか知らずか、ロンメルは命令を下す。
「では失礼する。」
そう言って、ロンメルはその場を去る。数名の部下は、彼と共に部屋を出る。
「よろしかったんですか?」
「あぁ、皆荷物を纏めろ。明日の早朝ここを発つ、ニキには…明日の昼にでも出ると伝えておけ。」
男は…不器用だった。
……
〜0082年12月9日 カイロ
「我々は囮役という事ですか…。」
「簡単に言えばそうだ。実戦を経験していない貴官等には苦労をかけると思うが、我慢して欲しい。」
艦内のブリーフィングルームには、各部の長とその補佐が並びブライトの言葉に耳を傾けていた。
一人の士官がブライトの説明を聞き戸惑いながらも、その結論を聴いたのだ。
皆士官学校を出たエリートであるが、実戦を経験したことがあるものは、それほど多くはない。
であるが故に、何があるのか分かったものではないが、仮にも連邦軍の象徴的なペガサス級のその姿は士気に関わる。
前線に出てこそのその艦艇は、その性能故にきっと良く狙われる事だろう。
それを撃破して進んでいく姿は、きっと周囲を大いに盛り上げるに相違ない。
「我慢して欲しい?我々は日夜この日の為に訓練を続けてきたのです。確かに、実戦を経験する事なく戦争は終わり、そして今に至る。
ですが、そんな中でも我々は努力を怠ったつもりはありません!」
そういう彼等は、見渡す限りブライトよりも歳上ばかり。にも関わらず、立場としてはブライトが上という状況。
ただ、そんな中にあってもブライトは粛々と作戦の説明を行っていた。
どれだけ訓練に明け暮れたとしても、それは実戦への適用が早くなるだけでしかない。つまりはどれだけ初戦で長生き出来るかと言うことだ。
「貴方方の言いたいことはわかります。ですが、私としてはここにいる全員でこの作戦を終了したいと考えています。
ですから、皆さんの中で実戦に出たことがある人には、大きな負担となる事を覚悟していただきたい。」
そんな中にあって一人、手を挙げる男がいた。
ブライトはその男のことを良く知っていて、アムロも直ぐにその顔を見て笑った。
「因みにだが、戦闘糧食はどうする?勿論パイロット連中には豪華に造るが、初の実戦の者達もいるだろう。特別な料理を出しても良ろしいか?」
「はい、厨房については貴方に一任していますからお願いします。タムラさん。」
タムラ料理長、ホワイトベースの元料理長であったこの男。実戦で戦っていた彼等の船の影の立役者。
彼がいなければ、恐らくはアムロやブライトは今頃干からびていたことだろう。
短い間であるが共に戦った仲であるから、それなりに気安い関係であり、同時によく分かりあっていた。
彼のおかげか幾分か空気も和む。やはり食事というものは誰よりも団結力を強くするものなのだろう。
タムラもそれを狙ったのか、はたまた偶然か?しかしながら飯は重要であるから、一利有る。
「皆も質問があれば何でも聞いてくれ、自分が答えられる範囲で説明する。」
ホワイトベースで慣れていたはずだが、歳上の相手はかなり難しいようである。
試験運用を行っている時や、指揮を行っている時は階級に任せ指示を出しているだけに、この空間の中だけは素直にブライトには学びの機会となっていた。
ブリーフィングは2時間に及んだ。と言っても、その中身はブリーフィングとは似ても似つかない。それでも、明日は必ずやって来る。
終わりと同時に退席する者達、そして残るはアムロとブライトだけとなる。
「済まないなアムロ、お前にはいつも苦労をかける。」
「やれるのが僕だけだからしょうが無いですよ、何より部隊のお守り位出来なきゃ宝の持ち腐れですよ。」
アムロの役割、それは第13部隊とは別口の囮部隊。そんな彼らに対する援護と、可能な限り戦場での大立ち回りを行うと言うことのみだ。
独自裁量権を認められた、彼だけの特殊な戦い方。彼と僚機と成れる者が存在しないからこそ、そう言った判断を任せる他ない。
無茶振りに、アムロは嫌とも言わず自分にしか出来ない事だと確信していた。
そして何より、自分の機体。その性能を完全に信じていた。
「危なくなったら帰って来い、必ずな。」
「言われなくたって、帰ってきますよ。僕には帰れるところが有りますから。」
アムロのその瞳の先に映るのは何処か?或いは誰か…。きっと帰りを待っている、その人が映っている事だろう。
各部隊を乗せたトロイホースと、トランス中隊と言う呼称のアムロの随伴対象となっている部隊は、敵の潜伏しているだろう場所へ向け、先行突撃を開始した。
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