〜0082年12月9日 ギルフ・ケビール
PM19:00
暗がりの中、重低音と共に其れ等は動き始めた。
巨大な砲身に巨大な機体、そしてそれを支える多くの機材は砂塵の中でも慎重に動作する。誘導員に従うその姿は、さながら陸を這う亀のようである。
「我々の呼び掛けに応えていただき感謝する。私がロンメル隊隊長のロンメルだ。」
「こちらこそ、こんなボロに活躍の機会を与えてくださり光栄に思う。」
二人の偉丈夫が手を取り合い、その巨大な陸ガメを見上げながらその使い道に対して話を始めた。
「まさか、こんな物がまだ残っていたとは…。コレで長距離戦で、連邦に一泡吹かせる事が出来る。」
「ライノサラスは、現地改修機である事はご存知でしょう?寄せ集めですが、こういう時には役に立つ。
それに、戦車兵でも運用可能なところが大きい。寧ろ、彼らの方が使い勝手は上手い。」
ライノサラス、それは現地改修型モビルスーツ。あり合わせの部品と、スクラップヤードの中から厳選された部品から構成された、廃品の王。
陸亀の様なその風貌からは考えられない程、長距離戦に関しては強いと言えよう。
ただ、大き過ぎると言う問題以外を除けば。
「敵は一直線にここに向かってくるだろうと予想される。我々も大々的に言ったのだから仕方はないが、決戦をするのだから華々しく散ろう。」
「そのつもりだ。一機でも多く道連れにすれば、面目も立つさ。にしても……」
ロンメルと語らう彼は周囲を見渡す。
観れば簡単に判るだろう。その中にいる人々は、その殆どが歳を召した者たちばかり。謂わば老兵の集いと言えよう。
「若い連中は置いてきた。まだ選択肢の残されている彼等を、無駄死にさせるわけには行かない。いつかは芽吹く、その志の為に。」
「若い連中か…、そうは言うが貴様もまだ30代だろうに。まあ、戦場しか知らない我等、生きていても何も作り出せないか。」
乾いた笑いが込み上げて、互いに高く笑い飛ばす。
其れこそが最後の談笑である。
〜0082年12月10日 サハラ砂漠 ギルフ・ケビール
AM02:13
1条の光がその光弾を呑み込み僅かな余波を残しながら、夜空を紅く染め上げる。
「なんてやつだ!砲弾を狙撃したとでも言うのか!!」
ライノサラス砲撃部隊の観測員が、渓谷の上から見下ろす様にその様子を感想に漏らす。
赤外線映像はメガ粒子砲の余波によるミノフスキー干渉によって所々粗さが目立っているが、観測員は確かにその狙撃したとモビルスーツの姿を捉えた。
「連邦はガンダムタイプを導入してきているのか…、報告!敵偵察部隊の損害なし、新たな敵影を確認。連邦の新型ガンダムだ!!」
その言葉は早口となり、やや焦っている。しかし、事実は事実と受け止めることにより、一定の効果は見込める筈である。
特に、ガンダムタイプが来るということは、ジオンにとって言えば、当に死に場所を心得たと言ったところだろう。
更に言えば、ロンメルにとってはガンダムと言うものは、仇も同然であった。
「ライノサラス隊陣地転換急げ!効力射来るぞ!!」
砲撃が来ることなど百も承知、そもそも敵が真っ直ぐに近づきつつある中で、それを撃たないという選択肢は無い。
何より、ジオンには既に後退する場所など存在していない。
本国からも見捨てられ、完全にテロリストへと成り下がった彼らに待っているのは、死あるのみである。
華々しく散ることこそ、誉れと言えた。
彼等が移動を開始した地点から、北に約200km行った所に巨大な影が地上を滑走していた。
戦車のように沈み込むことなどしない、寧ろその動きは非常に滑らかでいた。
しかしその巨体を比較するには、モビルスーツはまるで戦車に乗る人のようにも見える。
「世界遺産に砲撃をするとは…、ジオンめあんな所に隠れおって。最低限、遺跡は遺さなければな。
砲撃を開始せよ!!」
指揮官が声を張り上げる。へビーフォーク級の内の1隻、その巨体に搭載されている大型の砲が一様に方向を変えると、一斉に火を放つ。
閃光一瞬、まるで昼間の如く明るくなったかと思えば暗くなり、熱を持った砲弾は山なりの弾道を描いて、ライノサラス隊の方へと飛んでゆく。
「着弾まで5,4,3,2,1,弾着!!」
巨大な地鳴りとともに、その大地は大きく抉られる。
その光景を、上空から見下ろす様に観測するのは他でもない、トロイホースの仕事であった。
上空から見下ろす様に、衛星からの映像とは又違うより高精度なその観測データからの、間接照準射撃。
果たしてその効力は以下ほどか?定かでないものの、盲撃ちよりかはよほど被害を与えられるだろう。
「アムロ機、コレより敵地に対する浸透強襲を開始します。」
「ヨシッ!プラン通りだな、アムロに先行し上空よりモビルスーツを降下開始する。各員監視を怠るなよ!! 」
ブライトの激が飛ぶ、その言葉の通りに船体は敵地の中央へとゆっくりと、しかし最低限の光量で進み続けた。
AM03:22
アムロは機体を翻し、大地を駆け続けている。敵地に入って早2時間にもなる、と言うのに未だに連絡もなくただ敵地を駆けずり回るだけとなっていた。
そもそも、トランス中隊に対する護衛を見事に達成し、敵の砲撃部隊を炙り出したという点において、既に彼の仕事は終わっている。
しかしながら、彼には一つだけではなく寧ろ幾つもの仕事が降ってきていた。
そもそも、ガンダムタイプのモビルスーツと言うのは、非常によく目立つ。
それどころか是非見つけてくださいと言わんばかりに、その機体は縦横無尽に走り抜け敵地へと足早に到達するばかりである。
そんな彼を止める為に、幾つかの機体が出てくるのでないか?と、連邦軍も見ているのだろう。
実際、ガンダムを落とせば大金星であるし囮としては申し分ない。
ただ、そんな単純なところで顔を出すほどジオンも甘くはないということだけかもしれない。
「仕掛けるしか無いのか…?敵の思う壺…?いや、敵も出たくないんだろうな。」
そもそも、砲撃部隊からの攻撃である。その近辺に敵がいないというのはそうなのだ。
アムロの後を追うように、トランス中隊は再び前進を続けているものの、その表情は少し明るい。
何せ英雄様の後ろで戦えばいいのだから、安心感が違う。
「僕より歳上なんだから、もうちょっと何とかしてほしいものだけど…、そうも行かないか!!」
コックピットの中で一挙にフットペダルを踏み込むと、ガンダムは大ジャンプをする。その直後、先程までガンダムがいた地点に再び砲撃が降ってくる。
アムロは一瞬の殺気を感じながら、徐々にそして確実に敵へと近づいている。
幸いな事にスラスターの推進剤を消費しない熱核ジェットは、ほぼ無限にガンダムへと推力を送り込む。
内部フレームは、ガンダムの空中姿勢制御をより確実なものとして機能し、まるで舞うかのように機体を右へ左へと動かす。
その度に敵の砲撃を避ける。
そうやっているうちに、連邦軍本隊の方からも雨霰と砲撃が敵陣地へと降り注いでいる事に、アムロも気がついている。
次第に近づいてくる殺気の数は増え、そしてまた機体を今度は急激に降下する。
スラスターが巻き上げる砂塵、その中を駆け抜けるように機体を地面スレスレで飛ばす。
長時間のスラスターの起動は、エンジン過熱を抑える手段となり機体は寧ろ順調に機動している。
肩部のスラスターを一瞬吹かすと同時に機体を立て直すと、脚部スラスターと脚を併用して減速しつつ、岩陰の後ろに隠れている敵機に対して、レールガンを向けた。
3発の発射、その弾丸はローレンツ力によって加速し銃口から出る頃には音速の10倍もの速度で射出される。
大気との摩擦と、断熱圧縮により赤熱する弾丸は真っ直ぐにデザート・ザクの胸部へと吸い込まれていく。
ガンガンガン
と言う小気味の良い音を立てて、その弾丸は装甲を穿ちコックピットを貫通するだけでなく、後方まで抜け岩塊にぶつかってそれにヒビを入れて止まる。
「貫通力が有りすぎる!!コレじゃあビームライフルと然程変わらないじゃないか!」
そもそもドムのような機体を想定して創られた其れは、ザクの装甲では柔らかいのだろう。真面目に使えば要らぬ損害を出して、この場にある様々なものを破壊してしまうだろう。
そんな心配をしながら、ガンダムは敵中を進む。
AM3:26
「第一次防衛線で、敵モビルスーツと交戦中!既に防衛線を突破したものが存在、未確認ながらガンダムと推定されています!!」
ジオン軍の司令部は蜂の巣を突いたような、そんな焦燥感の真っ只中にあった。
そもそも、アフリカに在していたその部隊の規模は、残党軍と言うにはあまりにも多く、この地に潜伏していた者達がどれだけ住民に匿われていたのか、と言うのがその規模故に判るだろう。
一年戦争の混乱の中、元々の人口よりも数万増えたところで誤差にしかならなかったのが、このアフリカと言う大陸の力であった。
「どういう事か?敵は師団規模を防衛線に張り付かせたとでも言うのか?」
「いいえ!敵は1個中隊規模、後続の部隊が到着し現在2個大隊程度が一次線に張り付いていますが、一機だけが突出しているのであります!!」
穿たれた穴、防衛線のそれに張り付かれ徐々にその穴は力業でこじ開けられてきている。
敵からの砲撃の為にその穴を埋めるどころか、被害が増えていく始末。
「予備兵力を投入、直ぐに事態を収拾しなければ…」
「報告!!敵空挺部隊とおぼしきもの上空より飛来!!第二次線、挟撃を受けています!」
トロイホースから出撃した6機は、重装甲で身を固めちょっとやそっとの攻撃ではびくともしない姿へと変わっていた。
ガンダムNT1アレックスのデータを下に、ジム・カスタムへと試験的に導入されたチョバム・アーマーは、この戦いにおいて実験的な役割をになっていた。
重量増加をスラスターでねじ伏せる。そして、ジム・カスタムと言う最新の機材は、その性能を見事に発揮している。
訓練通り、部隊はガンダムと共に敵を挟撃して見せみるみる内に二次線は形骸化していた。
その隙間をより確実に拡げるために、連邦軍は雪崩のように部隊を集中的に運用し、一部ではジオンの部隊を包囲し始めてすらいる。
急激な戦線の瓦解と指揮系統の混乱、烏合の衆であるジオン残党軍は、組織的抵抗を行えずジリジリと部隊が消耗していくのを見ていく他なかった。
「このままでは…」
ロンメル隊は現状を鑑み、一つの決断を迫られた。
その顔を見る司令部要員は、何かを悟ったのだろう泣くものもいた。だが、もうすべては決まっていた。一つ溜息を吐くと、意を決して声を張り上げた。
「コレより敵への強襲を敢行する。持てるものは武器を持て、歩兵だろうが輜重科だろうが全員突撃の準備!!」
そう言い終えると、彼は自身の乗機であるドムの方へと歩き出す。
誰もが死を決した死兵と化した。
〜0082年12月10日 ギルフ・ケビール
AM06:03
「ハァ…ハァ…ハァ…」
一人の男がその大地を目の前にして、愕然と膝を付いていた。息を切らしながら、その光景を目に焼き付けようとただ呆然とその光景を観ていた。
モクモクと天に向かってそそり勃つ黒煙は、アチラコチラから立ち昇り太陽に照らされた大地は、重金属によって煤けている。
それでもなお、大地を削ぐように進む風は容赦なく吹きすさび、それらの痕跡の上に砂を運ぶ…。
男は己の無力を痛感しつつ、今なお戦おうとしている1機のMS片腕を喪った〘ドム・トローペン〙。それが相対するは、サーベルを握りしめる双眼の悪魔。その戦いを目をひん剥いて観ていた。
「なんで…ガンダムがいるんだよ……。」
双眼の悪魔…それが纏う装甲はまるで無傷であった。幾つかの掠り傷の様なものはあるものの、そのどれもコレもが爆風とその余波によって跳んできた石などによるもので、大きな物はこれっぽっちもない。
寧ろ、遠くから観ればその煤けている姿であるほうが、余計にその姿を強調していた。
ニキにとって、ガンダムと言うものは嫌という程目にした事があるものだった。
地球連邦軍という組織、その中でも要注意とされた戦力。
見つかれば最後、命の保障は無いとそう言われる程度に交戦を推奨されるような相手ではない。
当時まだヒヨッコであった彼は、まず初めにその識別を教わった。
そんな悪魔の周囲には、幾つもの破壊された機体がゴロゴロと転がり、幾つかの機体には、まるで意図したかのように、コックピットに穴が空いている。
機体が粉微塵になっているものが少ない事から、きっとコックピットのみを華麗に撃ち抜いたのだろう。
近くに落ちたるビームライフルは、大地へとめり込みもはや用途は終わったとばかり主張する。
「もう戦いは無意味です。投降して下さい。」
自分よりも若いのではないか?そんな声が、スピーカーを通して聞こえてくる。
それでもそんな声など知った事かと、ドムは最後の力を振り絞るかのように、全力でその機体に近づいていく。
ガンダムはそれに備えるようにシールドを捨て、青眼にサーベルを構える。
ニキには、そのドムが特に見覚えがあった。
肩のエンブレム、それは彼の敬愛する…。
「ロンメル隊長…。」
ヒートサーベルとビームサーベルが一瞬の交差、眩い光を放った。
遅れて参じた彼のその瞳には、絶命するジオンの旗が揺らいで見えた。
誤字、感想、評価等よろしくお願いします。