物事には変わらないものがある…。
時代の変遷とと共に無くなっていくものもあるが、姿を変化しながらも、絶えず本質は変わらないものが幾つもある。
例えば、人にとって尤も必要な食事や料理。姿を変えど未だに必要なものだ。
さて、陸戦に於いて普遍的な物とは何であろうか?と、問われる事もあるが、最終的に全てを決するのはやはり白兵戦だろう。
たとえどれほど兵器が進歩しようとも、必ず最後に発生する人と人との殺し合い、それが戦争をするうえで尤も高頻度に行われる。それが、白兵戦と言うものだ。
地球連邦軍による北アフリカ解放作戦に於いてもまた、例に漏れず白兵戦は展開された。
それはモビルスーツによる白兵戦とは異なり、血を血で洗う泥沼の殺し合いに発展する。
深い陣地の護りを突破するモビルスーツ、それに続くように陣地になだれ込む連邦軍兵士達は、武装するジオン軍達を次々と射殺していく。
勿論抵抗もされるし、機関銃陣地が生きているところもある。そういったところはモビルスーツからの攻撃で吹き飛ばされたりするものの、数が足りなければ自力で突破するしかないところも出てくる。
結局のところ戦争全体として見た場合、アムロ等が敵陣地をグズグズにした後も、粘り強く抵抗する者達で溢れかえっていた。
司令部制圧に要した期間は1日であるが、その後末端部が最後の抵抗を終えるまで大凡1週間、散発的な抵抗が続いた。
それもコレもこの
ギルフ・ケビール
と言うその土地故に、連邦軍も直接的攻撃を躊躇した部分もある。
そもそもこの土地は、古くから人々が住まい信仰の対象とすらなった正しく人類最古の足跡と言うに相応しい場所である。
多くの壁画、動物達と人々の暮らしを残したその場所は、人類史と言うもののその夜明けを想起させる物である。
そんな物が野晒にされているのだから、真艫に攻撃を行えば直ぐに損壊するに決まっている。
また、ジオン残党軍が意図したかどうかはさておき、そう言った場所に徐々に集結していった事も影響していた。
いや、数千年と言う時の中風に晒されずに残った壁画のある場所というものは、得てしてそういう場所なのかもしれない。
故に、必然的にそこへと移動していったのだろう。
結局のところ、ジオン残党軍の戦力2万の内大凡7割が戦死と言う形で処理され、残りの3割が捕虜となった。
ただ、戦死の区分けの内が悲惨なものではあった。
まず、
コレが7割
残りの3割は、
自決である。
コレがどれほど恐ろしいことか?決して連邦軍も降伏を呼び掛けていなかった、というわけではない。
寧ろ、余計な損耗を避けてそういった事は積極に行っていたのだから、この場合は連邦軍の落ち度ではなかった。
少なくともコレは、ジオン側の自発的行動による結果である。
生き恥を晒す事を躊躇ったか?はたまた、責任の所在を有耶無耶にする事を意図したものであったのか?
それは死んだ当事者たちにしか判るものではない、少なくともコレで全てが穏便に決着したというところは、評価されなければならない。
でなければ、彼らの死は無駄というものになるだろう。
〜0082年12月25日
野戦病院の中、ぼーっと幌を見上げるニキ元少尉の瞼の裏には、ロンメルの最期の瞬間がまざまざと焼き付いていた。
戦闘の最中、軍服すら纏わずにただ砂漠の民の服装をした彼は、
護身用の武器も携帯せずまるで巻き込まれた民間人の様な風貌で、必然的に連邦軍の監視下に置かれてしまった。
ただ、そんな彼の事をジオン残党軍であると思った者達は皆無で、それが彼にとっては一層に屈辱的な事だった。
「おいお前…良かったな疑いが晴れて、今日からは自由の身だぞ?」
「は……はい?わ…わかりました。」
元々ジオン訛の多かった言葉は、いつの間にかこの現地に溶け込む内に自然とこの地の話し方となり、受け答えにはそう言った方言へと様変わりしてしまう。
ついぞ質問への回答に、ジオン訛が出ることも無くそれはまるで脳裏から剥離されたように、彼の出自を隠していた。
それでも、事態の収拾までの間彼を監視していたのは、多少の疑義があったからであるが、現地からの捕虜の顔色には、彼の事などまるで知らないかのように写ったのだ。
実際、ニキの所属していたロンメル隊は全滅しており、彼を知る人間は誰一人その場にはいなかった。
故に、知っている人間が出てくることなど一向に無く、彼の疑義は時間の経過と共に薄れて行った。
12月25日のこの日、クリスマスを祝うと言う習慣が残っている者達の為に、連邦軍内でも細やかながらもそれを祝う準備が始まっていた。
そんな目出度い日に、ニキは無事に釈放され元いた場所へと乗ってきた車で返される…。
そんな彼であるが、離れていくキャンプ地を思いながら少しずつ少しずつ涙が溢れてくる。
〘自分はジオンの人間だ!!裁かれなければならない、義務がある!!〙
等と言う言葉が喉から出て来なかった…。何故だろうか?質問された時、彼はジオンの人間であると言うことを隠した。
それはそれは巧妙に、何故か無性に隠したくなったのだ。その時彼の脳裏に浮かんでいたのは、最愛の女性の姿。妊娠し、次第に大きくなっていくお腹、愛し愛された者同士愛の結晶がそこにある。
そんな事が、頭にこびりついて仕方がなくどうしても、自分がジオンの人間だとは言う事が出来なかった。
「うっ…、クソッ…ズズ…クソ!!」
未練がましいと言う言葉が当に、彼には相応しいだろう。きっと誰も彼もが、彼を指差して言うのだろう。命が惜しくなった薄情者。ジオンの裏切り者だと。
だが、そんな自分を待っている人がいると思うと…何故か、そんな事すら馬鹿らしく感じていた。
同時に、そんな感性に縛られている己に対して悔しくて悔しくて、涙が止まらなくなっていた。
運転中だと言うのに、彼はしゃくりあげ鼻水を垂れ流す。そんな彼を嘲笑う者など、今はどこにもいない。
上官は既に死に絶え、今や残るのは己のみ。
後ろを振り返ることなく、ただ前を見て進む他ない。無力感の最中ただ彼はだからこそ枷を解き、普通の人として帰るべき場所へと行くことが出来るのだろう。
未練というものは、それだけ力のあるものだから。
〜 大西洋上
戦闘後の処理、道路等の補修や壊れた様々な物の損害等の所謂後方任務と言うものは施設科にとっとと投げられ、軍隊としてはそれ以降は治安維持の方向へとシフトして行く。
其れ故に、実験部隊であるトロイホース隊の出る幕は此処までであり、主だった戦闘が終わって直ぐに、彼等は西へ西へと進んで行った。
アフリカで掃討作戦が行われている最中、彼等は北米、オーガスタ基地への帰路を進んでいた。
その道は整備されているわけではない、尤も空の上に道路標識等無く専ら民間航空機との接触を鑑みて低高度を航行する。
其れ故に、ゆっくりとした行軍をしていた。
「深度200…220…250」
脂汗の出る額を拭おうと自然と腕が動く、しかしそんな物はヘルメットが有るために拭くことは叶わない。
虚しくもヘルメットの外側をなぞるだけに留まり、不快感は益々増えるばかりである。
「深度500…、安定します。フランクリン大尉、これ以上は辞めたほうが良いんですね?」
「あぁ、コックピットブロックは深度1200まで耐えられるようにしてあるが、少なくとも今それ以上に潜る必要はない。
塩水に対する実験は行っていたが、こうして実際に潜らせてみない限り、どんな問題が有るか分からないからな。」
序と言って、ガンダムℵの水中性能評価試験を行っていた。
汎用性の機体と言っても、ズゴックやアッガイ等の公国製水陸両用モビルスーツと違って、水の抵抗を考慮していない為にその動きは比較的鈍重である。
ただ、パワーウェイトレシオだけは、ガンダムのそれよりも高い為に、無理矢理動かすだけならば確かにガンダムよりも早い。
其れ以外でも携行兵器に対する評価試験を行いつつ、不備の指摘等をつらつらと評価して行った。
水中から戻ってきたℵは、外装を完全に引っ剥がして内部の部品に対する洗浄を行わなければならず、その場合のセミモノコック構造である胴体部の分解には予想以上に手こずっていた。
そんな整備状況もたけなわに、アムロとフランクリンは談笑しながら休憩に入った。
格納庫の、その手摺に身体を預けながら。2人で飲み物を口にして、目の前にあるそれを眺める。
そしてふと、フランクリンは話を振った。
「水中戦闘での記録を見た時思ったよ、あぁこんなにも素晴らしい物を良くもまあ設計したと……。しかし、君も良くこんな事を思い付く、君のお父さんそっくりだよ。」
「そうでしょうか?あまり実感ないんですよ、父は軍属で何より研究者だった訳だから、殆ど家になんていない。
偶に帰ってきても、部屋に閉じ籠もって設計ばかりやってるんだから、話すことなんてあまりなかったですしね。
でも、嫌いじゃなかったですよ?寧ろ誇らしかった…。」
思い出すのは様々な所に移り住んだこと、母親と離れ離れに過ごし寂しさに暮れながらも、父親として最低限の事はやろうとしていた、不器用な父親の姿のこと。
決していい思い出だとか、そういうものではない。だが、どうしてだろうか?悪いようには思わなかった。
「カミーユくん?でしたっけご子息は?きっと、僕と同じでお二人のことを尊敬していると思いますよ?」
「そうだろうかなぁ…。まともに帰ったこともないのに、親というものは大変だよ。」
感傷に浸りながら、フランクリンは自分の息子に果たして何を言ってやれるのか?何をしてやれるのかと、少し考える。ただ、親というものが果たしてどういうものか、釈然としていなかった。
「ただ……、話したい事とかそういう物は、しっかり話しておいた方が良いですよ?会えなくなってから、真艫じゃなくなってからじゃぁ…全部遅いですから…。」
アムロのその言葉に何を感じたのか、フランクリンはその言葉に応えることはなかった。
ただ、眉間に皺を寄せてその言葉を噛み締めるように、口を閉ざしていた。
……
〜0082年12月28日 月面 フォン・ブラウン
アナハイム・エレクトロニクス・MS開発局
打ち捨てられた残骸、ところ狭しと置かれる部品。金属で囲われた格納施設。
人々がまるでスキップをするかのように移動し、軽々と方向を転換していく。
足取り軽い彼等の行く先に、残骸の周囲には多くの技術者達がいた。
自らの創り上げた其れ等の姿は、あまりにも残酷なものとなり必死に創り上げたそれが今の技術の限界を物語っていた。
その中でブロンドの髪を下げて、それに愕然としながらも欠陥を精査しなければならないのだろう、システムエンジニアの女性は、後ろから聞こえてきたとある声に振り向いた。
「皆!!聞いてくれ!」
その声は格納庫中に拡がって、その場の工員達はその人物に注目した。
「先程、連邦軍の方からこんな物が送られてきた。正直に言ってしまえば、我々はとんでもない奴等を相手しなければならないかもしれない。こちらに来てくれ。」
男に誘導されながら皆が大会議室に到着すると、徐ろにそれが映し出された。
それは一つの戦闘記録映像、何処から撮ったのか?誰が撮ったのか?そんな事はどうでも良い。
その戦闘映像が撮られた時期のみが、その意味を指し示す。
映像一つ一つに釘付けにされていく彼らの姿は、まるで信じられないものを見るように、それぞれに頭を抱えながら考えていた。
「一連の映像は、今月の中旬に撮影されたアフリカでの、連邦軍によるジオン残党掃討作戦のものだ。
ここに映っているこのモビルスーツ、見覚えのあるものは居るだろうが…、そうガンダムだ。」
主張する彼のその口からは悔しげに、まるで震えるように拳を強く握りしめていた。
「連邦軍は、我々のみならずこのような物を創り上げる様に、何れかの企業に発注した可能性が極めて高い。
私が何を言いたいかと言えばそう、我々は先を越されたと言うことだ。」
戦闘記録上では、そのモビルスーツは信じられないほどの可動域と瞬間的な駆動範囲。
そして、無理の無い操縦性を発揮して次々に敵を撃ちのめしていく姿が、克明に記録されていた。
「我々はこの機体に関する詳細な情報は持っていない、しかしながらその名称とカタログスペックだけは入手することが出来た。
この機体の性能はその数値上、決して我々のものと大差があるわけでは無い。寧ろ、我々の方が性能としては勝っている部分もある。」
男の言葉は続いていく。そして叱咤激励は加速して、開発の敵であるその機体を超えるようにとの、そんな言葉を告げていく。
「ブロッサムの件は、決して無駄ではない。我々はまだ歩き始めたばかりだ、諸君等の健闘を祈り我々も様々な手段で、諸君らを後援する。」
そんな男の言葉は、女の耳には入ってこなかった。寧ろ目の前に映るその機体が、自分の開発しているそれよりも良いものであると言う、そんな直感めいたそれを信じたくなかった。
いや、彼女だけではない。周囲の彼等にとってそれは、許されざる敵であった。
「ガンダムℵ、こんな物玩具…」
プライドは高く理想も高い。しかし、それを裏付ける為の技術が不足していると言うのに、彼女等にはそれを諦めるなどと言うことは決して出来なかった。
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